そんなわけで、学校。
「お疲れ、茜様」
「今日も大変だね。茜様」
「わざと様付けないでよ……」
お疲れの様子で茜はため息をついた。クラスメートの女子二人が、机に突っ伏す茜に声をかけたのだった。
「まぁ家と学校が茜にとっては周りの目から逃れられる場所だもんね。ここにはカメラもないし」
「うん!」
と、元気良く返事をしながらも教室の隅をチラッと見た。廊下側一番後ろ。そこが慶の席だった。全力で石回収してるのか、iPhoneをメチャクチャ弄っている。
(相変わらず一人なんだなぁ……)
姉として何かしてやりたいが、前に「学校で俺に話しかけたらもうバイクで送らないから」の一言で一蹴された。
「はぁ……いいのかなぁ、それで」
「? 何が?」
思わず漏れた呟きに友達が反応した。
「あ、いやなんでもないよ!あははっ……」
*
放課後。
「楽しい時間ってあっという間よね……」
げんなりする茜。
「あんた以上に学園生活を満喫してる子いないと思うわ」
「だってここでは、誰も私を特別扱いしないでしょ?」
「それはそうだけど……でも今日はバイクで来たから大丈夫!ヘルメット被れば……」
ピンポンパンポーン
『櫻田慶くん。職員室までお越しください』
「バイクの件で呼び出されたみたいね」
「私帰れないじゃん!」
「いやその年で一人で帰れないのはどうなの?」
と、突っ込まれた時だ。
「茜、帰りましょう」
葵が教室の前の扉にあらわれた。その瞬間、群がるクラスメート。
「すごい人気だね……」
「ていうか、茜の人気がないだけなんじゃ……」
「言わないで!」
*
帰り道。葵と茜は2人並んで帰宅していた。
「お姉ちゃんすごいねぇ……どこでも人気者で」
「そうかなぁ?」
などと会話しながら信号を待っている時だ。後ろから「キャアー!」と悲鳴が聞こえた。
「「えっ?」」
二人して振り返ると、サングラスに帽子にマスクの男がガッと後ろからぶつかってきた。
「ご、ごごごめんなさい!後ろに目が付いてなくて!」
ものすごい謝罪の仕方をする茜。するとその男はチッと舌打ちすると逃げ出した。
「引ったくりよー!」
「! お姉ちゃん!」
「うん」
すると、茜は鞄を葵に預け、能力を発動。
「待ちなさーい!」
「チッ!」
信号を渡り、角を曲がる。それを追う茜。そして、一度頭上を追い越して、電柱に脚をつけた。
「正義は……」
そう言って足に力を入れる。
「勝……!」
「おぼっ!」
「えっ?」
が、犯人の男が慶のバイクに跳ねられた。その男が茜に突っ込み、二人は頭をぶつけ、地面に倒れた。が、それら全てをまったく無視して慶は家に向かった。
(そういや、ジャンプ買ってねぇな)
ブォォォンと音を立ててコンビニに向かった。
「茜ー!大丈夫ー?」
遅れてやってきた葵が声をかけた。
「茜!大丈夫⁉︎」
「痛た……うん……。平気。って、犯人は⁉︎」
「へ?茜がやっつけたんじゃないの?そこで伸びてるけど」
「え?いや私は……」
何もしてないと言おうとしたところで、報道陣に囲まれた。
「犯人逮捕おめでとうございます!」
「フライングヘッドバットで仕留めたそうですね!」
「今のお気持ちは⁉︎」
「えっ?い、いや私は……ていうか……」
顔を真っ赤にしてテンパる茜。
「う、写さないでー!」
*
その日の夜。コンビニでジャンプを買い、ついでにワールドトリガーとかその他諸々の単行本を買って慶が帰宅した。
「ただい、まっ⁉︎」
目の前には奏が腕を組んで殺意の波動を放ちながら仁王立ちしていた。
「おかえり」
「な、なんで怒ってるの?」
「あなた、下校中に何かしなかった?」
「何か?………あーいやしてない、はず……」
「なら来なさい!」
力付くでリビングまで連れて行かれる慶。
「あ、慶兄さん。おかえり」
「お兄ちゃん、おかえり」
「栞、ただいま。あなたのために帰ってきました」
「け、慶……。相変わらずキモいぞ。おかえり」
遥、栞、修と挨拶する。で、テレビ。
『櫻田家の三女、茜様がひったくり犯を捉えた映像です』
「? これが?」
慶が尋ねると、ギロリと睨む奏。すると、巻き戻した。
「え、なんで巻き戻せるの?」
「ビデオよ。で、この下のバイク」
「…………あ、俺だ」
「これ、見方によってはあなたがこの男を跳ねてるようにも見えるんだけど?」
「……………」
言われて慶は落ち着いて思い出す。
「……………ああ。そういえば何かにぶつかった気がしないでも……音楽聞きながらゲームしながら運転してたから気付かなかったかも」
「音楽……?ゲーム……?」
「い、いやなんでもないです!」
「今回はたまたま茜のフライングヘッドバットに見えたから良かったけど王族が事故なんてあってはならないのよ⁉︎」
「言わないでカナちゃん!キスしてるように見えなくもないって友達からメール来てるんだから!」
「もっと王族としての自覚を持ちなさい!」
茜の抗議を鮮やかにスルーして奏は叱った。
「ままま、そう怒るなよ。少しは器も大きく持てよ。デカイのは態度とオッパイだけか?」
その瞬間、奏はチャキッとバズーカを精製して構えた。
「は?」
「ごめんなさいじょうだんです」