俺だけ能力を持ってない   作:スパイラル大沼

3 / 82
第3話

 

 

 

週末。

 

『テレビの前の皆さん、こんにちは!なんと今週の櫻田ファミリーニュースには、王家御兄弟全員に来て頂いております!』

 

司会の声が響く。親父の手回しで10人はどっかのビルの前に立っている。

 

「おい茜。いい加減背中に張り付くのやめろ。投げるぞ」

 

「だ、だってぇ〜……」

 

慶が言うも涙目で離れない茜。

 

『みなさま、よろしくお願いします!国民の皆様もこ存じの通り、王族の皆様には特殊能力があります。本日はあるゲームに挑戦し、その能力を発揮してもらおうと思います』

 

言うと、全員がやる気のある顔を見せる。あ、ごめん。修と遥と慶以外な。

 

『そのゲームとは、危機一髪ダンディ君を救え!』

 

「なんだその樽にナイフ刺すゲームみたいな名前のゲーム」

 

思わず呟く慶。

 

『屋上に取り残された人形、ダンディくん。それを制限時間内に多くそれぞれのカゴに入れていただくシンプルなルールです』

 

『国王からも激励のメッセージを頂いております』

 

すると、画面に国王が映った。

 

『みんな、惜しみなく力を発揮し、国民の皆様に自分達の事を知ってもらうために頑張って欲しい。一番成績の悪かったものには城のトイレ掃除をしてもらう』

 

「えー⁉︎」

 

「お城のトイレ掃除⁉︎」

 

「んどくせっ」

 

光、岬、慶と声を漏らした。

 

『制限時間は60分』

 

『みなさま、準備はよろしいですか?』

 

で、全員が表情を変える。

 

『それではスタートです!』

 

まず前に出たのは輝だった。お得意の怪力超人を使って登り始めた。

 

「よし、あたしだって!」

 

今度は光が近くにある木に登った。そして、生命操作を使って木を成長させて屋上へ向かった。が、木の成長は屋上までだけでは止まらない。軽々と超えてしまった。

 

「ちょっ、降ろしてー!」

 

そんな様子を見ながら慶は薄く笑った。

 

「なぁ奏」

 

「なによ。ていうか呼び捨てで呼ばないで」

 

「光を助けてやれよ」

 

「はぁ?嫌よ。これも大事なアピールなんだから。あの子には悪いけど、私は私の仕事をさせてもらうわ」

 

「おいおい、アピールするんだったらもっと別のアピールをした方がいいんじゃないか?」

 

「はぁ?」

 

「9人兄弟のバトルロワイアル、互いのアピールも混ざり合って全員が一位を目指す中、お前は一人ピンチになってる妹を助けるんだ。そうすりゃ誰もが自分の欲より妹のピンチを救う奏様素敵!となって、上手くいけば葵も抜けるかもしれないぜ?」

 

「………悪くないアイディアね」

 

掛かった!そう慶が思い、ニヤリと口を歪ませた時だ。

 

「でも嫌」

 

「な、なんでだよ⁉︎」

 

「私はあなたの思い通りに事が運ぶのが一番気に食わないの」

 

「嫌な姉だな……」

 

「結構。私は私なんだから」

 

言うと奏はドローンみたいなのを5体ほど召喚した。そのままドローンは屋上へ向かっていく。

 

「じゃ、仕方ない。俺が光を助けるわ。一応、妹で心配だし」

 

慶はそう言うと、背中の茜を引っぺがして、栞のところへ向かった。

 

「おーい、栞。こっち来い来い」

 

「? どうしたの?」

 

「光を助けたいんだ。いつ落ちるか分からないし落ちたら危ないだろ?だから屋上まで行って、そこから木に飛び移りたいんだが、その近道を教えてくれないか?」

 

「分かった」

 

で、慶は栞を肩車し、マンションの中へ消えて行った。その後ろ姿を見ながら奏は口を邪悪に歪めた。

 

「今ね」

 

そう呟くと、奏はドローン四機を光救出に向かわせた。

 

 

 

 

屋上に慶が到着した。

 

「さぁ栞、着いたぞ。拾っといで。悪いけど帰りは自分で戻りなよ」

 

「うん。肩車ありがとう」

 

(天使)

 

と、思いつつも慶は屋上に現れた修に言った。

 

「修」

 

「おう。どうした?」

 

「悪いんだけど一つだけ俺にくれないか?」

 

「………また奏と競うつもりか?」

 

「まぁね」

 

「………分かった。ほらこれ」

 

「サンキュー」

 

で、慶は木の方へ向かった。だが、ふとビルの下を見ると、奏がちょうど光をドローン四機で下に降ろしていた。

 

「ありがとう!奏ちゃん!」

 

「ううん。競技よりもあなたの方が大事だもの。それとこれ」

 

さらに奏は残りの一機のドローンでぬいぐるみを一つ回収していた。それを光に渡すアフターサービスをした後、ニヤリと邪悪に笑って慶を見た。

 

(甘いのよ。あたしのドローンがあればここから逆転は可能!光を助けて人気もぬいぐるみもいただくわ!)

 

だが、それに対して慶も微笑み返した。

 

(なっ……⁉︎)

 

(計画通り……ッ‼︎)

 

慶は未だ屋上にあるぬいぐるみを見た。そして、それらを片っ端からビルの室内へとぶち込んで行く。

 

「ち、ちょっとけーくん!何すんのよあんた!」

 

食って掛かってきたのは岬だ。

 

「ちょうどいい!岬、ここにある全部のぬいぐるみを室内に運べ!」

 

「おい!テメェどういうつもりだコラァ!」

 

「え、えーっと怒った岬の……名前なんだっけ?まぁいいや。別にお前らにデメリットはないだろ。どーせ室内は降りるときに通るんだ。むしろ1mでも運ぶ距離が短くなるんじゃないか?」

 

「……それもそうか。よっしゃ!行くぜみんな!」

 

『おー!』

 

と、8人が拳を突き上げる。その頃下。奏は木に拳を叩きつけた。

 

「ええい、小癪な!室内だろうとドローンは入れるのよ!」

 

屋上の扉からドローンが5機入り込んでくる。それを見て慶は再び口を歪めた。

 

(バカめ!入り口にぬいぐるみを放ったのはドローンの侵入経路を一本に絞るためだ!心理的に自分から故意的に遠ざけられたぬいぐるみを取りたくなる負けず嫌いの本質、奏なら絶対にここを狙ってくると見た!)

 

そんな事を考えながら慶はドローンを全て壊した。

 

「あー!あの野郎、一機200万円もするのよ⁉︎」

 

その時だ。

 

『さぁー!残り10秒となりました!』

 

アナウンスの声が響いた。慶はそれを待っていたかのように再び屋上に出て光の生やした木に飛び移り、落ちてるとしか見えない格好で降り始めた。手には一つのぬいぐるみが握られている。

 

「あ、あの野郎ッ……!」

 

ギリッと奥歯を噛み締める奏。そして、慶は地上に着地すると、自分の籠に向かってぬいぐるみを叩き込もうとした。それをさせまいと走る奏。

 

「あんたも道連れにしてやるわ!」

 

「やってみろ!」

 

だが、その直前だ。試合終了の合図が鳴り響いた。

 

「「…………は?」」

 

二人して間抜けな声を出す。画面にはしばらくお待ちくださいませの文字。

 

『せ、制限時間前ではありましたが……ゲームはここで終了とさせていただきます』

 

「えっ、なんそれ」

 

「はっ、ザマァみなさい。ラフプレーなんてするからそうなるのよ」

 

で、俺たちはスタジオに集められた。

 

『えー、トップは修様。そして最下位は奏様、茜様、慶となりました』

 

(なんで俺だけ呼び捨てなんだよ)

 

心の中でツッコミつつも堪えた。

 

「ち、畜生……茜のスカートが消えることさえなければ……」

 

「わ、私だって恥ずかしかったんだからね!」

 

で、司会がまた口を開いた。

 

『では、ここで国王選挙現時点での順位を発表します!』

 

デデン!とモニターに表示された。一番下から慶、修、輝、遥、岬、光、栞まで発表された。

 

『まだ公示されたばかりなので、今のところ票数に差はありません』

 

「な、なんで……?まだ私呼ばれてない」

 

「うわあーい。茜お姉ちゃんすごーい」

 

「やめてよ慶ちゃん!」

 

『続きまして、第3位は……茜様です!』

 

デデン!とでてきた。

 

「ふえぇ〜良かったぁ〜……」

 

「良かったんだ……」

 

「………はっ!3位⁉︎全然良くないよ!」

 

ガバッと起き上がる茜だった。ちなみに1位葵、2位奏だった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。