長いし、分かりづらい部分も多分にありますが、ご了承ください。
アースラの一室で、俺は今なのはと向かい合っている。これからしようとすることに対して、今の彼女は邪魔になるからだ。
「なのは、契約を破棄してくれ」
「嫌」
「俺はヴィヴィオを救いたい。あの子の笑顔を失いたくはない」
思い出すのは、あの子の笑顔。俺となのはを両親と仰ぎ、笑いかけてくれた子。だが、あの子は攫われた。スカリエッティに、戦闘機人たちに。
「そのためには俺は戦う。だがそれにはお前との契約は、邪魔になる。お前とのつながりが、お前を魔に導いてしまう。これ以上、俺の所為でお前に道を踏み外してもらいたくはない」
それが俺の願い。
「あの時交わした契約は、『俺と一緒に全てを背負う』。そういう契約だ。その契約で俺は、かろうじて人間の状態を保てるようになるが、その代わり、なのは。お前にかなりの負担を強いる。それは人間であるお前の魂を侵食し、だんだんと破滅していくほどの負担が。ヴィヴィオを救いたいが、それ以上に俺はお前に傷ついてほしくはないんだ」
かつて、人を救いたかった俺の願いは、今やなのはだけに向かっている。彼女に傷ついてほしくはない。そう言う願いに。
「だから――」
「莫迦!!!」
「ふべっ!」
バシンと凄まじい音ともに、俺の首は捻じれる。
「莫迦、莫迦莫迦莫迦!!! 私だって、同じ気持ちなんだよ! ヴィヴィオを助けたい! けど、だからって救人君に苦しんでほしくはない! 私の契約が有れば、救人君は人を救う事が出来る。人類ではなく人を」
なのはは、その目に涙を蓄えながら俺に語りかけていた。あの時、ジュエルシード事件の時、俺を見抜いて手伝ってくれと言ったあの顔に。
「私は誰が言ったって、契約は破棄しない! これは私と救人君のつながり。でもそれだけじゃない! 私が救人君の手助けできる唯一の方法なんだもん!」
「なのは」
「そういう事だ。莫迦者」
「全くな。お前たちの契約は、いまさらどうこう出来るもんじゃないだろう」
そう言って、何時の間にか入ってきたのか、七式と御崎が俺の肩に手を置く。
「今更すぎるんだよ。俺とはやてが、お前たちが出す被害を如何にかしてやる」
「俺とフェイトが、スカリエッティを捕まえる」
「「だから、お前となのはがヴィヴィオを救え」」
それだけ告げると、二人は手を振りながら部屋から出ていく。
ああ、何だ。人を救うなんて願いを持ったけど、そんなもの必要なかったんだ。だって、俺は人から救われた。人は、人を救える。邪神が出る必要なんてないんだ。
「なのは」
「救人君」
「手伝って、くれるか?」
「うん」
晴れやかに、彼女は俺に笑いかけてくれた。
その時はすぐに来た。テスタロッサと七式はスカリエッティを確保しに、八神と御崎は外でガジェットを破壊している。
俺たちは、
「行くぞ、なのは?」
「分かっている」
黒い腕が体を突き抜け、もう一度体に入り浸食を開始する。凄まじい勢いで体は蝕まれ、意識を奪おうする。だが、
「ぐぅ!!」
俺の隣にはなのはがいる。だから、俺は自分を見失わない。見失ってはいけない。
黒い翼を広げ、玉虫色の腕を使って優しくなのはを抱える。
「救人君」
「さあ、行こう。あの聖王の船を落としに」
教えてやろう、彼奴らに。彼奴らは邪神の大切な者に手を出したという事を。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」
咆哮じゃない。いつもとは違う。蝕まれていく不安も、なくなっていく意識に対する恐怖も沸かない。いやそれどころか、何処までも意識はクリアだ。
普段使う腕で、邪魔になるガジェットを引き裂き、突き進んでいく。
「行って来い!」
何処からか御崎の声が聞こえる。それに返事を返すことはできないが、そのままの勢いを維持して俺たちは船に突撃した。
「キャア!」
突然揺れたけど、何が起きたの? 今の今まで作戦の邪魔になるものはなかったのに!
急いでモニターを動かして、このゆりかごを揺らした何かを探る。行き成りあんな揺れが起きたのだから、何かされたに決まっている。まあ、どんな方法を使っても、陛下とゆりかごには敵わないんですけどね。
「さてさて、管理局は何をしたのかな?」
笑みすら浮かべて、私は問題の個所を探していく。如何やら、動力炉の付近にそれは存在しているみたい。
ばっかじゃない。もしかしたら動力を落として、時間稼ぎをしようとしているみたいだけど、そんなもの無駄。人間が出せる出力じゃ、絶対に動力炉は壊せない。もしかしたら、質量兵器なのかもしれないけど、管理局が使うわけにはいかない。爆弾などの兵器はないだろう。恐らくは魔導師。まあ、ガジェットもいるこの中で、フルパフォーマンスで闘えない魔導師ではどうしようもないでしょうに。
「キャハハハ!」
思わず笑いがこみあげてしまう。おっと、一応モニターしておかないと。
モニターの中の画像を見ると、もうもうと立ちこめていた煙が換気されていっている。段々と薄くなっていく煙から人影が見えてきた。
確か、あの人物は六課の事務員だったかしら? かつては魔導師だったらしいけど、今の彼女はリンカーコアの奇病で魔力を失ったはず。だとしたら、何でこんな場所に?
「ヒィ!!!」
だけど煙が晴れて、もう一つの影が見えた瞬間、そんな女は如何でも良くなってしまった。だって、あのバケモノは何!?
禍々しく黒ずんだ体から、いくつもの腕が飛び出している。玉虫色に輝く物もあれば、黒く光を吸収するものも。さらには空気中で蒼く燃えている腕すらある。それらの腕がつながっているのは、見たこともない化け物。
ぐちゃぐちゃになった足。紅い瞳は不気味に輝き、貌の至る所に出来た眼球はそれぞれが不規則に蠢いている。それらが見ているのは、ガジェット。しかも、中には見えないはずのガジェットすら睨んでいる。
「な、何、何なのよ!」
訳が分からない! あれは、アレは一体何!?
此処がゆりかごの内部か。
「なのは?」
「今、レイジングハートにサーチしてもらっている」
プシュリとカートリッジが排出される。なのはのリンカーコアは、変質しきってミッド式の魔法を使えない。ミッド式の魔力を蓄える事が出来ないのだ。だから、レイジングハートには他の人間のカートリッジを使う。その魔力によって魔法を発動させる。
「AIMとやらは、如何だ?」
「AMFだよ。Aはまだしも、残りのIとMは何処から来たの?」
呆れられて返されてしまった。
「大丈夫。そもそもAMFは魔法特有の周波数を妨害するようなもの。いろいろな魔力が混ざってしまえば、妨害する力も弱くなって効力を無くしていくもの。フェイトちゃんにはやてちゃん。それにフォワードの子たちのカートリッジも使っているから、妨害されないよ」
それだけ聞ければ安心した。
ぎょろぎょろと辺りを見回していた、全ての瞳を止めて邪魔くさいガラクタを睨みつける。
「邪魔だ、ガラクタ」
一瞬で通路を埋め尽くしたのは触肢。俺の体から生える一本が通路を蹂躙して、周りにある機械を巻き込んで破壊する。
それと同時に、近くに有った機械から爆発音がした。如何やら動力源だったらしく、船の進む速度がガクッと落ちた。
「ビンゴ! 此処から進んだ先にヴィヴィオがいる。それにそこの部屋の下の方に、ヴィヴィオを攫った戦闘機人の仲間がいる」
そうか。ならば、まずは戦闘機人とやらに思い知らせてやろう。
「しっかりつかまっててくれ、なのは」
「うん!」
どこか嬉しそうに、彼女は俺の背中につかまる。時間をさかのぼる事も出来はなくないが、その場合なのはに負担がかかりすぎる。ならば門を通るしかないだろう。
かつて創りだした門をもう一度再生させる。宙に浮かび上がった門は複雑な模様を浮かび上がらせる。その模様は時には文字となり、時には冒涜的な角度で曲がり、醜悪な絵を浮かび上がらせる。
銀色の鍵をこの手に出す。全ての外なる神すらも飲み込むのがヨグ=ソトースなら、今の俺は万物の王の化身。この程度はできない筈が無い。
「すごい」
門を見たなのははそうこぼしていた。それはそうなのかもしれない。この門は、全てを記した空間へ通じる為の方法。その門が人にとって害をなさないはずがない。そsちえ、それはなのはにだって影響を与える。まあ、俺との契約でその影響はかなり薄まっているが。
「なのは、大丈夫か?」
「うん、全然問題ないよ?」
「そうか」
なら良い。鍵は外れて、門が開かれる。開かれた瞬間、俺たちは全てを通じて、一に至る。
「な、何が! 何でこの場所に!?」
再構築された体を確かめながら、目の前の戦闘機人を睨みつける。
「ひっ!」
「あの子を返してもらうぞ」
「は、はっ! 陛下がお前たちについていくとでも? 陛下は我々と――」
「ああ、黙って良いぞ? お前の回答など最初から期待していない」
グシャリと、頭上から一本の腕を振り下ろして潰す。最低限生きていないと拙いだろうから、一応手加減したが、それでも顔の骨は折れてぐちゃぐちゃになり、見るも無残に全身の骨はバラバラに砕けている。
ヴィヴィオはここの上か。
「砕けろ!」
一気に玉虫色の腕を伸ばして、ヴィヴィオのいる場所へ通じる道を作る。
その道を翼で飛んだら、成長していたヴィヴィオがいた。
「ヴィヴィオ」
「誰!?」
「私だよ、ヴィヴィオ!」
「なのはママ!」
……良いんだ。俺は今の姿じゃ、人と思われないし。救人パパって何時ものように言われなくって。
「ダメ! 来ちゃダメ! 体が勝手に動くの!」
「大丈夫。私達がヴィヴィオを助けるから」
優しくなのはが語りかけ、ヴィヴィオを抱きしめる。
「な、何で!? 何で!?」
「お前の体の中にあったのは既に抜き取ったからな」
「その声、救人パパ?」
「……うん、そう。
ヴィヴィオの中で悪さをしていた物は抜き取って、暗示は、より強力な精神支配でなくした。さあ、帰ろう。今頃戦闘機人もスカリエッティも捕まっているさ」
「駄目! 私は兵器なんだよ! この船を動かせる聖王っていう名まえの兵器! みんなと一緒に居られない!」
「ヴィヴィオ、パパも少しだけ秘密を明かそう。パパはね、『邪神』なんだ」
「邪神?」
「そう。人を傷つけ、人に破滅をもたらす邪悪で醜悪にして、人にとって最悪を越して忌避すべき神なんだよ」
それが俺。だけど、
「だとしても、俺をなのはが支えてくれる。支えてくれた。そのお蔭で邪神であっても、人として生きてこられた。たとえ兵器だとしても、ヴィヴィオは人として生きていけるさ」
それでも、人として生きていける。
それはヴィヴィオだって同じ。
「ヴィヴィオ、お前は人として生きたいか?」
「生きたいよ……!」
「そうか、なら、俺達がお前を救う。さあ、一緒に帰ろう」
優しく二人を抱えて、俺たちは船から出る。先ほどから警告音が流れているからな。
船から出て、もう二度とヴィヴィオを利用させないためにも船を破壊する。っと、その前にあの船にいた全ての生命体を転移させないと。わざわざ門を使わなくても良いだろう。
八神たちに連絡して回収しようとしたら、すでに全員を回収して、脱出しているそうだ。……珍しく動きが速いな。
まあ、此れで気兼ねなく動く事が出来る。
「炎で凍りつけ!」
白い炎が船を凍らせていく。かつて地球を大氷河期へと追いやった邪神の力。幾ら聖王の船でも耐えられる訳が無い。凍り付いて、ひび割れていく。
キラキラと光に反射しながら、船は砕けていく。スカリエッティの野望も、管理局の作り出してきたまやかしの平和も。
これから先は色々なことが変わる。陸の不祥事。スカリエッティとのつながり。そういった事から、管理局は変わる必要が生まれる。
船を砕くことで、今と過去を完全に壊す。これから先は俺たちは必要ないのだから。あとはヴィヴィオの世界。
「ヴィヴィオ」
「救人パパ?」
いつの間にか小さくなったヴィヴィオと、なのはを抱えて、俺は彼女に聞く。
「帰ろうか」
「……うん!」
にっこりと笑い、ヴィヴィオは涙を流しながら答える。
その笑顔を見ながら、俺はなのはとヴィヴィオを抱えて、空を飛び続ける。
何時までも、何時までも。これから先の未来へと。
san値
救人 1 (回復)
なのは 3
ヴィヴィオ 52
状態 全てが平穏な世界
この話は一応完全なハッピーエンドを迎えました。
これから先は、暇を見て外伝を書かせていただきます。それでは、またいつか。