俺だけ能力を持ってない   作:スパイラル大沼

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第4話

 

突然だが、慶と奏は仲が悪い。いや悪いというか……性格が合わない。奏は何事も基本的にはキッチリしてるタイプだし、慶は基本全部が全部ルーズだ。だから合わないというのもある。だが、一番の理由は別にある。

その事を知らない茜は、今とても気まずかった。その2人と一緒に登校しているからだ。

 

「か、カナちゃん……私達、どうしてこんなに早く登校してるんだっけ……?」

 

「朝、委員会があるからでしょう?」

 

「そ、そうだったねー。あははっ……。け、けーちゃんは?」

 

「あ?親父にバイクの鍵没収されたから仕方なくだ」

 

「や、だからなんでこの時間?」

 

「そうよ。いつも学校に行くのすら渋るくせにどうしていつもより早い時間にいるのかしら?もしかしてシスコン?茜のこと大好きなの?」

 

「ちげーよカスは黙って死んでろ。俺はコンビニで今日発売のONE PIECE買ってくんだよ」

 

「あら、カスはどっちかしら?この前はラフプレーした癖にビリになってた人を本当のカスというんじゃないの?」

 

「外面をフェイズシフト装甲並に固めてるカスには言われたかねぇ」

 

「は?」

 

「あ?」

 

「ふ、二人とも喧嘩はやめてよぉ〜。周りの人が見てるよ……」

 

茜が涙目になると、奏は「チッ」と舌打ちし、慶はペッと唾を吐き捨ててお互いに引き下がった。

 

「ていうか茜。手ェ離せ。歩きずらい」

 

「え〜だって人の目が……」

 

「甘えるな。お前今年で16だろ。成長しろ」

 

「成長しろ?それは自分に言ってるのかしら?」

 

「黙れ名前の割に楽器一つできないゴミが」

 

「あら、名前と自分の特技になんの因果関係があるのかしら?」

 

「両親の想いがまったく人生に届いてないっつってんだハゲ」

 

「は?」

 

「あ?」

 

「だからやめてってばぁ!………まったく、どうして喧嘩ばかりするのかなぁ……」

 

なんて話しながら登校する。

 

「じゃ、俺はそこのコンビニで漫画買ってくから。茜、奏のこと頼むぞ」

 

「どういう意味かしら?」

 

「お前みたいなお姉ちゃん(笑)よろしくと言ったんだよ。日本語くらい分かれ」

 

そのまま慶はコンビニへ向かった。

 

 

 

 

「慶と奏?」

 

学校。屋上で茜が修に聞いた。

 

「うん。どうしてもいつも喧嘩ばかりするのかなーって……」

 

「そりゃお前あれだ。奏が慶に失望してるからだ」

 

「失望?」

 

「昔、奏が慶のことかなり気に入ってたのは覚えてるか?」

 

「え?うん」

 

「その時の慶は自分に能力がないのが分かってたから、それだけ頑張ってただろ?あいつは基本的に今はなんでもできるし、一年の時なんて剣道で全国行ったからな」

 

「そうだね。あの時のけーちゃんはかっこよかったなー」

 

「でも、弟や妹が出来ていくにつれてどんどん能力も出てくる。結局、あいつがどんなに努力したところでやっぱ注目されるのは俺たちの能力だったんだ。でもそれでも頑張って、中3最後の大会」

 

「ああ……去年、足の筋痛めて……」

 

「そう。それからあいつは努力をしなくなった。ゲームやアニメに逃げて、元々剣道だけじゃなく、他のことも努力してたあいつだから、勉強だって授業なんか出なくても出来た。だから本人は問題ないと自分では思ってたんだけど、奏はそれを許さなかった」

 

「それで、仲悪くなっちゃったんだ……」

 

「最初の頃は奏も俺によく相談してきたんだけどさ、向こうが頭良いだけあって中々にムカつく返答をされたらしく、こうなってる」

 

「ふーん……」

 

「まぁ、どっちが悪いとかじゃないから困るんだよな。お前も変に首突っ込んで疎まれないようにな」

 

「はーいっ」

 

そう釘を刺された。にも関わらず、茜はあの二人と一緒に帰ろうとか思っていた。

 

 

 

 

放課後。再び並んで歩く奏、茜、慶に追加して修。

 

(な、なんで俺まで………)

 

嫌な汗をものっそい流す修だった。

 

「なぁ修」

 

「ど、どうした?」

 

「確か読みたがってたよな?ONE PIECE最新巻」

 

「ああ。そうだけど……」

 

「読む?今朝買ったんだ」

 

「おお、さんきゅ」

 

「けっ、人を物で釣るなんて最低ね……」

 

「外面で釣ろうとしてる女に言われたかねぇんだよ」

 

「は?」

 

「あ?」

 

(ほら見ろおおおおお!早速喧嘩始まってんじゃねぇか!自分がこの空気に耐えられないからって人を巻き込む奴があるか!)

 

そんな事を考えながら茜を睨む修。だが、意外にも茜は真顔だった。いや、ていうかカメラを避けようとしててそれどころじゃなかったようだ。

 

(こいつ、何も考えてないな……)

 

ハァ、とため息をつく修。だが、修も別に何かしてやろうとか考えてるわけではない。このまま何事もなく帰れればいい。そう思っていた時だ。

 

(そういえば今週の買い物係茜だったな)

 

昨日、泣き喚いてたのを思い出した。

 

「茜、お前買い物係じゃなかったか?」

 

「………あっ!そ、そーだった!」

 

「今のうちに行ったほうが楽なんじゃないのか?」

 

「お願い!みんな手伝ってぇ!」

 

「嫌」

「断る」

 

「声をそろえて⁉︎」

 

揃ったのは奏と慶だった。

 

「お願いー!一人で買い物はいやー!タダでさえ買い物が嫌なのにー!」

 

「うるせぇぇぇ!大体、なんで高校生にもなって一人で買い物……あ、いやいいよ。やっぱ行くわ」

 

「これまた綺麗な手のひら返し⁉︎」

 

「ポテチ欲しいから」

 

「子供か」

 

言ったのは奏。

 

「黙れババァ」

 

「ば、ババァ⁉︎私はまだ17よ!」

 

「まぁお前は帰ってろ。老害が買い物についてきたってメリットがない。疲れてるなら家でマッサージチェアに揺られながら仮眠のついでに永眠でも取ってろ」

 

「優しさに見せかけた暴言やめなさいよ!」

 

「とにかく茜、行こうぜ」

 

「ポテチは買わないけどね」

 

「俺も帰るわ」

 

「買ってあげるから!」

 

てなわけで、スーパーに向かった。

 

 


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