Fleet Combat -Dawn of the horizontal line-   作:大川静真

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みなさんあけましておめでとうございます。大川静真です。

いかがお過ごしでしょうか?
自分は年末年始は一応仕事休みでしたが……時間はあった筈なのにここまで遅れました……orz

タイトルはガルム隊の名前の元である北欧神話から取っています。

しかし、ガルムのスペルはこれでいいのだろうか?
本編の部隊章に書かれたスペルはこれなんですがガルムの正しい表記は「GARM」なんですよね……
一応ZERO本編での表記を採用しましたが……

それではどうぞ。


#14 冥界の番犬達-GALM-

 ―――Side ????―――

 

 

 

 とある沖合の海上にて、「彼女」は仕留めそこない思わぬ攻撃を受けて逃がす羽目となった「敵の軍団」を見つけ出し、歓喜の笑みを浮かべた。

 

 ―――マダ……挑ムカ……沈ムベキ「――――」ノ癖ニ……―――

 

 何処へ行っても延々と現れる「敵」……何度も何度も沈めても懲りずに現れる「敵」……自分を見かけるなり尻尾を巻いて逃げ出す「敵」

 

 ―――マアイイ……ドンナ形デアレミンナ沈メテヤル……火ノ塊ニシテ……―――

 

 予め発艦させておいた「艦載機達」に加えてさらに追加で発艦させて行く。今度こそ「敵」を逃がさないように、今度こそ全てを水底に沈めてやるために。

 

「墜チロオォォォォォッ!!」

 

 あらん限りの声を上げて「艦載機達」に指令を与えて突き進ませる。

 「敵の新型であろう空母級」が艦載機を発艦させて行くが、数ではこちらが圧倒的に上回っており、「艦載機達」の練度も高い。いくら「敵艦載機」の性能が高かろうが数と練度を合わせた相手に勝てる存在などいる筈が無いのだ。

 

 いたとすればそれは「深海棲艦」以上のバケモノか何かだろう。

 

 おまけに「敵空母」は先の攻撃で損傷している。半ば無理やりにでも発艦させてきているようだが「艦載機部隊」を叩けば最早相手は丸腰となる。その後は周囲の目障りな「敵」を沈めるだけ、自分の勝利の可能性は揺るがない。

 

 

 

 だが慢心はしない。徹底的に相手を叩き潰すまで。

 そう、今までも「――」としてそうやって戦い抜いて来たのだから……これからもそうするだけだ。

 

 

 

 そして自分の「艦載機部隊」と敵の「艦載機部隊」が戦闘態勢に入った。

 先頭を飛ぶのは見たことない戦闘機の、主翼と思われる部分に色を塗った特徴的な機体が2機と、そのすぐ後ろを飛ぶ同型機と思われる機体の計3機編成の部隊。

 

「タッタ3機デ何ガデキル!」

 

 一番槍でも狙っているのか、やって来る奴ら。空母棲姫(彼女)の「―――」としての「―――――」達の実力を見て、それでもなお行うというのならそれはただの愚か者の無謀で無策な突撃。

 

 或いは自分達の腕に余程の自身があるか……

 即座に空母棲姫(彼女)は後者の考えを切り捨てる事にした。

 

 

 

≪作戦開始。ガルム隊はそのまま敵艦載機部隊と戦闘。周囲の制空権を確保せよ≫

≪ガルム2、了解!≫

≪ガルム3、了解です!≫

 

 

 

 しかし、空母棲姫(彼女)の想定していた戦況は、戦闘開始からあまり時間をおかずに予想だにしない方向へと向かって行った。数で攻めて叩き潰すことが出来ると思っていた敵の戦線は、早くも異常な事態を見せていたのだ。

 

 

 

≪ガルム1、FOX2!≫

≪FOX2!FOX2!≫

≪ガルム2ナイスキル!≫

≪お前も中々いい動きになってるじゃないか!ガルム3!≫

 

 

 

 数と言う絶対的な優位を持っていた筈の自分達。「艦載機達」の練度も十分な物を持っている。生半可な練度では自分から制空権を奪うことなどできはしない。

 

 先の戦いも「敵の空母」は戦い慣れしていない素人だと見抜き、乱入することによって冷静さを欠かせ、憎しみを込めて睨み付けた。たったそれだけで相手は殺意に呑まれ竦み上がった。そうなれば彼女にとっては最早葱を背負った鴨でしかなかった。

 しかも奇跡的に逃げ延びることが出来た癖に、戦果欲しさ故か懲りもせずまた挑んできた。

 ならばまた彼我の実力差を見せてやればいい。いくら相手の「艦載機」の性能が良くても扱う者が素人ではその性能を十全に扱いきれない……その筈だ。

 

 

 

 その筈だった。

 

 

 

 その筈だというのに、何故自分の「艦載機」だけが悉く墜とされて行くのだ……「艦載機」の性能は確かに向こうが上であろう。その事実は変わらない。だが……

 

 

 

≪ガルム1、敵機撃墜≫

≪相変わらず凄まじい動きをしているな、相棒。並んで飛ぶ俺達は苦労するよ≫

≪だけど俺達だって置いて行かれるつもりはない!そうでしょうピクシー!≫

≪言ったなPJ!≫

 

 

 

 「相手艦載機」の動きを見て空母棲姫(彼女)はここに来てようやっと理解した。先陣を切って来たあの3機……あれは彼の持つ中で……否、「――」が「―――――」として今まで目にしてきた「―――」とは明らかに違う。

 

「オノレ、オノレオノレエェェェェェェェッ!!」

 

 異常を察知し即座に空母棲姫はさらなる「艦載機」を、「自分に付いて来てくれている―――――――」を随時発艦させていく。

 この時点で空母棲姫(彼女)の「―――――」としての今までの戦闘経験から来る直感が、全力をもって警鐘を上げていた。何としても、自身の全てを出してでもこいつらだけは叩き潰さねば拙い!後々途轍もない脅威となる……と。

 

 

 

 しかし、彼女に対して現実は非情であった。

 

 

 

≪ガルム隊だけにいいかっこはさせられないな!≫

≪ああそうだ!ケストレル戦闘機隊の俺達の力を見せてやる!≫

 

 

 

 墜とされて行く……あの3機の戦いを受けてか、他の艦載機達までも……動きが変わり始め、それに伴い空母棲姫(彼女)の「艦載機達」が……数という優位をひっくり返されていく。

 

 

 

 

 コレデハ……「―――――」ノ名折レダ……ダガ、ダガソレ以上ニアノ……

 

 

 

 アノ機体ノ動キハ……全テヲ焼キ尽クス容赦ナイ攻撃ハ……

 

 

 

≪ガルム1、敵機撃墜!≫

≪すげぇ……あれがサイファーの実力か……≫

≪負けられないとは思ったが、ああも腕が離れてると実力で負けてるのにいっそ清々しくなるなぁ……≫

≪まあ、だが俺達も俺達なりに踏ん張って行くぞ!≫

≪応!≫

 

 

 

「化物……悪魔……」

 

 

 

 自然と、彼女の口から漏れた言葉。いや、違う……

 

 

 

 あの部隊……特に青い翼を持つ機体を操縦する奴の腕は、そんな生易しいものじゃ無い!

 

 

 

 ―――Side Out―――

 

 

 

 ―――Side 圭―――

 

 

 

「円卓の鬼神」

「それは何?」

「ガルム1、サイファーがケストレルのいた世界で起きた戦争の時に、手に入れた称号だな……」

 

 俺と空母棲姫の艦載機同士の戦い。数で圧倒し練度も相当なものを持っている筈の相手が、ガルム隊の猛攻によりその数の差をひっくり返されていく状況を見ながら呟いた。それを横で聞いていた山城が疑問に思って問いかけて来た為、俺はその称号の経緯を軽く説明する。

 

「ケストレルのいた世界にて……ベルカと言う国が周辺諸国に侵攻を行った戦いがあったんだ。ベルカと言う国は、その世界において最初に空軍を設立した国。パイロットもエース揃いの強力な軍……だけど、そのベルカの戦闘機を悉く……叩き落として行ったパイロットがいたんだ」

「それがあのサイファーって妖精?」

 

 時雨の言葉に俺は頷く。時折左腕の激痛に身を捩らせて肩で息しながら会話している為言葉が途切れがちだが何とか話していく。

 

「その戦争における主戦場の一つに……エリアB7Rという空域があったんだ。通称「円卓」……上座も下座も、関係ない純粋な実力勝負の場所……そこにおけるたった一つの例外……それがサイファーだったんだ」

「強いの?」

「凄まじく。サイファーはベルカとの戦争があった……数か月の間だけだがその腕を遺憾なく発揮して、栄光あるベルカのエース達を空から叩き落とし、時には絶望的な戦局をひっくり返した。それ故に畏怖と敬意の念を、込めてつけられた称号が……デーモンロード……「円卓の鬼神」って訳なんだ」

「すごい……」

「だが、サイファーの相棒を担当していた……ピクシーは諸般の事情により途中離脱し……後任のPJは終戦間際にて撃墜……されて死んだ。2人の相棒という翼を失ったサイファーは……そのまま行方を……くらませたんだ。それが……サイファーの戦いの記録……っぎっい゛!!」

「圭!?」

 

 またも激痛が俺の体を襲ったため思わず左腕を押さえ込んでしまう。それを見た時雨が慌てて俺を気遣ってくる。

 

「だ、大丈夫だ……まだ意識ははっきりしているから……それよりも……ガルム隊が制空権を取ったら空母棲姫を……一気に畳みかけないと」

「でも!こんな手じゃ圭は満足に戦えないよ!」

 

 それぐらいは自分でも分かっている。現状俺の左腕は完全に変な方向に折れ曲がっている上に結構大きな火傷を負っている状態だ。今もなお熱いくらいの痛みがあるし先程のように時折のたうち回りたくなる程の激痛が走るのが現状だ。自分自身戦力どころか足手纏いにしかならないのは百も承知。

 

 だが、だからと言ってこのまま空母棲姫を放置する訳にもいかない。先も言ったようにこのまま放置すればまた被害が出るし、撤退する俺達の追跡を続けられたら俺達の基地の場所がばれる。

 あの基地は深海棲艦達の攻撃により放棄されたと聞く。つまり何故かは分からないが深海棲艦達にとってあそこは利用する価値すらない無人の基地跡という認識の筈だ。

 そんな基地に艦娘が集まり始めていたり基地周辺の海域にて深海棲艦の損害が増え始めているとなると、遅かれ早かれ怪しまれて襲撃される可能性もある。

 だが、それ以上に相手にこちらの戦力がどれほど持ち合わせているかを認識させては拙いだろう。

 ならば今は、無茶をしてでも相手を倒して報告を遅らせるのが……最善だと思う。

 

「恐らく今が……無茶をする時だ。あのままあいつを放置すれば艦載機のさらなる改良の……可能性すらある。それに、生かしたまま俺達だけ逃げれば……こちらの戦力を把握されて……数を揃えて突撃して来る可能性も……あるから……な」

「圭……」

「時雨、白露、山城……後の敵への攻撃は、頼む」

「分かったわ。時雨、白露、私の合図と同時に空母棲姫に一斉攻撃。2人ともそれでいいわね?」

 

 白露も時雨も俺の無茶に少したたらを踏んでいたようだが、そんな時に応答したのは山城だった。すぐさま山城は時雨と白露に伝え、2人はためらいはあるようだが無言で頷く。

 

 深海棲艦と戦う為に生まれて来た艦娘である筈の2人がどうしてここまで腰が引けているのか今の俺には分からない。敵との戦いに関する抵抗の少なさとでも言えばいいのだろうか……そういったものに対する能力では、恐らく俺よりも上であろう彼女達がこうも俺1人の怪我で錯乱するのは何か理由があると思う。

 2人は何かトラウマになるような事を俺と会う前に体験したのだろうか……可能性として考えられるのは特異個体に取り込まれる前に何かあったのかと推測する。

 とはいえそれをこれ以上詮索する暇など今は無い。3人の活躍に期待するしかないのだ。

 

 

 

 制空権を取れたとはいえ、これで上手く行けばいいのだが……

 

 

 

 ―――Side out―――

 

 

 

 ―――Side 空母棲姫―――

 

 

 

「コンナ所デ……失ウ訳ニハ……」

 

 ひっくり返された空の戦況を見て彼女は無意識の内にそう呟いた。だが終わることは許されない。

 

 

 

 ―――ソウダ……「――――ノ―」ヲ討ツマデハ……ココデ立チ止マル訳ニハ……―――

 

 

 

「マダダ……マダ終ワル訳ニハ行カナイ!!終ワル訳ニハ行カナインダアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

 

 こんな所で終わるわけには行かない!

 

 そう自らを鼓舞しつつ順次艦載機を発艦させ、何としても敵を倒さんとする。

 

 しかし、あの3機によってひっくり返された戦況を再び覆すには至ること叶わず、ただただ自分の「白い球体をした艦載機」だけが叩き落とされて行く。

 

 

 

 ―――コンナ事デ止マッテシマウ程度デハ……「――――」ヲ倒ススラ叶ワナイ……「――さ―の―」スラ……―――

 

 

 

 そして……

 

 

 

「……ッ!?何故発艦シナイ……マサカッ!?」

 

 

 

 唐突に、彼女の予想だにしないタイミングで艦載機の発艦が行われなくなる。そこで最悪の可能性を想定して慌ててそちらの確認を行い、自らの致命的な失態に気付いてしまう。

 

 

 

 艦載機の残数管理忘れによる……打ち止め。

 

 

 

 相手を倒す事に固執し過ぎたが故の初歩的なミス。かつての「―――――」としては考えられないようなミス。

 

 

 

≪敵艦載機の全滅を確認、制空権確保だ≫

≪ガルム3了解。まあこんなもんですよ≫

≪ガルム2了解、引き続きホーネット隊の援護に回る。本命は任せるぜ≫

≪ええ。貴方達が作ってくれたチャンスを無駄にはしませんよ!≫

≪オメガ11、イジェークト!≫

≪≪≪おい!何やってるんだお前は!!≫≫≫

 

 

 

 そうこうしている内に空域を飛んでいた自分の「球体をした艦載機達」が壊滅して、空母棲姫(彼女)は理解する……否、理解してしまう。

 

 

 

 それは即ち。

 

 

 

 

 

 

 戦闘機全滅による制空権喪失

 

 

 

 

 

 

<圭が意識を取り戻したけど指示を出せない状態だから私が引き続き指揮を執るわ。皆、合図と同時に一斉攻撃開始!空と海の両方から空母棲姫を攻撃するわ。出し惜しみ無しで行くわよ!>

<はい!>

<う、うん!>

≪≪≪了解!≫≫≫

<よし……よく狙って、撃てーーーーー!>

 

 

 

 「普段の彼女」なら起こり得ない事態の連続に呆然としていた「彼女」に戦艦の砲撃の音の後に衝撃が、来た。そして直後に激痛が体中を駆け巡る。

 

 今自分がどんな状況に陥っているかを空母棲姫は既に理解してしまった。

 

 艦載機をすべて失い、制空権をも失った空母。それが今の自分の状態。

 

 そんなものは最早ただの動く的でしかない。先程の戦いで足がすくみ上がり動くことの出来なかった「敵の見たことの無い空母級」とある意味では立場が逆転した状態。

 違いがあるとすれば「相手の空母級」には指示を受けて攻撃を行う随伴艦がいるが、自分は既に周りに「仲間」がいない状態だという事。

 

 自分の目的の為にもこんな所で終わる訳には行かない。行かないというのに……

 戦況は既に自分が「詰み」の状態となっている。だけど……それでも……

 

「終ワル……訳ニハ……行カナイノニ……」

 

 そこへ自身の「艤装」に攻撃が直撃し、襲い来る衝撃に空母棲姫はバランスを崩す。砲撃を行ったのは「敵の随伴艦である駆逐艦」のものだと理解した。だがその威力は空母棲姫の……「彼女」のかつての船としての……「――」としての記憶にある、駆逐艦の主砲の砲撃からかけ放たれた威力であった。

 

 

 

<第二射、撃てーーーーーー!>

 

 

 

 体制を立て直そうとした所に再び襲い来る強烈な衝撃。今度は足並みを揃えたのか、空からも攻撃が飛んできた。いや、単に先ほどの砲撃にも空の攻撃機は参加していたという事に自分が気付かなかっただけかも知れない。

 だが、そんな事を理解した所で、攻撃を受けるたびに自身の体にダメージが蓄積され、そして「足元にある漆黒の艤装」が破壊されて行くのは変わらず……

 

 

 

 足元にある漆黒の艤装?

 

 

 

 爆発と共に黒煙の舞い上がる自身の艤装が目に入り、「彼女」はふと疑問に思う。

 自分の艤装は……コンナ色ヲシテイタノカ?こんな形をしていたのか?自分は空母「――」の「――」なのは理解している……自分の本来の艤装は弓ト矢ヲ扱ウ艤装ダッタ筈では無かったのか?

 

 

 

 こんな、コンナ艤装を使ってイタノじゃあ自分ハマルデ……

 

 

 

「アッ……」

 

 

 

 パキリパキリと何かが割れるような音がする。その音が聞こえたのが原因か分からない……だが「彼女」は手を付いた時にその手が目に入った。

 

 その……「水死体のような……人の形をした深海棲艦達(・・・・・)の様な灰色をした自身の手」を……

 

 

 

「何デ……私ハ……ドウシテ……」

 

 

 

<次弾装填が終わり次第もう一度一斉射<待て>圭?>

<何か……空母棲姫の、様子がおかしい……>

 

 

 

「私ハ……今マデ……」

 

 膝をついたまま自身の両手を、「憎むべき深海棲艦のような灰色となった両手」を見続ける。だが、その両手も先程から聞こえる何かの割れるような音と共に亀裂のようなものが入っていき、それと同時に自身の感覚が消えて行っているのか段々と痛みや熱を感じなくなっていく。

 意識はしっかりとしているにも関わらず、自身の五感だけが希薄になって行くような、曖昧な感覚。だが、それ以上に彼女は……彼女は今……

 

 

 

「ソウ……ソウダッタノネ……そうか、だから私は……」

 

 

 

 ―――ごめんなさい……「――」さん……私は……の……ヲ討つどこロか……―――

 

 

 

 彼女は今、自身が「何」になっているのかを理解した。

 

 

 

 討つべき筈の「敵」。憎むべき「敵」。相容れることの出来ない不倶戴天の「敵」……

 その敵こそかつて自身が討つ筈だった敵の同族であり……今自らが変質している「深海棲艦」と言う事実に気が付いたのだった。

 

 

 

 そのまま彼女は……空母棲姫は自らの「ナニカ」が弾けるような感覚に襲われ、意識を闇へと沈めていった。

 

 

 

 ―――Side Out―――

 

 

 

 ―――Side 圭―――

 

 

 

 空母棲姫の乱入というイレギュラーな事態が発生したが俺達は何とか無事に切り抜ける事ができた。

 しかし、この時点の俺達にこれ以上戦う力は殆ど残っていなかった為這う這うの体と言わんばかりの状態で基地に戻って来ることとなった。勿論前回白露と時雨が入っていた(?)特異個体の時と同じ、空母棲姫に取り込まれていた女性1人を追加した状態で空母棲姫の艤装ごと曳航して帰って来た訳だが。

 曳航を行った山城は最初は「私一人がこんなことしなきゃならないなんて不幸だわ……」と愚痴をこぼしていたが、怪我人の俺に無茶をやらせる訳には行かない事を理解していて、途中から白露も手伝った為にそれ以上は何も言ってこなかったな。こういう事で不幸不幸言うあたりもう口癖として染みついているんだろうな。

 その後取り込まれていた女性含む全員は速攻で入渠ドックに向かい、体の傷を癒やすこととなった。

 特にダメージの酷かった俺は高速修復剤―――俗称修復バケツだそうだ―――を使用する羽目になったな。艤装の方にも小さくないダメージがあったのだがそちらの修復はどうしても妖精達の手で修復せねばならず数日程時間を要するそうだ。

 

 その間俺の出撃は出来ない訳か……

 

 因みに俺の折れていた腕と複数個所の火傷の痕は先の高速修復剤の効果により修復時に凄まじい激痛があったが現在は跡形も無く完治している。

 素人目に見ても完治に良くて月単位、悪けりゃ何らかの後遺症か傷跡が残りそうな状態だったのだが……不思議パワー万歳だな全く。

 

 そして、空母棲姫の中にいた女性の方は以前の時雨達と同じく命に別状は無いものの意識がない状態だ。とは言え時雨達の時とは違い体の方にもダメージが行ってたらしく傷は大小あるのだが、こちらも俺と同じく修復バケツで完治済みだ。

 まあ先も言ったように意識が戻ってない為俺達にはこれ以上何もできない訳だが。

 

 で、色々終えて就寝時間となった現在、俺はベッドの中で大絶賛暇を持て余し中なのだ。

 夜空には雲が一面に覆われており、月や星すら見えない。言った通り就寝時間なのは確かなのだが意識が冴え渡っていて寝るに寝れない状態だ。

 俺は何をするわけでも無く明かりすらない天井―――灯火管制も兼ねて明かりはあまりつけないようにしているそうだ―――を見ながらボケーっとしていた。

 

 しかし……あれだ……

 

 

 

 寝付けない……全く眠れない……

 完全に意識が冴え渡っていて寝ようにも寝れない。瞼を閉じればじきに眠るのだろうがそれが出来れば今頃俺は夢の中なのだ。眠れてない時点で結果がどうだったのか察してくれ。

 

 仕方ない、ちょっと水でも飲んでこようか。

 

 そう思い俺は体を起こし、ベッドから降りようとした時、部屋の扉がキイと小さな音を立てて開いた。

 

「誰だ?」

「っ!?圭……起きてたんだ」

 

 扉を開けた相手に向けて俺は口を開いた所、聞こえた声は時雨のものだった。おいおいおいおい何でこんな時間に?

 

「こんな夜中にどうしたんだ?まさか部屋を間違えたとでも?」

「ええっと……いや……そうじゃないんだけど……」

 

 口調はしどろもどろではあるのだが、さも当然の行動と言わんばかりに扉を閉めたのは何なんだ?しかもご丁寧に鍵を閉めたような音も聞こえたんだが……一体全体何の用事でここに来たんだよ?

 

 いや、男の部屋に女性がわざわざやって来てする事はあるにはあるのだろうが……いやいやまさかそんな……

 とかなんとか考えている内に何やらこう……妙な音が聞こえてきはじめたんだが……具体的に言うなら布がこすれるような……音が……ええい真っ暗で何も見えん……明かり付けるなと言われているが仕方ないか……

 

 と、俺が明かりをつけようとした時、偶然にも雲の切れ目から月が出て来たのか外が少しだけ明るくなり室内を照らしてきた。

 月明りで照らされたいつもの俺の寝室には部屋着を入れている引き出しと部屋を割り当てられてから全く使われていない机、そして俺が今横になっているベッドが見える。そんな最低限の家具しか置かれていない部屋。

 

 

 

 そんな俺の部屋に先ほど入って来た時雨が全裸でベッドの傍に立っていてええええええええええええええええっっっ!?!?

 

「ちょちょちょちょちょちょ待て待て待て待て時雨落ち着け落ち着け全裸だぞお前今すぐ服を着ろ頼むから目の保養じゃなくて色々拙いから頼むから早くその綺麗な体を隠してくれ頼むからそのままだと色々抑えきれなくなるから性的に襲う可能性があるから服を着てくれ下さいお願いしますだから!」

「……いいよ。僕を襲っても」

 

 部屋に入ってきた段階でまさかの可能性を考えていたがそのまさかのド直球ど真ん中状態だった時雨に、俺はベッドの上で身を引いてまくしたてていたが少し間をおいてから時雨は口を開いてとんでもねぇ言葉を紡いだってうおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!?

 

「いやいやいやいや拙いだろ時雨年頃の女の子が男の部屋に全裸とか色々ヤバいから兎に角色々棒に振りかねない事はやめようなそういうのは好きな相手にするべきだから「僕は、圭の事大好きだよ」はいいいいいいいいいいいっ!?」

 

 完全な爆弾発言だった為に俺はもう絶叫するしかなかった。

 

「僕はここに来てから……初めて会ったその日から……圭の事が好きだったよ。初めて会った日に優しくしてくれた。僕の事を、僕達艦娘の事を怖くないって言ってくれた。山城を救い出す時に僕の意見を尊重してくれた。それに……昼間、僕にありがとうってお礼を言ってくれた。圭は怪我してるのに……以前圭に護衛を頼まれていたのに……守ることが出来ずに傷つけてしまったのに……そんな僕の事を許してくれた……」

「いや違うんだ時雨合ってるかもしれないが俺としては色々違うんだよ打算とか色々あったしそれに俺が昼間妖精達に言ったようにってか時雨は聞いてなかったかもしれねぇがあのガルム隊妖精の力から恐れられる可能性とか考えてしまって皆を完全に信じることが出来なかったというか何と言うか……兎に角俺なんか好きになれるような人間じゃねぇと自分的には思ってるんd「そんな事ないよ!」……」

 

 時雨がベッドに乗り込んで来た為身を引きながら錯乱状態のまま色々言っていたが、時雨にいきなり強く言われたため俺は沈黙する。

 

「圭にとっては打算とかあったかも知れないけど……僕にとっては凄く嬉しかった事ばかりなんだよ。こんな圭には何処から来たか分からないような得体の知れない艦娘なのに、普通に優しくしてくれたのが……僕の知る限りじゃこんなに優しくされた事全然なかったから……僕は圭にお礼がしたくって……でも僕には戦う以外には何もないから、こうやって女の子の体を手に入れた以外何もなかったから……だからこうやって圭にあげようって……それとも」

 

 

 

「それとも……圭達が秘密にしていた、僕と白露みたいに深海棲艦の中に取り込まれていたような汚らわしい艦娘じゃあ……駄目なのかな?」

「っ!?」

 

 

 

 その言葉に、俺は息を飲む。先ほどまでの時雨のアプローチもあって色々ごちゃごちゃになっていた思考が急激に冷え込み、クリアになっていく。

 

 何故、時雨達に秘密にしていた筈のその事実を知っているのか……可能性として考えられるのは……。

 

「昨日の俺と山城の会話を……まさかお前」

 

 その言葉に時雨は無言で頷いたが、その行動一つが全てを物語っていた。

 つまりは……白露がどうか現状分からないが時雨に関しては間違いなくあの時俺と山城の会話に聞き耳を立てていたのだろう。そしてその時自分がここに来た本当の来歴を理解した……と。

 

 ってか今はそれを追及している場合じゃねぇ欲求とか色々堪ってきているからいつ自我を失って時雨を性的に襲うか分かったもんじゃねぇからってやっぱり駄目だクリアになったと思ったけどまた思考がごっちゃになって来た兎に角ヤバいヤバいヤバい何とかして時雨に服を着て退散してもらわないと俺のマイサンがもう臨戦態勢に入りつつあるから色々ヤバいんだよわあああああああ……

 

「そうだよね……やっぱり僕みたいな深海棲艦に取り込まれてた……穢れた艦娘の体に欲情なんてしないよね」

「っていやいやいやいやそんなことは無ぇから時雨は十分魅力的だから決して欲情しないとかそういった事抜きにしても可愛い部類だからというかお前達が可愛くない部類に入っていたら世の女性全てが不細工の部類に入ってるから兎に角そういう風に自分をあまり卑下しないでいいから」

「じゃあどうして僕に手を出そうとしないの?」

 

 そう言ってまたズイっと時雨が近づいて来てってうわあああああああ近い近い近い近い俺の後ろは既に壁になってるから後退できないから近いって時雨の白い肌が時雨の大きすぎず小さすぎず自己主張した胸の膨らみがまだ花咲く直前の蕾のような時雨の体があああああああああっ!!

 

 

 

 …………あっ

 

 

 

「「あっ…………」」

 

 迫って来た時雨だがある一点を見た瞬間動きが止まりそのままその一点を無言で凝視し始めた。

 

「圭の……おっきくなってる」

 

 …………ばれた。月の明かりだけで殆ど見えないとはいえ、現在俺が穿いているハーフパンツの上からでもはっきりと分かる位に……自己主張しているマイサンが……時雨の体に反応して最大仰角を保っている状態が時雨にばれました……

 だって……なぁ。こんな、可愛くて自分の事を想ってくれている健気な子が、全裸で迫ってきたら……誰だって反応するだろ?それこそ反応しないのは不能かソッチの趣味を持ってる人間くらいだと思うぞ。

 

「良かった。圭が僕の体見て反応してくれるって事は僕をちゃんと女の子として見てくれてたんだね……でも……どうして拒否してたの?」

「いやあのそのえっとマリアナ海溝以上に深い訳がありまして何と言いますかええっとその」

「どんな?」

 

 首を傾げる時雨に俺は事実を告げるべきか悩む。だって……なぁ……

 ええい!ここで恥ずかしがってどうする!

 

 

 

「じ、実はな……未経験なんだよ……俺」

「……えっ?」

「そのものズバリでございますです。童貞ですハイ。今の今まで筆下ろしは出来なかったもんで……ハイ。で、まあ、ちょっと、時雨が魅力的なのは確かなんだが、うん……色々怖いというのもあったりします」

 

 あーあーそうだよ!童貞ですよ!ここに来る前まで女性との縁なんて存在しなかったし風俗なんて行く暇無かったんだから仕方ないだろ!

 

 自分で悲しくなってきたぜ……笑うなら笑ってくれて構わねーよ。今の俺はもう道化なんだよチクショーメー!

 

 ふと、時雨の方を見るとクスクスと小さく笑っていた。

 

「そっか……僕と同じだね。僕も初めてだよ」

「はい?」

「僕も経験はないよ。艦娘になってからも、圭に救出されてからもずっとね。でも僕は圭の事が大好きだから、圭に何かお礼みたいな事をしてあげたいから……だから僕は圭にならいいやって思えたんだ」

「……」

 

 何も答えることが出来ない俺に時雨はゆっくりと顔を近づけ、俺の唇を塞いできた。まあ……勿論の事キスも初めてです。

 数秒ほどお互いの唇が触れ合うだけのキスを行い、時雨は口を離して微笑みながら言って来た。

 

「ねえ圭……僕は圭と一緒にいたいよ。僕も初めてで怖いのは確かだけど、それよりも圭を失う方がもっと怖いから……だから……僕の初めてをあげる。だから僕は圭の初めてが欲しい……圭が僕を抱いた証を頂戴」

 

 

 

 その余りにも蠱惑的な提案に逆らえるだけの精神力を俺は持ち合わせていなかった。

 

 

 

 もう、ゴールしてもいいよね?




オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!(壁殴り中
あーすっきりした。家の壁が無くなっているがまあいいか。

という事でガルム隊による空母棲姫特異個体相手の制空権確保回でしたがいかがだったでしょうか。
空母棲姫の正体も一応考え済みですが、彼女にかなりの性格改変を行う予定なので提督諸氏の中には反感を覚える人がいるかもしれませんがそこはご了承ください。

そして圭は時雨と夜戦開始です。
出来ることならこういう風に俺の嫁艦である鳳翔さんと初めての交換したかったです。

それではこの辺で。次回にてお会いしましょう。
さて壁の追加発注して来るか……もし壁が欲しい読者がいたら自分が代金持ちますよー(何
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