Fleet Combat -Dawn of the horizontal line- 作:大川静真
4月半ばの熊本県の地震の被害に遭われた方はご無事でしょうか?
自分は福岡県の北部に住んでいる為何とか無事でした。
さて今回は前回の続きの前にとあるキャラの視点からの開始となります。
それではどうぞ。
―――Side 白露―――
白露型駆逐艦1番艦の艦娘である白露。駆逐イ級特異個体の中に取り込まれていた彼女の記憶の復活は比較的早い時期だった。
深海棲艦の中で取り込まれていた感覚は時雨のそれと大差無かったが、圭に救出され目を覚ました後に一人で竹ヶ島基地を散策していた時から既に既視感のような物を感じていた。
襲撃を受けて破壊されたいくつかの建物。奇跡的に無傷であった艦娘用の宿舎。学生寮のそれに近いその建物の廊下を歩いていた時から感じていた懐かしい光景。
それが、この基地に来た時から続いていたのだ。
とはいえその何処か見慣れた風景だけで彼女の記憶が完全に蘇ることは無く、決定打となったのはもっと別の事であった。
そう、時雨が記憶を取り戻した時とは似て非なる状況。
あの日。深海棲艦の襲撃を受けていた山城の救出に向かったあの時。
まさに戦艦ル級の砲撃が圭を沈めんとしていたその時に、彼女の思考は固定され、同時にあの時の記憶がフラッシュバックして……
気が付けばあらん限りの声と共にハープーンミサイルをル級目がけて発射していた。
彼女の記憶が復活したのはまさにその時だった。
記憶の復活による自分の過去もまた衝撃的ではあった。だが、時雨とは違い白露の方はこの島に来てからの既視感が続いていたこともあってかさほど大きな衝撃では無かった。
しかし、その圭を助けた一件からいつしか白露は無意識の内に圭をチラチラ程度だが見るようになって行った。
何故かは彼女自身にも分からない。ただ気が付くと視線が圭の方向へと向かっているのだ。
そして同時に、圭を見ていると自身の動悸が激しくなることにも気づいていた。
彼女自身この感覚が実艦時代を含めて初めての体験であった為、どんな理由でこんな無意識に行動してしまうのか理解が及ばなかった。
そして……圭が時雨や山城と仲良く―――山城とは口喧嘩の類が散見されたが―――会話している光景を見ると、自分の胸が締め付けられるような感覚に陥ることが多々あった。
身体的に痛みを感じる訳では無かったが、その錯覚もまた白露を都度苦しめた。それでも圭達に心配はかけさせるまいと思い、必死に笑顔を繕ってごまかしていた。
せめて、自分自身がこの感覚の正体を掴むまでは……
しかし、そんな自分の心に一つの転機が訪れた。
突如として乱入した空母棲姫。そして圭の負傷による戦闘不能。
確かにそれもまた大きな衝撃を受けた。かつてのこの島の提督の最後と似た状況。かつての最後の光景をフラッシュバックさせる光景。
その時自分以上に錯乱していた時雨だったが、もしかすると彼女の記憶が蘇る切っ掛けとなったのはまさにその時だろうと白露は推測している。
だが、問題は……問題なのはそこでは無かった。
その事件が起きた翌日の朝から……圭と時雨の関係が何処か変化しているのに気が付いた……否、気が付いてしまったというべきだろう。
傍から見たら殆ど変っていないような、前までの2人とさしたる変化の無いような2人の距離感。その、ほんの僅かな変化を彼女は見落とさずに気が付いたのだ。
そして、あの日。白露は見てしまった。
圭と時雨の2人が気恥ずかしそうに手を繋ぎながら歩いて行く姿を……偶然にも寮の廊下の窓から見てしまったのだ。
それを見た瞬間白露の目からまるで感情が堰を切って漏れ出るかのように、大粒の涙が溢れ出した。そして、同時に今までのとははるかに違う大きな胸の痛みもまた涙と共に襲って来たのだ。
止まることの無い涙を床に落とし、力なくへたり込みながらそこで白露はこの感情の正体を理解した。
アア、私ハ…………圭サンノ事ガ、大好キダッタンダナ。圭サンニトッテノ一番ニナリタカッタンダナ。
しかし、最早その願いは叶わない。
圭にとっての一番の場所には既に自分の妹がいる。もう自分は圭の一番にはなることはできない。もう圭は自分に振り向いてくれない。
確かに、その座を奪い取ることだってやれば出来るのだろう。
だけど……そんな事は出来ない。時雨は自分の大切な妹なのだ。妹を悲しませるなんて真似は絶対に出来ない。
ダッテ私ハ白露型駆逐艦一番艦ダカラ……一番上ノオ姉チャンダカラ……妹タチヲ笑顔デ祝福シテアゲナイトイケナイカラ……
その後直ぐに白露はその場を去って自らの部屋へと向かい、そこで1人、誰にも知られないように泣いた。
圭が全員に個室を用意してくれたのが幸いした。
こんなみっともない姿を晒さなくて済むから。一番上のお姉ちゃんとして恥ずかしい姿を見せなくて済んだから。圭や時雨に心配かけさせるわけにはいかないから……
白露にとって、自分の恋心は……始まる前から既に終わっていたのだった。
その白露の中における失恋から数日たったこの日。
≪艦娘への魚雷命中を確認!≫
<糞!間に合わなかったか!兎に角急いで救出してこの海域を離脱するぞ!艦娘の救助を優先!深海棲艦の撃破は努力目標だ!>
<分かりました!>
<分かったわ!>
<うん!>
「よし。そこの艦娘、名前は?」
「ふ、文月だよ……」
「分かった文月、これから君のお姉ちゃんとやらを助けに行くから手伝ってくれるか?」
「うん!」
「色々と聞きたいことがあるかもしれんがそれは事が終わってからで頼むぞ。文月はここで白露と一緒に敵への牽制を頼む」
「う、うん!」
圭が艦娘―――名前は文月というようだ―――と打ち合わせを行い、その後皆に通信を行う。
<皆は深海棲艦に攻撃を行って牽制!時雨と山城、白露と文月のタッグで行動してくれ。救出は俺が行う。俺が戻ってき次第そのまま撤退、その後合流する。それでいいか!?>
<敵を全滅させてから探索はしないの?>
圭の指示に山城が別の案を通信で持ちかけて来た。が、圭の考えは変わらないようで、さして表情を変えずに返答する。
<それがいいかもしれんが、ここで時間をかけすぎると異常を察知した敵が増援として来る可能性がある。そうならない為にも迅速に事を終わらせるしかあるまい。出来る限り救出はしたいのは確かだが、深海棲艦共はそれを許しちゃくれないだろうからな>
<分かったわ>
<とはいえ念の為周囲の探索は行うべきか……ホークアイとトムキャット隊内の2機はそのまま周囲の探索を!白露と時雨の60は潜水艦の警戒に当たってくれ!>
≪≪≪了解!≫≫≫
<よし、作戦開始!>
開始の号令を放ってすぐに、圭は艦娘の方へと一直線に進んでいく。白露、文月共に圭の行動開始を見て敵に砲撃を行い始める。時雨と山城は2人で行動を開始し、深海棲艦達の側面を取るために移動して行った。
深海棲艦達は自分達を撃つべき脅威と判断したのか、思い思いに攻撃を開始する。
「文月ちゃん!攻撃するよ!」
「はい!」
「行っけえぇぇぇぇっ!!」
「攻撃開始!」
合図とともに2人は同時に砲撃を開始した。あまり正確に狙いは付けず、しかし相手の意識をこちらに向けるように。
微妙な調整が難しいが兎に角撃つ。
≪反応検知!敵の潜水艦を発見!≫
≪駄目だ!≫
≪駄目だ!≫
≪駄目だ!≫
<お前ら何でそれで駄目なんだよ!?遊んでんじゃないだろうな!?>
≪す、すいません!つい無意識の内に!≫
妖精達が何故か妙なコントとも取れる掛け合いを行っていたが圭に思いっ切り怒られ押し黙る。
と、そこへ重巡リ級が砲をこちらに向けているのを白露は確認した。
「リ級が狙ってる!」
「はい!」
白露の言葉に文月は頷きお互い左右に散開する。直後に白露のいた場所に大きな水柱が立つが、既に移動している為白露自身は気にしない。
むしろ相手の気をこちらに向けている為圭が行動しやすい状況に持ち込めているのだからこちらの想定通りに事が運んでいると思うべきだろう。
≪よし、アベンジャーを味わうがいい!≫
ふとやって来た通信に上空を見るとA-10―――機種はこの艤装を装備した時に知識として流れ込んで来た―――が2機程急降下して来る。
異変を察知したリ級エリートが上空を見て迎撃態勢を取ろうとするが、遅い。
そのまま機首部分に装備されたアベンジャーが火を噴いてリ級エリートをハチの巣にし、爆散させた。残り6……否、7だと白露は口に出さずに頭の中で訂正する。
あれから攻撃は仕掛けてきていないものの、自分達の足下にはまだ……敵がいるのだ……
一番嫌な思い出が……かつて自分が沈む原因となった潜水艦が……
「っ!?」
その時、圭達を見ていた時のものとはまた別の動悸が襲ってくるのを白露は理解した。あの時みたいな事が起きるかもしれないと思ってしまったが為に。
あの時……自分は……
それよりも今は戦いに集中しないととかぶりを振り、砲を敵に向け砲撃を行うも、気が付くとあの時の事を考えてしまう。
「う……うあ……」
体の奥底からどす黒い
息が荒くなっていく。
体を思いっ切り動かした訳でもなく、暑い訳でもない。だというのに汗が体中から噴き出してくる。
何故?どうして?
攻撃しなきゃならないのに……こちらに敵の思考を引きつけなきゃいけないのに……体が思うように動かない。
かつての駆逐艦白露としての記憶が……あの時を思い起こさせ……そして
「おい!白露!!」
そこへ、声がかけられ……白露は我に返る。
慌ててそちらを振り向くと艦娘を抱き抱えた圭が立っていた。どうやら無事に艦娘を助け出し、戻ってきたようだ。
「えっ?あ、う……圭さん!?」
「なにボケっと突っ立っているんだ!撤退するぞ!」
「う、うん!」
「文月、お前もこっちに来い!<時雨、山城!対象の確保完了!撤退するぞ!艦載機隊も撤退開始してくれ!>」
「はい!」
<分かったわ!>
<うん!>
≪≪≪了解!≫≫≫
そのまま圭と一緒に撤退を開始するが、敵はそれを許そうとはせず追撃を始めた。
「一体どうした白露、さっきから様子がおかしいぞ?」
あれから少しばかりの時間が経過して、現在進行形で撤退中の自分達。艦娘を抱き抱えた圭が先頭を走り白露と文月がその両脇を護衛し、殿を時雨と山城の2人が担当していた。
敵は今も尚追撃を行ってはいるが、旗艦だったのであろうリ級エリートが沈んだためかその動きに統一性が見られない。
時雨と山城の2人はこれ幸いと時折後ろを振り向いては砲撃を行い時に牽制狙いで乱雑に、時に撃沈狙いで照準を合わせて砲撃を行っている。
そんな折に圭が問いかけてくる。白露がそちらを見ると心配そうな目でこちらを見ていた。
「ごめんなさい圭さん。ちょっと気分悪くって……でももう大丈夫だよ!「こういう時ぐらい本音をはいたらどうだ」はう……」
彼にこれ以上心配をかけまいと白露は多少無理してでも笑顔を向ける。しかし、圭には完全にお見通しだったようであっさりと嘘がばれた。
「取り繕ってはいるみたいだが、今のお前は必死に笑顔を作ってるみたいだぞ。正直そういう顔はあまり見たくない。悩みの類だったら聞くぐらいは出来るが、どうだ?」
現時点におけるその悩みの種の原因の一つにこう言われてしまうのが、圭には悪いが少しだけ癪に障った。
「ごめんね圭さん。ちょっと個人的な事でいろいろ悩んでたから……でも大丈夫、今はもう解決してるし、圭さんに迷惑はかけないから♪」
「…………そうか」
さすがにこれ以上深入りするのは憚れるのか、笑顔を向けてきた白露に圭はそれ以上追及してこなかった。
これでいい、これでいいのだと……そう白露は自らの中で結論付けた。
圭と時雨が好き合っているのは理解している。自分が想いを伝えて余計な諍いを呼び込むわけには行かないのだ。自分の想いを抑えておかなければいけないのは苦しいけど、自分は一番お姉ちゃんだから、自分の我が儘で2人を不幸に陥れたくないから、自分は時雨の恋を応援してあげないといけないから、だから……我慢しないといけないんだ。
あの潜水艦の件も……すごく怖いけど自分で解決しないといけないから……一番お姉ちゃんだから自分で切り開くところを見せてあげないといけないのだ……
<60隊、そう言えば潜水艦の奴はどうなっている?>
≪駄目ですね。依然としてこちらを追跡しています≫
<そうか……何とかして撒きたいところだが、負傷した艦娘を抱えたままだからあまりスピードを出す訳にもいかんからな……>
<圭、僕が爆雷撃ってもいいかな?>
潜水艦対策に頭を抱えていたところに時雨から通信が入る。
<分かった、頼めるか≪ケストレル!新たな敵影を検知しました!≫何だと!?>
<この忙しい時に!ああもう不幸だわ!>
突然の増援に山城の悪態が通信機越しに聞こえてくる。
≪接近している深海棲艦を検知。数は4、軽巡ト級1と駆逐ロ級が3の水雷戦隊です!このまま行けば調度挟み撃ちに近い形になると思われます!≫
<了解だ。山城、そっちは現状どんな感じだ?>
<こちら山城、現在へ級を通常とエリートの2体を撃破しているわ>
<分かった。A-10隊は帰還済みだから仕方ないとして、山城と時雨の2人はそのまま追撃を行う敵への牽制……いやもう撃破でいい!前の敵は俺の艦載機隊の残りと白露で何とかする!ただし、くれぐれも潜水艦の魚雷には注意しろ!60隊は引き続き潜水艦への警戒を!魚雷が発射されたら直ぐに連絡してくれ!>
≪了解です!≫
そこで圭は一旦通信を切り、文月へと顔を向ける。
「敵の増援が来た。俺の艦載機達と白露で対応するから文月は俺と一緒にお姉ちゃんを連れていくぞ」
「ふえ?増援が来たのが分かるの?」
「艦載機達が優秀だからな。とは言え護衛がいなくなるから、いざという時は戦闘を頼むが……出来るか?」
「う、うん!分かったよ!」
「よし、いい子だ」
そして白露に向き直り、続ける。
「通信で言った通りだ。敵の増援の対応を俺の艦載機隊と共同で頼むが、行けるな白露?」
「大丈夫!いっちばん頑張るよ!」
「一番頑張ってくれるのは嬉しいが、周りを頼るのもまた仕事だからな。不味いと思ったらその時は遠慮なく言ってくれ。1人で全部出来るなんて思わないでくれよ」
「はーい!」
「よし、発艦始め!前方の水雷戦隊とやらを白露と共闘して撃破してくれ!頼むぞ!」
≪≪≪了解!≫≫≫
圭がそう言ってくれたのは凄く嬉しい。
だけど……やっぱり白露型駆逐艦の一番艦として無様な姿は見せたくないから……
「いっちばーーーーん!!」
今は戦う。あの失恋を少しでも忘れる為に……潜水艦への恐怖を振り払う為に……圭達を無事に基地に帰還させるために。
(大丈夫、大丈夫。潜水艦なんて怖くない……大丈夫……何も怖くない……私は白露型駆逐艦一番艦白露だから……一番お姉ちゃんだから怖くない)
―――Side Out―――
―――Side 圭―――
「白露の奴……何を考えている?」
「どうかしたんですか?」
「あ、いや、こっちの話だから気にしなくていいぞ文月」
あの日……一部の艦載機やミサイルの使用制限を決めたあの日から感じる白露への違和感が拭えない俺は誰にともなく呟いた。どうやらそれが文月の耳に入ったようで問いかけて来た為、俺は慌てて取り繕う。
白露の普段の行動やら表情やらには特に変化は見られない。見られないのだが……ううむ……
何やら悩みがあるのではないかと先程問いかけては見たが、どうにも茶を濁されたとしか思えない。
とは言えこればっかりは彼女が口を開かない以上は深入りする訳にも行くまい。彼女自身が問題を解決しようとしているかもしれないし、その問題に竹ヶ島基地で一緒に暮らしているとは言え部外者の俺が土足で入り込む訳にも行かない。
だが今は目の前の敵の問題だ。そっちに集中集中。
どうやら白露達や艦載機部隊も敵の増援―――水雷戦隊と言ってたな。意味はよく分からないが―――と戦闘を開始したようで、後方での時雨と山城に加えてこちらもドンパチ賑やかになり始めた。
「取りあえずみんなが深海棲艦達の足を止めている間に俺達のいる基地に向かうから付いて来てくれ」
「はい!」
そのまま俺は艦娘を抱き抱え、傍に文月を連れたまま先に進んで行く。戦況がどうなっているか分からないが、今回は艦娘の命が最優先だ。
<圭、こちら山城。追撃してきた敵艦隊を撃破したわ>
<分かった。山城はこっちに来て俺の護衛についてくれ。時雨はそのまま白露の方に向かって2人で増援の水雷戦隊を頼む。先も言ったが潜水艦の雷撃には十分注意してくれよ>
<分かったわ>
<うん>
<白露も聞こえてるな?そっちに時雨が向かうからもう少しだけ頑張ってくれ>
俺は白露にも通信を送る。しかし……
<こっちは大丈夫!私だけでもいっちばん戦えるから!>
<いや待て、そっちはお前一人だけで敵艦隊の相手とか無茶でしかないだろ!?>
<大丈夫大丈夫!それに圭さんも以前一人で戦闘してたじゃん!>
<あの時とは状況が違うんだ!とにかくこっちの言うことを聞いてくれ!>
いきなりの単独行動宣言に俺は声を荒げるものの、白露は聞く耳持たずと言った感じでさらに敵の水雷戦隊に近づいて行く。
あの野郎何があったのか知らないが、やっぱり何かおかしいぞ!
<糞っ!聞く耳持たずかよ!時雨、悪いが少し急いでくれ!>
<うん!>
≪ケストレル!新たな敵の増援を確認しました!≫
<んだとおっ!?>
どうやら敵とやらはこんな状況の俺達を放っておいてはくれない様で、唐突に訪れるさらなる増援に俺は驚愕した。
<ええい糞っ!敵の数は!?>
≪軽巡ホ級1と駆逐ロ級及びイ級がそれぞれ2の計5体です!先ほどの増援のさらに後方から向かって来ています!≫
<また水雷戦隊という奴らか!?艦載機隊、対艦じゃないがミサイルの使用を許可する!状況的に仕方ない!山城、済まないが進路変更!お前も白露達と一緒に迎撃を頼む!>
<艦娘使いが荒いわね貴方!まあいいわ!>
≪分かりました!≫
こうも増援が続くとさすがに厳しいと俺は判断し、艦載機隊に敵増援の速攻撃破の為にミサイルを解禁させ、山城も白露の方に向かわせる。対艦ミサイルを装備させていなかったのがここに来て仇となったが、現状の敵は最大でも軽巡級だ。空対空ミサイルの本来の用途では無いとは言え特に問題は無いと思う。
山城が愚痴を言っていたがこれに関しては無視。
「文月!増援が来るから引き続き警戒を頼む!」
「だ、大丈夫ですか?」
「正直分からん。だが、お前とお姉ちゃんは何としても助け出すよ」
彼女を不安にさせない為にも俺は文月に少しだけ微笑みを向け、そのまま前を向き移動を再開した。文月もまた俺の後ろを付いて行き始める。
敵の増援とこちらの白露達と俺の艦載機部隊。艦船の数では向こうが勝ってはいるが、こちらは制空権を掌握しているという戦況。さてどう出るか……
ってそう言えば!
<60隊、敵の潜水艦の様子はどうなっている!?>
≪現状特に動きは……っ!前言撤回!たった今魚雷が発射されました!恐らく狙いはそちらです!≫
「<分かった!>文月、潜水艦の魚雷が来る、散開!」
「ふえっ!?」
「早く!」
通信を切り文月に放った俺の言葉に彼女は反応が遅れるがすぐに理解し進路を変更する。俺もまた艦娘を抱えたまま進路を横に90度変えて本来向かう予定の進路から大きく移動、つい今しがた俺達がいた場所から少しでも距離を開けるよう動く。
そして俺と文月が離れたその数秒後、調度俺達がいた場所の、何も無かった筈のその海面から戦艦の砲撃とも取れるくらいの大きな水柱が上がった。
即座にその爆発の原因を俺は理解する。つい今しがた60隊から通信にもあったとおりの奴だろう。
これが……潜水艦の雷撃って奴か……
今回は60隊の報告があったからよかったものの、攻撃やその兆候を目視で捕らえることが出来ないってのはかなりの脅威だな。潜水艦が恐れられている理由が何となくわかった気がする。
とは言え魚雷がいきなり爆発したのには何らかのアクシデントがあったのか、或いはそこで爆発させるよう細工が施されていたのかまでは分からない。まあ恐らく後者の可能性が高いだろうな。
「文月、大丈夫か!?」
「あたしは大丈夫です!」
「よし、このまま撤退を再開、<60隊は引き続き潜水艦の動向を見て雷撃があったら伝えてくれ!>文月は俺の言葉で直ぐに動けるように!頼むぞ!」
≪了解です!≫
「はい!」
インカムで通信を入れて合流してきた文月にも指示を出す。メンバーの動向を見つつこちらも潜水艦の雷撃をかわしながら撤退する……かなり忙しいが、この2人を無事に連れ戻すためだ。弱音なんて言ってられる場合じゃない。
<いっちばん最初に攻撃します!>
<主砲、よく狙って……撃てーーー!>
<見つけたよ!>
≪投下、投下≫
≪A-10隊に負けてられっかー!俺達は水面ギリギリの低空からの攻撃をーーー!≫
≪何やってるんだホーネット隊!危ないぞ!≫
通信機から向こうでドンパチやってる艦載機隊や白露達の声が聞こえるが、何やらホーネット隊がA-10隊に妙なライバル心を持って無茶をやってるようだ……大丈夫なのかねあいつら。
まあ向こうの方は大丈夫だと思いたい……多分。
しっかし、こちらを延々と追跡して魚雷を撃ってくる潜水艦がうっとおしいったらありゃしない。何か対策が無いものか……
潜水艦対策の白露達は増援の対処で手いっぱいみたいだし、山城に対潜攻撃を期待する訳には行かない。というかそもそも戦艦に対潜攻撃って出来ないみたいだしな。
対潜ヘリの類である60隊は今まで哨戒、探索及び深海棲艦の残骸回収をメインにしていた為に対潜武装を装備させていなかったが、その選択がここに来て仇になったし……ああもう機関銃以外の武装も念のために装備させておけば良かった!俺の馬鹿!
……ん?潜水艦対策?
ふと思い当たる節のあった俺はすぐさま首をそちらに向ける。彼女の方は出会ったときと同じ、多少の損傷はあれどまだまだ行動に大きな問題はないと言った所だろう。
そう……恐らく駆逐艦であろう艦娘の、文月。
「すまん文月、ちょっと無学な俺に聞かせて欲しい。お前は駆逐艦の艦娘であってるんだよな?」
「え?は、はい。そ~ですけど」
突然の質問に文月は戸惑いつつも頷く。そして俺のある程度予想していた通りの答えが返って来た。まあ単に見た目が子供っぽいから駆逐艦の類かという酷いヤマ勘だったんだがな。
とはいえ彼女が駆逐艦だったなら話は早い。以前主任から聞いた話だと当時の駆逐艦の役割の一つに対潜攻撃があるらしいが……さて、やってくれるかね……
「OK分かった。文月、潜水艦用の攻撃手段を今持ってるか?持ってるなら潜水艦に向けて攻撃できるか?」
「ごめんなさい……あたし爆雷は持ってるけど、潜水艦の位置が分かんないの」
文月は申し訳なさそうに言う。位置が分からない程度ならば対策はある。
俺はすかさずインカムから通信を行う。
<60隊、すまんが潜水艦のいる位置の真上に移動してくれないか?文月に潜水艦への攻撃を行わせたいが位置が分からないらしい。だからお前達が目印になって欲しいんだ>
≪分かりました。そういう事ならお安い御用です≫
よし、これで潜水艦の位置が分かるようにはなった。後は
「よし、文月。今ヘリコプター……って分かるか?兎に角今から航空機達に潜水艦のちょうど真上に陣取らせるから、それを目印に攻撃してくれるか?」
「ふえっ?出来るんですか?」
並走しながらの文月の問いかけに俺は無言で頷く。
「ああ、現状あのうっとおしい潜水艦相手で頼みになるのがお前だけだ。頼む」
「うん、分かったよ!」
「よし、いい子だ≪ケストレル!再度魚雷の発射を確認!≫散開!その後攻撃を!」
「うん!」
60隊の通信が割り込んで来たが俺は冷静に指示を出す。それを聞いて力強く頷いた文月は俺と同じタイミングで左右に分かれ、そのまま動きながら60隊が飛んでいる方向を向いた。そして
「これでも喰らえ~!」
何やら手持ちサイズのドラム缶らしき物体を投擲した。初めて見るがあれが対潜兵装の一つの爆雷なのかね?
文月の投げた爆雷と思われるそれは待機している60隊の真下の海面に沈んでいき……
しばしの後、僅かに水面が振動を起こした。これは……当たったという事でいいのか?
「これは、当たったのか?」
「た、多分」
撃った当人が分からないってのもなぁ……
だが、変化が訪れたのはすぐであった。爆雷が落ちたあたりの海面が少しばかり波を立て始めていったのだ。
そして……
「ギエアァァァァァァァァァァッ!!」
喩え様の無い絶叫を上げて海面から顔を出してきたのは潜水艦と思われる深海棲艦だった。
まるで女性の水死体のような体と長い髪をしており口元にはシュノーケルと思わしきものをつけた深海棲艦。
艤装を装備した時に一緒に流れ込んで来た知識にある。知識に相違が無ければ恐らくあれは潜水カ級……そして紅いオーラを出している為エリート個体の類だというのが分かる。
こんな所にまでエリート個体が出っ張って来るとはね……まあいいさ。
「攻撃開始!」
こうやって俺達の目の前に浮かび上がって来たのがカ級の運の尽き。将棋やチェスで言うところの「
小学生みたいな見た目とは言えかつて軍艦として戦っていたであろう文月がそんな隙を逃すことは無く、手に持った主砲を構えて砲撃、カ級を爆散させた。
「お見事、よくやったよ文月」
「えへへ♪」
≪ケストレル!直進している魚雷を確認!カ級が死ぬ間際に放った模様です!≫
文月の仕事を褒めていた所通信が入る。どうやらカ級の最後っ屁のようだ。
<どこに向かっている?>
≪少なくとも圭さん達の方には向かって……しまった!?≫
いきなり60妖精が何を理解したのか驚愕の声を上げる。そして……
≪偶然かは分かりませんが魚雷は白露さんの方向に向かっています!このまま行けば命中コースです!≫
最悪の可能性を伝える60隊のその言葉を聞き終わるよりも早く
<白露!今すぐよけろ!>
俺はインカム越しに白露に向けて思いっ切り声を上げていた。
だが
「…………えっ?」
白露が反応した時には既に遅く
彼女の足元から大きな水柱と共に爆発が白露を包み込んだ。
いかがでしょうか?
本来ならこの話で今回の一件は終わらせる予定でしたが、色々付け足していくうちに気が付けば1万字を越えていた為泣く泣くここで切ることとなりました。
やはり戦闘描写は難しいです。
それではこの辺にて。次回にてお会いしましょう。
文月の魔改造はどうしようか……