翌日。なんか重くて葵が目を覚ますと、目の前に慶の顔があった。いや、目の前というより胸の上だ。
「ッ⁉︎」
思わず動揺する葵だが、慶が余りにも気持ちよさそうに寝ているので起こそうとも思えない。
(でも……このポーズって襲われてるように見えないでもないような………)
すると、ガチャッと扉が開いた。
「姉さん、慶。ご飯………」
奏が入って来た。直後、凍り付いた。
「か、奏……?こ、これは違うの……」
「………………」
葵は言い訳しようとするも、何も言わない奏。
「………んっ」
そこで慶が目を覚ました。
「……………まだ8時か」
二度寝した。
「いや寝ないで起きなさいよ!」
流石に大声を出す葵。だが、慶は中々起きない。すると、奏がゴミを見る目で言った。
「姉弟で不潔……。お母さんに言う」
「ま、待って奏!本当に違うんだって……!」
「ブヨブヨした皮(モンハン)だぁ〜これで装備作れる……」
言いながら慶は葵の胸を揉んだ。
「話をややこしくするな!」
「ほら不健全」
「寝言聞いてたでしょ⁉︎……って、やめっ……んっ」
「姉さんエロイ」
「し、仕方ないでしょ⁉︎ってかいい加減にしろ!」
最後の部分は慶を蹴ってベッドから落とす時に言った。が、手錠で繋がってるわけで。葵も一緒に落ちた。
「グッフォアッ!」
「きゃっ!」
結果、慶の溝に葵の肘が突き刺さり、慶を起こすことには成功した。が、今度は葵が慶の上になる。
「ほら」
「これは偶然よ!」
「どうだか?」
すると、奏は写真を撮って去っていった。
「あーあ………」
「な、何すんだてめぇ……」
「黙りなさい」
*
茜は佐藤花とお出掛け。で、慶と葵はさっそくこの手錠の鍵を開けに出発した。葵は能力の使用を回避するために伊達眼鏡を掛けている。
「…………似合うな」
「ありがと」
バイクは使えない。手錠のせいで。だから二人は歩いている。
「で、どこに行くんだよ」
「電車で少し行ったところに鍵屋さん?があるらしいわよ」
「なるほどな。あとさ、」
慶は辺りを見回しながら言った。
「………すっげー見られてんだけど」
「そりゃあ、こんな王族が仲良く手錠してたらねぇ……」
「仲良いかどうかは微妙だけどな」
「えっ?」
乾いた声を上げる葵。
「慶……わたしの事、嫌いなの?」
「はぁ?………あっ、いやそういう意味じゃなくてだなっ」
「ふふっ、冗談よ」
「んなっ……!て、テメェ!」
「ほら行くわよ」
「チッ」
で、電車に乗る。休日ということもあってか、結構混んでいた。そのため二人は立つしかなくなった。
(慶と電車に二人で乗るなんて久しぶりだな)
そんなことを考えながら窓の外を見ている時だ。自分のお尻が触られる感覚がした。
「っ⁉︎」
痴漢だ、と一発でわかった。だが、人が多過ぎて誰が触ってるのか分からない。不安と恐怖で思わず涙が出そうになったときだ。
電車の窓がズガシャアンッ!と割れた。よく見ると、男が頭を窓に突っ込んでいる。気が付けば自分のお尻に当たっていた手はなくなっていた。
「おい、誰に断って俺の姉上のケツ触ってんだコラ」
慶が痴漢の頭を窓に叩きつけて、窓を突き抜けたのだった。
「〜〜〜ッ!〜〜〜ッ!」
「あっ?聞こえねぇよ。何?」
走行中のため、何も言えない強盗。ていうか風圧で顔がすごいことになっていた。
「〜〜〜ッ!」
「いやまぁ分かるよ?出来心だったんだよな?気持ちはわかる」
会話してるし!と、乗客の全員が思った。
「でもね、王族に痴漢はダメでしょう。まぁ俺は優しいから謝れば許してやるよ。ほら、謝れ」
「ごべんばばい!」
「あ?何?聞こえねぇよやり直し」
鬼か!とも思った。
「ごっ!ごぇんあい!」
「聞こえませぇ〜ん。はいもう10回いってみよう」
10回⁉︎などと周りがリアクションしてると、電車のスピードが落ちていった。
「あん?」
すると、電車が止まる。そして、駅員が入ってきた。
「ちょっと何をやって……あ、葵様に、慶様⁉︎」
「あ、ちょうどいいや。こいつ、痴漢。あとよろしく」
そのまま慶は葵の手を引いて逃げようとした。だが、その肩を駅員が掴んだ。
「待ってください。この窓は慶様がやったんですよね?」
「は、はぁ」
「痴漢止めるために電車止めますか普通」
気がつけば乗客の全員が慶を睨んでいた。
「……………ご、ごめんなさい」
「とにかく、後でお話を聞きます。葵様もいいですね?」
「は、はぁ」
結局、事情聴取(という名の説教)を受けていて鍵を開けることは出来なかった。店が閉まってて。
「まったく……慶のお陰で……」
「悪かったよ……。葵が痴漢されてたから力入っちまって……」
「慶………」
「半分はストレス発散だけど」
「本当に台無しの極みね」
*
家。
「でもどうするの?今日もまたこのままいるつもり?」
「それしかないだろ。はぁ……また風呂お前と一緒に入んのかよ……」
「仕方ないでしょー。私だって恥ずかしくないわけじゃないんだからね」
「さいですか……」
なんて話しながら二人はテレビを見ている。すると、修が言った。
「ていうか、俺が手錠を瞬間移動させればよくね?」
「「…………あっ」」
解決した。