ある日。茜が風邪を引いた。そんな日に限って家には奏、慶、栞しかいなかった。
「だいじょーぶかー?茜ー」
「大丈夫だよ。微熱だもん……けほっ」
「ふーん、大丈夫なんだ……ならっ」
そこで邪悪に笑う慶。
「俺が看病してやろう」
「ふえっ⁉︎な、何する気⁉︎」
が、茜の質問も無視して慶は部屋から出て行き、すぐに戻ってきた。手にネギを握って。そのネギをバトンのようにスタイリッシュに回すと、慶は良い笑顔で言った。
「銀魂で見たんだけどよ、風邪のときはネギをケツにねじ込むといいらしいな」
ビクッとする茜。が、危険を感じた時には遅かった。床、壁、天井を踏み台にして死角から死角へ移動しつつ、茜に近付いた。
「えっ?えっ?えっ?」
布団をひっぺがし、慶は茜のケツの下に潜り込む。
「ふえええええっ⁉︎」
必殺仕事人の如く、ネギを指でヒュヒュヒュヒュヒュッ!と回すと、ズボンに手をかけた。
「や、やめなさい慶!私達姉弟よ⁉︎」
「安心しろ。処女は取らんし、ビデオで撮影もしちゃいない」
「いやぁぁぁぁっっ‼︎」
茜が涙ながらに悲鳴を上げた時だ。慶の肩にポンっと手が置かれた。
「あ?」
奏が立っていた。手に金属バットを持って。
「あ、あははっ……」
奏がニッコリ微笑むと、ガンッ!と音を立ててぶっ倒れた。
「ったく……このエロガキ……」
「や、やり過ぎだよカナちゃん」
「大丈夫よ。…………やり過ぎたかしら」
「思い直すの早いね⁉︎」
「大丈夫だ……この程度ならなんとか……」
「ソンビ⁉︎」
「殺すぞ赤髪」
「けーちゃんだって赤でしょ⁉︎」
今更だが、双子ということもあり慶の髪の毛は赤い。髪型は……あれ、なんか普通な感じ。どこぞのビーターみたいな?
「けほっけほっ……」
「だ、大丈夫?もう、慶が暴れるから……」
「その可能性もあるな」
「それしかないのよ!」
なんてやってるとまた咳き込む茜。
「ああもうっ。とにかく大人しくしてて。慶もだからね!」
「あーい」
そのまま出て行く奏。
(まったく、あのガキは……何考えてるかサッパリ分かんないんだから……)
でも、心配になりやっぱ戻った。その時だ。
「あっふぁっふぁっふぁっ!」
「いやああああああああっ!」
「⁉︎ 茜、慶!」
バタンとドアを開けると、
「エースが死んだぁーっ‼︎」
「エネルの顔……あっふぁっふぁっふぁっ!」
「何やってんのよあんたらは!」
奏の声が響いた。ベッドの横には大量に積まれたONE PIECEの単行本の山。
「え?ONE PIECE読破ですけど……」
「そんなん読んでたら熱上がるでしょう⁉︎」
「大丈夫だよカナちゃん。これすっごくおもしろ……けほっけほっ」
「大丈夫じゃないじゃん!ていうか面白さと熱は関係ないでしょ‼︎」
「まぁONE PIECEは熱いバトル漫画だからな。次はクールにワールドトリガーでも……」
「あんたは出て行きなさい」
「えっ、いやそんな辛辣な……」
「出て行きなさい」
「でも看病とか……」
「出てけ」
「はい……」
すごすごと慶は出て行った。すると、ドアの前には米の袋を抱いた栞がいた。
「どうした?」
「茜お姉様に……お粥……」
「………なるほどな。うしっ、兄ちゃんとお粥作るか?」
「………出来るの?」
「舐めるなよ。俺は食戟のソーマを全巻読んでる男だ」
「何それ?」
「うん、とにかく作ろうか」
そのまま一階へ。で、一緒に料理すること数分、
「あ、あーんっ」
栞が慶に完成したお粥を食べさせる。
「ん……んっ、美味い。栞が作ったから尚更な」
いうと、嬉しそうな顔をする栞。
「さて、持っていくか。こぼさないようにな。零しちまったら兄ちゃんは世界の物理法則に喧嘩売らなきゃならない」
「うんっ」
そのまま二人で茜の部屋へ。すると振り返った奏が言った。
「慶。殺すわよ?」
「もはや出て行けも言わないか……。や、用があるのはこいつだ」
すると、栞がお粥を持って来た。
「おかゆ」
「ありがとう、栞」
「お兄様が、てつだってくれた」
「そう。慶」
「あ?」
「出てって」
「そこはお礼言うところじゃね⁉︎」
が、慶は追い出された。で、お粥を完食。
「おいしかった?」
純粋な目で聞く栞。
「もちろんだよ。ありがとう栞」
「さ、移っちゃうとあれだから栞はもうお兄ちゃんのところにいきな?」
「うんっ………」
そのまま栞は出て行った。
「じゃ、ちゃんと寝なさいよ。私は栞と慶のご飯作ってくるから」
「はーい……」
奏も出て行き、三人で下でご飯を食べている時だ。上でガタンッと音がした。
「?」
「ちょっと見てくるか……」
「いや、私が行くわ」
「おいおい大丈夫か?」
「大丈夫よ。いざとなったら戦車でも作るから」
「戦争を起こす気かよ」
そのまま奏は出て行く。そして、心底ビビりつつも音のした部屋に到着。
「あ、あかね〜…?」
ガチャッと開けると誰かがいた。
「キャアァァァァッッッ‼︎‼︎」
スタンガンを呼び出し、そのまま発動。
「アババババババッッ‼︎」
「って、し、修ちゃん⁉︎どうしてここに……!」
その時だ。特殊部隊が突入してきた。
「「って、わああああッッ‼︎‼︎」」
その悲鳴が聞こえた瞬間、下にいる慶の目付きが変わった。
「栞、机の下に隠れてろ!」
言いながら慶は部屋の電気を消して、上に向かった。すると、特殊武装をした男達が数人いた。
「っ⁉︎ 慶様⁉︎」
と、いう声を無視して慶は一人目の顎に右手の平を顎に打ち付けて一瞬だけ失神させると、武器のマシンガンを奪い、マシンガンをそいつの顎に付けて言った。
「何者だお前ら。こいつの顎を吹っ飛ばされたくなければ全員マスクを外せ」
と、言ったがすでにマスクは外していた。というより武器すら構えていなかった。
「け、慶?」
後ろから奏と修が出てくる。
「か、奏?というかなんで修が?」
「父さんのせいよ」
で、事情を説明。ようやくすると、やめろと言ったにも関わらず特殊部隊を配備させていたらしい。
「………アホくさ」
慶が言うと、すごすご帰っていく特殊部隊の皆さま。
「な、なにかあったの〜?」
部屋から茜が出てきた。
「なんでもない。てか疲れた。ちょっと早いけど俺寝るわ」
「そ、そう。分かったわ」
「茜ー。部屋戻るぞー」
慶が肩を貸して部屋に戻る。そのままベッドに寝かせた。
「ったく……いい歳して風邪なんか引きやがって……」
そう言うと慶は茜の頭を軽く撫でると、自分のベッドに籠った。
「っくしゅ。寒ッ」