Fleet Combat -Dawn of the horizontal line-   作:大川静真

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お待たせしました。投稿が遅れて申し訳ありません大川静真です。
リアルの仕事が忙しく、家に帰っても体力回復を優先して小説を執筆する気力も殆どなかった為に遅れることとなりました。

それではどうぞ。



#13 幻視人~自己回復-VISIONNERZ~SELF-

「全てを憎んだところで、何も帰ってこないし何も得られんよ」

「……何だよそれは……」

 

 あの時の俺。ひいじいちゃんの家に引き取られたばかりの俺。その時の俺は簡単に言ってしまえば相当に荒れており、周りに壁を作っては近づく相手を選ばず睨み飛ばし、手を出して来た奴は返り討ちにする程に落ちぶれていた時だった。

 そんな時、ひいじいちゃん達の家に引っ越しが完了し夕食が終わった後にひいじいちゃんから言われた言葉がそれだった。

 

「お前は憎いのだろう。自分を捨てた周りが、自分をまともに扱ってくれなかった周囲の人間がな」

「あんたに関係ねぇだろ」

「確かに関係は無いな。だがお前の目を見れば分かる」

「うるせぇよ!てめぇに俺の何が分かるってんだ!」

 

 座っていた椅子から立ち上がり、殴りかかろうとするがひいじいちゃんに睨まれ、その凄みにたじろいでしまう。

 ただ睨まれただけだというのに全てを射抜くかと言わんばかりの眼力を感じ、俺は近づくことが出来なかった。

 

「さてな、お前の話は概要程度しか聞いていない。儂がどうこう言えた義理ではないのは確かだ」

「だったら知ったような口聞いてんじゃねぇよ……」

 

 渋々椅子に座りなおしながら俺は愚痴った。そこで、俺は疑問に思ったことがあったので口にしたのだ。

 

「あんたも……じいちゃんも……憎んだことがあったのかよ」

「ある」

 

 あっさりと断言してきた。

 

 

 

 それから、ひいじいちゃんの過去話が始まった。

 

 どうやらひいじいちゃんはどうやらあの太平洋戦争で陸軍として参加していたらしい。

 簡単な話だった為何処で何をしてくれたかなどの詳しい話はしてくれなかったが、結局日本はアメリカに負けてひいじいちゃんは日本に帰還する船に乗って帰って来たとの話だった。

 

 

 

「それで、それが一体何で憎む話になったんだよ?」

 

 訳の分からなかった俺は半ばやけくそ気味にひいじいちゃんに問う。すると当時の俺としては予想外の言葉が返って来た。

 

「簡単だ。儂も米国を、多くの戦友を殺していった米軍を憎んだからだ」

「っ!?」

「目の前で仲間が殺されていく光景を何度も見た。そして殺していった米軍を何度も道連れに殺してやろうとも考えていたよ。それこそ戦争が終わってから何度もな」

「……」

「何度も何度も憎み、憎しみは次第に大きくなっていって仕舞いには米国に負け、変わって行ったこの日本すら憎んでいったよ。かつての大日本帝国の誇りを捨て、米国の狗に成り下がったと考えてな」

 

 俺は、何も言う事が出来なかった。

 

「まあそれも、昔の話だ」

「なあ……何で……何であんたはそうやって他人を憎むことをやめることが出来たんだよ……訳分からねぇよ……」

 

 俺がそう問いかけるとひいじいちゃんの口からこんな言葉が出て来た。

 

「何……ある時儂は気付いたのだよ。いや、気付いてしまったと言ったほうが適切か」

「気付いた?」

「彼らにもまた、守るべき国が、守るべき家族がいたのだという事実をな、ある時知ったのだよ」

 

 俺は何も言わず、ただひいじいちゃんの言葉を聞いていた。

 

「彼らにも帰るべき場所がある。守るべき家族がいる。守りたい人がいるという事実をな、知ったのだよ。勿論日本人を潰したい一心で戦っていた奴もいたかもしれん。だが米兵達もまた守るべきものの為に戦っていたのだよ」

「……」

「それに気付いた時はつらかったよ。憎むべき不倶戴天の敵が、家族や故郷のある人間だと気付いた時はな」

 

 そこでひいじいちゃんは一拍間を置いて、続けた。

 

「あの時は悩んだよ。憎むべき敵が儂らと同じ人間だと気付いてしまったが為にこの憎しみの矛先をどこに向ければいいのかとな。悩みに悩み続けたよ。自分はどうすればいいのかと、儂らと同じ人を殺して死んだ戦友たちの弔いとなるのだろうかともな」

「それで、あんたはどうしたんだよ」

「簡単に言えば、憎むのをやめた。憎しみ自体が最早意味を成さないと理解したから、それを実行した。勿論簡単な事では無く、ふと気を抜いたらあの時の地獄が脳裏をよぎり、また憎しみが心の奥底から這い上がって来たのを何度も感じた」

「それでも、憎むという行為をしなかったってことか?」

「そういう事だ」

「訳分からねぇよ……」

「今は分からんでもいい。だが、何時かは理解せねばならん」

 

 

 

 それが、俺とひいじいちゃんが初めて面と向かい合って会話した時の話。

 

 

 

 そうだ、それからひいじいちゃんは俺に色々な事を教えてくれた。自身の経験から来る教訓を、自身の人生から得た結論を。

 

「常に学ぶことを忘れるな。見たもの、聞いたもの、感じたもの全てを自身の経験として行け」

「慌てるな、騒ぐな、どんな時でも冷静さを失うな。一つ一つ確実に物事を対処しろ。社会でも慌て、パニックとなったものから「落ちて」いく」

「自身の才能に溺れるな。慢心はそれだけ油断を生む」

 

 

 

 ああ……懐かしいな。ひいじいちゃんが口酸っぱく言ってきた言葉だ。

 色々、俺に分かるように一つ一つ教えてくれたよな。ひいおじいちゃんの言葉は何と言うか、学校で習う授業なんかよりもずっと俺の身に染みていく感覚があの時にはあった。

 そして、ひいおじいちゃんという俺をちゃんと扱ってくれて、俺の味方をしてくれる人がいたおかげもあって少しずつではあるが俺は俗に言う「不良」に近い道から段々と更生することが出来ていったんだったな。

 

 だけど、それでもあの時の心の奥底では俺は……

 

 

 

 ……ああ、そうだ。そう言えば……

 

 

 

「今も人が、怖いか?」

「……じいちゃん、また何と言うか……藪から棒に聞いてくるな」

「儂から見れば圭がそういう風に見えたからな。重ねて聞こう、今も人が怖いか?人を恐れているのか?」

「……ああ」

 

 俺ははぐらかす必要性を感じなかったので正直に頷いた。この頃になるともうひいじいちゃんの家に来た時のような荒い言葉遣いはなりを潜めていたな。

 

 そうだ、これは俺が高校を卒業してアルバイトを始めた時の事だ。そろそろバイトに出る準備をしようかと思っていた時にいきなり言われたよな。

 いきなりな事だった為内心で戸惑いはしたが、この時既にひいじいちゃんを信じるようになっていたから俺は正直に答えたんだったな。

 

「正直に言って、やっぱりまだ他の人が怖い。また俺を見下すんじゃないかと、また俺をダシにするんじゃないかと何処かで思ってしまう」

「そうか……」

「杞憂ってやつだと思うんだけどな……やっぱり今までそうやって扱われてきたからどうしても……な」

「怖いと思うのは当然だよ。人はどうやっても他人の心の奥底を見ることは出来んよ。下手をすれば心の表面すらもな。目に見えぬもの、未知なるものを恐れるが故に、人は他者を、碌に見えることの無い他者の心を恐れることがあるものだ」

「……」

「だが、人の心を知るには踏み込まなければ知ることは叶わん。怖いという理由で二の足を踏んでいてはいつまで経っても他者の心など読めん。お前が履修していたという空手でも同じであろう?攻撃を貰う事を恐れて他者の間合いに自ら踏み込まないでいては、勝利を得られはしないと。それと同じだ。他愛ない事で傷つくかもしれん。幻滅するかもしれん。だが拒絶ばかりして、自ら踏み入ることをしなければ他者の心など永遠に読めんよ」

「そういう、ものだろうか」

「そういうものだと儂は思うぞ」

 

 そこでひいじいちゃんは一つ区切り、続けた。

 

「他人を理解することとは他人を恐れない事だ。他人を信じることは未だ出来ないであろうが、嫌われるかもしれないと思い込んで恐れるという事をやめるだけでも世界は変わる。だが同時に勘違いをするな、怖くない事と恐れないことは似てはいるが非なる物だ」

「……どういう事だよ?」

 

 意味が分からなかった俺はひいじいちゃんに問い返してみる。

 

「怖くないという事は恐怖を感じないという事だ。恐怖とは言うなれば生物の持つ危険信号だ。それを感じないという事は人の心を知る為のコミュニケーションだけの話にとどまらず日常生活にすら支障を及ぼす。恐怖を忘れたその先に待っているのは……例外なく破滅だ。それが他者との交流自体の破滅か文字通りの身の破滅かの違いはあるがな」

「……」

 

 俺は、何も答えられない。

 

「逆に恐れないという事は即ち恐怖を感じてはいるが、それから逃げずに立ち向かうという事だ。恐怖を知りながらなおもその恐怖と向き合うという事だ」

「だからこそ、恐れるなって事か?」

「そうだ。先も言ったように人の心の奥底を見る事への恐怖はあるだろうが、それを恐れるな」

「……」

 

 その時の俺は、何も答えることが出来ずに……しばし考え、やがて意を決してひいじいちゃんに向き直った。

 

「……言いたいことは分かったよ。でも……それでも出来るとは言えない……だけど俺なりに……俺なりに頑張ってみる」

 

 

 

 たどたどしく言った俺だったが、ひいじいちゃんはその言葉に納得して少しだけ笑みを見せた。

 

 

 

「ならば良し」

 

 

 

 そうだ……これが俺とひいじいちゃんがまともに交わした最後の会話だったんだ。

 

 その後アルバイトに向かい、初任給を手に入れて家に帰り、それを手渡した直後に……

 

 

 

 思い出した……かつての会話ヲ……カツテ交わしタ言葉ヲ。

 

 

 

 

 

 

 アア…………ソウカ…………ソウダッタンダ…………

 

 

 

 コンナ…………コンナ簡単ナコトダッタンダ…………

 

 

 

 

 

 

 本当の意味で信じていなかったのは……本当の意味で信じることが出来なかったのは、俺の方か……

 

 

 

 

 

 

 目を閉じていたのはどれくらいの時間だろうか……数分かもしれないし、数秒か。或いは刹那よりも短い時間かもしれない。

 俺はゆっくりと目を開けて……「底」から手を差し伸べてくる「彼女」を見る。

 

 彼女……恐らく深海棲艦、それも姫かそれに匹敵するクラスの類だろう。黒い髪を腰のあたりまで伸ばし、黒のドレスを着て二の腕辺りまで伸びている黒のロンググローブを付け、手首の当たりには鉄の輪っかのような何かが付いている。

 黒尽くめの服の女性……その中でも特徴的なのは額から伸びた鬼とも悪魔とも取れる異形の角……

 

 

 

 そして彼女の体から溢れ出てくる黒いオーラのような何か。周囲は水底のように暗い闇の世界だが……その闇よりもなお暗く、夜よりもなお深いような……漆黒のオーラ。

そのオーラを纏う彼女は俺に手を差し伸べながら近づいてくる。

 

 

 

 ―――サア……アナタモ私トイッショニイキマショウ……ソシテ……私達ヲ捨テタスベテノ命ニ復讐ヲ……―――

 

 

 

 俺は……何も言わずに彼女の手を

 

 

 

 

 

 

 右手で差し止めた。

 

 

 

 ―――……ドウシテ?―――

 

「すまないな……確かに俺も自分を捨てた奴らが憎いと思った事はあるよ」

 

 ―――ジャア……ナンデ?―――

 

「憎んだところで何も始まらないし、憎み続けたところで最後に得られるものなんて無い。それを昔教わったから」

 

 ―――アナタハ人ガ……世界ガ憎イト思ワナイノ?―――

 

「それだけじゃ駄目なんだよ。結局人を憎み続けるだけじゃ……人を信じようとせず、憎み続けて当たり散らすだけじゃ……人が怖くて自分の殻に閉じこもりきることと同じなんだよ。人を信じる事が出来れば……人同士が信じあえば憎悪は生まれない……」

 

 

 

 信じあえば憎悪は生まれない……でもそれが出来ないのも人だ。

 

 そう……「彼」が言っていた言葉……

 

「だけどそれが出来ないのも人だ。だが、俺は……信じたい。今あそこには、こんな俺でも信じて付いて来てくれる子達がいるから……せめて彼女達だけは」

 

 そうだ。彼女達を……皆を本当に信じていなかったのは……俺だ。

 彼女達がもし俺を拒絶してしまったらと、もし俺を恐れたらと心のどこかで思ってしまった……

 だからこそ「彼ら」の全てを焼き尽くす程の圧倒的な力の行使を恐れてしまった……彼女達を信じ切れていなかったが為に。

 

 彼女達だけではない。他の人たちも信じることが出来なかったから……あの場所であんなに当たり散らしていたんだ。

 信じることが出来なかったから恐れ、周りを恐れて動こうとしなかったから殻に閉じこもり周りと打ち解けることもせず、そしてそのまま自分の中で勝手に相手を憎んで行く……そんな負のスパイラル。

 

 だからこそ……今こそ……こんな俺を信じてくれている時雨を、白露を、山城を、主任を、妖精達を信じてみたい。

 

「だから……そっちには行けない……こんな俺をわざわざ誘いに来てくれたのはありがたいけどな……すまない」

 

 彼女は何も言わない……だがその目を憤怒に染めて、こちらを睨み返してくる。

 

「……あんたが恨むというのならそれでいいかもしれない」

 

 

 

 ふと視界の周りが、暗闇の世界のそれからだんだんと黒い色が抜け落ちていくように見えていった。だが俺はそれでも言葉を続ける。

 

 

 

「だけど、全てを憎むだけでは、憎んで憎んで憎み続けて、その状態で行きつく先に真っ当な道があるとは思えない!」

 

 

 

 やがて視界が黒から灰色に。そして灰色から白に変わり始めていく。

 

 

 

「確かに憎む事をやめるのは容易じゃない。俺だって何度も憎みそうになったんだ……だけど!」

 

 

 

 世界が白で埋め尽くされ、眩しいくらいの白となり、俺は思わず目を瞑る。だがそれでも言葉を止めない。

 

 

 

 全てを憎んでいる彼女には……これを言わなければ、いけないと思ったから。

 

 

 

「憎むという事を、憎しみの連鎖を止めることだって……出来る筈なんだ!俺が憎むことをやめることが出来たように!お前も、お前達深海棲艦も出来ると思いたい!そうやって憎しみを持ちながらも!意思を持って生きているのなら!」

 

 

 

―――Side out―――

 

 

 

―――Side 時雨―――

 

 

 

≪敵機直上!回避を!≫

「嫌だあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 時雨のあらん限りの叫びが上がりながらも、敵の艦載機は容赦なく時雨に接近し、今まさに一撃を放たんとしていたその時。

 

「こんのおぉぉぉぉぉっ!!」

 

 白露が破れかぶれに放った対艦ミサイルの一撃が偶然にも空母棲姫に命中した。

 

「もう一つ!主砲発射!」

 

 その隙を逃さず山城も追撃の主砲を発射したが、こちらは狙いを定める暇が殆ど無かった為か空母棲姫のすぐ横に着弾し、大きな水柱を上げた。

 しかし、それでも大口径主砲の至近弾。白露のミサイルと共に空母棲姫の体勢を大きく崩すには十分な威力を持っていた。そして、それに伴い命令系統が一瞬乱れたか或いは空母棲姫が遠隔操作を行っていたが攻撃により途絶えたか……何れかは分からないが艦載機の動きが大きく乱れ、中には動きを止める個体も現れた。

 

「イヤダ嫌だイヤダ嫌だ!!」

 

 時雨の半ば狂乱状態の対空砲火が偶然にもその動きを止めた艦載機に命中し撃墜。何とか事なきを得ることが出来たが、状況はあまりよろしいとは言えない状態だ。

 

「ギリギリの状態だけど何とか間に合ったわね……時雨!ここは一旦逃げるわよ!」

「でもでも圭が圭がケイガケイガ……」

「分かってるわよ!何とか曳航してみせるから!白露、貴女には悪いけど殿をお願い!<戦闘機隊も撤退するわよ!いいかしら!?>」

「分かりました!」

≪り、了解です!≫

 

 そこへ山城が2人の元へたどり着く。時雨は半ば錯乱状態だったため分からなかったが、艤装の数か所に被弾の後が見える。恐らくは被弾覚悟でかなり無理をして2人の元へと駆けつけたのだろう。

 

 しかし、その彼女達を邪魔していた深海棲艦達は流れ弾にでも当たったのか今はすべて片付いており、残るは空母棲姫特異個体と彼女の出す金色のオーラを全身から放ち、口元と取れる部分から青白いオーラを出す球体のような艦載機数十だけとなっていた。

 尤も、その残った1体が今まで出会った深海棲艦達の中で最も厄介な存在なのは変わりはないのだが。

 

「ほら時雨、一旦撤退するよ!」

「う、う、うああ、あ、あ、あ」

 

 山城は空母棲姫が体制を立て直しているその隙を逃さず圭の右腕を肩にかけてそのまま移動を開始する。白露も時雨の手を取り半ば無理やりに撤退を開始した。

 

 

 

「ああもうこんな状況で言える事じゃないけどやっぱりこの艤装何か普通じゃないわ圭をこうやって曳航できるのは人の器を手に入れたが故に出来る芸当かもしれないけどそれ以外にもこの艤装を装備してから体が妙に軽いのよ昨日の演習の時だって速度差があまりないまま圭を追いかけることが出来てたし何かおかしい気がするわ全く全く……」

 

 時間にして十分程か或いはもっとかは今の時雨には分からない。先程の海上よりある程度移動した場所に、空母棲姫とその艦載機達から何とか逃げ延び、撤退を行っている山城達の姿があった。

 左肩に未だ目覚めない圭を担いだ山城は空母棲姫の追撃を気にしつつ移動しながらも、小声で愚痴に近い言葉を延々と出し続ける。しかし、その愚痴を2人は聞いてはいるものの返答できる状態ではない。

 時雨は山城が肩を担いでいる圭の傍を離れようとせず、白露は状況を判断して殿を務め、艦載機の追撃を警戒しながらも山城達を追走している。

 

 傍から見たら敗走した艦娘達と取れる状態。だが、実際にそうと言えるのだから最早何も言えない状況だ。

 

 

 

 やがて山城も口を閉じて静かになり、しばし誰も喋ることは無く無言で移動を続ける。そこへ……

 

 

 

「まずっ!山城さん!改フラッグ級艦載機がこっちに来てる!さっきの空母棲姫が出したのだと思う!」

≪こちらホークアイ!こちらでも確認しました!≫

「何ですって!?ああもう兎に角逃げるわよ!」

「っ!?」

 

 こんな状況を、敵がみすみす見逃してくれるはずも無く……

 

 艦載機を発見した白露が慌てて山城に報告し、それを聞いた山城はさらに移動する速度を上げ、2人もそれに追従する。

 しかし、意識を失った圭を担ぎながら移動している為に山城は昨日の演習時のようなスピードは出せず、空母棲姫の艦載機達に気付かれ追い付かれるのは時間の問題であった。

 

 そこへ

 

「…………っ…………ぎっ!?がっあっ!!」

「え?圭!?」

 

 僅かに圭が動き、意識を取り戻した瞬間に激痛が走ったのか、先ほどまで反応すらなかった圭の口からいきなり呻き声を上がり始めた。

 すかさず時雨は圭の顔を覗き込み、山城もまた肩に担いでいる圭を一旦下して様子を見る。

 右腕が山城の肩から降ろされた瞬間、圭は左肩に手を当て、そのまま水の上に膝をつく。その両肩は荒い呼吸をするたびに上下に動き、その顔からは一気に脂汗が噴出し始め、激痛に顔を歪めている。

 

「圭!圭!しっかりして!僕を置いて行かないで!」

「ちょっと!ねえ、大丈夫なの!?」

「あっ…………がっ!…………いっ…………死ぬっ……程っ、い、痛い」

 

 時雨と山城は即座に圭の状態を確認する。とはいえ時雨は半ば錯乱と言える状態だが。

 何とか口に出来た言葉も途切れ途切れで今にも消え入りそうなくらいに力が無い。

 やがて痛みに慣れたのか落ち着いたのかは分からないが、肩で息をしながらもその表情の歪みはすこしずつ消えていく。

 

「現状は……どうなってるんだ?」

「貴方が空母棲姫艦載機の攻撃を受けて倒れて、何とか回収して逃げ延びているところよ。とは言えすぐに追いつかれると思う……」

「そうか……」

 

 圭は痛みをこらえながら、途切れ途切れながらも言葉を紡ぎ、山城は現状をある程度省略して話した。それを聞き圭は納得したようだ。

 

「感謝しなさいよ。時雨が錯乱しながらでも貴方を守ってくれたから今こうやって生きてるんだから」

「激痛で……意識が飛びそうだがな……まあ……生きてるなら、儲け物か」

「……ふぅ、そのくらいの茶々を入れられるんだったら大丈夫そうね」

 

 

 

 ―――儂の未来のために貴様らは死んでも任務を遂行しろ!破損など気にしている場合かあっ!!―――

 

 

 

 圭と山城との会話を聞いた時、時雨の頭にある声が聞こえて来た。

 今ではない何時か、何処かで……圭達ではない誰かの聞き覚えのある声。

 

 

 

「残りは……あの空母棲姫だけか」

「ええ。流れ弾を受けたか分からないけど、いつの間にか深海棲艦達が全滅してたから何とか逃げ延びることが出来たのよ」

「どういう……ことなんだ?」

「砲撃した回数と命中を確認して倒した数が合わないのよ。もしかしたら単なる私の確認漏れかもしれないけど」

「まあ……いいか。今はそんな事を、気にしてる場合じゃ……無い、な……っと、上空の艦載機隊は、一旦着艦してくれ」

≪大丈夫ですか?≫

「何とか」

 

 現状確認を山城と行いながら圭は上空にて先ほどまで戦っていた艦載機達を一旦着艦させる。

 

 

 

 ―――儂の命令は絶対だ!貴様らは口答えなどせずに死んで来い!―――

 

 

 

 時雨の耳にまたも、聞こえた。やはりどこかで聞き覚えのある声。だがその内容は圭達のような自分を気遣うような声ではなく、自分を物として扱うかのような声……

 

 

 

 自分は、自分は……一体ナンナノダロウカ……

 

 

 

「とは言え……やらなきゃならんか……ぎっいっ!」

「って、倒すつもりなの!?貴方その腕で」

「無茶だよ圭さん!早いとこ戻って入渠しないと!」

「多分もう……気付いてこっちに向かってきていると、思う。それに……このまま逃げて、基地の場所を悟られるのも……まずい。大丈夫……手はあるよ。それも、切り札がな」

 

 圭の激痛に身を捩らせながらの提案に山城と白露は反論するもそれを圭は切り捨てる。

 そこへ圭は「それよりも」と区切って時雨の方を向いて健在な右手を向けてくる。

 

 それに気づいた時、時雨は何故か叩かれると思ったのか、目をきゅっと瞑った。

 

 

 

 ―――い、今すぐこいつらを皆殺しにしろ!儂の未来の為に死んでも守れえっ!―――

 

 

 

 

 

 

「こんな俺を必死に守ってくれてありがとう時雨」

 

 

 

 ―――この役立たず共があぁぁぁぁぁぁっ!!―――

 

 

 

 しかし、やって来たのは平手や鉄拳による衝撃ではなく……優しく、温かく、それでいてはっきりと覚えのある手の感触だった。

 

 

 

 

 

 

 アア、ソウカ……ソウダッタンダ……

 

 

 

 

 

 

 そこで撫でられた時雨は気付き……全てを理解した。この覚えのある手のを……そしてこの幻聴の正体を……

 

 

 

 僕ハ……アノ時……

 

 

 

「……うん」

 

 ただそうとだけしか返すことは出来なかった。だが、それ以上に堪らなく嬉しかった。

 今度こそ守り切ることが出来たという実感が彼女の中にあったから。それを認め、圭が自分を守った事を感謝してくれたことが凄く嬉しかった。

 

「さて……やるぞ」

「さっきも言ったけど貴方そんな状態で戦えるの!?」

「やるしかないさ……あいつをこのまま、放置する訳にはいかん……多分ここが無茶をする時だと思う……いっぎっ!?」

 

 時折激痛が走るのか悶絶しながらも山城に向けて圭は返答する。

 

「敵の航空戦力はどうするの圭さん?数は向こうが勝ってるよ」

「その辺も考えてる……空母棲姫攻撃用に現在発艦可能なホーネットは全機、発艦させる。艦載機達の相手は残っているトムキャット隊と」

『俺達の出番って訳か?今更だな』

「すまん……正直あんた達の力から、俺が他の奴らに恐れられると思うと怖くて、な。出し渋ってた……」

『臆病者こそが生き残るのは確かだが、臆病が過ぎて死ねばそれはただの間抜けだぞ全く』

「耳が……痛いね」

 

 白露の問いかけに答えた後、圭と彼が右手で持っている発艦ユニットの上に器用に立っている妖精トリオのうちの妖精Bが何やら話をし始める。2人の続く会話が何を言っているのか、時雨にも周りにいる白露や山城にもよくわからなかった。

 そんな周囲を差し置いて圭と妖精Bの会話は続いていく。

 

『しかしあれだな。昔は「片羽の妖精」なんて言われていた筈の俺が、こうやって本当に妖精になってしまうとはね』

「事実は小説より奇なり、という奴だな」

『まあここの俺は元となった人間の記憶と技術を受け継いだだけの謂わばクローンみたいなものだよ。とは言えそれでもあんたの戦いはある程度知っている……それに何より同じ妖精になったとは言え、こうやって相棒とまた飛ぶことが出来るのは素直に嬉しいがな』

『それは俺も同じですよ』

『うるせぇよ2代目。最後の最後で落ちた癖に』

『アハハ、まあ俺もこうやって妖精となった当初は驚きましたけどね』

「お前もすまんな。本来の乗騎である……F-16を用意できなくって」

『俺は気にしてませんよ』

『で、今更だがどうするんだお前のコールサインは?』

『3番機でいいですよ。2番機はあなたの席なんですから。以前サイファーに伝えたら笑顔で了承してくれましたし。圭さんもそれでよろしいですか?』

「ああ」

 

 圭達と妖精2人の会話の内容が何なのか全く分からないが……彼らから一歩離れた場所で笑顔で見ている無口な妖精の計3人が彼の言う切り札だと言うのだろうか……

 

≪ケストレル。本当に行けるんですか?≫

<ああ……カタパルトが、イカレても構うもんか。何としても、勝って帰るだけだ>

「圭さん!空母棲姫の接近を確認したよ!」

 

 そこへ、来た。空母棲姫が先程よりもさらに数を増やして近づいてきた。彼女のその表情はまさにこの世の全てを憎みながらも、討つべき仇を追い詰めたかのような狂気の笑みで溢れている。

 

 その殺意を受け時雨に身震いが、走る。だが重症の筈の圭が戦うと言ったのだ。こんな事で怖気づいてはいけない。

 

 

 

 そして……圭は右手で発艦ユニットを構えた。

 

 

 

「発艦可能な機体は全部出ろ。続けて……ガルム隊、発艦始め!」




いかがだったでしょうか?

圭の思い出ボムも兼ねた回想及びF-15C部隊の正体発覚回でした。
この為に先日の段階で8話と9話に彼らの会話を追加して正体を微妙に匂わせてみましたが……大丈夫かな?

尚彼らですが元々この小説の構想を考え始め、主人公を決定した時辺りからエスコンの主人公部隊を出そうと決めてました。
で、ZEROのミッション4にてケストレルと縁のあったガルム隊が候補に挙がりまして。
ウォードッグorラーズグリーズ隊の方も考えて当初は悩みましたが、結果的に彼らに決定しました。

勿論主人公部隊とか強すぎるので自分の中で制約はちゃんと考えてはいます。

因みに、今回のタイトルはタイトーが1994年に発売した横スクロールSTG「ダライアス外伝」のBGM2曲より拝借しています。
前回のタイトルも実はスクウェア・エニックス(旧スクウェア)が1997年に出した横スクロールSTG「アインハンダー」のボス曲から拝借していたり……

それではこの辺で。次回またお会いしましょう。
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