そんなこんなで、二人三脚。花蓮と慶は軽く足を延ばす。
「いやーまさかお前と俺が組むことになるなんてな。正直、姉の友達感覚だったわ」
「昔はよく一緒に遊んだじゃない。茜と三人で」
「そーだっけ?忘れたよそんなもん」
「うーわ、ひどっ」
なんて話しながら足を紐で結ぶ。
「太もも柔けーなー。茜とは違って」
「何触ってんのよ勝手に!」
容赦ない蹴りが飛んで来たが、余裕でガード。
「いいだろ別に。てか許可とったらいいの?」
「なわけないでしょ⁉︎あんた本当にいつまで経っても変わんないわね」
「はっ、人間という生き物がそんな簡単に変われると思うなよ」
「そうそう、そういうところも相変わらず」
ちなみにそのやりとりを見ながら割と本気で殺意の波動を放っている奏だった。そんなわけで、二人三脚はスタート位置に立った。肩を組む慶と花蓮。
「ラフプレーと正々堂々、どっちがいい?」
「聞くまでもないわよ」
「OK」
ニヤリと邪悪に笑う2人。その様子を見ながら奏は茜に聞いた。
「ねぇ、なんかあの子さ。慶と同じ顔してるけど大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないよ?」
「はっ?」
「昔からあの二人ってダメなんだよね。けーちゃんの悪巧みについていける数少ない人の一人だから。カレンって」
「なんでそんな二人を組ませたのよ!」
「わ、私に聞かれてもー……あははっ」
「クラス委員でしょうがあんたは!」
で、レーススタート。慶は早速、自分の鉢巻をとって、隣で走ってる奴の足を掬った。ちなみにこれ、0.1秒の早技である。で、転んだ一瞬を狙って花蓮がそのチームの足の鉢巻を解く。これも0.5秒。よって、そのチームは失格となった。
そして、また二人は邪悪に笑った。
「行くぜ」
「おう!」
そのまま、元々早い上のラフプレーによって断トツゴールを果たした。
*
続いて、クラスの男子全員によるタイヤ取り。ちなみに女子は竹取物語だ。あの竹を取るやつな。で、慶の指揮のもと、クラスは動く。
「いいか、敵兵の群がっているタイヤは無視しろ!なるべく空いてる、もしくは2人以下のタイヤを取りに行け!必ず2人組以上で行動しろ!いいか、我らが櫻田茜に勝利を収めるのだァァァッッ‼︎‼︎」
『うおおおおおおおおおッッ‼︎‼︎』
クラス全員の士気がさらに高まり突撃した。すると、トランシーバから声がした。
『こちら一番隊隊長福品、こちらタイヤにラクビー部がいます。応援頼みますどーぞ!』
「了解した。俺が今から行く。だが、無理だったら引き摺られる前に手を離せ。タイヤより貴様らの命の方が大切だどーぞ」
『大将………どーぞ』
「今行く!」
で、通信は切れた。慶は福品の元へ走りながら呟いた。
「これでは道化だよ……」
と、まぁ上手い具合に敵だけじゃなく味方もコントロールし、圧勝した。
*
「あんた……凄いわね。呆れるを通り越して軽蔑するわ」
「通り越したら尊敬しねぇか普通……」
奏の台詞に納得いかないと言いたげに呟く慶だった。
「いいだろ、勝ってんだから」
「ほとんどラフプレーじゃない」
「バッカお前正々堂々とも勝ってんだろ」
「味方まで騙してるじゃない」
「悪いな、頭良くて」
「うざっ」
ちなみに今はどっかの木の根元。二人っきりで話している。ふと気になって慶は奏を見つめた。
「………………」
「な、何よ」
「やっぱお前オッパイでけーなって思って」
「くたばれ変態」
「とても茜と一つしか変わらないとは思えん」
「あ、あんた本当に何言ってんの……?」
「汗でブラが透けてるって言ってるんだよ」
「本当に死ね変態!」
*
そんなこんなで、最後のリレー。クラス代表は当然、慶と茜だ。
「うー……出たくなかったのに……」
「まぁそう言うなって。体育祭なんだから生徒しかいないし大丈夫だろ」
アキレス腱を伸ばしながら慶が言った。
「それに、アンカーの俺よりマシだろ」
「アンカーだけ一周走るからねー」
「そもそもなんで三年差し置いて俺がアンカーなんだよ。意味わかんねぇよ」
「それはほら、けーちゃん王族だし早いじゃん」
「お前も王族だしはえーだろ」
「女子だもん。ていうかそんなに早くないし」
なんて話しながらもスタート位置に並ぶ2人。そのままスタートした。
「茜、終わったら起こしてくれ」
「はぁ……はいはい……」
一年生が走り終え、茜にバトンが渡る。
「櫻田さぁぁぁぁぁぁんッッッ‼︎‼︎‼︎」
応援席から声が上がる。
「恥ずかしいからやめてよ〜……」
と、呟きながら茜は走る。で、自分の前の3年の男子生徒に渡した。茜に渡されたということもあり、バカみたいに張り切って出発。そのまま茜は慶を起こす。
「ほらっ、けーちゃんっ、起きてっ…」
「んっ……おお、おはよう。つーかなんで疲れてんの?」
「リレーだからだよ!」
「そりゃそうか……」
何て言いながら立ち上がる慶。軽く首をコキコキ鳴らすと、言った。
「じゃ、行くか……」
そのままスタート位置に立つ。後ろからは三年生の女子生徒が来る。慶の周りには3年の男子生徒ばかり。それでもまったく緊張した様子なく、慶はリードを取った。現在は白組がリード。慶はバトンを受け取った。
「今日の私は、阿修羅をも凌駕する存在だッ!」
と、訳のわからない事をほざきながら走り出した。前を走るのは陸上部の元エースだ。距離はほんの1mほどの差だが、縮まらずにも離れない。ひょっとしたら、ひょっとしたらあるんじゃないか?みたいな空気が流れてきた。そして、半周が終わり残り半周。
「けーちゃーん!頑張れー!」
茜の声が聞こえた。その隣で奏(さっきまで走ってた)がビデオカメラに慶の姿を納めていた。それに応えるように慶も加速する。
「っ」
「ッ」
二人は走る。その時だ。慶が転んだ。顔面から地面にヘッドスライディングする。世界が静止する中、そのまま前の三年生は走ってゴールした。
「…………………」
全員が黙り込む。勝った三年生すらも黙り込んだ。慶は中々起き上がらない。転んだ姿勢のまま微動だにせず、固まっていた。周りの生徒も、「あれ?なんか変じゃね?」「寝てんのあれ?」「微動だにしねーんだけど」みたいに騒つく。
「「慶!」」
不審に思った奏と茜が駆け寄った。
「大丈夫なの⁉︎」
「けーちゃん!」
すると、「うっ………」と声が聞こえた。
「どうしたの?どこか痛いの?」
「起き上がれないの?」
聞かれるが返事はない。と、思ったら枯れた声でこう言った。
「………やべーよ、恥ずかしくて顔上げらんねーよ……悪いんだけど、このまま閉会式行ってくれる?」
「「行くか!起きろ!」」
蹴られた。
*
体育祭が終わり、自宅。転んで泥だらけになった慶はシャワーを浴びた後、葵に手当てしてもらっていた。結構な勢いの後に豪快に転んだため、顔や腕、足などに擦り傷がある。
「痛た!痛いっつーの!腕取れるから!」
「我慢しなさい。男の子でしょ?」
「ナイトブルームは女の子ですぅ!」
「いや、あなたは櫻田慶よ?何言ってるの?」
で、膝に絆創膏を貼る。すると、栞がやって来た。
「お兄様、だいじょうぶ?いたくない?」
「おう。ていうか痛いという感覚を教えて欲しいまでもある」
「そう、じゃあ味あわせてあげる」
「いだだだ!いてぇよバカ葵!」
すると、栞が絆創膏を持って慶の膝の上に乗った。
「しおりが、貼ってあげる」
「えっ?マジで?ちょっ……そんなことされたら元気500万馬力サイクロン号になっちゃうよ?」
「バイクになるのかよ」
修がツッコンだ。で、栞はティッシュを消毒液で濡らすと、慶の頬の傷に当てた。
「いたい?」
「むしろ気持ち良いでござる!」
「よかった」
で、絆創膏を貼り終えた。
「どお?」
「拙者もう死んでもいいでござる」
「死んじゃ、めっ」
「あっ、すいません」