Fleet Combat -Dawn of the horizontal line-   作:大川静真

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新年度が始まりましたがいかがお過ごしでしょうか?
みなさんおはようございます、こんにちは、こんばんは。大川静真です。

今回はちょっとしたこのお話独自の設定説明とか含んでたりします。

それではどうぞ。


#17 見えざる敵-Silent Hunter-

「こんな事になってしまうなんて……完全に油断していました……」

「お、お姉ちゃん……大丈夫?」

「艤装が上手く動きません……襲撃時に損傷してしまったようです……あなたは大丈夫ですか?」

「あたしは大丈夫だけど、お姉ちゃんが……他のみんなも……」

(護衛していた船も最早沈むのは時間の問題……先の奇襲で他の子たちも恐らくは……)

「お姉ちゃん……逃げようよ。これじゃあ任務も失敗してるから……」

「いえ、どうやら敵が来ているようです……せめて、あなただけでも」

「いやだ!いやだよ!お姉ちゃんを残して行けないよ!」

「これは命令です!まともに動けない私と一緒に行くよりも、傷の少ないあなただけでも撤退する方が恐らく生き残る可能性はある筈です!だから!」

「それでもいやだよ!」

「お願いだから聞いてください!水雷戦隊旗艦最後の命令です!撤退して、生き延びなさい!」

「……う、う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「…………行ったようですね。敵は少なくない上にこちらは私1人、さらに艤装がまともに動かない状態……絶望的な状況ですが、それでも……」

 

 

 

「あの子を逃すために時間稼ぎぐらいは……もう一撃くらいできます!あの子をやらせる訳には行きません!!」

 

 

 

 

 

 

 この会話から少し時間は遡る……

 

 

 

―――Side out―――

 

 

 

―――Side 圭―――

 

 

 

「撃ち方始め!」

 

 山城の掛け声に合わせ俺は即座に手に持った15.2cm単装砲を構え、3発発射する。

 砲口より爆炎と共に放たれた弾丸は放物線を描き、離れた場所に浮かべられた浮標のような標的へと向かって行き……

 

「ちゃくだーん、今!」

 

 山城の「今」の声と同時に海面に水柱が3回立ち上がる。これは命中したか?

 

「遠、近、遠。全弾外れ!」

「うあ……」

 

 山城から放たれた容赦ない現実が俺に突き刺さり、項垂れる。ちくしょー自信あったんだが!

 

「うーむ……やっぱり砲撃戦じゃあ山城や白露達に一日の長がある訳か」

「そりゃあ私達は元がそういった砲撃戦を主体として作られたからね。艦娘になってからもその経験は残っているのよ。昨日の今日でいきなり砲撃を教えてくれと言われた相手に追い越されるほど、温いやり方を行ってはいないわよ」

 

 そう呟く山城だが、自身の砲撃に相当の自信があったのだろう……

 

 

 

 なぜならば。

 

「顔がすごいドヤ顔になってるぞ」

「あら失礼……それにしても、どうしていきなり砲撃訓練を頼んで来たのかしら?」

 

 おいおい……了承して置いて今更か……

 

「そうだな……やっぱり深海棲艦相手とはいえ戦う以上は、いつどこでどんな事が起こるか分かったものじゃ無いからな。万に一つとは言え俺がミサイルを切らして砲撃を行う、なんて事が起こりうる可能性だってゼロじゃない。だったらその時に対処ぐらいは出来るようになりたいと思ったからだよ」

「そう言うものかしら?」

「そういうものだと思うぞ。お前達艦娘も今は「船の器」じゃなくって「人の器」を持ってるんだ。専門分野以外の事もある程度は対処可能となっておくべきだと俺は思う」

「それは、暗に私達にも近接戦闘に対応しろと言ってるのかしら?」

 

 山城がジト目でこちらを見てくるが気にしない。俺の言いたいことを代弁してくれたものだしな。

 

「まあそうとも言うがな。とはいえそれを極めろなんて無茶は言わんよ。ただ「苦手でも対応出来る」と「全然対応出来ない」とじゃあそこに大きな開きがあると思うからな」

「要するに貴方はどんな状況に陥ったとしても対応出来るようになりたいし、私達の方もなっておくべきだ……と?」

「そういう事だ」

 

 俺は頷きながら単装砲を構えつつ再度狙いをつける。そして1発だけ発射する。

 そのまま再び放物線を描いて標的へと向かい……

 

「ちゃくだーん、今!……至近弾ね」

「とは言え、狙いをつけるのに時間がかかりすぎてる。現状実戦じゃあ役には立たない。撃つ前に狙われるなこれは」

 

 これは要練習だな。

 

 

 

 あの妖精達の一悶着からさらに3日が経過した。

 その間に俺の艤装の方も無事修理が完了し、今日はその艤装を装着しての訓練となった。

 現状特に大きな問題も無く艤装の方は動いている。艦載機発艦機能や機銃等の武装の動きも以前と何ら変わりない。

 

 

 

 そして……

 

 

 

「そう言えば、あの艦娘はまだ目覚めないのかしら?」

「ああ、担当の妖精曰く体の方は問題なく完治してるらしいが、意識が未だに戻らないらしい」

「参考までに聞きたいけど、時雨や白露が意識を取り戻したのって救出されてからどれくらいなの?」

「確か4日ぐらい経ってからだな……とは言えあの時と同じとは言い切れない。あの艦娘もいつ目覚めるかの参考になんてならないと思う」

「それぐらいは分かってるわ。気になっただけよ」

 

 

 

 あの艦娘は、体は完治すれども……未だ目覚めない。

 

 

 

「彼女の艦種は何か分かったりはしたの?」

「主任の調べだと恐らく空母の艦娘ではあるらしい。誰なのかまでは不明だそうだが」

 

 山城に視線を向けないまま応答し、標的に狙いを定めて発射。砲弾はまた標的へと向かい……

 

「外れ」

「オウフ……」

 

 山城の容赦ない言葉に俺は項垂れる。当たらないなぁ……

 

「こればっかりは一日二日で当てられるようにはならないわよ。まぐれ当たりはあるかもしれないけど、それでも狙って当てるには練習ね」

「おまけに実戦では動きながら当てなきゃならんからな。まともに当てられるのは何時になることやら……おっと山城、聞きたいことがあるんだが」

「何かしら?」

 

 構えを解いて山城に向き直り、俺は彼女に質問する。

 

「無学な俺に教えてほしいんだが、かつて大日本帝国には空母は実在したのか?したのだったらどんな空母が在籍していたんだ?」

「全く知らないのね貴方」

「生憎その辺は授業でも碌に習わなかったからな。ただ戦争が起こったって事と日本がアメリカに負けたって事ぐらいしか知らない」

 

 「戦後教育の賜物かも知れんがな」と肩を竦めつつ、付け加える。

 

「大東亜戦争の歴史は貴方のいた世界とこの世界でのあらましは近い訳ね」

 

 そこで一旦区切り、山城は続けた。

 

「まあいいわ。空母として有名どころは赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴の大東亜戦争開戦時における第一、第ニ航空戦隊及び第五航空戦隊かしらね。その他にも開設時の一航戦だった鳳翔や同じく一航戦経験艦の龍驤。商船改装空母の飛鷹や隼鷹、潜水母艦の改装型である祥鳳と瑞鳳、それと龍鳳。高速給油艦から水上機母艦を経由して空母に改装した千歳千代田、戦時急造空母の雲龍、天城、葛城の雲龍型、装甲空母の大鳳……最後に大和型三番艦として建造されて途中で空母に改装された信濃……こんな所かしらね」

「結構な数が揃っていたんだな」

「それでも知識として知ってるだけで実艦時代に現物を見たことは殆ど無いからね。誰が何だったかまでは覚えてないわ……私からも質問いいかしら?」

「どうぞ」

 

 俺は特に質問を拒否する理由が無かった為山城の質問要請に同意する。

 

「主任達妖精はこの竹ヶ島基地が放棄される前に他の艦娘と会話していたりはしてなかったのかしら?仮にそう言った交流があったとすれば艦娘が誰なのか等も分かってる筈だと思ったのだけど?」

「以前……ちょうど俺が皆に出自を教えた日当たりにそれを聞いてみたんだ。そしたらどうも前任の糞提督のせいで艦娘達はまともな会話とかもせず、まっとうな交流すら無かったらしい」

「つまりは前任のせいで艦娘達と触れ合う事も無く、それが原因で艦娘の仔細もあまり分からなかった訳ね」

「そういう事だ」

 

 俺は頷きながら言う。

 あの艦娘の正体を知るにはもう当人の意識が戻ってから直接聞くしかないな……

 

「しかし空母艦娘か……ううむ」

「どうかしたの?」

 

 照準を合わせながらうなり始めた俺に山城が問いかける。だってなぁ……

 

「改造を頼んだところ主任が魔改造しそうだからなぁ……『ケストレルの艤装のデータから可能な限り艦娘の艤装で再現してみました!』とか言ってきそうで怖い」

「ああ……」

 

 理解したのか或いは脳内で想像したのか、山城は遠い目で納得する。

 主任ならやりかねないからなぁ……

 

「あの妖精ならやりかねないわね……実艦時代では到底あり得ない改装とか実行に移してるから怖いわ」

「白露と時雨の2人の艤装を魔改造したという前科があるからなぁ……一体どんな風に改造しているんだろうか……」

「あの艦娘に限らず私の方も、もしかしたらとんでもない改装とかされる可能性がある訳ね。ホント……不幸だわ」

「何と言うか、あの主任が迷惑をかけてすまないな」

「貴方ね……その台詞はもう魔改造が起こることが確定しているかのように思えてくるからやめて」

「あー、すまん。そういう意味で言ったわけじゃない。気を悪くしたのなら謝る」

「えっ?いえいえさすがに貴方はそこまでしなくてもいいわよ私は特に気にしてないから!」

 

 素直に頭を下げた俺に山城は謝られ慣れていないのだろうか、慌てて俺に弁解してくる。

 

「まあ、主任には忠告しておくべきだな」

「現状それが一番妥当でしょうね」

「独断専行の可能性も考えてしまうのが悲しい所だ……」

「やめて……あり得そうだからやめて……」

 

 と、とりあえず俺はこのネガティブ思考を振り払うために意識を切り替え再び、砲口を標的に向けて発射する。

 砲弾はそのまま標的へと真っ直ぐ向かい……これはいけるか!?

 

 

 

「ちゃくだーん、今……ハズレ。一応至近弾だけど」

「チクショウメェェェ……」

 

 がっ……駄目っ……

 

 

 

 

 

 

 さてさてあれから少し時間が経ち、俺達は今海の上にて深海棲艦の残骸を回収している。

 メンバーは相も変わらず俺、山城、白露、時雨の4人で行動中だ。

 とは言え今回に関してはいつもとは違って優先的に倒すターゲットを決めていたりする。

 

 それは……

 

<さてホークアイ、輸送ワ級やそいつの残骸類は確認できるか?>

≪こちらホークアイ、目標を確認できず。ワ級どころか他の深海棲艦も今の所確認はできませんね≫

<了解、そのまま周囲の探索を行ってくれ>

≪了解です……今更ですがこの機体って偵察機じゃなくって早期警戒機なんですけどね……≫

<すまんな。前はその辺の区別が付かなかったんだが、今なおあんたの「目」は俺達にとって大事な「目」なんだ。活用させてもらってると思ってくれ>

≪そうですね、分かりました≫

 

 俺達が狙っている相手は「輸送ワ級」この深海棲艦達における輸送艦を倒してその残骸を持って帰ることを目標としていた。

 俺の艤装がまだ修理中の時に山城達が撃破した個体を精錬機に入れた所、かなりの量の資材を手に入れることが出来たのだ。

 で、これ幸いと思い俺達は当面の優先撃破目標をその輸送ワ級に変えた訳である。

 とは言えそうそう見つかるわけでも無く、現状はホークアイに探してもらって見つけ次第そこに向かって撃破という流れとなっている。

 因みに今日は俺の艦載機部隊の中でガルム隊はお休みとなっており、ここにはいない。

 

 

 

 

 

 

 そうそう。このホークアイだが、どうやら偵察機では無く早期警戒機という機種だったらしい。

 どうやらこいつは全方位を監視できるレーダーを装備して空中から管制等をおこなう航空機と主任は言っていた。航空機に全く詳しくなかった事もあって、俺は知らずのうちにそのレーダーを偵察に使わせていたという訳だ。

 

 しかし、ここで一つ問題がある。これはホークアイ妖精達にではなく深海棲艦に、だ。

 

 深海棲艦はレーダーの類に一切反応せず、また深海棲艦の跋扈する海域は特殊な磁場のような状態となっており、衛星からの通信すら受け付けない状態になっているのだ。そのため深海棲艦との戦闘は人間艦娘問わず有視界戦闘が現行メインになっているらしい。戦い方がまさに艦娘達の元となった船達があった第2次世界大戦前辺りにまで一気に戻されているわけなのだ。

 

 ミノフス……ゲフン、何でもない。

 

 当然妖精搭乗のホークアイのレーダーもまたその深海棲艦に反応しない。

 だが、ホークアイ……いや、ホークアイに搭乗する妖精にはちょっとした特殊な力とでも言うべきか、そういうものがある。

 

 これはどうやら全ての妖精達が持っている力の一つらしいのだが、妖精達はどうやら物体に対して「融合」に近い形を取ることが出来るらしい。

 主任から聞いた話だと妖精達はまさにその「憑依」とも「融合」ともとれる形で物体に「乗り込み」自由自在に操ることが出来るという。

 で、ホークアイに搭乗する妖精達は、ホークアイの持っている広域レーダーの力と妖精の能力との融合かは不明だが、搭乗中に限り360度全方位の非常に広い範囲を「視覚として見渡す」事が出来るようになったそうだ。感覚としては360度全方向を見渡せるウサギの目が近いかもしれない。尤も、あっちとは違い視力も非常に良いという点もあるが。

 

 ケストレル艦載機達のミサイルの追尾性能もこのホークアイが「見て」いる敵の位置を艦載機達がデータリンクを行ってその場所に向けて発射しているからである。

 とは言え狙っているのが「対象」ではなく「場所」となっている為どうしても命中率が下がってしまうのだが、深海棲艦達は実艦時代の記憶に引っ張られることもあり基本直線的な動きしかしない。その為偏差射撃を行えばそれで大体当てられると言っていた。

 

 それともう一つ……これもまた主任の言葉らしいのだが、どうやら妖精搭乗の艦載機はジェット、レシプロとの性能差は確かにあれども、人間の搭乗する戦闘機程性能に大きな開きは無いと言っていた。

 しかしその代わりに、先程言っていた妖精との融合の度合や、航空戦闘適正の高い個体の搭乗等の要因によって、機体の性能がかなり上昇するそうだ。

 それこそ通常の妖精達が初めて搭乗した艦載機と、トップエース達の搭乗して融合率の上昇した艦載機とでは、艦載機の性能に非常に大きな開きがあると言っていた。

 ここのガルム隊が妖精となってからあまり戦闘に出ていないにも関わらず、2回の出撃両方で空の戦局をひっくり返すくらいの非常に高い能力を持っていた理由が、まさにこれがあったという訳だ。とは言えガルム隊の能力はこれに加えてベルカ戦争の激戦を生き残った経験も含まれているだろう。

 

 おまけにガルム隊も融合率の上昇により制空能力がさらに上昇する事があり得ると言っていたのだからなぁ……空母棲姫戦の時よりもまだ上があるとか……うん。

 

 これを聞いた時、一瞬「彼」とか「彼ら」が来たらもっとヤバい事になりそうな気がしたが、考えない事にした。うん。

 特に「彼」の方が来たら深海棲艦達の制空権が涙目な状態になりそうだからな……

 

 AMS……ネクスト……逆流……うっ頭が。

 

 

 

 おっと、話を戻そう(閑話休題)

 

 で、そのホークアイの「目」を利用して輸送ワ級或いは他の深海棲艦を探し出し、見つけ次第そこへ向かって撃破が現時点での俺達の行動パターンとなっている。

 今日の出撃の段階で撃破して残骸を回収した深海棲艦は雷巡チ級2体、駆逐ハ級1体、駆逐ロ級3体、重巡リ級2体。そしてターゲットの輸送ワ級4体だ。

 リ級2体に護衛された輸送隊を運よく見つけることが出来たのもあって中々いい具合に残骸が集まっている。

 ミサイルも現時点での使用はリ級相手に放った1発だけであり―――もう一体は山城が主砲で吹き飛ばしてた―――いい感じに黒字を出せるのではないかと内心思ってはいる。

 

 これで建造機械の修理が終わり、艦娘の建造を開始できるだろうと考えはしたが、やめた。

 これは無事に持って帰るまでは考えない事にしておこう。帰還中に襲撃を受けて残骸を全部失いましたなんて最悪の可能性もあり得るんだから……

 

 さてさて他に何か反応はあるかね……時間的にも日が傾きつつあるから、これで特に何も見当たらなければこのまま撤収も考えてはいるが……

 

 

 

 

 

 

 ………………ん?

 

 

 

「はて?」

「どうしたの圭?」

 

 近隣に何かないか目を凝らして見ていた時、かなり遠くの方で何かが動いたような気がしてそちらを向きつつも思わず口に出ていた。それを聞いた時雨が問いかけてくる。

 

「いや、何か波以外の何かが動いた気がしたんだ」

「どんな?」

「その辺までは分からん」

 

 本当に視界の片隅での事だった為、見間違いの可能性もあるからな。

 俺はその方向を凝視する。山城もまた気になったのか俺と同じ方向を見始めた。

 

 

 

 俺達の視線の先には青い海と青い空。そしてその2つが重なる水平線がどこまでも続いている。

 

 

 

 そして、その水平線にて僅かに昇る黒い煙のような何かが……っ!?

 

 

 

「ちょっと!?あれって何か燃えてる煙じゃないの!?」

「分かるのか!?」

「普通に航海している船ならあそこまで煙が勢いよく出てる筈が無いわよ!」

「という事は襲撃か戦闘の類か!?<ホークアイ、済まないが偵察を頼めるか?>」

≪了解しました!≫

 

 山城の驚愕の言葉に俺は驚きつつ直ぐにホークアイに命令を出す。

 

「俺達も戦闘態勢を取りつつ進んでみよう。敵の襲撃の可能性も考えて、敵戦力の状態によってはミサイルの使用も許可する」

「分かりました!」

「うん!」

「分かったわ」

 

 3人は頷きながら応答する。

 

 

 

 さて、一体何が起こってるんだろうか……場合によってはこの世界の人類との遭遇も考えないといけないな……

 

 

 

 

 

 

 ………………ん?あれは?

 

 煙の昇っている方向に進んでいくと、一つの影が見えて来た。そしてそれは段々とこちらへと近づいてくる。俺達がこのまま進路を変えずに行けば近くを通るコースだ。

 こんな海のど真ん中に人影が立っていることから相手はほぼ間違いなく艦娘か、或いは深海棲艦の類か……

 

「圭さん、あれって……」

「誰だろう?艦娘かな?」

「分からんな……深海棲艦の可能性もあるし……」

≪こちらでも確認しました。恐らく艦娘だと思われます≫

 

 俺達は戦闘態勢を崩さないままその影へと近づいていく。

 

 やがてその人影がある程度判別できる距離まで接近して、人影の正体がある程度判別できたが警戒は緩めない。

 とは言えホークアイ妖精の言ってた通り、この時点で向かって来ているのが深海棲艦である可能性は消えた。

 理由としては俺の知る限り、あいつら深海棲艦の人型は皆揃って水死体のような白い肌をしているのに対して、接近して来ている子は普通に血色の良い肌をしているからだ。

 

 それ以外の見た目としては黒いセーラー服の上下に白いスカーフを巻いており、そこに艤装を装備し、茶色の髪をポニーテールにまとめた少女。

 

 うん、艦娘ではあろうがどー見ても白露や時雨より年下にしか見えん。下手をすると小学生レベルの見た目だぞこの子……

 

 ただ、何か襲撃でも受けたのだろう。装備している艤装は所々に損傷が見受けられ、服も何か所か破れたり燃えたりして肌が僅かながらに見えている。

 

 

 

 そして何よりも、大泣きしながら必死にこちらへと向かって来たのだろう……その顔は涙でグシャグシャになっている。

 

 

 

 これは、状況からすれば……

 

 そしてその艦娘は俺達を認識するや否や進路をこちらへと変更し、進んで来て……

 

 

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!助けてえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 思いっ切り俺に泣きついて来た。いきなりな行動だったがこれは仕方あるまい。

 恐らくあの煙の元で何か襲撃の類を受けたのだろう。そのまま彼女だけが生き残り、逃げ延びることが出来たのだと推測する。

 そして偶然にも逃げ延びた先に、俺達が向かって来ているのが見えた。推測できるのはこの辺りか。

 

「と、兎に角落ち着いてくれ。一体何があったんだ?」

 

 俺は必死に彼女を赤子をあやす要領で慰めつつ、事情を聞いてみる。

 

「お、お、お姉ちゃんが、襲撃を受けて生き残ったあたしを逃がすために……ふえぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

「何だと!?」

「それじゃああそこにはまだ誰かがいるって事!?」

「ええい!艦載機隊、発艦始め!付近の偵察を!深海棲艦が確認された場合は戦闘を許可する!敵の艦種によってはミサイルの使用も検討してくれ!ホークアイはそのまま艦載機達の指揮に移行、頼むぞ!」

≪≪≪了解!≫≫≫

 

 少女を左手であやしつつ右手に発艦ユニットを持ち、未だ煙の昇る物体のある方向に向けて艦載機を発艦させる。

 ああもうまさかと思ってはいたが、案の定深海棲艦の襲撃か!

 

「兎に角俺達も行くぞ! 場合によっては救助も行う」

「貴方の姿を他の人に晒して大丈夫なの?」

 

 以前俺が言っていた人類との接触の件を思い出したのだろう、山城が問いかけてくる。

 しかし……こんな状況で俺の答えは決まっている。

 

「この状況でそんな悠長な事は言っていられない。偽善かもしれないけど、人を助けられるであろう状態なのに、それを放置して目の前で死なせるなんてのは……嫌だから」

「圭……」

「すまん。これは俺の我が儘だ」

 

 

 

 思い出すのは、目の前で死んだ両親の事。

 突然の事だったあの時とは違い、今は俺の行動次第では助けられる命があるかもしれないのだ。

 

 だったら……やっぱりあの時みたいな事にならない為にも……自分の手で助けられる命は可能な限り助けたい。

 

 本当、我が儘な上に甘い男だよな俺は。

 

「まったく……分かったわ。この艦隊の旗艦は貴方なんだし、貴方の考えに従うわよ」

「すまん」

 

 頭を下げた俺に山城はそっぽを向いて、それ以上は何も言わずそのまま先頭を進んでいった。

 

「私達も行くよ時雨!」

「うん!」

「すまん2人とも。こっちの我が儘に付き合わせて」

「気にしてないよ圭さん!」

「僕達は僕達の意思でここにいるから」

 

 2人は俺に笑顔を向けてから進んでいく。

 

「ありがとう……俺の我が儘に付き合ってくれて」

 

 俺は自分以外に聞こえないように小さく呟いた。

 

 さて、俺も行くとしよう。

 

 

 

 ―――Side out―――

 

 

 

 ―――Side ???―――

 

 

 

「ハァ……ハァ……次は」

 

 15.2cm連装砲を構えたまま、肩で息をしながら彼女は周囲の状況を確認する。

 彼女の周りには本来守る筈であった、今はもう沈みつつある輸送船の残骸が浮かんでいる。

 対して深海棲艦達は駆逐ニ級が2体程やられはしたものの、それ以外の相手は殆どダメージらしいものを受けていない。

 

「完全に……任務失敗ですね。やられてしまいました」

 

 イレギュラーな事態に遭遇したとはいえ、護衛対象は最早海の藻屑。あまつさえ自分の指揮下にいた他の艦娘も「あの子」以外全員が沈んでいる。

 だけど……だけどこれだけでは終われない。終わらせるのは、彼女自身の「かつて」と「今」の2度の生において務めた水雷戦隊旗艦の矜持が許さない。

 

「だけど、最後まで……最後の砲塔一つとなっても……」

 

 既に視界もぼやけている中、彼女は歯を食いしばりながらも砲を持つ手に力を籠める。

 

 最早この命は捨てた。「かつて」と同じように「今」もまた、仲間を逃すために自らを囮とし、ここを死地とした。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 あらん限りの声を上げて砲を撃つ。めくら撃ちの為直撃弾は期待しないがそれでも時間稼ぎの牽制となればそれでよし。

 

 撃つ。撃つ。撃つ。ただひたすらに撃つ。回避も、思考も捨ててただひたすらに撃つ。

 

 

 

 そんな状態だからこそ……彼女は気付かなかった。

 

 

 

 深海棲艦達がまるで何かを待っているかのように、彼女の意識を自分達に固定するかのように動いていることを……

 

 

 

 しかし……彼女も、深海棲艦達も想定だにしていなかった事があった。

 

 

 

≪敵艦隊を確認。重巡リ級と軽巡ヘ級の通常型とエリート型が各1の計4、雷巡チ級1、駆逐ハ級2の合計7隻と判定。また船舶の残骸と思われる浮遊物付近に艦娘を1人確認しました≫

<了解だ。戦闘機隊はそのまま深海棲艦への攻撃を。とりあえず全機搭載できるようにしてもらったUGBで敵艦を攻撃。ただし、重巡リ級はA-10隊で当たってくれ。そこにいる他の深海棲艦よりしぶといからな。お前達お気に入りのアベンジャーでハチの巣にしてやれ>

≪≪≪了解!≫≫≫

 

 

 

「…………これは一体……」

 

 気力を振り絞って砲撃を行おうとした矢先、空を切り裂くかのような音と共に、落下してきた物体が軽巡ヘ級に直撃、爆散したのを見て彼女は呆然とする。

 航空機の類であろう物体からの爆撃。そう理解するのに僅かばかりの時間を要したが、直ぐに思考を戻し、上空を見やる。

 

 それは、「彼女」の撤退した方向から飛来してきた、艦船時代において見たことの無い戦闘機。

 零戦等のプロペラ機とは明らかに違う機体。

 彼女の知る空母艦娘が使用する戦闘機とも、深海棲艦達の放ってくる戦闘機とも違うそれ。

 

 それが、まるで獲物を見つけた猛禽のように深海棲艦達に攻撃を開始するさまを見て彼女は理解した。

 

 

 

 突然の第3軍の介入。

 

「味方……ですか?」

 

 現れた戦闘機はこちらには目もくれず深海棲艦達だけを狙うように動き、攻撃を行っている光景を見て誰にともなく呟く。

 奴らだけを狙っているからと言ってそれだけで断定したものの、単に脅威度の高い方を優先的に潰している可能性も考える。

 

 だが、後者の考えは直ぐに捨てた。自分の方に自身を狙った攻撃の類が全く来ない事がその理由だった。仮に脅威度の高低で戦っているのなら、自分を狙うそぶりを行ってもいいはずだから。

 

 

 

<圭さん!ちょっとまずいかも!>

<どうした白露!?>

<60から通信があって潜水艦の反応をキャッチしたみたい!あの艦娘さんに魚雷が発射されたって!>

<マジか!?ええい糞っ!!>

 

 

 

「これなら、行k」

 

 皆まで言うよりも早く

 

 突如として足元で爆発が起き、立ち上がった水柱とともに彼女は体を叩き出され、近くに浮かんでいた船の残骸に半ば激突する形で倒れ込んだ。

 混乱する思考の中で必死に体を残骸の上でくねらせ、やっとの思いで足元を見て、愕然とした。

 

 足が、爆発の衝撃によってかあり得ない方向に折れ曲がっており、靴となっていた艤装も完全に破壊されていた。これでは水の上に立てたとしても、まともに動くことすら出来ない。

 

(どう……して……)

 

 必死に状況を判断するも熱さを感じるような痛みや衝撃により視界と共に揺れる思考がまともな判断を生もうとしなかった。

 

 何故何もいないところから攻撃を受けたのか死角からの攻撃か砲撃か砲撃なら直撃した時点で自分の体にダメージが出てる筈なぜ足元だけなのか雷撃か雷撃なら魚雷を放った敵がいるだが周囲の深海棲艦はそんな素振りすら見せなかったまさか他に敵が上空の艦載機かだがあれはこちらに攻撃をしようとしなかったならば何処に水中にでも……

 

 

 

(そう……でしたか)

 

 そこで気付く。水中に敵がいたという事に。攻撃の手が緩かった理由はもしかするとこれを狙っていたのかもしれない。

 恐らく自分を狙ったのは艦隊と一緒に行動していたであろう敵の潜水級。こうして輸送船なりを襲撃して、動けなくなった所を嬲り殺しにするつもりだったのか、或いはそれ以外の理由があったのか、その辺りは理解できない。

 

 とは言え、所属不明の艦載機の出現は奴らにとってもイレギュラーな事態だったと思われる。

 しかし、そんな状況でも呆然とし、微動だにしなかった自分を狙うのはさぞかし簡単な事だっただろう。

 

 最早体も碌に動かない。視界も段々と狭まってきている。瞼を必死に開けようにも体が言う事を聞かない。体の方も次第に冷たくなっていく。

 自分はもうここまでなんだと、鈍くなっていく思考の中でも嫌と言うほど理解できた。

 

(ごめんなさい文月さん……私も本当は生きて帰りたかったけど、できそうもありません……せめてあなただけでも……)

 

 彼女が最後に思ったのは、艦隊の中でたった一人生き残り、自分を捨てて逃げるよう最後に命じた僚艦の艦娘に対する謝罪と、心の中で抑えていた本音だった。

 

 

 

 そしてその思いを最後に彼女―――軽巡洋艦「神通」―――は、意識を闇に沈めていった。

 

 

 

 今際の際に、視界の隅に移った……「誰か」がこちらへと向かって来ているかの様な動き。だが、それが誰なのか理解することもできずに……




\敵の潜水艦を発見!/

いかがだったでしょうか。今回は設定説明及び新艦娘2名登場回でした。
設定に関しては現代のジェット戦闘機と第2次世界大戦時点での戦闘機の性能差と艦これ内部でのノーマル艦載機とネームド艦載機の性能差の二点を鑑みて、自分なりに設定を考えて出しました。

作中でパクリ元言ってる?何のことやら。

それと新艦娘のかたわれの文ちゃんですが、リアル友人の提督Y(文月嫁提督)から
「文月が出てこないのはこのお話の世界の損失である。よって彼女を出すことこそが救われる唯一無二の道であるのだ。さあ、文月を直ぐに出すのだ。そして世に文月のあらんことを」
というありがたい脅迫……もとい、O☆HA☆NA☆SHI……もとい、提案を受けた為だったりします。

それではこの辺にて。次回でお会いしまs

アイエェェェェェェェェェッ!友人Y!?友人Yナンデ!?ってやめろくぁwせdrftgyふじこ!!

さ、先程の友人Yの台詞は……全て作者の創作です……ガクッ(大破
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