「で、茜。なんで捕まってんの俺」
慶が言った。
「今、学園祭の中でスリが3件も起きてるの。そのうちの一人が黒いガンダムの柄の財布みたいで、それでけーちゃんもその財布持ってたからとりあえず話だけ聞こうとしたら、なんか三人目の被害者の財布をけーちゃんが空っぽで持ってきちゃったから、一応話を聞いてみただけ」
「疑われてんのかよ……」
「疑いたくなんかないよ」
そう言う茜の顔は少し真面目だった。だが、慶も真面目な顔をする。
「悪いけどな、俺はスリなんかやってねぇし、やるとしたら金だけ抜いて財布は戻す」
「うわあ……最低」
「とにかく、そんな下らないことで俺の文化祭を邪魔すんな。ゲーセン行ってくる」
「文化祭関係ないし!ていうか行かせないわよ。ここで捉えとけって言われてるんだから」
(確かにこの重力から逃げんのは無理だよなぁ……)
なんて考えてると、ガチャッと扉が開いた。
「連れてきたわよ」
中に入ってきたさっきの女の子。さっそく、慶の財布を見せた。だが、
「これじゃあ、ありません……」
「「へっ?」」
「ほら見たことか」
得意げに言う慶。
「そもそもな、黒いガンダムにも色々いるんだよ。Mk2、サイコガンダム、X2、マスガン、ブリッツ、ガイア、ダークハウンド、ダークマター、有名なのテキトーにあげただけでもこれだぞ。この上マイナーなの合わせたら……」
「ガンダム詳しいぜ自慢はいいから黙ってて」
奏にぴしゃりと言われて思わず黙る慶。
「仕方ないわね。また一から探すわよ」
「じゃ、俺はこれで用済みだな。今度は花蓮辺りと一緒に……」
「待ちなさい」
奏に引き止められた。
「なんだよ」
「これ以上、他の女の子とあなたを……あっ、いや、あなたをサボらせるわけにはいかないわ」
「お前俺の事好きすぎだろ。さすおにかよ」
「黙れ。だから、あなたも犯人逮捕に付き合いなさい」
「ええっ……」
「栞にあなたが仕事をサボってたことを言ってもいいのよ?」
「付きあわせていただきます」
茜と財布を盗られた生徒がドン引きする。
「と、いうわけで慶は逃げないように私と一緒に行動しなさい。茜は少し休憩でいいわ」
「う、うん……」
「じゃあ慶、捜査に行きましょ♪」
言いながら奏は慶の腕に飛び付いた。そのまま二人は生徒会室を出て行く。
「あ、茜さん……奏さんって普段はあんな感じなんですか?」
「見なかったことにしてあげてください」
*
で、グラウンド。
「で、奏。今まで被害にあった奴らはどんなところで被害にあったんだ?」
「えーっと……1件目がかき氷で、2件目がワッフル、3件目がたい焼きだったわよ」
「………全部グラウンドので店か。その時間帯で特に人の集まった店をテキトーに狙ったんだろうな。それが一番スリのしやすい状態だし……そうなると、今もスリをしてる可能性が高いのは今、一番客が集中してる店になるわけで……」
と、ブツブツ呟いてると、奏が裾を引っ張った。
「ね、ねぇ。私、あのワッフルが食べたいなーなんて……」
「買ってくればいいだろ。今、犯人について考えてんだ。邪魔すんな」
「んなっ……!」
(どうして私の時だけデートみたいに思ってくれないのよ!)
と、自分勝手なことを考える奏だった。だが、慶はそれらを全て無視して、チロッと時計を見た。
(さっちゃんのライブまであと30分くらい……それまでに間に合わせないとな)
改めて気を引き締める慶だった。