俺だけ能力を持ってない   作:スパイラル大沼

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第19話

 

 

 

 

1月3日になった。昨日までの王族としての務めは終わり、パーティやら何やらに参加させられ、全員お疲れムードである。その為、ほとんど全員が昼まで寝過ごす羽目になった。唯一早起きした葵は玄関に出た。

 

「ほっ、さむっ」

 

白い息を吐きながらポストの中を漁ると、もう3日目なのにたくさんの年賀状が届いていた。それらをすべて回収し、炬燵に入ると仕分けを始めた。

 

(私、奏……これも奏、輝、茜、私、光………)

 

と、心の中で呟きながら分けているときに、事件は起こった。

 

(あら、今年は慶のも来てるのね。クラスに友達が出来たみたいで良かったわ。……………あれ?慶?)

 

どたどたと走って葵は茜、慶の部屋に入った。

 

「慶!」

 

「……んー、どうしたのお姉ちゃん………」

 

茜が眠た気に起きた。

 

「昨日まで動きっぱなしだったんだからゆっくり……」

 

「そんな事より!慶は⁉︎1日から見てないわよ私!」

 

「けーちゃん………?」

 

ぼーっとした目で隣のベッドを見た。誰もいない。眠たげな目が見開かれた。

 

「けーちゃん⁉︎」

 

全員慌てて起こし、会議。

 

「と、いうわけで慶の居場所に心当たりのある人!」

 

すぐに修が手を挙げた。

 

「はい修ちゃん!」

 

「1日からいないんだったら、ミケの一件で俺が飛ばしてから迎えに行くの忘れてたのかもな」

 

「すぐに迎えに行きなさい!」

 

そんなわけで、修は瞬間移動して迎えに行った。南の島には大量の魚や動物の骨と焚き火の跡、そして慶がいた。

 

「よ、よう………」

 

控えめに修は声をかけた。慶はジロリと修を見ると、「うっ……」と涙腺が緩んだ。

 

「しゅううううううううッッ‼︎‼︎」

 

ガバッと修に抱き着いた。頭を撫でてやる修。すると、慶が乾ききった唇で言った。

 

「とりあえず、お前は後で殺す」

 

 

 

 

櫻田家。シャワーを浴びて慶は自室で拗ねていた。それを葵と茜が全力で慰めていた。

 

「携帯は繋がらないし、水は海水しかないし、ろ過しようにもペットボトルも何もないし、森には変な肉食動物たくさんいて眠れないし、そいつら焼いても硬くてマズイし、魚を取りに行っても中々捕まらないし、いい歳して野糞したし、まさか本当に葉っぱでケツ拭くことになるし、なんか嵐が来て火とか全部消えちゃうし……」

 

と、暗い思い出が蘇っていた。

 

(というか……肉食動物に素手で勝ったんだ……)

 

とは思わずにいられなかったが口には出さなかった。

 

「本当にごめんね。私達も忙しくて全然気付かなくて……」

 

「怒ってないし。…………でも修は殺す」

 

ボソッと物騒なことを言う慶。

 

「ほんとにごめんね。私もお姉ちゃんなのに全然気付かなかった」

 

茜も詫びた。

 

「いいよ別に。クソダルい新年パーティサボれたと思えばマシに思えるし。…………でも、辛かったなぁ。よく泣かなかったなぁ、俺………」

 

しみじみと呟く慶だった。

 

 

 

 

慶は修を殺す代わりに奪ったお年玉を持って出掛けた。

 

(何買おうかな……。こんだけあればMG10個は買えるよな……)

 

なんて考えながら歩く。すると、こんな声が聞こえた。

 

「やだ!離してください!」

 

「いいから金出せって。お年玉いっぱいもらってんだろ?」

 

「持ってない!やめて!」

 

それを聞いて慶はため息をついた。で、ゴキッゴキッと指を鳴らす。

 

「さて、と。今年一発目」

 

言いながら路地裏へと入った。女の子が二人の男に囲まれている。

 

「おーい。そこまでにしとけよ」

 

気だるげに声を出すと、その三人は振り返った。

 

「あ?なんだテメェ。関係ねぇだろ」

 

「ほっとけよカス」

 

「ほっとけ、かぁ……ダメだよお前……ほっとかれる奴の気持ち分かってねぇなぁお前……分かってないようん……」

 

「はぁ?何言ってんだお前」

 

「まぁいいや。テメェもついてねぇ野郎だ。この子と一緒に金出してもらおうか」

 

「ついてない、か。確かにな。正月から無人島に飛ばされてゲームセットしても迎えに来てもらえずに無人島生活我慢選手権だ。確かについてなぁい……」

 

「本当に何言ってんだこいつ」

 

「もうめんどくせーや。逃げる?やる?」

 

「やるに決まってんだろ!」

 

「死ねコラァッ!」

 

と、殴りかかってくる2人。それを二発で壁に減り込ませた。

 

「………無人島行ってから少し強くなったかな」

 

と、呟いた時だ。

 

(しまった。こういう行動が国民の人気一位獲得の原因になってるんじゃ……!)

 

そう思った瞬間、さっさと退散しようとした。だが、

 

「あ、あの!」

 

声をかけられてしまった。仕方なく振り返ると、助けた女の子が立っていた。

 

「はい?」

 

「た、助けていただいてありがとうございます!」

 

その子はペコッと頭を下げた。

 

「いやそんな気にしないでください。じゃっ」

 

「櫻田慶さん、ですよね⁉︎」

 

(うわあいバレてる)

 

ガッカリしつつも慶は頷いた。

 

「そうですけど」

 

「その、よかったら……お茶しませんか?」

 

「え、いや………」

 

「お、お願いします!」

 

勢いよく頭を下げられ、断るに断れなくなってしまった。

 

「わ、分かりましたから頭上げて……」

 

「では行きましょう!あ、名前まだでしたね」

 

その女の子はそう言うと、笑顔で言った。

 

「米澤紗千子です」

 

 


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