Fleet Combat -Dawn of the horizontal line- 作:大川静真
戦闘描写が難しいです……
演習としてはいますが対戦相手が誰かは本文にて。
それではどうぞ。
山城がこの基地の所属になってから既に3日が経過した。新メンバーが加わったとはいえ大きな変化が俺自身に訪れたわけでも無く、朝起きて朝練して飯食って演習して出撃して帰還して飯食って寝る。そんな、いつもと何ら変わらない日常があっただけだ。
そんな日常の中で俺、永瀬圭の朝は相も変わらず早い。
大体太陽が暁の水平線から顔を出し始めた時間に起床して、寝間着から動きやすいトレーニングウェアに着替える。まあ単に毎朝恒例の朝の訓練を行うだけなんだがな。
しかし、最近になって少々事情が変わってきたりしている。
それは……
「おはよう圭」
「おはよう時雨。今日も早いな」
「そんなことないよ。僕も今来たところだから」
「そうか。さて、立ち話も何だしやるとするか」
「うん」
ランニングのスタート地点としている寮の門を出て外に出るとそこには既に時雨がいた。
服装はいつもの黒い制服のような服では無く、白いタンクトップに黒のハーフパンツをはき、いつも三つ編みにしている髪を後頭部でお団子状にまとめている。
何のことは無い。山城が艦隊にやって来た翌日の朝から時雨も朝練に参加するようになっただけだ。どうも少し前に俺が朝練をやっているのを偶然にも見かけたらしく自分もやった方がいいだろうと思って時雨が参加を頼み込んできたのだ。俺自身も特に断る理由が無かったため2つ返事で了承した。
とは言え彼女はランニング一本で俺みたいに空手の型をやったりはしない。
というよりもだ、どうやら艦娘や深海棲艦は肉弾戦の概念を知ってはいるものの実行に移す者は殆どいないらしい。
近接武器を持っている艦娘は山城が見た限りでは2・3名いるらしいが殆ど飾りに近いそうだ。
山城からそれを聞いた俺は疑問に思ったことを口にしてみた。
「お前ら弾薬が切れた時とか至近距離に肉薄された時は深海棲艦にどうやって対処するんだ?まさか何もせずただ逃げるだけなのか?」
その言葉を聞いた時の山城はまるで「どうするんだろう」と言わんばかりの表情で首を傾げるだけだった。
これは、もしもの時の為に皆に軽い格闘術を教えておいた方がいいかねぇ……
閑話休題。それはさておき。
時雨も朝練に付き合うようになったのでランニングのスピードを彼女に合わせながら走っていく。ある程度走ったら完全には慣れてない時雨を先に上げて俺は残って型の練習を行う。それが今の俺達の朝練風景となっている。
ここに来る前は色々あって碌に練習出来なかったためにブランクがあったものの、最近は少しずつではあるが以前の感覚を取り戻してきてはいる。
とは言え現状戦闘で近接戦に持ち込む事態が起きていない為披露する機会が無いが、だからって鍛錬を怠るわけにはいかんよな。
戦いの場において何が起こるか分かったもんじゃないし、「自分が今まで経験したものが裏切ることは無い」ってひいおじいちゃんも言っていたしな。必ず何処かで役に立つと思いたいね。
そのまま俺は型の練習を続けるのだった。
朝練が終わったら軽く汗を流していつもの服装―――山城が言うには提督等の軍人が着る士官服に近いらしいが細部が違うらしい―――に着替えてから朝食をとる。基本的に全員集まってから「いただきます」をして食事を始めている。
「それにしても、普通に朝食は出せるのね」
「まあ農園が無事だったのが御の字だな。牛や豚の肉が食えないのが痛いがこればかりは贅沢も言ってられん」
「流石にその辺りの文句は言わないわよ。こうやって食べられるだけでも十分ありがたいし……ん、柔らかくて美味しいわね」
本日の朝食は妖精達が作ったパン―――原材料の小麦までこの基地で自作である―――に山城は舌鼓を打っている。時雨も白露も笑顔でパンを食している。
他の妖精の食事は?と気になった時もあったがどうやら彼ら(彼女ら?)は土地の霊力やら何やらのオカルト的なパワーを活動原としているらしくそれが俺達人間の食事に該当するらしい。
しかし深海棲艦の出現によりどうやら土地の力とやらが目に見えて減ってきた為、これまで不干渉を貫いてきた人類と協力する道を選んだそうだ。
とは言ったものの妖精達は単独で戦う力を殆ど持っていない為、艦娘達の現出や艤装製作その他諸々のバックアップを行っているとの事。
ただ例外も存在しており、空母たちの艦載機や巡洋艦以上の艦種に装備されている水上機の類に搭乗する妖精達で、特に艦載機妖精達は前線でドンパチしている専門部隊だそうだ。
まあ、こうして食事担当の妖精が飯を作ってくれているため今の所飢えで困ったことは無い。無いんだが……
「…………ふむ」
「どうかしたの圭さん?」
「ああいや、昔自炊していた時の事思い出してな。こういう風にパンまで自作って訳じゃなかったけどある程度は料理してたんだよ」
「どんな感じだったの?」
「さすがに食堂妖精達みたいな専門家には負けるよ。とは言えそれでも食えないレベルじゃなかったのは確かだと思う」
白露が思案している俺が気になったらしく聞いてきたので答えていく。どうやら山城や時雨も気になるらしく食べる手を止めて耳を傾けている。
「まあそんなもんだったんだが……」
「「「……」」」
「何だよお前達、そんな興味津々な顔されても困るんだが……大体男の身の上話なんて楽しくもないだろ……」
3人の視線に俺はたじろぐ。何なんだよ一体……
「私圭さんの過去とか知りたい!だからもっと聞かせて!」
「僕もちょっと気になるかな」
「まあ、私も気になるわね」
いやいやいやいや
「聞いても面白いものとは限らんぞ……というか、恥ずかしいから勘弁してくれ」
「えー!」
「えーとか言われてもな白露、色々と事情があるんだよ」
「やっぱり、僕みたいな我が儘な子じゃ迷惑かな……」
「いやそんな訳は無いぞ時雨、迷惑とか思ってないから……って山城どうした?」
向かいに座っていた時雨がしょぼくれた為慌ててフォローするが今度は俺の隣に座っていた山城が何やらブツブツ呟き始めたのでそちらを見ると……
「ああやっぱり自分の事ははぐらかして私達の秘密を少しでも多く掴もうと画策してるのねそしてそれをダシに脅迫してあんな事やこんな事とかして教育という名の調教を私達の体に叩き込んで行って飽きたらあっさりとポイ捨てするのよこういう男はみんなそんなにn「酷い妄想垂れ流してんじゃねぇ!!」痛い!!やっぱり不幸だわ……」
出会った初日から今もなお続く、何か事あるごとにとんでもない妄想を垂れ流す山城に俺は拳骨を叩き込んで強制終了させる。
「だからその酷いトンデモ妄想や事あるごとに不幸不幸言うのをやめんかい。そんな風に言ってるから幸福が逃げていくんじゃないのか!」
「煩いわね!私の口癖に一々ケチつけなくてもいいじゃないの!」
「うるさいのはお前だろ!」
「「2人ともやめてー!!」」
最近になって出来上がった図式。山城の妄言に俺が拳骨で強制停止させての忠告に山城が反論して時雨か白露か、或いは主任やいつもの妖精トリオが制止する。それがここ最近のこの基地での恒例行事となりつつある光景だ。
食事が終わったら午前の演習を行う。基本的には一対一での戦闘訓練だったり最近工廠で開発できた訓練機であるHAWKを使って白露達に対空射撃訓練と俺の航空機指揮訓練を兼ねた演習だったりしている。
今回は俺と白露、山城と時雨の二組に分かれてのタッグマッチとなっている。既に俺達も山城達も配置について準備は完了しており、上空に待機している偵察機ホークアイからの演習開始の通信が入り次第すぐにでも動ける状態だ。
山城自身、艦船時代は「欠陥戦艦」と呼ばれ酷評されていたと彼女は言う。
だが、艦娘として生まれ変わりここ最近の彼女しか知らない俺の見る限りでは、砲撃の威力に関してはこの前の戦艦ル級に勝るとも劣らない。
艤装の装着テスト時に試射とはいえ砲撃を見せてもらったがその精度は中々優秀でかなり離れた距離でも当ていた。
白露達を引き離す圧倒的な火力、そして優秀な命中精度を持つ艦娘だと俺は思う。
恐らく「欠陥戦艦」なんて蔑称は船を建造した時に色々な問題が発覚してそんなあだ名がついたのだろう。彼女自身もそれをコンプレックスとして気にしている部分はあるのだろうか。
しかし何にせよ彼女の能力はうちでは貴重だ。この先建造機械の修理が完了して艦隊が充実していくかもしれないが、だからといってそんな理由で山城を彼女の前の上官みたいに見捨てるつもりは毛頭ない。
さて、今回はその山城との対戦だ。山城は艤装の本格的な運用も兼ねた「慣らし」と言うべきか……その意味合いもある模擬戦だ。
山城の砲撃の威力は何よりもだが今回山城の相方となってる時雨の対空迎撃能力も地味に侮れない。訓練機とはいえど、時雨は正確に迎撃して撃ち落としてくるあたり元々そういう才能でもあったのだろうか。
だからと言ってむざむざ勝ちを譲るつもりは毛頭ないけどな。いざとなったら艦娘達が対応しない肉弾戦に移行してでも勝たせてもらうぞ。
卑怯と言うなかれ。一応何でもありだからな。
<山城、艤装の調子はどうだ?>
俺は対戦相手の山城に通信を送る。少しして彼女から返信が来た。
<問題ないわ、武装もスムーズに動いているわね。むしろ前の艤装より調子がいいと言えるくらいよ>
<それなら大丈夫だな>
<一応私は対戦相手何だけど。貴方はそうやって敵にも気をかけているのかしら?>
<それは無い。ただお前はうちの仲間になったんだ。仲間を気にかけるのは別に悪い事じゃないだろ?>
<まあ……そうね>
山城は歯切れ悪く返してくる。これは……もしかすると俺をまだ完全には信用しきっていないかもしれんな。
≪そろそろいいかな?≫
と、そこへホークアイ妖精から通信が入る。おっとっと、演習をやらなきゃならないんだ。
<おっとすまん。こっちは大丈夫だ>
<こちらも大丈夫よ>
≪よし。ルールはケストレル達が行っている演習通り、模擬弾の直撃による撃沈判定或いは戦闘能力の喪失で、相手タッグ両名の戦闘不能をもって勝利とする。それでは演習開始!≫
<先手必勝!主砲、よく狙って、てぇーっ!>
ホークアイ妖精の演習開始の声と同時に山城の巨大な主砲から放たれた砲撃が俺の右横の海面に着弾し、勢いよく水柱を上げる。その勢いはこう言っては悪いかもしれないが時雨や白露の砲撃が足元にも及ばない程に凄まじい。
「いきなりか!だがまだだ!HAWK隊、発艦始め!白露は艦載機達と一緒に攻撃して時雨と山城の分断を狙え!その後時雨の相手を頼むぞ!」
『『『分かりました!』』』
「はーい!」
俺は発艦ユニットを向けて艦載機達を発艦させ、白露達の進撃を見送ってから戦闘行動に移る。
が、何の前触れもなくいきなり山城が突撃して来たのを見た瞬間、わずかな間だが思考が完全に停止した。具体的にいえば絶句した。
「んなぁっ!おいおいおいおいどういうつもr「朝食時の拳骨の恨みいぃぃぃぃぃぃぃ!!」なんじゃそりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
慌てて再起動して山城に問おうとしたがあまりにもあんまりな彼女の怒りに俺は絶叫するしかなかった。何だよそれはっ!?
「おい待てお前さっきの拳骨だけでそんなにブチ切れてどうする!?」
「それ以前にもその他諸々で私の体を滅茶苦茶に汚した恨みも含むわよおぉぉぉぉぉっ!!」
「誤解を招く発言をするんじゃねえぇぇぇぇぇぇっ!!単に妄想発言に鉄拳制裁食らわせてただけだろうがあぁぁぁぁぁっ!!」
山城が全速力で一直線に突撃しつつ砲撃を乱射して来てるので俺はダッシュで逃走して思考を張り巡らせる。
彼女の砲撃は今の所めくら撃ちに近い乱射状態の為に至近弾すらも無い。だがそれでも仮に直撃すれば撃沈判定で負ける可能性が跳ね上がる。
それに模擬弾とは言え戦艦の砲撃だ。当たれば無茶苦茶痛いだろうから喰らう訳にはいかない。
えーとえーとこういう時はどうやって山城の特攻に対処すれば一番ベストな判断なんだええとええと一体全体勝ちの目を出すために何をすればうああああああああ……
………………あっ。
「ハープーン発射!」
「ぎょえぇぇぇぇぇっ!!」
移動方向はそのままに後ろを振り向いてハープーンを発射すると山城は反応らしい反応すらせずに直撃し、ミサイルの爆発に巻き込まれた。
まあ、「回避運動とかフェイントを含めた移動とかも一切せずに真っ直ぐ」突っ込んで来たからなぁ。まさかと思って実行に移してみたがものの見事にクリーンヒットしたな……
しかし山城、その叫びは女性としていかがなものかと思うぞ。
因みにどうやら演習で使用する弾薬は全て専用の妖精さんカスタム模擬弾頭らしく、爆発は発生するものの艦娘へのダメージは服とちょっとした痛覚以外には無いとのこと。服がボロボロになる時点で色々アウトな気がするがそこは気にしてはいけないらしい。何故に?
それは置いといて、さてさて山城はっと。
爆炎がはれるとそこには巫女っぽい服がボロボロに破れ、肌があらわになった煤まみれの山城がそこにいた。うん……妖精の説明を受けたあたりからこうなることは分かってはいたが、どうも目のやりどころに困る。
「はい撃沈判定。模擬弾だったからよかったものの実弾だったら下手を打てば一撃で沈んでたぞ」
「ううう……演習でミサイル使うとか卑怯よ……」
「卑怯とは人聞きが悪い。一応何でもありだからな、ミサイルの使用もOKなはずだぞ。勿論最初に山城が実行した開幕砲撃や理不尽な理由での俺狙いも奇襲ではあるが問題ない」
「不幸だわ……」
水面にへたり込みながら山城はいつもの口癖をぼやく。この不幸不幸言うのはもう自分の身に染みついてるんだろうかね。
「さてさて向こうはっと」
俺は白露と時雨がいるであろう方向を向いて2人を探す。白露が勝っていれば俺達のタッグの勝利だし、時雨が勝っていれば俺と戦う事になるが……
―――Side out―――
―――Side 時雨―――
「いきなりか!だがまだだ!HAWK隊、発艦始め!白露は艦載機達と一緒に攻撃して時雨と山城の分断を狙え!その後時雨の相手を頼むぞ!」
圭の声と共に艦載機が発艦し、白露がこちらに向けて艦載機達と一緒に突撃して来る。
それを時雨は冷静に見つつ対策を考えていた。
白露の突撃癖は彼女もよく理解している。だが彼女のそれが切り込み役として優秀で侮ることが出来ないのもまた理解している。
「いっくよ時雨ー!いっちばんに攻撃ー!」
そして彼女と艤装の形は違えども、その能力に殆ど差が無いこともまた理解している。
ならば勝機を見出すのは艦娘としての力ではなく、圭のような人の器としての力。
「ミサイル発射!」
≪くっ!すいません白露、命中による撃墜判定の為離脱します!≫
「分かったよ!」
上空を飛ぶ艦載機に向けてミサイルを発射しつつ白露にも砲撃を行い、そのまま右後方に後退する。白露は時雨の砲撃を進路を少し変えてかわしつつなおも時雨に突撃する。
時雨は後退して俗にいう「引き撃ち」を白露の動きを見ながら行い、かつ艦載機達の行動にも注意を向けるのを忘れない。
彼と会って以降、戦闘における圭の動きをちらちらと見て時雨が理解したのは「彼は船としての記憶を持たない人間である代わりにかつての船としての記憶に囚われない戦いが可能」という事。
「行っけー!」
≪FOX2!≫
偶然か狙ったかは分からないが、白露の砲撃と艦載機のミサイルが同時に放たれ時雨に向かう。
動きの一つを取ってもそうだ。ジグザグ移動や急旋回。船としてもできるその程度の動きとも取れるがあそこまで小さく、かつ急に動くことなどかつての船準拠で出来る芸当ではない。
あれをかつての船として実行すればどんな事態が起こるか自ずと理解できる。
そのかつての船としての記憶があるから……その記憶に思考を引っ張られるからどうしても動きが単調なものになってしまう。自分達艦娘も、深海棲艦もだ。
圭にはそれが無く、人としての動き方というものをよく理解している。
「そこっ!対空ミサイル発射!」
≪しまった!?≫
「うわあっ!?って妖精さんっ!?」
圭の動きを真似て急旋回を行い白露と艦載機の攻撃を回避しつつ、オート・メラーラ砲と対空ミサイルをワンテンポずらして発射。白露の方は慌てながら回避するも、艦載機の方は直撃判定を貰いそのまま撤退していった。
圭の動きを真似てみたら何か得られるかもしれない。圭を見続けていたら何か掴めるかもしれない。
自分の中にある「ナニカ」を掴めるとは思ってはいない。
だが、圭は何かを知っているかもしれない……自分の「ナニカ」と……
「隙ありっ!」
「し、しまっ」
すかさず時雨がハープーンミサイルを構えて発射。白露は反応が遅れ直撃した。
ケストレルの戦いの軌跡を伝えてもらったあの日、頭を撫でられた時に感じた何処か覚えがあるあの「手」の温もりについて……
―――Side out―――
―――Side 圭―――
2人を確認したが、どうやら白露が負けたらしく服装がボロボロの状態でへたり込んでいた。上空を飛んでいる艦載機も数機ほど撃墜判定を受けたらしく演習開始時よりも少ない。
時雨は意外と……というよりもかなり善戦してたみたいだな。練習機相手とはいえ制空権がほぼないような状態なのに白露を倒すとは。
まあ、何となく白露の敗因は分かるんだがな。大方「いっちばーん!」と言って突っ込んだけど時雨が冷静に迎撃してやられたんだろうなぁ……
「ごめんね圭さんー。負けたー」
「圭……」
ボロボロの白露を後目に時雨が俺を捉えたらしく戦闘態勢を取る。その表情は平時の穏やかなものではなく真剣そのものだ。
「山城は向こうで撃沈判定してるよ。残るは俺とお前で1対1だが、どうする……って聞くまでもないか」
「そうだね。演習とは言え僕は勝利を諦めるつもりはないよ」
「奇遇だな。俺もだ」
そのまま俺も時雨も無言で武器を構える。俺は右手にファランクス、左手にハープーン発射管を。時雨は右手にオート・メラーラ76mm砲を構え、背中に背負っているミサイル発射管を俺に対していつでも発射できるように向けた。
先に動いたのは時雨の方だった。時雨は俺から見て右側に動きながらオート・メラーラ76mm砲を発射する。俺は時雨が動いたのを確認した瞬間バックステップでかわすと時雨のいる方向の海面にファランクスを斉射する。狙うは時雨の足止め。動きを止めたらそこにハープーンを叩き込むつもりだった。
だが時雨はそれを読んでいたのか小さい弧を描くように反転、元いた場所に戻りながら俺に砲撃を放ってくる。俺も時雨の砲撃に当たらないように移動しながらファランクスを撃ち込んではいるものの、移動しながらの砲撃の精度では無効に軍配が上がっているようで至近弾すらないこちらとは違い時雨の方はギリギリを掠める弾丸が少なからずある。
≪行くぞガーデルマン!急降下爆撃だ!≫
≪ガーデルマンって誰!?そんな名前の妖精いないぞ!≫
≪我らが敬愛する爆撃神様の相棒です!≫
上空に待機していたHAWK隊も攻撃を行おうとして時雨に近づいていく。ってかかなり上から急降下して来るHAWKのパイロットはA-10隊の奴だろうか……
しかし、時雨は特に慌てた様子もなく
「そこっ!対空ミサイル発射!」
≪うわあっ!?≫
≪しまった!命中!?すいませんケストレル、撃墜判定の為離脱します!チクショウメエエエエエッ!≫
≪オメガ11、イジェークト!≫
隙を見た時雨が発射した対空ミサイルによってHAWK隊の足並みが崩れ、急降下爆撃とやらを行おうとしていた奴含む2機が撃墜判定が出てそのまま撤退した。ってか片方はまたオメガ11かよ!!お前普通に撤退してるのに何でイジェクトって言ってるんだよ!?
「隙あり!」
「うおっ!?」
時雨が容赦なく俺の顔面に向けて砲撃してきたため身を捻らせて回避するも時雨はそのまま距離を取って再び砲撃を行おうとする。
俺も先程よりスピードを上げて移動し、続く砲撃を回避する。
ああもう糞っ、このまま行けばジリ貧なのは日の目を見るより明らかだ。現状でどうやって時雨に一撃を叩き込んで勝ちを掴むか……
隙を見て近接戦闘にでも以降するか?だがどうやって時雨に接近する?何か投げるものとかでも使って時雨の気を引ければ……
…………投げるもの。俺が持ってる物…………
「ハープーン発射!!」
ファランクスで時雨を牽制しつつ俺はハープーンミサイルを発射する。しかし時雨は予見していたかのように軽く横に移動してミサイルをあっさりと回避、そのまま俺にオート・メラーラ76mm砲を構えて狙いをつけた。
そう、時雨は俺の「予想していた通りの行動」をとった。
残念だが今回の対艦ミサイルは本命じゃない!ただの牽制!
俺はすかさず回避した時雨に向けてミサイル発射管を
「……えっ?ええっ!?」
この行動は時雨にとって想定外だったようで驚愕しながらも慌てて屈み、俺の投げた発射管を回避する。反応できたのは中々だがその行動は現状において致命的ミスだ!
俺は一気に時雨に接近するも時雨の太腿部分に装備されている魚雷発射管から何かが海に落ちたのが見えた。成程魚雷か!前言撤回、上々な反応。
だがしかし、時雨の放った魚雷はめくら撃ちと言えるほどに狙いの付けが甘かく、突撃する俺の横をそのまま通り過ぎて行った。その間に俺は時雨に肉薄し
「FOX4!!」
「うわあっ!!」
そのまま時雨にショルダータックルを行い、彼女を思いっ切り突き飛ばして転倒させる。
慌てて体勢を立て直そうとする時雨に俺は接近してファランクスを彼女の顔に向けて構え、いつでも撃てるように見せる。これで王手。
「はい、ここまで。俺の勝ちだな」
「すっごーーーい!!」
「うう……負けた……」
近くで観戦していた白露が目を輝かせながら近づいて来て、対する時雨は転倒状態のまま悔しそうにつぶやく。
「とはいえ時雨ももいい動きしてたのは確かだよ。突然の事態に驚いてはいたけど反撃できたのは上々だと思うぞ。まあ今回は俺の発想の勝利って…………ことで…………」
俺は時雨の状態を見たがために言葉がとぎれとぎれになっていく…………時雨の今の状態を見てしまったがために……
時雨の今の状態……まあ転倒して思いっ切り水を被った状態だ。それだけならまだいい。いいんだが。
時雨は今俗にいう「M字開脚」の状態でこちらに足を向けていて……その……黒い下着がモロに見えているのだ……
しかも大量に水を被ったがために服は体に段々とはりつき始めていて……それは黒の下着にも言える状態で…………ええっと……
「あ……う……その……時雨」
「どうかしたの圭?」
「いや、その……下着……」
「下着って……あっ……」
時雨も今の自分の体勢を理解したのか慌ててスカートを押さえる。顔が紅潮しているように見えるのは恐らく気のせいじゃないだろうし、たぶん俺も顔を真っ赤にしてるだろう……
「すまん。わざとじゃないんだが……」
「う、うん……」
き、気まずい……
「うわー圭さん時雨のパンツ見てたー圭さんのえっちー」
「うるさいぞ白露。余計な茶々を入れるな。これは完全な事故だ。不可抗力だ」
横から白露がジト目でこっちを見て来たので苦し紛れではあるが弁明はさせてもらう。
ま、まあそんな事よりも事故があったとはいえ演習は俺達の勝利だ。後は山城を連れて帰るだけd
「くぉの変態があぁぁぁぁぁっっ!!ぬぁあに時雨の下着ガン見してるのよおぉぉぉぉぉっ!!!」
「ぎぃやあぁぁぁぁぁぁっ!!」
明後日の方向から聞こえた山城の叫びと共に発射されたのであろう砲撃が俺に直撃し、激痛と共に俺の体は吹き飛ばされた……
「うわあぁぁぁぁぁっ!!圭いぃぃぃぃぃぃっ!!」
「ちょっ!待っ!妖精さあぁぁぁぁぁんっ!!圭さんがあぁぁぁぁぁぁっ!!」
薄れゆく意識の中、遥か遠い所で白露と時雨の絶叫が聞こえた気がしたがそれに答えるほどの力は俺にはもう用意されていなかった……
演習とは言え撃沈判定出したはずの相手に砲撃受けるとか想定できるかよ……
≪これはどういう判断をすればいいんだろうか……≫
≪引き分けでいいんじゃね?≫
ホークアイ妖精とHAWKに搭乗しているトムキャット妖精の間にそんな会話があったのはここだけの話。
「ううむ……まだ体の節々に痛みがあるが……」
「……悪かったわよ本当に……」
「まあ戦闘行動に支障がでるレベルじゃないから大丈夫だが、こりゃ今日の出撃はお休みだな」
「そうね。それにしても、まさかあの2人があそこまで動揺するとは思ってもなかったわ」
「白露と時雨の2人は俺が気絶してる間ずっと施設の方を見てたって聞いたが?」
山城は無言で頷く。
あの後、気絶した俺を山城達が抱えて猛ダッシュで基地に戻りはしたものの、俺が未だ目を覚まさなかったので入渠施設の奥の集中治療施設に送られた。とは言え単に気絶していただけだった為に意識を取り戻した後は簡単な問診だけで2時間ぐらいで出て来れた訳だが。
体の方はまだまだ体の各所に多少の痛みはあるが普通に活動する分には問題は無い。
しかし、問題だったのが山城との会話にあった白露と時雨の2人だ。どうやら俺が倒れてからかなり動揺していたらしく、半ば錯乱に近い状態だったらしい。
現在は俺が無事だった事もあって両名共に落ち着いており、入渠施設にて体を洗っている真っ最中だ。
「ま、とりあえずは2人とも落ち着いて何よりだな」
「…………貴方、まさか2人の入渠を覗いたりは「するか!そこまでやるほど飢えちゃいない!」……それならいいわ」
入渠施設の方を見ていたら山城がジト目でいきなりとんでもない事を口にしたため慌てて否定する。こいつは一体どんな思考回路をしていたらそんな回答に至るんだよ……
「というか、お前は散々俺を犯罪者予備軍どころか凶悪犯罪者みたいな先入観で見てる気がするが、お前の中で俺はそんなに信用されてないのかよ?一体お前の中で俺はどんな危険人物なんだよ?」
「平然と手を上げて私達に躾という名の暴力を振るう強姦魔」
「…………」
そこまで言って山城は「しまった!」と言わんばかりに顔を強張らせるが時すでに時間切r……もとい、時すでに遅し。
成る程成る程。そうか、そういう風に考えていた訳か。
さすがに俺もちょっと頭にきた訳で……
「な、何よ?正直に答えたことがそんなに図星だったとでも言いたいの?ねぇ、何でなにも言わないのよ?何で指を鳴らしてるのよ?何でこっちに近づいて来てるのよ!?」
「そうだな。今の発言を聞いてとりあえず俺から言いたいことは」
そこで言葉を中断し、山城の隙を突いて俺は彼女から見て左側に移動して左腕を無言で掴む。そして
「お前は少し他の人間に対する見解を変更すべきだと俺は思うんだがなあぁぁぁぁぁぁっ!」
「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
昔本屋で読んだ漫画にあった「アームロック」なる関節技をかけてみる。とりあえず山城の俺に対する彼女の中での扱いに怒った訳ではなく彼女の更生も兼ねた……あれだ、粛清?愛の鞭?まあその辺りとでも言うべきか。だから決して私怨が理由ではない。無いったらない。断じてない。
「痛い痛い痛い痛いごめんなさいごめんなさい謝りますから何とか修正して見せますからだからこれ以上はやめて折れる折れる折れる折れるうぅぅぅぅぅぅっ!!」
とりあえず「それ以上いけない」って空耳が聞こえた気がするためこの辺りで許してやるとする。
「全く、前の上司とやらの印象もあるかもしれんがそういう被害妄想やら何やらは修正していくべきだと思うぞ。世の中の全てを信じないって訳じゃないだろうが、せめて一緒の場所で行動する奴の事は信じてみたらどうだ?」
地面にへたり込み、左腕を押さえながら呻き声を上げる山城に向けて俺は言う。
「痛たたたた……善処してみるわよ……まったくもう……不幸だわ」
「おう、頑張れ」
とそこで俺は言葉を区切り、脱線していた白露達のいる入渠施設を再び見る。時間にして数分も経っていない為に2人はまだ入渠中のようだ。
「それにしても……」
と、そこへ復活した山城がつぶやく。
「圭。本当に貴方あの2人に何もしてはいないのよね?さっきの動揺状態って2人の平常を見た限りではあまり考えられない取り乱し方なんだけど?」
「んー……特に何もしていないぞ。お前が想像してそうなスキンシップと称したセクハラなどは以ての外だ」
「そんな事いt「おい」……悪かったわ。流石にこんな時に隠し事はしないでしょうしね」
そこまで言って山城は目を細める。彼女のその視線は……これは、別の意味で信じてないのだろうかね……
恐らくそれ以外の「何か」を探っているのではなかろうか……そんな感じがするな。
可能性があるとすれば……あの特異個体の一件なんだろうが……だけど、何となくそれだけじゃない気もするんだがなぁ……
「すまんが本当に覚えがない。勿論やましいことをしてないのは確かだ」
「そう……まあ貴方も分からないのなら仕方ないわ」
山城は納得いってなかったようだが肩をすくめて話を切り上げる。
「まあ今日の出撃は控えるとしよう。それに、最近はどうも近隣の深海棲艦も少なくなっているみたいだしな。俺は時雨達が入渠が終わったのを確認するまでここにいるから山城は好きにしてていいぞ」
「そう……分かったわ。私は一応部屋で待機しておくから何か用があったら言ってちょうだい」
「ああ」
そのまま山城は入渠施設から出て行った。
と、そこへ山城と入れ替わるかのように主任達妖精が工廠施設からこちらに入って来た。そこには何故かいつもの妖精ABCトリオもいる。
『お疲れ様です圭さん。大変でしたね』
「お疲れさん主任。まあ大事無いから心配はいらんよ」
『油断大敵だったな大将。とはいえさすがにあの行動を予想しろというのは酷ではあるか』
「会って数日しか経っていない相手の行動予測はさすがに無理だ」
『確かにな……』と妖精Bは納得したのかそれ以上は言ってこなかった。
『では、いいですか?』
『おっとすまん。大将、主任が言わなきゃならんことがあるらしい』
「言わなきゃならない事?」
『はい』
そこで主任は言葉を区切り、いつもとは違う真剣な眼差しで言って来た。
これは……まさか……
『特異個体の調査がある程度完了したので現在判明した事をお話ししたいと思います。出来ればこの後で構わないので特異個体を保管してる場所まで来てもらえますか?』
『因みに大将。今のうちに言っておくぞ』
「どうした?」
『FOX4は確かに神風特攻な隠語も含むが実際は航空機用語だ。船舶用語じゃないからな』
「…………アウチ」
無知だな俺って……
いかがだったでしょうか?
小ネタをいくつかぶっ込みましたが、クスリと笑ってくれたらこちらとしても幸いです。
それでは次回にてお会いしましょう。
それと次回以降ですがリアルの仕事が忙しくなり、まともに執筆する時間が殆ど取れそうに無い為投稿が遅れる可能性があります。
続きを心待ちにしている方には申し訳ありませんが今しばらくお待ちください。