俺だけ能力を持ってない   作:スパイラル大沼

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第33話

 

 

それから一週間ほど、1日も欠かすことなくヒーロー活動を続けた。で、今はまたパトロールなう。二人は街の上を飛んでいた。ていうか茜が。

 

「茜、その……も少しゆっくり……」

 

「はぁ?」

 

「早くて怖い……」

 

「はいはい……。ていうか、ちゃんと地上を見ててよね。困った人がいたら降りないといけないんだから」

 

「ういっ。わかった」

 

「ほら、これくらいでいい?」

 

「も、も少しゆっくり……」

 

「まったくもう……」

 

「ああ、そのくらい……あー助かった……」

 

と、慶が茜の肩に掛けてる腕の力を抜いた時だ。ぶら下がった腕が茜の胸に当たった。

 

「っっ⁉︎ち、ちょっと慶⁉︎どこ触って……!」

 

「はぁ?オンブされてるだけだけど?」

 

「胸に手が当たってるよ!」

 

「あ?マジ?あー悪い。どこ触っても変わんねぇから分からなかったわ。まぁ別にこのままでも姉弟だし問題な……」

 

と、言いかけた慶の腕を茜が掴んで地上に叩きつけた。

 

「問題あるよ!…………あっ」

 

今更、上空から投げ付けた事実に気付く茜。慶は物凄い勢いでコンビニの屋根に激突し、突き抜けた。

 

「痛て……。あんにゃろ……あれ?」

 

そこのコンビニでは強盗が行われていた。

 

「…………あれっ?」

 

「なんだテメェ!」

 

強盗は二人。客は二人(内一人が慶)、店員が一人だった。

 

「や、えっと……。ピカチュウ(裏声)」

 

「嘘付けェ!なんだかよく分からねぇが邪魔するってんなら容赦はしねェぞ。オラァッ!」

 

殴りかかってくる強盗A。その拳を躱して慶は強盗の腹に拳を叩き込んだ。

 

「ゴフッ!」

 

「あぶねぇなこの野郎」

 

その時だ。ガキリと拳銃を向けられた。

 

「動くな」

 

「………さすがに、素手で来てるわけないか……」

 

慶の頬に汗が流れた。思いの外、相手は落ち着いている。下手に動くと自分や自分以外の奴が撃たれかねない。

 

「ナイト、ブルームだったか?ご苦労なこった。ヒーローごっこなんてよ。お前の正体がどこのどいつだか知らねぇが、もう片方の王族に付き合わされ、こんな目にあってるんだからよ」

 

(本当に俺だってバレてねぇのかよ……)

 

と、思いつつも慶は自分のスカートの下の足に括り付けてある拳銃を抜く機会を伺っていた。

 

「しかし、お前かわいいな。本当に何処の馬の骨だ?」

 

その瞬間、慶は作戦を思いついた。そして、口を開いた。

 

「うるせぇよチンカス」

 

めちゃくちゃ低い声でそう言った。思わずキョトンとする強盗B。その隙にスカートをめくった。で、拳銃を抜いて強盗の持ってる銃を弾いた。

 

「んなっ⁉︎」

 

リアクションしてる間に顔面にドロップキック。後ろに倒れたところを慶はまたがって拳銃を顔面に押し付けた。

 

「俺は男だ」

 

「………………」

 

警察に通報した。

 

 

 

 

「もう!けーちゃん一人で倒したら意味ないでしょ⁉︎」

 

「バーカ、お前に拳銃持ってる奴相手にさせるわけに行くか」

 

「そ、そう………」

 

「なぁ、そんなことよりさ。俺のこのカッコってそんなに可愛い?」

 

「は?」

 

「や、だから俺だって分からなくなるほど可愛いかな……」

 

「あー……うん、まぁ……」

 

「そ、そう……」

 

そのあと、「女装……女装か………」などとブツブツ呟き始めたが、茜は無視して引き続き正義活動を再開した。

 

 

 

 

帰宅した。

 

「あー疲れたー!」

 

茜はそのままソファーにダイブ。慶は二階に上がった。で、葵の部屋に入った。

 

「入っていいか?」

 

「えっ」

 

中では葵は着替え中だった。一瞬、動きを止めたものの、慶はそのまま中へ入り、ベッドに腰をかけた。

 

「葵……相談があるんだが……」

 

「待って、何を何食わぬ顔で着替えてる人の部屋に入ってこないで」

 

「いや、相談っつーか質問だな。いい?」

 

「や、だから着替えてる人の部屋に……」

 

「これ葵だから相談出来ることだからな。本気で信用してっから聞けることだからな」

 

「その前に私の心、察して」

 

「女装って、どう思う?」

 

「お願いだから話を………今なんて言った?」

 

聞き返すが慶は何も答えない。ふっと顔を背けるだけだった。その瞬間、慶の両肩をガッと掴んで揺さぶる葵。

 

「目を覚ましなさい慶!」

 

「まっ……ちょっ!死………っ!」

 

「あなたはそっち側じゃないはずよ!お願いだから戻って来なさい!ねっ⁉︎」

 

「ガッ……ちょっ……激しッ……!」

 

「私はあなたを社会的に殺させたくないわ!お願いだから落ち着きなさい!ねっ⁉︎ねっ⁉︎」

 

「いやお前が落ち着っきゃっ……舌噛んだ!舌噛んだからたんま!」

 

すると、ようやく収まった。

 

「で、どういうこと?何があったのか詳しく説明しなさい今すぐに!」

 

「や、だからさ……そのっ、俺が茜とヒーロー活動始めたじゃん?」

 

「そうね」

 

「それでさ、茜の支持率は上がったし、外歩いてても余り茜は周りを意識しなくなったと思うんだよ」

 

「うん」

 

「だけど、ナイトブルームの方は誰も俺と気付かない余りか本当に女だと思ってる奴も多いじゃん?で、今日コンビニ強盗ボコったときにさ……可愛いって言われたのよ……」

 

「…………」

 

「で、スカートの下に俺は短パン履いてるわけだが、そこをまた可愛いだのなんだのとネットで言われてるし、てか今思えば俺、茜と同じくらいしか身長ないし、なぜか茜も岬も光も『けーちゃん』だし、なんつーのかな、自分に自信がなくなってきたというか……あれ、なんだそれ……なんか自分でも何言ってるか分からなくなってきた。まぁとにかくそんな感じ」

 

「慶。貴方しばらくナイトブルーム辞めなさい」

 

「はぁ?なんでまた急に」

 

「辞めなさい。ていうか辞めてください」

 

「いや別にいいけど……」

 

「それで眼が覚めると思うわ」

 

「わ、分かった」

 

 


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