Fleet Combat -Dawn of the horizontal line- 作:大川静真
猛暑日が続きますがいかがお過ごしでしょうか?熱中症にならないように水分補給をしっかりと行いましょう。
さて今回は前回の予告通りあの艦娘の正体が分かります。
彼女が誰なのかは本編にて。
それではどうぞ。
神通と文月がこの基地の艦隊に参加したその翌日。俺は朝練を終えてシャワー室で汗を流していた。
まあいつもの事だが、今回は以前と事情が違ったわけだ。
シャワーを浴びる前に見た時刻は既に9時を過ぎていたのだが、現時点で俺どころか白露や時雨の2人も朝食にすらありつけていない。
その最大の理由としては先日ここの艦隊所属となった神通もまた朝練に参加してきた訳である。
「成る程。朝の訓練も欠かさずに行っていたのですね。では私も参加させてもらってもよろしいでしょうか?」
彼女の提案に特に拒否する理由も無かったので俺は二つ返事で了承したのだ。したのだが……
どうやら彼女、結構な鍛錬マニアなのか分からないがいきなりきっつい訓練メニューを出して来たのだ。
以前から朝練を行って来ていた為にある程度慣れていた俺はそこまで疲れる事は無かったものの、まだ完全には慣れてない時雨や本日初参加の白露は最早グロッキー状態と言わんばかりでぶっ倒れる寸前だった訳だ。
「鈍った体を慣らすために軽めのメニューを行ったつもりなのですが……」
「初日にいきなり10kmを走らせるのが普通なのかよオイ……」
大した汗もかかずに首を傾げる神通にその時の俺は力なく突っ込みを入れる事しかできなかったよ……こんなん鍛錬に慣れてない奴にやらせたら絶対体ぶっ壊すぞ……
その後つい先程まで体力づくりの訓練を集中的に行い現在は解散。俺は1人シャワー室にて汗を流しているわけである。
他の艦娘達は別のシャワー室で体の汗を流している。まあこの辺は本来なら男女の区別を行わないのが普通かも知れんが、ここでは現状こうしている。
しかし、神通は洗濯も自分が行うと言って俺達のトレーニング用に着てた服全部をさっさと持って行ってしまったが……あの時の神通は何故か鬼気迫るものがあったなぁ……
何だ、彼女は訓練と洗濯が好きなのかねぇ?かなりの量の汗を流してたから臭いとか大丈夫だろうかと心配してしまう。
…………ん?
はて?
シャワーを終えて着替える為更衣室に入り、ふと目に入った鏡に映った自分の体に……違和感を感じた。
何故か……どういう事か。
(俺の体って……こんなに引き締まってたか?)
ここに来る前に見た限りでは少なからず脂肪が付いた、メタボとは言わないにしろ鍛えられたような体つきでは無かった筈。
だというのに今鏡に映っている自分の姿は脂肪と言う物を極限まで切り詰めて代わりに筋肉を詰めたかのような引き締まった体つきをしている……細マッチョっていう体形なのかね?
ここに来て直ぐの時に見た俺の体にはそんなに筋肉は付いていなかったんだが……
話に聞く筋肉の超回復とかの類だろうか?それにしては1月ちょっとでここまで行くものなのだろうか?よく分からん……この辺の事って主任とか分からんだろうなぁ……うーん……
あまり気にしない方がいいかもな。もしかしたら艤装とか再生液剤のちょっとした応用の類かも知れんし、深く考えない事にしよう。
そのまま俺は着替えを行い更衣室を出ていった。
向かうのは……かつてこの基地がまだ機能していた時に執務室として使われていた部屋。
「それでは今からこの辺りの海域の状況を説明しますね」
「よろしく頼む神通」
「所で圭。どうして私まで一緒になっているのよ?」
「お前が何か暇そうにしていたからだよ山城」
「……」
「冗談だ」
山城が問いかけて来たので冗談で返したところ目を細めて睨んで来た。俺は彼女の反応を特に気にせず肩をすくませつつ続ける。
現在時刻は午前10時をまわった頃。俺と神通、山城の3人はかつて執務室と呼ばれていた所に集まっていた。
何故か俺は執務用に使われていたであろう机に座らされて右隣に山城が立ち、神通が机を挟んで向かい側でこの竹ヶ島周辺の地図―――海図?どっちだっけ?―――を広げる。
九州沖縄地方の地図であるのだが、これからして竹ヶ島はどうやら鹿児島県と沖縄県のちょうど中間、琉球海溝を挟んだ太平洋側に位置しているようだ。勿論俺の知る限り、元いた世界には存在しなかった島だ。
さて、とりあえず山城に理由を説明しておこう。
「本当の所を言えばお前もまた「外」からの来訪者だからだよ。白露や時雨は元々この基地が陥落する前にいた子だし、前任の扱いを考えるに「外」の状況を碌に知らないと俺が判断したからだよ」
「それで、私に白羽の矢が立った訳ね。それでも力になれるか分からないわよ?」
「まあそれでも考える頭の一つにはなってくれるだろ?」
「むぅ……」
納得いったのかいってないのかは分からないが、そのまま山城は押し黙った。因みに神通には山城が外部からやって来た艦娘という事は昨日の内に伝えている。
「初めてもよろしいですか?」
「おっとすまないな神通、始めてくれ」
「それでは」
そこで神通は区切り、続けた。
「まずこの竹ヶ島ですが、この辺りは九州地方と沖縄県の境目付近に位置していた輸送ルートの一つでありました。とはいえそれ程重要視されるような大きなものでも無く、かと言ってあまり無視することは出来ない場所に位置していますね」
「中継地点の一つだったのか?」
神通は無言で頷く。
「この辺りの深海棲艦もそれ程強力な個体は出現することも無く、比較的穏やかな海域ではあったので輸送船の護衛も小規模な水雷戦隊で済むため、その艦隊の引継ぎ地点でもあったんです」
「引継ぎ地点?」
「簡単に言えば鹿児島県の鹿屋基地から沖縄方面の小規模な泊地や基地に向かう際にその方面の艦隊に護衛を引き継ぐ場所という事です。例を挙げれば護衛を行った鹿屋基地所属の艦隊が沖縄方面の基地に所属する艦隊と接触し、その艦隊に輸送船の護衛を引き継ぐものです」
「成る程な」
「5年前の深海棲艦との決戦に勝利して以降各地での深海棲艦達の動きが鈍くなってきていたので護衛不要論が出て来てはいましたが、それでも制海権を完全に奪還した訳ではない為半ば惰性に近い状態で護衛任務は続けられていました。しかし、異変が起き始めたのが去年の秋辺りからでしょうか、強力な深海棲艦が単独無いし2~3体の少数で襲撃を行うという事態が起こり始めたのです。しかも対象は遊撃を主任務としているのか一か所に留まることは無く、この辺り以外の海域でも類似の襲撃事件が発生していたのです。迎撃を試みた艦隊もいたようですが相手の動きが非常によく、こちらが攻撃を行っても良くて相手の撤退、悪ければ艦隊が壊滅したとの話も聞きます」
「っ!?」
神通の口から出た言葉に俺は息を飲む。
彼女が口にした深海棲艦とは多分あの……
「そして、今年の1月にこの竹ヶ島基地が奇襲を受け、司令官が碌な命令を出さないまま敵前逃亡を行い乗船した船ごと海に沈んだと聞いています。この件に関しては数少ない脱出に成功した艦娘からの証言ですが……それと、奪還作戦も何度か挙げられたのですが、先程の少数精鋭の個体がこの辺りで特に多く目撃され、最悪襲撃を受ける為中々実行に移せない状態でしたが……」
「俺がここに来て出撃を行い始めた事で深海棲艦の勢いが弱まったと……成る程ね……」
「……先程息を飲んだように見えましたが、何か心当たりがあるのですか?」
「以前この基地の書庫に保管されてた報告書に強力な深海棲艦個体の件は書かれてた。まあこれは基地放棄後に妖精達が散乱した書類や本の類を1つの部屋にまとめて置いてたのを俺が偶然見つけたんだ。それともう一つ……これは昨日必要ないと判断して言わなかった件なんだが……」
「まさかあの件も伝える気?」
山城が横から口出しして来るが気にしない。
「そう遠くない内にばれるだろ。だったら今のうちにこれも言っておくよ」
「……まだ私に伝えてない事があるのですか?」
「そんなに睨まないでくれ神通。別に悪気があって内密にしていた訳じゃない。いずれ伝える予定で昨日はまだ伝えるべきじゃないと俺が判断しただけなんだ」
睨み始めてさらに僅かばかりに殺気まで含み始めた神通に俺は手で彼女を制す。
しかし、昔から気配とかには敏感だった気もするが、こんな僅かな殺気まで感じ始めてるって……俺も段々人間離れして行ってるな……
そして俺は昨日の件では伝えていなかったあの「特異個体」の件も神通に伝え始めた。
「成る程……通常より強力な個体で、さらには内部に艦娘を埋め込んだ深海棲艦……当基地での俗称「特異個体」ですか」
「それについて聞きたいのだが神通。そういった艦娘を体内で「保管」したりする個体の情報や深海棲艦を倒したら艦娘が出て来たという情報の類は無かったか?」
「知る限りでは皆無です。そもそもそのあなた達の言っている特異個体を討伐したとの情報もありませんでしたし、後者の件も聞いたことがありません」
「つまりは艦娘は「建造機械」による現出以外で現れることは無いと?」
「後は少数例ですが女性で艤装に適合した者に艤装を装備させる例があります。尤もこれは艦娘を現出させる以上に訓練等の費用や時間がかかりますので極小数となっています」
「艦娘の現出関係で僅かな例外はあれども深海棲艦達から出て来たという事は前代未聞と言う訳か……」
「そうですね。かつて秘書艦を担当してはいましたがそう言った情報は聞いたことはありません」
「機密情報として提督のみが知っていた可能性もありますが」と神通は付け加える。
「特異個体の件に関してはそちらでも何も掴んでいない訳か……」
「そうですね。こちらが知る限りだと、どうやら無差別攻撃に近い作戦を行っているらしく被害のあった所に規則性が無いという事だけです。そのためどうしても対応が後手に回ってしまい、主力艦隊を向けたけれども既に逃亡済みで成果0であったところもあるようです。恐らくあなた達が現時点において一番特異個体の情報を持っていると思われますが……私の方からも質問よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
神通に許可を出すと彼女は続けて来た。
「圭さん。あなた達が遭遇した特異個体と言うのは一体どんな個体だったのですか?」
「俺が1人で戦ってた時に遭遇した、体が異常にでかい上にチームワークの概念を知ってるかのように動く駆逐イ級フラッグシップ2体。それと神通達と会う1週間前に遭遇したフラッグシップ級のオーラを出して飛行甲板と思われる部分が肥大化していた空母棲姫が単体……この計3体だな」
「双方共によく生き残れましたね……」
「前者の方はいうなれば初見殺しに近い感じだったな。空母が対艦兵装持ってると想定していなかっただろうから接近してきたところをミサイルで一体、もう一体は航空機の攻撃で倒した」
「空母棲姫の方は圭が負傷したけど心境の変化でもあったのか、圭が使いたがらなかった切り札を使って何とか勝てたって所ね」
簡単にまとめた俺に山城が続けて来た。それを聞いた神通は何故か大きなため息を一つ吐いた。
「色々と聞きたいことがありますが、気になったのが一つ。取り込まれていた艦娘は一体どうなったのですか?」
「「……」」
俺も山城も口を閉ざす。その取り込まれていた「艦娘」を言うべきか否か……もしかしたら神通が拒絶する可能性と言うのを考えてしまったが為に……恐らく山城も考えている事に大差はないだろう。だが……
ええい、ままよっ!
「取り込まれていたのは……駆逐イ級の方は白露と時雨の2人だよ。そう、今ここで俺と一緒に戦ってくれているあの2人だ」
「っ!?」
想像していなかったのか或いはある程度予測していたがその予測通りだったかは分からない。だが神通は明らかに動揺を隠せずにいた。
「取り込まれていたとは言え彼女達はちゃんとした艦娘なんだ。差別の類はしないとは思うが、気に留めることなく接してやってくれるとこちらとしても助かる」
「確かにある程度の予測はしてはいましたが……いざ事実を言われるとやはり驚いてしまいますね。とは言えそんな理由で彼女達を差別するつもりはありませんのでご安心ください」
「そうか」
神通の言葉に俺は頷く。まあ彼女達なら大丈夫だろうな。流石にこの基地にいたって言う糞提督のような欲塗れな外道じゃないだろうし。
「それでは駆逐イ級の方はと言ってはいましたが、もう一人の空母棲姫の方はどうなっているんですか?」
「現時点でまだ昏睡状態のまま。空母艦娘なのは確定してはいるが誰なのかは不明のままだ。正体を知るには彼女の意識の回復を待つしかないのが現状だな」
「成る程……」
「取りあえず俺が現状知っている事はこれが全部だ。他に何か質問は?」
「現状ありません。お二人は私の方への質問はありますか?」
「私は無いわ」
「すまんが神通、俺から一つ……いや二ついいか?神通はこの基地の提督がどんな奴だったかとか何故無闇矢鱈に深海棲艦の殲滅や無茶な艦隊運用を行っていたのかとかの理由なりなんなりを知っていたりするのか?噂でもなんでも構わないんだが……」
「ごめんなさい。その件までは私も全く分かりません」
ですよねー。まあダメもとで聞いてみたからある程度は予測出来ていたさ。
「とは言え、推測できる可能性としては輸送作戦任務主体の現状に納得が行かなかったのではないかと思います」
「現状の立ち位置に不満があったから、それ以上の事が出来るんだってアピールの為に無茶苦茶な艦隊運用を行っていた可能性があると?物資輸送も立派な任務だというのに……」
「同感です。とは言えこれはあくまでも私の推測です。その元いた提督は既に海の底ですから真相を知る術は無いでしょう」
「分かった。それともう一つだが……」
これはここに来た当初から気になっていた事でもあるが……
「深海棲艦に襲われてから日本の経済やらなんやらの状態はどうなっている?大まかな形でもいいから聞きたい」
「……その辺りの件は別鎮守府所属の山城さんからは聞けなかったのですか?」
疑問に思った神通は山城の方に視線を向ける。それに気付いた山城は申し訳なさそうに頭を下げて言った。
「ごめんなさい。私鎮守府の外の事情とかまともに触れる事が出来なかったのよ……」
「元々山城のいた鎮守府もここと似たような状態だったらしくてな。この艦隊所属となった時に一度聞いてみたんだが……」
「成る程そういう事でしたか」
山城の事情を理解した神通は頷きつつそこで区切り、続けて来た。
「経済に関してはまず全体的に大きな打撃を受けました。元々輸入に頼り切っている状態だった事もありシーレーンが奪われた事でほぼ日本全域に近い形で深刻な物資不足が発生していました。とは言え都市部は辛うじて持ちこたえていましたが、物資不足から来る飢餓で壊滅した市町村も少なくないそうです。しかし私達艦娘の活躍もあり現在日本領海内のシーレーンはほぼ安定して物資もある程度は行き渡るようになっており、深海棲艦出現当初よりはマシと言える状況になっています……いえ、なっていましたと言うのが正確ですか」
「過去形にしたのは特異個体の出現が原因か」
「そういう事です。特異個体による奇襲戦法が原因で再びシーレーンが安全とは言えない状況に追い込まれていました。こんな所でよろしいでしょうか?」
「ああ、これ以外の質問は無い」
「ではこれで終了とさせていただきますね」
とりあえず現状において聞きたいことが無くなったためお開きとなったその時、執務室の扉からノックの音が聞こえた。
『すいません圭さん。今大丈夫でしょうか?』
「その声は主任か?何かあったのか?」
どうやら扉の向こうにいたのは主任だったようで、俺は問いかけてみる。器用に扉を開けて入って来た主任はペコリとお辞儀を一つ行い要件を伝え始めた。
『圭さん、つい先程空母棲姫に取り込まれていた艦娘の意識が回復しましたので報告に参りました』
「え……?」
「あら……」
「噂をすれば影……と言う訳か。まるで狙ったかのようなタイミングだな……」
『何かあったんですか?』
「まあちょっと特異個体の件を話してたところでもあったんだ」
そう言って俺は椅子から立ち上がり主任の方に向かう。
「取りあえず2人ともしばらく自由にしてくれて構わないから。とは言えいつでも出撃できるようにはしていてくれ。俺は今から件の艦娘と会ってくる」
「それなら私も向かうわ」
「……理由を聞こうか山城」
「昨日の提督の振りをする演技の為よ。仮に件の艦娘が本土に戻る選択をした場合、妖精達だけで再建しつつある基地の件を報告させる訳にも行かないでしょ?貴方が提督として、私が秘書艦として行動して彼女を戻せば貴方の正体やこの基地の事で多少の誤魔化しは効くと私なりに考えたからよ」
「成る程、それなら私が付いて行きます。山城さんはゆっくりと休んでも構いませんよ」
「いえいえいいわよ私1人が付けばいいから」
「いえいえ山城さんは休んでおいてください」
「いえいえ私が行くから」
「いえいえ私が」
「いえいえ」
「いえいえ」
……この2人は何妙なコントをしてるんだ?と言うかこの掛け合いはまさか……
「じゃあ俺が「「どうぞどうぞ」」やっぱりこのネタかいっ!!」
なぁんか聞き覚えがあると思ったらやっぱりか!
結局俺はそのまま神通の方を休みに向かわせて、山城と共に主任に連れられ入渠施設奥にある集中治療室へと向かって行った。
因みに神通はこのネタを実行したのが恥ずかしかったのか別れ際になるとタコのように赤面していた。
恥ずかしいのならやるなよな……
さてさて俺と山城と主任の3人(?)は集中治療室前の扉の前に立っていた。そして俺は白露達や神通と面会した時と同じように服装を正して今度は直ぐにばれないように軍帽もかぶっている。肩章の類の変更は出来ないと言っていたのでそのままだが、まあ大丈夫と思いたい。
山城曰く「後は圭自身の演技力次第かしらね」とは言っていた為俺が頑張らなきゃならんな。
「それで、貴方は提督の真似をまた行うつもりなの?」
「正直俺も気が乗らないんだがな。相手が提督と誤認してくれれば何らかの情報を引き出せるかもしれないって狙いもあるし……」
山城の問いかけを聞いた俺は返答して言葉を区切り、主任の方に視線を向ける。すると彼は俺の考えを察したのか目を煌めかせて
『そりゃあ見た目は提督だった男が実は艦息でしたというギャップ狙いですよ!』
「こういうことなんだ……」
「主任の悪乗り半分圭の打算半分と言う訳なのね……」
「むしろ7:3の割合が近いかもしれん」
「……もういいわ」
疲れたのだろう、山城ががっくりと肩を落とす。まあ疲れの理由は何となく察する事は出来る。主任の悪乗りに付き合わされる事を考えたんだろうな……
「さて、行くぞ」
「分かったわ」
『はい』
俺の言葉に2人は頷く。そして俺は治療室の扉を軽く2回、叩く。
「どうぞ」
中から返事があったので扉を開けて入っていく。
以前の白露達や神通がいた部屋とは間取りはほぼ同じであれど、一つしかないベッドにて上半身だけを起こした女性がこちらを目にすると笑顔を向けて来た。
女性。見た所整った顔立ちをして、烏の濡れ羽色と言えそうな黒髪を肩甲骨辺りまで伸ばした美人の範疇に十分入る女性だ。体格の方はゆったりした服を着ている為判別は難しい。
「あなたは……一体?」
「俺はここの責任者の永瀬圭って男だな。こっちは秘書艦の山城だ」
「よろしく」
「わざわざご丁寧にどうもありがとうございます」
俺の紹介に軽くお辞儀をした山城に彼女も頭を下げる。
「さて質問だが、あんたは艦娘という事で合っているかい?」
「はい。私は航空母艦、赤城です。空母機動部隊を編成するのなら、私にお任せくださいませ」
「赤城ね。分かった」
「それと永瀬さん……でよろしいでしょうか?質問が一つ……いえ二つあります」
「質問?」
一体何なんだろうか?しかも二つねぇ……
「まず一つ目ですがここは一体何処なんでしょうか?」
「ここは竹ヶ島基地だな。あんたが漂流していた所をここの艦隊が発見して救出を行ったんだよ。これで構わないか?」
「ええ、返答ありがとうございます。それでは二つ目ですが……永瀬圭さん、あなたは本当に提督か司令官の類なのでしょうか?」
「「……」」
え?もうバレたの?平常心を保って違和感を感じさせないように会話していたんだけど軽い返答だけでバレるものなの?あるいは俺って演技の才能無い!?
と、兎に角何故そう思ったか聞いてみるとしよう。
「あー、何だ。質問の理由を聞いてもいいか?」
「いえ……私とあなたは初対面ですよね?ここで作業を行っていた妖精やあなたの言葉を信じるなら、私は意識を失っているのを発見してここに運び込まれたと聞きます……本来ならここに運び込まれるまで意識が残っていたとは思えません。思えない筈なのですが……それだというのにあなたと何処かで会ったような記憶があるんですよ」
赤城の言葉に俺と山城はお互いの顔を見合わせる。一つだけ、心当たりがあった……
もしかすると……意識が回復した時には記憶喪失となっていた時雨達とは違って、赤城の方は深海棲艦時代の記憶が僅かに残っているのではなかろうか?
「ねえ圭、これはもしかすると」
「深海棲艦に取り込まれていた時の記憶を僅かながら持っているという事か?可能性としてはあり得るかも知れんな」
お互いに赤城に聞こえないように言う。これはダメもとでも聞いてみるべきだろうか……
「済まないが赤城。二つ目の質問に答えられていないがこっちから質問いいか?」
「?……どうぞ」
「赤城は目を覚ます前に……何処で何を行っていたのか覚えていたりするのか?」
「何故そのような事を聞いてくるのですか?」
「ちょっと込み入った事情があってな……」
「……私は……」
赤城はしばし思考の海に入っていった。
変化があったのは大体数十秒ほどしてからか。赤城の表情が僅かながら変わり始めていった。何かを思い出したのかハッとしたような顔になったり、また再考したりしている。
「…………えっ…………私は……私は……航空母艦赤城……その……筈なのに」
「……」
「私は……深k……ッ!」
そこで、全てを思い出したのだろう。赤城の表情がどこか遠い目をしているかのような顔に固定された。
やがて全て理解したのだろう、こちらに目を向けつつもその顔はどこか悟ったかのようであった。
「ああ……そういう事でしたか」
「何か思い出したのか?」
「おぼろげではありますがほぼ全てですね。そして永瀬さん、私とあなたは確かに会っていますね。それも戦場で敵として。あの時の事は覚えています」
「……そうか」
「これはやっぱりそういう事なのかしら?」
「ほぼ間違いないだろうな」
山城の言葉にそちらに視線を移しつつ返答し、一区切りつけてから続けた。
「「赤城は空母棲姫としての記憶を残している」」
同時に同じ言葉を放ち、無言でお互い頷く。つまりはそういう事……
俺はその赤城に向き直り質問を続けた。
「どのくらい覚えているか分かるか?」
「鮮明に覚えているわけではありません。ただ何となくあの時は永瀬さんや他の艦娘達と戦っていたと言う事と、見た限りでは永瀬さんが空母艦娘としては他の子達とは何かが違う存在だったという事だけですね」
そこで赤城は言葉を区切る。
「しかし意識のはっきりしている今あなたを見ればわかります。あなたはかなり異質な存在ですね。本来なら女性でしか装備できない筈の艤装を装備できる男性と言うのは私の知る限りで存在が確認されていませんから」
「よくもまあそこまで観察していた事に感嘆するが、とりあえず赤城。あんたには一つ選択肢がある」
赤城は意味不明と言わんばかりに首を傾げた。
「このままあんたは何も見なかったことにして本土に帰るk「お断りします」……さいですか」
「即答とは恐れ入るわね……」
まったくだ。
「そもそも私は深海棲艦に取り込まれていた時点で元いた鎮守府では既に轟沈扱いとなっている可能性が非情に高いです。つまり現時点での私は言うなればはぐれ艦娘状態なんです。最早行く当て等ありませんがこうしてこの基地に救出されることとなりました。ならばここの所属としてあの忌まわしい深海棲艦共と戦うのが最善の選択と判断したからですね」
赤城はなおも続けていく。こちらを真っ直ぐ見つめ続ける赤城のその目に……俺は見覚えのある感覚を覚えながら……
「それに、意識を失う前に確認した永瀬さんの艦隊の数は最低でも4人となっています。以前私がいた鎮守府では大規模作戦時を除き大体艦隊で行動する場合は6人で行動を行うのが一般的です。それで永瀬さん所の少ない艦数として考えられるのが、何か少数精鋭による作戦を行っていたか、或いは何らかの原因による人員不足かの何れかになると推測できます。とは言えおぼろげに覚えている限りでの艦娘達の動きを思い出すに前者の可能性は低いと判断しています」
「鋭いね赤城。正直に言ってお前の推測通りだよ。この基地は昔の一件で建造機械が壊れていて慢性的な戦力不足なんだよ。それで、つまるところ赤城が言いたい事は深海棲艦と戦う為に基地所属になる事と、俺達は戦力増強に繋がる事……この二つを持ってお互いがwin-winの関係になる……だからここに置いてほしいと言いたいんだろう?」
「乱暴な言い方ですが概ねそうですね」
赤城の言葉に俺は顎に手を置いて考える。
確かに戦力増強と言う面ではこの上ない案ではあろう。だが、問題があればそれは俺と赤城の2人にある。
言うなればお互いが同じ空母としての艦娘(?)という問題がある。かたや第2次世界大戦期の空母、かたや並行世界とは言えジェット戦闘機を使える空母。どう考えても俺の艤装の方が圧倒的性能を有している筈だ。そんな状態で彼女の席があるのかどうか……とはいえやはり戦力が増えるというのは素直に嬉しい事でもあるのは確か。
だが……それ以上に……彼女は……
俺はしばし考え……
「少し、考える時間をくれ」
「どうしてですか?時間を経てた所で敵が待ってくれるとは思いませんし私とあなたの性能差の面もあるかもしれませんが私でも役に立つ筈ですよ?戦力増強の面からしてもあなたにとって悪い話じゃない筈ですが?」
俺の言葉に赤城はまくし立ててくる。だが……
「お前は今までずっと昏睡状態だったんだ。体の方は修復剤で完治しているかもしれねぇが体内に何らかの異常があるかもしれねぇだろ?念の為妖精達の精密検査を受けて問題ないとの診断を受けてからでもよくないか?」
「それでは遅いとも思えますよ。私としては艤装があれば直にでも出撃は可能だと思いますが?」
「お前の知らない場所に異常があるかも知れねぇだろ。それに、艤装も一から作り直さなきゃならん事と、他の子と打ち合わせして問題が無いと判断して、それからあんたを受け入れてぇんだ。すまないが赤城、今はゆっくり休んでいてくれ。出撃したい気持ちは分かるが体を休めるのも仕事だ。これはこの基地の責任者である俺からの頼み……いや、命令だ」
「……分かりました。今は休ませてもらいますが、必ず私をここに置かせてくださいね。深海棲艦と戦う事こそが艦娘の使命なのですから」
「……善処はするよ。行くぞ、山城、主任」
「えっ、ちょっと!?」
『わ、分かりました!』
山城と主任を呼んで俺は赤城には目もくれずそのまま部屋を出る。いきなりな事で2人は慌てるも俺に付いて来る。
―――「……………」を「…………」する為にも―――
その後ろで僅かながらに聞こえた赤城の言葉に、あえて聞いていないふりをしつつ……
「ねえ圭、私の考えすぎじゃなかったら、さっきの貴方かなり強引な手を使ってなかったかしら?」
『確かに……口調に何かかなり荒い部分が見えた気がします』
「まあ、な……」
廊下を歩いてる最中、山城が左隣から俺の顔色を窺うように問いかけてきて、主任もまた山城の言葉に同意する。
正直……彼女は……
「取りあえず主任。あの赤城の艤装の件だが」
『艤装の製作依頼ですね。分かりました、直ぐに「そうじゃないんだ」……はい?』
俺は足を止めて俺の左肩に立っている主任に伝えるが、彼の言葉を遮り俺は続ける。
「赤城の艤装……主任には悪いが製作をなるべく遅くして欲しい……言ってしまえばわざと遅れて欲しいんだ」
『そんな!?私の艤装魔改造の為の土台作りとなる艤装製作という楽しみを奪うk「主任っ!!」……本当に、一体どうしたんですか?』
「どうしたのよ圭?赤城と面会してから貴方変よ?」
何やら不穏な言葉を聞いたが今回に関してはそれは重要な問題じゃない。流石に山城も心配になって来たのか俺を気にかけてきてくれる。
「正直に言おう。俺は赤城を戦力として数えたくないし、彼女を戦いに出したくない」
「理由を聞きましょうか?あえて戦力増強案を捨ててまで彼女を戦力外とする理由を」
真剣な表情で問いかける山城に俺はしばし黙り……やがて口を開く。
「目だ」
「『目?』」
「あの赤城の目……赤城の視線が……あの時の空母棲姫の目と……殆ど変わってない感じがしたんだ。あの時の空母棲姫の瞳の奥から発せられる怒り、憎しみ、殺意……およそ考えられるありとあらゆる負の感情。この世の全てを憎むと言わんがごとき憤怒の炎、それを宿した瞳」
「その空母棲姫の目と同じ感覚を圭は感じたの?」
山城の言葉に俺は無言で頷く。
「勿論赤城の瞳は黒だったのはちゃんと見た。だけど……一度空母棲姫の殺意に呑まれたからこそ分かる。あの目の奥に宿ってる感情のベクトルは……あの時と何ら変わってない気がしたんだ。だからこそ、あの彼女をそのまま戦場に出せば……何か取り返しのつかない事を起こしそうな気がしたんだ」
「『……』」
「それともう一つ。さっき部屋を出る際に赤城が呟いた言葉だがな……こう言っていたんだよ」
―――深海棲艦共を皆殺しにする為にも―――
「それは……」
『赤城さん……そんな事を……』
「こんな言葉を……普通の精神状態で平然と言えるものなのだろうか?恐らくだが彼女は何らかの理由があって深海棲艦を皆殺しにしたい程の憎しみに囚われているんじゃないかと思う。何だろうか……それこそ周りの味方全てを巻き込んででもやりかねないんじゃないかって……あの目と言葉を知ったから、そんな風に推測してしまったから、彼女を戦力に入れるのが危険だと判断したんだ」
―――Side Out―――
―――Side 赤城―――
圭達が去った後の病室にて、赤城は1人上半身だけを起こしたまま自分の手を見ていた。
自分の手。あの時と違う手。水死体のような深海棲艦達のような灰色をした手ではなく、血色のある薄橙をした自分の手。
「……フフッ」
何となく、笑みが零れた。しかしその瞳は今この場所では無い何処か遠くを見ているようで……
「僥倖とは……この事かしらね?」
いつの間にか自らが忌まわしい深海棲艦共になり果てていたのは事実。そしてそれに気づき自身の全てを諦めたのもまた事実。
だが、偶然か必然か……今ここにまた「空母棲姫」としてではなく「空母赤城」としてまたいれる事……まさに僥倖としか言いようが無かった。
そう……これで……これでまた。
「これでまた……始める事が出来る……憎き深海棲艦共を根絶やしにすることが出来る……」
―――「――――」の「―」を「――」事が出来る―――
そうして口を釣り上げて喜ぶ赤城。
だが、彼女は気付かない。
その瞳には圭の懸念通り、空母棲姫の時と何ら変わらない、爛々と燃える憎しみの炎を宿している事実に……彼女は気付かない。
いかがだってでしょうか?
今回は圭達のいる竹ヶ島近辺の説明及び艦娘の正体発覚回でした。
島のモデルにしたのは沖縄県にある大東島で、それが奄美大島の東の海上にあると思ってください。
そして赤城が登場です。彼女器用の理由は艦これ小説を書こうと思ったときに複数あった案の内の一つに彼女がメインヒロインを担当するストーリーを考えていました。
まあその赤城ヒロイン案は没としましたが、自分の艦隊の主力で3番目のカッコカリ達成キャラという愛着もあったためこうして登場と相成りました。(因みにカッコカリの順番は一番に鳳翔さん、次に大和でした)
それではこの辺にて。次回にてお会いしましょう