第12話
あの滅茶苦茶な日々が過ぎ去って数か月。段々とジュエルシードの影響もなくなりこの世界も安定してきた。
学校の屋上で他の生徒に聞こえないようにしながら隣にいる気に食わないが現状を唯一共有できる世闇に話しかけて今起きている予想外の事態を整理していく。
「なあ、これは如何考えても」
「ああ、異常だ。恐らくはあの化け物が最後の転生者なのだろうが
「ああ、そうだろうな。此処から考えるに彼奴は原作を無視して何かをする奴かそれとも原作を知らないかの二つになるはずだ」
この状態を確認するために世闇を見れば確かに頷き、此処までの状態を意識で共有できていることはお互い確認できた。だが、問題はこの後だ。
「なら、何故そんな事をするかだ」
「そこだな、一番の問題は。転生した際に与えられた能力によって自我が引っ張られているのか。それとも本人の意思か」
「俺が想像するにやはり引きずられていると思う。俺はゼウスに英雄王の能力を与えられたが言動はやっぱりかなり引きずられているしな。お前も知っての通り最初俺がなのはにあった時にはかなり英雄王の傲慢さが出ていたからな。まあ、それ以降は何とか抑えられてはいるが」
「俺もオーディンに力を与えられたがその際に随分と血を好む性格になっていったしな。今でもすずかが通ると一瞬殺したくなってしまう。それにこの体もこの世界には本来存在しない血を受け継いでいる。その影響で本来は不可能な七夜の身体技術を行使できるし」
となるとやはり彼奴も能力に引きずられているのか? だとすれば何の能力だ?
「だが、俺はそう思わない。彼奴は彼奴なりに確固とした自我を築きその自我に則ってあれ程の事をしたんだと思う」
だが、それは世闇からすれば信じられないようだ。
「何故、そう言い切れる?」
「目だ。彼奴の目を見たからだ。あの時プレシア・テスタロッサに向けた瞳は何処までも純粋に邪魔ものだと思っていた。邪魔だから切り捨てる。それが彼奴以外の意志で行われたのなら少しは瞳が濁る。けれど彼奴にそんな濁りはなかった」
フン、まあ此奴の人を見る目は意外と確かだからな。今の俺の眼力は確かにこいつより優れているとはいえ実際にその現場を見ていなければ意味が無い。
「なら、そう考えよう。次の問題は何故ジュエルシードをあれだけ敵視したかだ」
「彼奴のいう事を信用するならジュエルシードが兵器でありこの世界にとって害しかなさないから」
「だが、それを知るすべは何処にもない。ユーノですら知らなかったことを何故一介の、しかもあんな存在が知っていたかだ。恐らくはアレは全てブラフで実際はジュエルシードを利用しているのではないか?」
「利用? だが実際に時の庭園では」
少し考えればわかる事なんだがな。
「本当に破壊したのか?」
「えっ?」
「考えてみろ。時の庭園が崩壊したのは確かだがジュエルシードの破壊は誰にも確認されていない。そこから推察するにジュエルシードを破壊したと見せかけて独占、或いは完全に破壊して他の誰も願いを叶えられないようにしたという可能性もあるぞ」
世闇は黙り込み考えをまとめ終わったのか意見を提示してきた。
「だとしたら彼奴の力はジュエルシードが叶えた力? だからジュエルシードの有効性を確認して他の人間には渡したくなくなった?」
「その可能性はあるな。能力が貧弱だった可能性もある。もしくは転生者じゃないという可能性も出てきたな。だとしたら彼奴も被害者であって加害者だ」
「だとしても実際はそんな簡単な状態ではないだろう?」
「ああ、昨日リンディ艦長が話してくれたが管理局は彼奴を生態ロストロギア扱いの指名手配をしたよ。しかもS級の上を行くSS級のな」
SS級。俺もあまり詳しくは知らんが説明を聞く限り一般管理局員では戦闘すら許可されない正真正銘化け物相手に付けられるクラスらしい。アースラも戦闘は絶対に避けるようにお察しが来ているが、
「それ、フェイトが無理だろう」
「ああ」
本来ならなのは達によって多少母親の呪縛から逃れた彼女だが今は違う。母親を殺されたショックで彼奴に対して異常なまでの執着と攻撃性を見せている。それこそもし彼奴が発見されたというのなら後のこと全てを放っておいて殺しに行こうとするからな。
「しかもユーノの方もかなり精神的に弱っているし」
「そうなんだよな。見ていてかなり可愛そうなくらい弱っている。なのはが元気づけているがあまり効果が見れないし」
さらに最悪なのがユーノだ。彼奴の言った言葉を真に受けてかなり精神的に弱くなっている。このままでは精神衰弱で入院しなければならなくなるほどに。
「ハァ、本当訳の分からない状態になりやがっている」
思わず愚痴がこぼれてしまったがしょうがない。実際今の状態で闇の書を如何にかする事なんて不可能だろう。せめて管理局から応援が来ればよいのだがそれも期待できない。管理局の上層部は管理外世界である地球にSS級の指名手配犯を捕獲できる実力者を応援として出したくないようだし。これは俺たちが何とかするしかないか。
「まあ、恐らく闇の書の事件でも彼奴は出るだろう。彼奴が言っていることが真実であるなら彼奴はこの世界にとっての害悪を嫌う。なら世界を破壊する可能性のある闇の書を見逃すはずがない。転生者なら兎も角だ」
「確かにそうだがヴォルケンリッター相手にさらに彼奴のような不確定要素を相手できないぞ?」
やっぱり戦力不足が出てくるか。せめてフェイトが立ち直ってくれたらな。あんな悲惨な場面を見たから仕方がないんだが。
「まあ、そこはその都度何とかしていくしかない。それにアースラの方も大変だしな」
「確か乗組員たちが辞職を願っているんだっけ?」
「ああ。如何やら彼奴を見て恐怖に駆られたらしくな。地球の近くにいるくらいなら職を失う方がマシだという一派がアースラに生まれたのも事実だし」
「けれどアースラがここに滞在するのはジュエルシードの影響の観測もあるんだろう? 其れなのに乗組員たちが離れたら」
「だからこその問題だ。唯でさえ人員が少ない管理局が管理外世界にわざわざ応援をしない。先の事件で滅茶苦茶な存在も発覚したからな。そして数少ない人員で影響を調べなければならないから余計戦闘のできる人員が影響の観測に取られて戦力が薄くなる」
「だとしたら拙いな」
「ああ、時空管理局の最大の強みは近代の軍隊に共通して数の強みだからな」
実際管理局の中で強い人員はそうそういない。では何故管理局は巨大な組織として存在できるか。それはひとえに画一的な装備の支給に、均一化された戦闘能力だろう。例えば今この場にヴォルケンリッターが現れても管理局が本気を出せばあっという間に数の暴力で何もできないまま捕まえる事が出来る。現実ではしがらみや他のロストロギアなどの回収で出来はしないだろうがそういった点がある。
「ああ、ままならねぇな」
ぽつりとつぶやいた声は風に乗ってどこかに消えていった。
今回san値チェックはありません。