san値直葬? 何それ美味しいの?   作:koth3

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お久しぶりです。外伝、今回は過去話。
途中から日記の中の一人称と、現状の説明で三人称で混ざっていますが、そこはご了承ください。


外伝 4 狂信してしまった科学者と銀髪の娘の話

 その人は優しい人だった。かつての主の事だ。知識を何よりも好み、一人静かに研究に励んでいた。

 私もまた、そんな彼をサポートし続けた。食事を作ったり、掃除をしたり。……ま、まあ、料理した経験なんてなかったから、炭を作ったりしたのだけど。掃除も調度品を叩き壊したりもしてしまったけど。

 でも、その生活は幸せだった。主は人の為になるような研究をして、多くの人から慕われていた。

 例えばガジェット。そう呼ばれた機械は、人が行動するには危険な場所で、自立行動をして救助や採掘などを手助けする。

 例えばクローン技術を応用した再生医療用ポッド。クローン自体は作れないように、設計されていたこれは、人の失われた器官を再生させてくれるといった医療用の物だった。

 こういった道具を数々作っていた主を、私は尊敬した。尊敬して、敬愛していた。

 しかし知識を望み続けていたがゆえに、主はある時禁断の扉を開けてしまった。それは物語のような希望のある話ではなく、何処までも現実に続く、恐怖と混沌と、一切の慈悲無き話し。

 

 

 

 ある時、主は一冊の本を手に研究所へ喜び勇んで帰ってきた。どうやら、世界を旅する行商人から購入したらしい。黒い肌をした青年から買ったと言うその本は、とても珍しい文字で書かれており、一体何の本か私には分からなかった。それは主もそうだったようで、とても興奮しながら解読していった。今思うに、あの本を解読しようというたくらみは余りにも愚かな行為だったのだ。馬鹿馬鹿しく、唾棄すべき行為。自ら破滅へつながる道を開いたのと同義だったのだから。

 しかし、その当時の私達にはそんな事は知らなかった。分かるはずがなかった。その知識に触れたことが無かったのだから。主はその本をだんだんと解読し始めた。それだけの知能が有った。それこそが主の不幸だった。

 だんだんと主は変わっていった、人に幸せをもたらすような発明をしなくなっていった。いや、それは別にかまわない。主の研究内容は、その時はまだ人道から外れたものではなかった。只々、その本を解読して、不気味な魔法を研究し続けていた。

 まるで何かに取りつかれかのように、いや、実質憑りつかれていたのだろう。あの魔道書に。

 

 

 

 魔道書が主の元にたどり着いて、幾年がたち主は変わり切ってしまった。その頭脳によって、幾つもの恐ろしい道具を作り出していった。それらの道具は未来の世界を混沌に陥れるだろう。

 もちろん、私は主を止めようとした。かつての、不器用でありながら、でも優しかったころの主に戻ってほしかった。しかし、それは遅すぎた。

 

 「ははははははは!! 何だ、何だ、何だ! 人はこうも脆いのか! ならば、私がしてきた研究も一切合財無駄でしかなかったではないか!」

 

 それは違う! そう叫びたかった。しかし、私は今、夜天の書へ封印されている。しかも今、主の手によって少しずつ、変化させられていく。

 それもこれもすべてはアレの所為だ。

 暗い満月の夜、何時も主は森へ出かけ、異形の怪物と出会っていた。それに気が付いた時には余りにも手遅れだったのだ。

 すでに主は変わり切ってしまっていた。願いを叶える石と謳いながら、全てを破壊する兵器を戦争の為に作り出したり、私を変えていっているのもそう。主本来の科学とは違う。全てに不幸をもたらす科学。

 その道を進ませるわけにいかないのに、私には何もできやしない。

 その無力感が私を蝕んでいく。

 

 「ああ、せめてこの身が滅んでも、主だけは救いたいというのに!!」

 

 それすら敵わず、私は意識を失ってしまう。夜天の書()闇の書(異物)が混じり込んでいく。

 

 「ふはははははははは! あはははははははは! あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 何故だろう。主の笑い声は途中から、悲鳴に変わったような気がしたのは。

 

 

 

 ある時、ミッドチルダで、スクライアの一族が発掘したものを展示する企画が博物館で行われていた。その中に、一冊の日記帳があった。

 そんな一冊の本を、長く美しい銀髪をたなびかせた女性が、周りの人に見られることもなく、その日記帳を手に取り、涙を流しながら読んでいた。

 

 

 ☆月〇日

 今日、私は不思議な本を買った。魔道書の類いのようだが、私が知らない言語で書かれているらしい。メジャーな次元世界の言語を探してみたが、すべて一致しなかった。

 面白い。私としても、私が知らない知識というものは大歓迎だ。それに今は何かを作ることも調べることもしていない。ゆっくりとこの魔法書を解読しよう。

 そう思っていたのだが、それよりも早く、自動でおいしい料理を作る機械を作らないと、ダメかもしれない。炭になっている何かを食べながら、そのことを考えていた。

 

 

 □月▲日

 何だこれは! 私が知らない知識ばかり! 原型と言っても良い魔導方式。しかし、何処をとっても洗練されており、今の魔導式ではこれほどの成果は望めない。

 素晴らしく論理的に組み立てられており、解読するのにかなりの労力が必要だが、非常に楽しい。そう思えるほどに難解だ。この頃は、魔導師たちの魔法は画一的なばかりで、何の面白みもなかったから良い頭の鍛錬になりそうだ。

 これほど上機嫌なのは何時頃だろうか。

 

 

 ◆月❂日

 何と! これは凄い! なるほど、この世界をそう考えると、時空間という考え方が、今の定説をひっくり返すほどだ。しかもそうなると、次元世界の間にある海も、もっと安全に航海することも可能になるだろう。そんな事を考えていた時、私の家にノックの音が響き渡った。

 やれやれ、一体誰だ! この素晴らしいひと時を邪魔する愚か者は!

 

 

 

 ➣月⢥日

 あれから、私は新たな研究を強制させられている。

 くだらない。何故この私が、高々聖王に協力しなければならない? 聖王程度代わりはいくらでもいる。そんな如何でも良い存在に協力するくらいなら、あの本を解読していた方がよっぽど有益だ。

 そうだ。私を利用しようというのだ。あらば、私もベルカを利用しようではないか。何、私を無理やり使っているのだ。ならば、その報酬を貰わなくてはな。

 

 

 

 ij月⁂日

 あの時の――魔道書を売っていた、商人が偶々私の元を訪れた。何やら、私ならば新しい魔導書を託しても良いという事らしい。その為には一つ大切な儀式を行わなければならないらしい。些か怪しいが、まあ、あの素晴らしい、めくるめく知識の泉へ行けるというのなら、何でもしよう。

 約束した日、真夜中に私は彼に連れ出されて、森の中へ進んでいった。可笑しなことに、私以外の科学者も、研究者もいるというのに、一人も会わない。それどころか、警備の兵にも会わないのだ。普段は油のようにしつこくくっついているというのに。

 まあ、良い。それよりも新しい魔導所には、どんな知識が書かれているのだろうか! 今から心躍る!!

 

 

 

 

 ℱ月ℵ日

 可笑しい。ここ数日、記憶が飛ぶ事が有る。気が付いたら、部屋の中で眠っていることもあれば、研究室で見たこともない数式を書き上げていたこともある。

 

 その数日後の記載

 やはり可笑しい! 見覚えのない服や、そこにべっとりと血がこびりついている! それに私は知らないのだが、実験用という事でモルモットを発注したという記録が残っていた。分からない。私はそんなものを頼んだ覚えはない。しかし、搬入係は確実に私が発注したといっている。

 これは飛んでいる記憶に何か原因があるのだろうか?

 

 

 がつ 日

 私は、何をしているのだろう? 目の前には青い宝石。私が作り上げた道具。全てを破壊するための道具。しかし、何故こんなものを作ったのかが私にはどうしても理解できない。それに、記憶の欠落が酷すぎる。如何すれば良いのだろうか? 

 そう言えば、またあの商人が来るらしい。楽しみだ。あの本を読めるのなら、何でもしよう。

 

 

 それ以降に論理的な記述はなかった。

 しかし所々に、這い寄りし、世界の真理、神話の怪物。等々、訳の分からない言葉が書き連ねられている。

 

 

 

  ガつ nいち

 

 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!! 

 私は!! waたしは!! 

 nasしていた ろ ? 何故、彼女を!! 私は私が信じられない! もはや、私は生きられない。あの青い宝石も封印しよう。王に見せるつもりだったが、そんな事は出来やしない。

 私は死してなお、煉獄の炎に焼き尽くされて永遠の凍てつく世界で凍りつき血の池にて飲み込まれて溺れ体中を串刺しにされて撃ちぬかれて爆破されてばらばらになるべきだそうだこれこsがわtしにふさわしいこういだからすぐにしななければしんでじごくのせめくをあじわなければ

 

 そのページを最期に、べっとりと、真っ黒な固まり切った血で染められた、一冊の日記帳があった。

 その日記帳は、たった一人の女性にだけ読まれ、すぐに学術的価値のない物として、どこかへ死蔵されていく。

 しかし、その日記帳に誰かの、或いは幾人かの涙の痕が有ったことは、誰も知らない。




それではまたできたら、外伝でお会いしましょう。

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