がわ゙い゙い゙な゙ぁ゙黒゙歌゙ぢゃ゙ん゙ 作:ロングレンジライフル
こちら12000文字となっております。TNPは良くしたつもりだから長くてだれるって思う人は二日ぐらいに別けて読んで、どうぞ。
大体一話10000文字以上で行くから覚悟しとけよ?(ヒゲクマ)
その豪邸の中は、外から見るよりもより豪邸であった。外装はフェニックスや鳳凰、ガルーダやサンダーバード等を意識したような、つまりは誇り高き巨鳥をメインに押し出したきらびやかとした物だ。ここだけ見れば、正直悪魔の住む冥界ではメジャーのような物で豪邸を見たことしかない庶民ですらあのフェニックス家の豪邸と思って見れば少々期待はずれに思うだろう。
だが内装は比べ物にならぬほどさらにきらびやかだ。見渡す限りの豪華絢爛、右を向けば金、左を向けばダイヤ。少年は数多の次元を越えて見聞を広めてきたが、ここまで金を見栄のために無駄遣いをする貴族は始めて見る。だが少年はまだ知らない、ここはまだ裏口で、しかもこの豪邸の中では地味な部類に入る場所だということを。
「ライザー坊っちゃま」
世間知らず丸出しでキョロキョロとしていた少年が次に目にしたのは、全く気配の無かった所にいつの間にか音もなく立つ老年の執事であった。無駄なく鍛え上げられた肉体は決闘バカの少年から見ても強者の雰囲気を醸し出しており、肉弾戦じゃ勝てねぇなと理解するには十分であった。少年の見たところでは、その腕からは予想も出来ない速度で放たれる利き手のストレートは、自分の頭をミンチにするのも朝飯前といった所だろうか。
実際その予想は間違っていない、悪魔を30程消し飛ばしてはいるが少年は紛れもなくただの人間なのだ。ちょいと変わった超能力を扱えるが、この執事との真っ正面での戦いでは何の役にもたたないだろう。
『クリアウィング・シンクロドラゴン』を出せれば少しは健闘できるかもしれないが、あくまで少年との真っ正面での戦い。決闘者の身体能力ではミンチにされない為に逃げるのが関の山だろう。さらに少年はこの後知ることになるが、この執事ですらフェニックス家の中では中頃の強さである。
「セバスチャン、分かっているとは思うがこの人間が侵入者だ。今からこいつを案内する」
「かしこまりました。いつでも始められます」
よろしくお願いいたしますと頭を下げる執事につられて、実に庶民的である少年もまた頭を下げる。その視界の中に、ピクリとしか動かない黒猫の姿が入ってくる。生きているにしては弱すぎる呼吸の音を聞きながら、少し表情を暗くする。
あの後、ライザーの苛烈な攻撃が終わった後に彼は少年にこう言った。我がフェニックス家が所有する霊薬ならばその妖怪を救うことは不可能ではない、と。その後詳細を問い詰める事も出来ずにライザーとレイヴェル、女王であるユーベルーナは先先と進んでしまって現在に至るが、今の少年にはあの時の態度でなんとなく分かったことがある。
これは終わった後が面倒くさい事が起こる、という未来を。
少年のあまりにも純粋すぎる態度から、執事であるセバスチャンはその自慢の慧眼で自らが仕える親方様のご子息様が何を考え、何故行動に至ったのかを寸分の来るいなく見切っていた。あれは恐らく、目の前の人間への興味から来るものだろう。
セバスチャンは何処でとは言わないが裏庭で起こっていた事象を全て見ていた。ライザーが襲いかかり、少年がそれを不可思議な召喚術で凌ぐ所も。あの力で自身の魔力すら霧散されたことには驚いたが、それも数十秒程度で終わってしまった事から少年は相手にすらならないであろうことをセバスチャンは気づいていた。
その後見た少年の涙、あれは恐らく自分の情けなさから出たというより今の状況が嫌なだけの実に利己的で汚ならしい涙ではあるが、ご子息様達にはそうは見えず、ダイヤモンド以上に綺麗な宝石にでも見えたのではないだろうか。詰まる所、自身にはない美しさに心引かれ、興味本意で助けたと言ったところだろう。 殻が割れ、綺麗な身が見えたドングリを拾うような、その程度の興味本意だ。
さて、この後誰もがどう動くのか。語り手にはまだわからないが、セバスチャンはなんとなく予想が出来たらしく、老けた表情をより一層老けさせるのだった。
ライザー・フェニックスは才能に恵まれた、誇り高きフェニックス家の悪魔の生まれの三男坊である。才能だけでは上の兄二人にも引けを取らないが、どうも慢心から来る軽い考えがそれの足を引っ張っていることが露呈している残念な三男坊でもある。具体的に言うならば、まず出てくるのが眷属だろうか。フェニックスは眷属を自身の妹も含め15人、つまりは最大の持てる数を所有しているが全員女性である。
どこかに言ったと思えばふらっと女性を連れて眷属にしたとのたまう姿は女王の頭に何度痛みの種を植え付けたことか。最近でももう眷属は増やせないというのにも関わらず女性をつれてきてはメイドにするとのたまう。つまり、ライザー・フェニックスは女性関係が異常に軽い。ある意味男性女性どちらの敵でもある。
また戦い方にも軽さが見てとれる部分があり、色々と残念なイケメンというか、見た目通りの全てにおいてチャラい男とでも評価すればいいだろうか。しかしそんな駄目っぽさが女王を夢中にさせる一つの要因であり、どこまでも世話をしてあげようと思わせる一つらしい。
この王あってこの女王ありとでも言おうか。
そんなライザーだが、目の前の人間にはドングリ並みの興味以上を持ち合わせていなかった。いや、美人な女性であるならば性交の相手にしたい程度の興味は沸いたかもしれないが残念ながら男だ。しかも成熟しきってしまっていている、というか同年代だ。これでは娘にして遊ぶことも出来ない、これでどう興味を沸けというのだろうか。
あぁしかしそれでも、あの涙はよかったと思うのは涙の名を持つ霊薬との関係が深いからだろうか。無駄な埃一つない澄んだ一滴、絶望という名の水素が邪推な菌を死滅しきっているのも好評価だった。余計な汚物が混ざっていない涙は、我がフェニックスの涙の次にある乙女の涙の次に美しかったと彼は頷く。
ライザー・フェニックスは悪魔だ、当然人間相手に面倒な願いを叶えるだのなんだののあれも勿論経験済みである。であるから、人間の欲望の汚さが悪魔以上であることも知っている。だというのにも関わらずにあの涙だ、少々人間の考えを改めさせてくれた礼をすべきだとライザーは考えていた。もちろん悪魔なのだから礼は置いておいて対価は貰うつもりではいるが。
「人間、妖怪をここに寝かせろ。寝かせるだけだ、それ以上の行動は死に繋がると思え」
礼をするとは言えど、最新の注意と警戒は必要である。目の前の人間は悪魔社会については全くといって程詳しくはなさそうだが霊薬を持ち帰らないと言い切ることはできない。そう、ここはフェニックスの涙が貯蔵されているフェニックス家で最も重要な部屋。例え親の命が奪われようと、ここだけは絶対に死守せねばならないとキツく教えられた部屋。そこに知り合って十分も立っていない存在、しかも人間を入れたとなると彼らの父親は怒るだろう。しかしライザーにもライザーの誇りがあり礼儀がある。今ここで礼を返すことをしなければ、それこそ父親は更に怒り狂うだろう、分かりきっているのだ。
「ユーベルーナ、石片を。レイヴェル、涙を持ってこい」
二人は頷く前に行動を開始する、部屋を取り囲む4メートルはある大きな棚から手頃のフェニックスの涙を一つとり、それを黒猫が横たわる机に置き、ユーベルーナはその黒猫に刺さった石片を握る。
「……始めるぞ」
フェニックスの涙があれば治療は一瞬ですむだろう、抜いた刹那に涙をかければ無事完治となる。だがその一瞬が食い違えば、黒猫は呆気なく死ぬ。人間であればそれは不可能だっただろう、しかし悪魔なら、その驚異的な身体能力でならば成功率はぐっと上がる。後は当人たちのコンビネーションが重要となるが、その心配は皆無と言っていいほどのもの。
ライザーとユーベルーナは、もっとも長く付き合ってきた存在なのだから。
「……終わった、のか?」
「……あぁ、後遺症が残っていなければな」
結果は成功。奇跡的に石片には脳のおこぼれがこびりついておらず、少々血と脂肪でべたついただけ。傷を抜くのに一秒もかけていないため出血は最低限で押さえられ、フェニックスの涙という反則的なアイテムを使えばそれこそコンマもかけずに全快する。そもそもこのような子猫に霊薬を使うことが勿体ないのだが。
少年は大きく安堵の息を吐いてその場にへたりこむ。本当に妖怪のことを心配していたらしいということが目に見えてわかる行動に、レイヴェルは思わず頬を緩めるが相手は人間であることを思い出し、キリリと顔を引き締める。そんな様子がおかしくてたまらないのはユーベルーナなのだが。ライザーは気づいてすらいない。
「……気を抜くのはまだ早いぞ。お前からは色々と聞かなきゃならないんだからな」
「その通りだ」
重くのし掛かる、威厳の篭った声が保管庫に響き渡る。ビクリと体を震わせたフェニックス家在住の三人は冷や汗をかき、少年はいつも通りぽけっとした顔で声を発した人物に目を向ける。
それは貴族だった。金に溺れず、自らの才に溺れず、民を導き己を自覚する者。真の貴族、フェニックス家当主、フェニックス卿であった。フェニックス卿は少年を一瞥した後、机に寝かされている黒猫と空の瓶を見る。報告通りの結果に、少しため息も付きたいところではあったが、知らぬ人物がいる前でそんな情けないところは見せたくないなかった。
「父上、申し訳ございません。このライザー、如何なる処罰も受ける覚悟です」
「私もです父上。言いつけを破った罰、このレイヴェルにも」
同時に傅く三人に、フェニックス卿は当然だと言い放つ。
『フェニックスの涙』とは商品名であり、本当の涙ではない。それは魔鳥フェニックスの力が込められた特殊な霊薬だ。では何故フェニックスがいればいくらでも量産可能であろうその霊薬を使う事で罰が発生するのか。
フェニックス家には分家がないことと、生産をするのは飽くまで当主とその妻であるというのが理由だ。分家がないのは言葉通り、ライザーが存在するフェニックス家こそが本家であり、フェニックス種が唯一存在している貴重な名家なのだ。完全にコピーした存在を使えば量産も出来るであろうが、そんなことは倫理は許していないし何よりフェニックス家に傷がつく。
『フェニックスの涙』の元となる霊水に力を込めるのは代々当主にしか許されていない権利である、それはつまり生産数はフェニックス家当主次第ということを表している。当主でもなければ若く霊水に込める力もないライザーやレイヴェルはただ血の繋がりというだけでその力の恩恵を得ているに過ぎない。今は次期当主ということで長男であるルヴァル・フェニックスがフェニックス夫人の力も借りて『フェニックスの涙』を生産しているが、この保管庫にストックしてあるものは全てフェニックス卿と夫人が生産したもの。それを親のものだからと他人に、しかも下等種族である人間に売り物にもせず無料で恩恵を与えることは親不孝に等しい行為でもある。
フェニックス家に伝わる暗黙の常識が、三人に罰を与えようとしているその時に知能指数低めの少年が口を開く。
「おい、デュエルしろよ」
「……何?」
「言いつけとか罰とか全っ然わかんねぇけど、こいつらは泣いた俺に同情してここまでしてくれたんだ。それを仕方ないで済ませて次に来る自分への罰を待ってガタガタ震えるなんざ不義理って奴だ! だったら、俺もなんか恩返ししなきゃ、決闘者じゃねぇ!」
猛く吠える少年に、フェニックス卿は冷ややかな目線を送りつける。なるほど、人間の道理に従えば少年がただ待つのは不義理に思える。フェニックス卿は少年の思考を当然のように理解する。しかし同時にこうも思った。だがそれは人間の道理、我らが悪魔の道理に口を挟む理由にはならない、と。そしてそれは傅く三人の思考でもあった、誰も庇ってくれと言っていない、むしろ黙っていて欲しかったのによくもやらかしてくれたなこの知能指数猿以下の蛮族め。
ほとほと呆れた三人は少年の行く末が見えたかのように箒と塵取りを用意しなければならないなと思っていたその時、好意的な笑い声が耳にはいる。おかしくて堪らないといった風に腹を抱えて笑うのはフェニックス卿だ。
「――人間、我らが悪魔を恐れないと言うのか」
「いやだって恐れてる場合じゃねぇし。それに、良い奴らの前でもう情けないところ見せたくないって思うのは悪魔だって一緒だろ?」
その言葉を聞いてフェニックス卿はまた笑い出す。もうこの空間の流れが、状況が読めない三人はただただぽかんと呆けているだけ。少年は何がおかしいのか分からずにこのおっさん頭大丈夫かなぁなんてことを考えていた。おかしいのはお前だ。
「いや、失敬。悪魔を善いと言ったり、我らを一緒の範疇に入れるのがなんとも面白くてな」
「そうか? 駄洒落も入ってねぇのになぁ」
「なるほど、無自覚故の器の大きさと言った所か。人間、貴様は面白いな」
フェニックス卿が、個人と認めて呼んだ。その事に動揺を隠せないのがもはや分かりきっているだろうがいつもの三人だ。意識が飛んで呆けの向こうに言っている今ならただの犬だろうと適当に指を指しては「あれブルドックスじゃね?」なんて戯けた事を言い出すに違いない。
「ってかさっきから人間って。俺は人間だけど人間って名前じゃねー、トケアイだ!」
「トケアイか。そうかそうか、失礼したなトケアイ」
「あ、なんだ、素直だな……あんたいいおっさんだな」
「何、これぐらいの技量がなければ当主は務まらない物でな。ハーッハッハッハッ!」
「ハハハハッ! 全っ然なんで笑ってるかわかんねぇ!」
数分前と違って和やかな空間になってしまった保管庫で、ライザーは静かに頭を抱える。どうしてこうなった、と。それは強いて言うなら意外とフェニックス卿がお茶目であったことが原因だろうと、語り手がその場に居たのであれば進言していただろうに、私が語り手であることが気に病まれる。
「そういえば、さっきのデュエルとはなんだ?」
「デュエルってーのは……えっと、ほらあれだ。すげぇ楽しいことだ! 漢字で書くとこうなるんだけどな」
丁度机の上に置いてあった瓶の底に滴っていた残り汁に指を突っ込む、続いて濡れた指を使って地面に『決闘』とアホらしい字で書いていく。自慢ではないが、決闘はトケアイが自信を持って書ける数少ない漢字だ。覚えるのに一週間ほどかかったが。
「決闘か……。なるほど、ならば丁度良かった。トケアイ、うちの息子と決闘をしてくれないか?」
「はぁ!? 何言ってんだくそ親父浮気してること母さんにバラすぞ!!!!」
「こんな所でよそ向けの仮面を取るんじゃないこのバカ息子が。前々から言っているが、お前は弛みすぎている。上級悪魔にもなって『レーティングゲーム』の王としての参加権を手に入れたと言うのに肝心のお前はそれを悪用してハーレム作り、貴族としての意識が些かどころが妻の腹の中に置いてきたのではないかと思ってしまうほどにかけている。流石の私も堪忍袋の尾が切れたと言うものだ!」
「それだけで俺に弱いもの虐めしろってのかよ! んなカッコ悪いことしたらうちのハーレムのメンバーの好感度が下がるっつーの!」
「んな!? 今俺のこと弱いっつったかこの陰毛金色野郎が!」
「んだとてめぇ!! 有情かけてやったってのに感謝の言葉より先に罵倒とかいい度胸してんじゃねぇか表でやがれ弱小矮小人間!」
おうよ望むところだ。焼きカスにしてやるよ! 等と言い合って保管庫の外へ出ていく二人。これで少しでも意識が変わればオールオッケーだと考えるフェニックス卿の傍ら、レイヴェルとユーベルーナはアホくさい男共の姿を見てため息をつくだけだった。
一方一人当主の後ろで控えていたセバスチャンはと言えば、後ろの方で血走った目で不死殺しのナイフを舐める奥様をどう収めるかどうかをただひたすらに考えていた。
◆◆◆
情けないフェニックス卿の断末魔が響き渡る豪邸から抜け出したのは男二人。一人は自身の飛行能力で、もう一人は信用する愛機に股がってフェニックス領のある広い場所に到着していた。丁度回りには誰もおらず、はぐれ悪魔が住み処にしているなんてこともない無人の領域。大体今回のバトルフィールドの大きさ東京ドーム20個分ぐらいだろうか、広すぎると感じるかもしれないがライザーにとっては人間を弄ぶ戦いなのだからこれぐらいでなければ存分に人間が逃げ惑う姿を楽しむことができないのだ。
軽く一捻りでもしてやろうと、ライザーはまず恐怖心を煽ることにする。今持てるフェニックスの炎神(エンジン)を全開にし、戦場全体の大きさ程の焔の巨翼を現出させる。
それは見るもの全てに安心を与える生優しい物ではなく、熱を受けるもの全てに塵になる先を見せる恐ろしくも美しい殺意の込められた焔。並みの中級悪魔なら戦意は失われ、心もプライドも元の形状がわからないほどに複雑に折れる。人間ならば尚更だ、折れるどころか精神崩壊は免れない、幼児退行し現実から目を背けるまでに至るだろう。
ではトケアイはどうか、彼はもちろん人間なのだから図太くはあるだろうが、それはこちらが奇しくも人間と同じ形状をしているから。こちらは人間ではなく悪魔なのだ、根本からある絶対的な違いであるそれに気づけば流石の図太さがあろうとも――
「――随分とでかい羽だな。旨い手羽先になりそうだ」
その目に、声に、表情に、ライザーは愕然とした。目には迸るほどの闘気が、声には絶対的な自信が、表情は何が面白いのか不敵な笑みまで浮かべている。
アホすぎて伝わっていないだけなのでは、ライザーは不安を殴り捨てるように別の考えを浮上させる。アホにはただの言葉では通じないのだ、古事記にもそう書いてある。
ならば痛め付けるだけだと炎翼を最低限の大きさになるように火の粉へと散らし、散らした火の粉で炎剣を形作る。ついに来るかとトケアイは身構えるが、この前の蝙蝠とは文字通りランクが違う上級悪魔にとって、それすらも遅すぎる。
「灰塵に帰せ」
驚異的な踏み込みと炎のオーバーブーストから発せられるスピードは一時的に音をも越える。その瞬間に起こる音撃や、衝撃すらも追い抜きミリ単位の距離まで積める。狙うは利きであろう右腕、ショック死もありえるが無謀にも勝負を挑んだトケアイにそこまでの慈悲を与える気はない。悪魔なのだから、それ相応の対価は頂いていく。
ついに炎剣を振るい落とそうとしたその時、まだ衝撃もライザーの位置を把握していないその状況に、決闘者は動く。とは言え動いたのは指一本、だが決闘者という生き物は、指一本で無限の状況を産み出せる超越者なのだ。
「――――ッ」
そんな息を飲む声を上げたのは誰だったか、ついに追い付いた音撃と衝撃が重なった結果それを知ることは不可能にも近い。だが知れることはある、それは息を飲んだ意味が驚愕から来るものだったということだ。
ライザーの炎剣から発生されるであろう熱と斬撃が、炎剣にそのまま跳ね返る刃を止めている。物理学的状あり得ない光景、腕というのは放つ力には強いがそれが丸ごと帰ってきた時の受け止める力には弱い。軋む腕の音と襲いくる鈍痛を感じながら、ライザーはただ距離を取るしかなかった。そこでようやく、静寂が訪れた。
「……俺は罠カード、魔法の筒を発動していた。このカードは俺に襲いかかる一撃をそのままの威力で返すカード。俺の腕を取るつもりが、自分の腕を取られかけるなんて笑えないな」
罠カード、先攻を取ったものが後の反撃のために場にセットしておく特殊カード。だが先攻を取ったのはライザーであり後攻であるトケアイにはセットする暇などルールを放棄するぐらいしなければ出来ない行動。もちろんトケアイはリアリストなどではなく紛れもない決闘者だ。しかし決闘者たる者は相手と自分の力の差ぐらい読めて当然の生き物だ、だからこそ強者を討ち取るために罠を敷く。つまり、先攻を取ったのはライザーではなくトケアイだったということだ。
「ただの召喚師だと思っていたが、どうやら違ったみてぇだな」
「いや、似たような者なんだけどな。使役者みたいなもんだし」
互いに思考時間を稼ぐための会話を行う中、トケアイは相手のライフポイントが減っていない事をディスクに表示されるディスプレイ越しに気づいた。罠は阻害もされずに発動し、間違いなくダメージは通った相手の墓地にもダメージだけを受け流すようなカードも送られていない。では何故ライフは依然として変わりがないのか。嫌な予感に襲われるままに相手の場に存在する『ライザー・フェニックス』と示されたカードを拡大して注視する。
『ライザー・フェニックス』
闇 ☆9 【悪魔族/効果】 ATK3000 DEF2300
①:このカードがフィールドから離れた場合、同じ表示形式でフィールドに戻す。
②:このカードが場に存在する時に自分のライフが8000以下であった場合に発動される。ライフポイントを8000にする。この発動は無効にされない。
トケアイは顔をしかめた。それはもう誕生日ケーキの蓋を開けたらゴキブリが入っていた時ぐらいに顔をしかめた。面倒なことに通常のデュエルであれば倒せないようなカードがドンと目の前に立ちふさがってきたのだ、そんな不快な状況を前にすればもうしかめるしかない。前の蝙蝠どもは星は5だったし魔力カウンターを除いて直接攻撃をするような貧弱な能力であったのに、同じ悪魔でもここまでインフレが激しいと笑いたい気もしてくる。
だが倒せない訳ではないというのがデュエルの世界だ、半端な気持ちで入ってくるような奴らではこの状況を前にしていればサレンダーをして灰にされていただろうが生憎とトケアイは無駄に場数だけは踏んでいる。封印されし三龍とも戦ったこともあれば、仲間と共に創世神とも戦った事がある。無茶無謀と罵られた戦いを経験したことから培った圧倒的な視野の広さ、トケアイの武器の一つでもある。
自身の愛機『スターレヴィエ』のアクセルを全開にしながら、彼は思う。倒せるだろうが、勝てはしない。端末世界の時とは違う孤独な戦い、一人であるならば尚更だ。ならば負けるのか、いや奴に勝ちを拾わせる訳にはいかない。金色に輝く陰毛を自慢に思うような奴には絶対に負けたくはない。だから、勝ちもしないし負けもしない。
「俺のターン! 魔法カード、ゼアル・カタパルトを発動! 手札からZWモンスターを特殊召喚する。現れろZW-雷神猛虎剣!」
天空が稲光を起こした瞬間、ドッとライザーは何かにより音速よりも早く吹き飛ばされる。ライザーはフェニックスの能力を身に付けているためその程度の攻撃では瞬時に回復する、つまりは彼にとっては雷光の一撃すら痛くも痒くもない。この程度で上級悪魔で尚且つフェニックスの名を持つ彼を砕こうなどと考えること自体が痴がましい、そんなことはライザーも分かっているのだから彼の表情に浮かばれるべきは嘲笑のはず。
ライザーは、眉間にシワを寄せ舌打ちをした。不意をついて摘めた距離をただの雷光で最初の倍近く離されてしまったのが、何よりも小賢しく感じていたからだ。積めるのに倍の時間をかけることは、トケアイに倍の時間を与えることに等しいのだから。
忌々しい機械的な白虎はトケアイの隣で並走をし、その鋭利な爪は何時でもライザーを引き裂けるように剥き出しにされていた。
「俺のライフポイントがお前よりも2000以上少ない場合、ZW-荒鷲激神爪は手札から特殊召喚できる!」
次にライザーを襲ったのは雷速程ではないが音速を越える一歩手前の速度の突風。鎌鼬とも言えるその鋭利な殺意は、次の手である炎による遠距離攻撃の要の焔弾を的確に真っ二つにしていく。どれも自分であれば欠伸をしながらでも避けれていたであろうその攻撃に計画を阻害されたのは、彼にとって何よりも屈辱であった。同時に、慣れない手段で奴を屠ろうと慢心していた己を恥じる。
――ここで余談となるが、読者の皆は何故荒鷲激神爪が特殊召喚出来たのかを理解できていないと思う。当然だ。この決闘、まだ誰もライフが減っていないのだから。
ライザーによる先手は魔法の筒によりそのまま返されており、そのダメージもライザーの能力による既に回復済み。
ライフが同じなのに2000も差が広がっている訳がないだろ、いい加減にしろ! とも感じてるはずだ。
その感想はごもっともであり間違っていない。だが読者の皆は一つ勘違いしていることがある、それは普通の決闘者のライフは4000がであるということだ。8000ルール? 申し訳ないがOCGルールは二次創作に適用されない場合もあるので今回はNG。
ライザーは自身の効果でライフを8000にしてしまっているが、トケアイのライフは通常の決闘者と代わりのない4000。比べなくとも理解できるであろうが、ここには4000の差が出来てしまっている。よって荒鷲激神爪は特殊召喚可能である。Q.E.D証明終了――
さてライザーの二の手を潰した巨大な手にも見えるその鷲は、白虎の上空を悠々と舞っていた。つまりここに、同じレベルのモンスターが二体揃ったことになる。
「俺はレベル5の雷神猛虎剣と荒鷲激神爪でオーバーレイ!」
宣誓と共に生み出されるのは黒き渦、叫びに呼応して我が身を光へと変える下僕共は軌跡を描きながら渦へと吸い込まれていく。異なる生命という超莫大エネルギーが渦にて一つとなる時、反発の力と同調の力が膨張を起こす。
瞬間、光が爆発を起こす。
「熱く燃え盛る魂が煌めく希望の鍵となる時、荒ぶる奇跡が舞い降りる!」
「エクシーズ召喚! 吼えろ、ランク5ッ! ZW-獣王獅子武装ッ!」
渦の呪縛より解き放たれた獣は黒を打ち砕き、地表に降り立つ。その悠々たる姿はまさに王の名に相応しい立ち振舞い。轟、と咆哮が大地を揺らす時、ライザーは久しく味わっていなかった感情を思い出していた。それは、恐怖。そしてそれから来る、勝ちたいと願う心。数分前までのライザーとはまるで別人かと錯覚させるほどに、その目には闘志が燃えたぎっていた。ライザーに目に映るのはただの人間ではなく、一人の強敵。全力を以て倒すべきライバルだけ。
「獣王獅子武装の効果発動! オーバーレイユニットを一つ使い、デッキからZWを手札に加える。俺はこの効果でZW-風神雲竜剣を手札に!」
着々とトケアイが下準備をする中、ライザーはやはりと言うべきか獰猛な笑みを浮かべ、背後の森全体を炭変えつつ業炎を推進力に再び音速の世界へと足を踏み入れた。次はどのように楽しませてくれるのか気になるところではあるが、その迷いのない動きから一つの推測へとたどり着く事ができた。あれはジャイアントキリングのための行動である、と。
「勝機など、掴ませるものか…っ!」
ライザーは貴族である、悪魔である。だがその前に、勝利を渇望する男なのだ。慢心と油断を薪として戦意の炎に火をくべる、ただ目の前の決闘者を屠るためだけに、絶対的勝利を手に入れるために。
先程の音速よりも倍の速度、マッハ6の世界で距離を積めるライザーからすればトケアイはただの良くできた彫像でしかない。この剣で、この戦意でちょいと振るえば砕けるだけの存在。そうライザーは考えてもちょいと振るう気にはならない、全力で、全開で、フルスイングでぶち壊してこその勝利を渇望しているのだから。
そうはさせないと牙を向けるのは獣王獅子武装だ、同じようにマッハ6の世界に入りライザーを阻もうと立ち塞がる。邪魔だと言わんばかりに炎剣を薙げば、獣王獅子武装はそれを爪で砕いてもう片手でライザーの頭蓋骨ごと粉砕する。だがその程度の軽傷で動きを止めるはフェニックス種にあらず、まだ頭もない体は0.0000000002秒にもすぎない僅かな獣王獅子武装の隙をついて炎剣でその体を袈裟斬り。痛みを吠える間もなく獣王獅子武装のブレスがフェニックスに直撃、吹き飛ばされ距離が空いたところで音撃が一人と一匹に追い付く。
そこで漸くトケアイが動くようになる。
「獣王獅子武装と手札の風神雲竜剣の効果発動! 獣王獅子武装をスターレヴィエに、風神雲竜剣を俺に装備!」
高熱による一閃をその身に傷として残しながら、獣王獅子武装は天高く飛び上がる。すると空中でその形を変えていき、最終的には十パーツ程になるまで分解する。それぞれのパーツは自由に宙を舞い、愛機スターレヴィエの追加装甲として合体を果たしていく。赤と金の誇り高き装甲に、美しき白銀のボディが栄える。爪と牙とその魂を引き継ぎ爆走するDホイール、名を『スターレヴィエ:レオンストライクカスタム』。マッハ10で走れる出力を得たまさに最強のDホイール。
トケアイが掲げるカードからは緑の龍が飛び出す、見るもの全てを魅了するその赤き眼を輝かせ変型を始める。
「ゲキリュウ変身ッ!」
覚悟の叫びに応えるように、八つに別れたパーツ達がトケアイへと殺到。彼の身を隠すと同時に身を守る鎧となって装備されていく。牙はヘルメットに、爪は籠手に、そして魂は剣へ。
「トケアイと、その愛機スターレヴィエ。ライジン!」
決闘者として最強の戦士と化したトケアイと、主の思い全てを叶える最高のマシンが唸りをあげて名乗りを上げる。トケアイが導きだした勝ちもしないが負けもしない手段、それは己の全力をライザーにぶつけること。あわよくば引き分けに持ち込むことだった。
それをライザーが察知したかどうかは定かではないが、彼は今の状況にこれ以上にないと思うほどに興奮していた。人間が、自分を越える力を放っているのだ。普通の悪魔は恐れて許しを乞う、だがライザー・フェニックスはそんじょそこらの上級悪魔とは訳が違う。少なくとも、今の彼は魔王よりも誇り高いのだから。
「――ククッ、ハハハ……ハハハハハハッ! 今ならあのくそ親父の気分が、なんとなくわかる気がするぜ! さぁ来いよ、強敵ィ!」
その声に、返しはなかった。音速の世界に入ったトケアイに追うように爆炎を噴き出すライザー、炎剣が吠えればを上げれば、龍剣が唸りを上げる。余計な回り道も、小細工も、何一つなかった。直線勝負の、一騎討ち。
「三位一体ッ、最強斬りッ!」
「うらァァァァああああああああああッッッ!!!」
その日、領地が一つ更地となった。
◆◆◆
「……よぉ人間、やるじゃねぇか……」
「ハッ、お前もな……本当にあの蝙蝠と同族かよ……」
「……人間、俺はお前を友として認めたい。だが、その前に、一つ質問させてくれ」
「なんでも聞けよ親友予定」
「――女はどこを見る?」
「――おっぱいだ」
「よろしくな親友!!」
「長い付き合いにしようぜ親友!!」
夕陽が彼らを照らすとき、確かな絆が結ばれる。それは確固とされていて、片方が犯罪者になろうとも決して切れることはないだろう素晴らしき繋がり。片や決闘者、片や悪魔。一般的に逢い交える事のない二つの存在は、おっぱいという魅力の下に集う。男の熱い友情を交わすアホ共、ユーベルーナとレイヴェルは拳を強く握り、降り下ろした。
設定の矛盾や誤字脱字、一話の文字量についての意見お待ちしてナス!