さっそく二人はジェットコースターの列に並んだ。振り替え休日なので、普通の人にとっては平日という事もあり、あまり混んでなくてすんなり乗れた。
「ジェットコースターなんて久しぶりだわ。ね、慶……」
言いながら慶の方を見ると、ものっそい汗をかいていた。
「…………どしたの?」
「は?何が?」
「いや、尋常じゃないくらい汗かいてるけど。なんかあったの?」
「いやー今日は暑いなおい。この遊園地暖房入ってんじゃねぇの?」
「いや外で暖房入れてどうすんのよ。もしかして怖いの?」
「は?怖いって何?ちょっと英語で話されても分かんないんだけど」
「純然たる日本語よ。ていうか英語でもあんた分かるでしょうが」
最初は多少心配していたものの、段々とからかいたくなってきている奏。
「ふぅーん、そっ。まぁそれならいいわ。この後も安心して色んなものに乗れるしね」
「…………いろんなもの?」
「あれとかそれとかこれとか」
奏の指差す先には色んなジェットコースターやら空中ブランコやら何やらと色々あった。それを見るたびに震える慶だが、「はっ」と笑ってみせた。
「怖くねんだよ。まだお前の方が怖ぇよ」
「なんか言った?」
にっこり微笑む奏が怖い。
「いやなんでもないです」
「お、来たわね。乗るわよ」
「お、おう」
今更、自分に気合を入れる慶。で、二人はジェットコースターに乗る。
(よりによって一番前ェッ⁉︎)
一番前に乗せられ、座らされた。二人の肩にガコンと安全バーが降りてくる。
(逃げられなくされた)
「あの、慶?なんか顔色悪いんだけど」
「はぁ?悪くねぇし。お前の目が濁ってるだけだろ」
「へぇ、そう?なら早く出発しないかな〜」
(こ、この野郎……)
なんてやってる間にグワンッと動き出した。そのままゆっくりとレールの山を登り始めた。
*
青白い顔をして降りてきた慶。
「し、死ぬ……」
「あら、怖かったんだ?」
「はぁ?怖くねぇし……むしろあと10回くらい乗ってもいいねうん」
「じゃあ乗ろっか。あと10回は無理だけど……3、4回くらい」
「えっ、ちょっ、嘘っ」
乗せられた。
*
そのまま死にかけで降りてきた慶。
「ん〜……。面白かったぁ。次は何乗る?」
「鬼か!少し休ませろ!」
「怖くないんじゃなかったの?」
「ジェットコースター5回も連続で乗ったら誰だって疲れるわ!」
「そう?じゃあ休憩しよっか。なんか飲む?」
「それくらい自分で買うからいい」
「それくらいお姉ちゃんに奢らせなさいよ」
「………別にあんま人いないんだし、選挙の顔作んなくてもいいんじゃねぇの?」
言うと、奏は少し黙り込んだ。で、「別にそういうんじゃないんだけどな」と小声でボソッと呟くと、すぐに笑顔を作って言った。
「いいから。何がいい?」
「………ジンジャエールで」
「了解っ」
そのまま近くの売店に走って行った。その後ろ姿をぼんやり眺めてると、ポケットがブルッと震えた。
AKANE『カナちゃんとデートどう?』
櫻田慶『死ね』
即答して奏を待ってると、また震えた。
AKANE『なんでそういう事言うかなー。で、どうなの?楽しい?』
櫻田慶『初っ端からジェットコースター連続搭乗記録チャレンジみたいなことさせられて死にかけてる。今、あいつ飲み物買いに行ってる』
AKANE『うーわ……それは辛いわ。何回乗ったの?』
櫻田慶『はいぱーびじょんだいありー』
AKANE『5回⁉︎けーちゃんジェットコースター苦手なのに平気なの⁉︎』
「あれ?通じた?」
と、呟いた時だ。
「はいっ、お待たせ」
「おお、さんきゅ」
奏が戻って来て、慶は飲み物を受け取ると、
櫻田慶『カナちゃん戻って来たから後でな』
と、返して携帯をしまった。その直後にヴーッとポケットで震えたが無視。
「で、この後どうする?」
「飲んでからでいいだろ」
「聞いただけじゃん」
ジンジャエールを口に含んでから、少し考えて口を開いた。
「げっふ!げふっエッフッ!」
「ど、どうしたの⁉︎」
「ジンジャエール、喉に……」
「で、どこ行きたい?」
「切り替えはえーな……。スイッチかよ。どこでもいい。なるべく穏やかな奴」
「じゃあメリーゴーランド」
「穏やかっつーかファンシーだな。てか恥ずかしいからパス」
「うん……。それは私も恥ずかしい」
ならなんで言った、と思いつつも口には出さなかった。
「で、どーすんだよ」
「一番近いとこでいいんじゃね?」
「えーっと……地図によると一番近いのは……」
と、奏が指差した先は、お化け屋敷だった。