俺だけ能力を持ってない   作:スパイラル大沼

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第45話

 

 

さっそく二人はジェットコースターの列に並んだ。振り替え休日なので、普通の人にとっては平日という事もあり、あまり混んでなくてすんなり乗れた。

 

「ジェットコースターなんて久しぶりだわ。ね、慶……」

 

言いながら慶の方を見ると、ものっそい汗をかいていた。

 

「…………どしたの?」

 

「は?何が?」

 

「いや、尋常じゃないくらい汗かいてるけど。なんかあったの?」

 

「いやー今日は暑いなおい。この遊園地暖房入ってんじゃねぇの?」

 

「いや外で暖房入れてどうすんのよ。もしかして怖いの?」

 

「は?怖いって何?ちょっと英語で話されても分かんないんだけど」

 

「純然たる日本語よ。ていうか英語でもあんた分かるでしょうが」

 

最初は多少心配していたものの、段々とからかいたくなってきている奏。

 

「ふぅーん、そっ。まぁそれならいいわ。この後も安心して色んなものに乗れるしね」

 

「…………いろんなもの?」

 

「あれとかそれとかこれとか」

 

奏の指差す先には色んなジェットコースターやら空中ブランコやら何やらと色々あった。それを見るたびに震える慶だが、「はっ」と笑ってみせた。

 

「怖くねんだよ。まだお前の方が怖ぇよ」

 

「なんか言った?」

 

にっこり微笑む奏が怖い。

 

「いやなんでもないです」

 

「お、来たわね。乗るわよ」

 

「お、おう」

 

今更、自分に気合を入れる慶。で、二人はジェットコースターに乗る。

 

(よりによって一番前ェッ⁉︎)

 

一番前に乗せられ、座らされた。二人の肩にガコンと安全バーが降りてくる。

 

(逃げられなくされた)

 

「あの、慶?なんか顔色悪いんだけど」

 

「はぁ?悪くねぇし。お前の目が濁ってるだけだろ」

 

「へぇ、そう?なら早く出発しないかな〜」

 

(こ、この野郎……)

 

なんてやってる間にグワンッと動き出した。そのままゆっくりとレールの山を登り始めた。

 

 

 

 

青白い顔をして降りてきた慶。

 

「し、死ぬ……」

 

「あら、怖かったんだ?」

 

「はぁ?怖くねぇし……むしろあと10回くらい乗ってもいいねうん」

 

「じゃあ乗ろっか。あと10回は無理だけど……3、4回くらい」

 

「えっ、ちょっ、嘘っ」

 

乗せられた。

 

 

 

 

そのまま死にかけで降りてきた慶。

 

「ん〜……。面白かったぁ。次は何乗る?」

 

「鬼か!少し休ませろ!」

 

「怖くないんじゃなかったの?」

 

「ジェットコースター5回も連続で乗ったら誰だって疲れるわ!」

 

「そう?じゃあ休憩しよっか。なんか飲む?」

 

「それくらい自分で買うからいい」

 

「それくらいお姉ちゃんに奢らせなさいよ」

 

「………別にあんま人いないんだし、選挙の顔作んなくてもいいんじゃねぇの?」

 

言うと、奏は少し黙り込んだ。で、「別にそういうんじゃないんだけどな」と小声でボソッと呟くと、すぐに笑顔を作って言った。

 

「いいから。何がいい?」

 

「………ジンジャエールで」

 

「了解っ」

 

そのまま近くの売店に走って行った。その後ろ姿をぼんやり眺めてると、ポケットがブルッと震えた。

 

AKANE『カナちゃんとデートどう?』

 

櫻田慶『死ね』

 

即答して奏を待ってると、また震えた。

 

AKANE『なんでそういう事言うかなー。で、どうなの?楽しい?』

 

櫻田慶『初っ端からジェットコースター連続搭乗記録チャレンジみたいなことさせられて死にかけてる。今、あいつ飲み物買いに行ってる』

 

AKANE『うーわ……それは辛いわ。何回乗ったの?』

 

櫻田慶『はいぱーびじょんだいありー』

 

AKANE『5回⁉︎けーちゃんジェットコースター苦手なのに平気なの⁉︎』

 

「あれ?通じた?」

 

と、呟いた時だ。

 

「はいっ、お待たせ」

 

「おお、さんきゅ」

 

奏が戻って来て、慶は飲み物を受け取ると、

 

櫻田慶『カナちゃん戻って来たから後でな』

 

と、返して携帯をしまった。その直後にヴーッとポケットで震えたが無視。

 

「で、この後どうする?」

 

「飲んでからでいいだろ」

 

「聞いただけじゃん」

 

ジンジャエールを口に含んでから、少し考えて口を開いた。

 

「げっふ!げふっエッフッ!」

 

「ど、どうしたの⁉︎」

 

「ジンジャエール、喉に……」

 

「で、どこ行きたい?」

 

「切り替えはえーな……。スイッチかよ。どこでもいい。なるべく穏やかな奴」

 

「じゃあメリーゴーランド」

 

「穏やかっつーかファンシーだな。てか恥ずかしいからパス」

 

「うん……。それは私も恥ずかしい」

 

ならなんで言った、と思いつつも口には出さなかった。

 

「で、どーすんだよ」

 

「一番近いとこでいいんじゃね?」

 

「えーっと……地図によると一番近いのは……」

 

と、奏が指差した先は、お化け屋敷だった。

 

 


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