Fleet Combat -Dawn of the horizontal line- 作:大川静真
ああ~時報ボイスで心が由良由良するんじゃ~
……失礼。
というかまたしても前回の投稿から2カ月が経過してしまっている事実……もうなんとお詫びを申し上げればいいのか……ほんっとに申し訳ありません。
それではどうぞ。
英字タイトルで「小さな存在がすべて」とかいうネタが思い浮かんだレイヴンの方は名乗り出ましょう。
―――Side 神通―――
航巡ネ級とも取れる特異個体の襲撃があったその日の夜。入渠施設の奥に存在する集中治療室にて少女が1人、治療用の機材に囲まれて眠っていた。
胸の部分が上下に動いている事から息をしているのが分かるが、それ以外の反応らしい反応は無い。
呼吸さえ行っていなければ人形と言われても納得する程に反応のない少女。検査の結果艦娘であるという事が分かったものの、仔細の分からない少女。
その少女をベッドの側で椅子に座り無言で見続ける少女が1人いた。
彼女、神通は1人少女の傍で何をすることも無く少女を見続けており、その瞳には一切の感情が感じられない。
そのまま誰かが何かをするわけでも無くただただ時間だけが過ぎていき……
「この子が……だとすれば……」
小さく、本当に小さく神通が漏らした。それこそ意識して聞かねば本人ですら気が付かず消えてしまいそうな程小さな声で。
神通はあの時、かつて自分の上官であった提督の登場していた輸送船が敵の襲撃を受けて轟沈した時、僅かながら違和感を感じていた。
あの襲撃の時、神通は僅かな時間かつ全方位を見れなかったとはいえ、周囲を警戒していた。そして水上機を発艦させようとした時にあの輸送船が攻撃を受け訳なのだが。
その後に深海棲艦達が接近して攻撃を受けた訳である。ここまではいい。
違和感を感じたのは攻撃の間隔が開き過ぎていた事だ。
戦艦級による遠距離からの砲撃も考えはしたものの、敵の艦隊に戦艦級は確認されなかったと圭の艦載機所属の妖精から教わった。そのためこの可能性はまず無い。
あり得るとすれば航空攻撃だが、これも遭遇した個体に空母級は確認されていない。
だがもし……あの時もしあの場所に彼女が取り込まれていた航巡ネ級が存在していたというのなら……
可能性などあって無いような妄想に近い推測。だが一度それを思い浮かべてしまうと際限なく浮かび上がってくる。
そして、万に一つ、もしも彼女がそれを実行に移したのならと思い浮かんだ。思い浮かんでしまった。
(まさか……でも……そうだとしたのなら……)
彼女ハ、彼女コソガ提督ヤ鹿野基地デノ仲間達ノ仇ダトイウ事……
あり得ないと神通は首を振る。そんな筈は無いとして必死に思考を止める。しかし一度浮かび上がった思考はやはり止まる事を知らずにどんどん浮かび上がってくる。
(もし……それが事実なら……私は……)
目の前に仇かも知れない相手がいるという事実。
あり得ない。
だがそうだとしたら沈んだ提督やかつての艦隊の仇を討つべきか……だけどもそうでない可能性の方が高い。
しかし。
確かに自分達と同じ艦娘であろう。
でも……
気が付くと神通は、立ち上がり艤装を装備していない状態でありながらも砲撃を行う体制を取っていた。艤装がある場合、その砲口を眠っている艦娘に向けている状態で……
ハッと気付き、慌てて腕を下して艤装を装備していなかった事に対して胸を撫で下ろす。もしも艤装を装備したままここにいた場合、何をしていたか分からなかったからだ。
下手をすれば……自分は彼女を殺害していた可能性だってあったのだから。
(駄目ですね。ここにいれば私は自分を抑えきれそうもありません)
かぶりを振り、部屋から去ろうとして動き出そうとしたその時
「始末しないのですか?」
唐突に聞こえたその声に神通はビクリと体を震わせ、声のした方向である集中治療室入り口に首を向ける。
「…………赤城さん」
そこにいたのは、空母赤城。圭から聞いた空母棲姫特異個体の中に取り込まれていた艦娘。そして何が原因かは分からないが深海棲艦殲滅に全てを賭けているかのような言動を行う艦娘。
彼女が入り口の扉の傍に立っていた。明かりをつけてはいるが丁度赤城の顔の部分に僅かな陰がかかっている為、今現在の彼女の表情の仔細は分からない。
「今のは一体、どういう理由で言ったのですか?」
「そのままの意味ですよ。どんな理由があるとはいえ元深海棲艦の彼女です。もし意識が回復した途端にこちらを害するような真似をする可能性だってあるんですから。そういった可能性は摘んでおくべきではと私なりに考えたからですよ」
「話が飛躍し過ぎていませんか?彼女は私達と同じ艦娘ですよ。そんな理由で始末など出来る訳もありません」
「ですが万に一つもあり得ます。確かに害する可能性は低いでしょうが事件が起こってからでは遅いのですよ。それに、私達艦娘は深海棲艦を撃滅するために生まれて来たような存在です。その為ならば手段を選んでいる必要は無いと思いますが」
「っ!!あなたはっ……!」
神通はそれ以上の言葉は出ず、怒りの表情を込めた視線で赤城を射抜く。しかし、神通の怒りなどどこ吹く風と言わんばかりに赤城は構わず口を開く。
「そう、ただただ敵を殲滅すればいいだけの話なんです。その為には情けなど必要ありません。敵であるなら、敵になりうるなら芽は早めに摘んでおくべきでしょう?」
「だからってっ!!「そもそも」っ!?」
神通の言葉を赤城は遮り、続けた。
「そもそも私達に敵である深海棲艦を倒す以外の存在理由がある訳が無いんですから。例えそれが、味方を撃つ事になろうとも深海棲艦を撃滅する事こそがが大事なのです。その為なら多少の犠牲は仕方ない事でしょう。私はそう思っていますよ」
「……でしたらっ!でしたらあなたも例外では無い筈ですよ!空母棲姫の体内に取り込まれていたあなたも……あなたの言っている事が真理だとするのならば!!あなたも命を絶たねばならないのではないのですか!?」
言った。言ってしまった。
伝えるべきではないだろうと心に封じていた事実。恐らく圭も同じように考えていた可能性のある事実。知ってしまえば普通の艦娘ならばどんな反応をするか予想だに出来ない事実。
それを、赤城のあまりの暴論につい感情的になってしまった神通は思わず口にしてしまったのだ。
だが
「確かにそうですね」
「なっ!?」
赤城の対応はあまりにも冷ややかだった。
「その辺りは重々承知していますよ。そして無論、私もまた例外ではない事も」
「……」
彼女の言っている事はつまり……
「ですが今はその時ではありません。全ての事を終えた後でなら私は自ら命を絶つ覚悟も出来ています」
神通が彼女を見て、その戦い方を知り、予想した中での最悪の答え……
自らの命を捨ててでも目的を達成しようとする狂気的選択。それを彼女は選んでいたという事実に神通は完全に言葉を失った。
「所詮私達の命などそんなものです。深海棲艦殲滅が終われば用済みな軽い命なのですから今更他のことに価値を見出す意味などありません。ならば精々その命を目的の為に利用させていただくだけです」
「……」
「まあ、ここのリーダー的存在でもあるあの圭さんが私達の事をどう思っているか分かりませんし、分かりたくもありません。そんな必要はありませんから。私は私の目的の為に情関係無しに彼に協力し、利用するだけです」
「それでは」と赤城はこちらの言葉を待たずに頭を下げてそのまま踵を返し、部屋から出ようとする。
「まっ……待ってください!」
ようやっと、辛うじて口から出て来た神通の言葉に赤城は足を止める。
「赤城さん……アナタはどうしてそこまで深海棲艦の打倒に躍起になっているのですか?どんな理由があってそこまで非情になれるのですか!?答えてください!」
集中治療室であることも忘れ、ただ強い口調で神通は声を上げた。それに赤城は答えることなく、こちらを向くこともせずただ立ち止まっているだけ。
そんな時間が少しだけ過ぎて、不意に赤城が一言、呟いた。
「復讐です。ただそれだけ」
そのまま赤城は神通の言葉を待たずに部屋から去って行き、残されたのは言葉が出ずに呆然としている神通と今なお目を覚まさない艦娘のみとなった。
「……復讐……ですか」
椅子に座りなおしつつ神通は呟く。
同時に彼女の普段の言動に対して合点が行った。確かに彼女の言動の大本にそれがあるのならば、普段の言動に対してもある程度納得は行く。
(ですが……復讐した所で……)
そのまま、神通は言葉を紡ぐことはせず、ただ時間だけが過ぎていく。
時間にしてどれ程経っただろうか、部屋を支配する沈黙を破ったのはまたも開かれる入り口の扉。しかしそこから現れたのは先程の赤城では無く……
「神通か」
「…………圭、さん」
男性でありながら艦娘の艤装を、しかもここでは無い世界の空母の艤装を装備できる恐らく唯一の男。永瀬圭がそこにいた。
―――Side out―――
―――Side 圭―――
就寝時間になっても神通と赤城の姿が見当たらないと妖精から連絡があったため、俺は1人夜の基地内を2人を探して歩いていたのだが。
赤城と遭遇したのは入渠施設に向かってすぐであった。彼女はどうやらネ級の体内で取り込まれていた艦娘が眠っている集中治療室に先程行っていたらしく、神通もまたそこにいるとの事だった。
何か引っかかるような物を感じたものの、特に気にすることなく俺は彼女に礼を言って集中治療室へと向かった訳だ。
まー俺の言った礼に関しては完全無視で去って行きやがったがな!
で、神通を集中治療室にて発見して今に至る。
「お疲れ様神通」
「お疲れ様です圭さん」
艦娘が眠るベッドの隣で座っていた神通が俺を見ると立ち上がり頭を下げる。
俺は神通に同じように頭を下げると彼女の傍に向かう。
そのまま2人は特に話すことも無く、しばしの時間が経過する。話すことの無い俺もそうだが、神通の方も一切の無言。何を考えているのかその表情からはさっぱり分からない。
気まずい訳じゃないんだが……こんな時になんて言葉をかければいいんだろうかな……
ええい、このまま沈黙が続くのもよろしくない!何がよろしくないかは分からないけど兎に角何か話しかけなきゃならん!
という事でせーの!スリーツーワン!
「神t「圭さん」……え、あ、うん。何だ?」
「?何か私に聞きたい事などがあるんですか?」
「いや、特に、無い。そっちからどうぞ」
俺って間が悪い男なのかねぇ……
おっと、そうも言ってられそうにないな。どうも神通の顔を見るにかなり真剣な話みたいだし。単に俺の考えすぎの可能性だってあるがな。
「先程……赤城さんと会話していまして……」
ぽつりぽつりと始まった神通の話。先程俺が遭遇した赤城と、俺がここに来る少し前にしていた会話。神通はそれを分かりやすいように伝え始めた。
「……以上が私が赤城さんとここで話したことです。そして赤城さんが何故あそこまで深海棲艦の殲滅に拘る理由です」
「……」
神通と赤城との会話のあらまし。それを聞いて俺は言葉が出てこなかった。
正直赤城が……深海棲艦に取り込まれていた艦娘すらも殲滅対象として捉えている事も、彼女が自分の命すらどうでもいいような考えを持っている事も……全てが俺の予想していたものを凌駕しており、そして同時に彼女と初めて会話した時に捉えた瞳の底に渦巻いていた「何か」を漠然とだが理解した。
「つまりは仇討ちを行う為に深海棲艦の殲滅を願っているという訳か」
「そういう事でしょうね……でも」
「でも?」
神通の呟いたことにに俺はオウム返しに返す。どうかしたのかね?
「でも……復讐で……復讐をしたところで何か得られるのでしょうか?」
「……」
「確かに復讐して自らの心の安寧は得られるかもしれません。でも……本当にそれでいいのでしょうかと思ってしまったので……」
「成る程ね」
だけど、それに関しては……
「それに関しては、俺は何もわからない。それで何か得られるかもしれないし、何も得られないどころか、寧ろ失う物の方が圧倒的に多いかもしれない。だけどそれはその人が決めることでもあるからな……復讐を完遂して満足するも良しだし、復讐以外の道を見つけて全てを忘れるのも良しだし……それはその人次第だと思う」
「……すこし聞きますが、もしかして圭さんは復讐したいって思った事があるんですか?」
「あるよ」
今の今までこちらを見ていなかった神通が俺の方を向いて問いかけてくる。それに対して俺は、そう答えた。
そう、ある。
「俺の両親はな、元いた場所で俺が高校に上がる時に……事故に遭って死んだんだよ。俺の目の前で……トラックに轢かれて、ね」
「えっ……」
「その時に両親を殺したそのトラックのドライバーを凄く恨んだよ。いっそこの手で殺してやれたらどれだけ楽だろうかって本気で考えたくらいにね。でも、それは出来なかったんだよ」
「どうしてですか?」
だって、そのドライバーは……
「そのトラックのドライバーな、後で聞いた話だとその時に死んでたんだ。信号を無視して俺の両親を轢き殺し、そのまま近くの電柱に激突したのは覚えている。だけどまさか死んでいる何て思ってもいなくってな……俺が知った時には既に墓の中って状態でさ……」
「……」
「それを知ってからはもう本当にこの怒りをどこに向ければいいのか分からなくってな。恨んで恨んで憎んで……気が付いたらその怒りを発散するためにただ絡んで来ただけの、何の関係も無い不良を叩きのめしていたよ。だけど全然気分は晴れなくってね、俺を引き取ろうとした親戚があまりいい対応しなかったのもあるけど、それ以上に俺がそんな風に荒れてたから転校を繰り返す日々だった。そんな中で段々俺の中にある怒りや憎しみは大きくなって行ってな……そんな日々が高校3年ぐらいまで続いたな」
「続いたという事はそれを断ち切るかのような何かがあったんですか?」
「最後に俺のひいおじいちゃんに引き取られたんだが、どうやらひいおじいちゃんは、神通達が戦ったあの戦争に陸軍として参加していたらしくってな。ひいおじいちゃんも戦友を殺されていってアメリカ軍を凄く憎んでた事があったらしい。だけど憎んだところで意味は無いって理解してから憎むのをやめたそうだ。とは言え何度も憎しみが心の奥底から浮上してきて相当きつかったみたいだな……俺もそれを聞いて憎むのをやめたんだけど、つい最近奥底で燻ってた憎しみがいきなり燃え上がる事があったし……」
空母棲姫特異個体の攻撃を受けて気絶してた時がまさにそれだったからなぁ。
「そんなことがあったからこそ、ひいおじいちゃんの受け売りとは言え、俺が言えるのは憎んだところで何も得られないって事だけ。とは言えそれを実行に移すかどうかは神通次第だ。勿論赤城のように復讐に己の全てをささげてもいいし、全てを忘れてもいい。どっちが本当に正しいかなんて分かる訳がないからな。最終的に選ぶのはその人次第だ」
とは言え神通が復讐鬼になるとは彼女を見る限りでは思い浮かばないんだがな……しかし人は変わるものだからなぁ……どうなる事やら。
神通の顔を窺ってみると何やら考え込んでいる模様だ。彼女がいた場所の提督の事を思い出しているのだろうか、或いは別の事を考えているか……仔細は俺には分からない。
しかしまぁ……
「まあ、何だ。全てを忘れるとは言ったものの、忘れられないものでもあるんだがな……」
「えっ?」
「死んだ相手の事だよ。俺も忘れたかと思えば時々ふとした拍子に思い出す……そしてどうしても過去の方を振り向いたりして、当時の感情やら何やらが蘇ってしまう。或いはその昔のことに引っ張られながらも尚歩まなきゃいけないのかも知れないけどね」
「俺の勝手な推測だけどな」と、付け足しておくのも忘れない。俺自身が今言った通り、全てを忘れたくても忘れられない人間なのだが他の人がそうだとは言い切れないからな。
とはいえどうやら神通の方は納得したのか少し表情が柔らかくなった気がする。
「さて、俺はそろそろ寝るよ。神通はこの後どうするんだ?まだこの部屋にいるつもりなのか?」
「私もそろそろ戻ります。圭さん、色々とアドバイスをありがとうございます」
「まあ、アドバイスと言える程のものなのかは微妙なラインだけどな」
大それたことは言えてないから少し、気恥ずかしい。
しかしそんな微妙なアドバイスであったにもかかわらず神通はクスリと微笑んでくれた。感謝されるのは悪い気分じゃないからな。
「はい王手」
「チクショー……降参だ降参……」
さてさてそんな事があった翌日。俺は基地内にある休憩室。その中で畳が敷かれている一部の区画にて山城と将棋盤を挟んで座っていた。単に将棋で勝負を挑まれたんだがな。
現在俺の艤装はメンテナンス中の為今回はお休み。神通や赤城、深雪もまた、修復を兼ねた艤装メンテナンスにより自主練と言う名のお休み。現在出撃しているのは霧島を旗艦とした白露、時雨、文月、舞風のメンバーである。
将棋の戦績?俺の惨敗だよチクショー!ひいおじいちゃんの対局に付き合わされたことはあるけど所詮素人なんだよ俺は!
しかも山城お前は何だ!?素人だと対局前に言った筈なのに手加減の「て」の字すらしやしねぇ!してくれたっていいだろうが!?というか何でこんなに将棋強いんだよ!後すっげぇむかつく笑顔を向けて来るんじゃねぇ!
「貴方って前線での指揮はそれなりに上手なのに将棋は弱いのね」
「うるせぇよこのアマ……チクショーこれ好機と言わんばかりにボロクソに攻めやがって……出来る事ならそのむかつくにやけ顔をぶん殴りてぇ」
駒を片づけられた将棋盤の上に突っ伏す俺に山城は容赦なく言葉を突きさしてくる。俺はもう碌に反論できないまま出来るのは愚痴る事だけであった。
「散々私に拳骨を叩き込んでるくせに今更じゃないのかしら?」
「……暴走している相手を止める為に拳骨喰らわせる時と、私怨のみしかない今の状況とじゃ、似てて微妙に違うからな。無闇矢鱈に力を振りかざすつもりも、特に悪いことしてない奴に暴力振る気も今はさらさらない」
「意外と律儀なのね」
「極力感情任せに暴力を振るわないように戒めてるだけだよ……お前には話してなかったが昔荒れてた事もあったから、それを繰り返さないようにと思ってるだけ。まあ、それを実践できているのかと言われると怪しいがな」
「……仔細が気にはなるけど深くは聞かないことにするわ」
そのまま会話は途絶え、2人の間に沈黙が訪れる。
ふと俺は、ある事を思い浮かび、気になったので聞いてみる事にした。
「なあ山城」
「何かしら?」
「少し気になったんだが……お前は今もアメリカやその軍を恨んでいたりするのか?」
「……貴方の言っている事の意味が分からないのだけど?」
「まあ、なんだ。確かにお前はかつて山城という名の戦艦だった筈だろ?その時に何があったのかは俺は分からないが、お前が沈んだ時に少なからず乗組員が死んだと思うんだ。それにアメリカは日本と戦って、数多くの犠牲者を出したんだ。その事で恨んでいたりとかしていないのかって思ったんだよ」
「……難しい質問を投げかけてくるわね貴方……」
そこで山城は溜息を一つ吐き、かつてを思い出すかのように遠い目で続けた。
「正直分からないわ。確かにあの戦いで私を沈めて、乗組員の悉くを殺して行ったのはアメリカの軍人でもあるのは分かっているわ。でも、だからと言ってその恨みを当時の軍人達ならともかく、今生きている相手に適用するのはお門違いでしかないと思っているわ。いつまでも恨み続けていたら、それこそ怨念を原動力としている深海棲艦達と同類でしかない気もするからね。だからといって彼ら全員を許せるのか……と言われたら、首を傾げるけどね」
「割り切った訳じゃあ無いが、延々とその事を根に持つ訳でも無いと?」
「まあ、そんな所かしらね」
成る程な。
どこぞの「千年恨む」と言ってた輩とは大違いだね」
「どこの阿呆の発言よそれは?」
「……もしかして口に出てたのか?」
「ええ。貴方が呟いていたのが偶然耳に入ったのよ」
ううむ……俺ってもしかして口に出やすいタイプなのか?
「まあ、こことは関係ないから気にしないでいい」
「そうしておくわ……話が逸れたわね。私の復讐やら憎悪やらの捉え方はそんなところかしら。そもそも今は深海棲艦という人類種の敵がいるから、そんなアメリカへの憎しみを前面に押し出している暇が無いとも言えるけど」
「その復讐心を前面に押し出している赤城はどうすりゃいいんだろうかなぁ……」
体勢を立て直し、仰向けに倒れ込み、漏れた俺の呟きにしかし山城は沈黙を貫いたまま、何も言わずにてきぱきと将棋セットを仕舞う。
「あー、何だ。赤城の事は聞かないのか?」
「赤城さんの表情から察してある程度予想はしていたからね。圭が今漏らした呟きでそのものズバリだという事が分かったわ。私から言えるのは一つだけ。最終的な判断は貴方に任せるけど、選択したら悔いのないように最後まで責任はちゃんと取りなさい。例え赤城さんが最悪の選択肢を取ったとしてもね。始末をつけるなり他の道に修正するなりは貴方が考えて実行する事よ」
「俺の判断次第って訳ね……まあ、考えておくさ」
こっちに丸投げしてるとも取れる山城の言葉だが、現時点でこの基地の責任者的な人間は俺だからな。俺が決めなきゃならないという事を伝えてるよな。
この件はしっかり考えて、行動せねばならんわな……いっそのこと、演習やる時に思いっ切りボコボコにしてプライドだの復讐心だの諸々粉砕させてから、無理やりにでも更生させるか?ううむ……
と、そこへ何やら廊下の方から大きな音が近づいてくる。具体的に言うなら全力疾走のような音g
「よっしゃ深雪さま一番のりーっ!!」
「うわーーーー!負けたーーーーー!」
派手な音を立てて扉を開けたのは満面の笑顔を向ける深雪だった。そしてその後ろに見えるのは、競争にでも負けたのか、悔し気に項垂れる白露であった。
「貴方達は何をしているのよ……」
「いやー帰投した白露と入り口で遭遇しちゃってさぁ、かけっこで一番を決めようぜって話になってなぁ」
「ぐぬぬ……今度勝負する時は負けないよ!」
「おう!いつでもかかってきな!」
「まったく……勝負するのは良いが周りに迷惑をかけるなよお前ら」
「「はーい!」」
初対面時に白露が深雪にライバル心を燃やしていた気がしたのは事実だった訳か……まあ、こういう関係なら大きな問題は無かろう。
しかし……
(赤城に対する始末、ね……)
やはり、無視できる問題では無いな。最悪の手は置いといて、鉄拳制裁も視野に入れておこう。可能性は低いが仮にそれで修正効くならそれでいい。
とはいえ根は深そうだしなぁ……どうしたものやら。
さて、いかがでしたでしょうか。
個人的に圭の言葉の「死んだ相手の事を忘れられない」以降の言葉は自分なりの死者への捉え方だと思ってたりします。
自分がまだ小学生の時に、いとこが事故で亡くなっているのですが、あれから20年以上経過した今でも時々当時の顔を思い出したりします。
まあ、しみったれた話はここまでにして、次話は現在遅筆ながらも書いてはいますが、もしかしたら壁が必要になるかもしれません。
それではまた次回にてお会いしましょう。