とりあえず、二人で今、一番人が集中してると思われる場所へ行った。
「で、どうやって探すのよ」
「どうするかなー。とりあえず片っぱしから殴る」
「逮捕するわよ」
「ごめんなさい」
なんて話しながら二人で進む。
「とりあえず、現場を抑えるしかないよな……いや、どうせなら罠でも張ってみるか」
「罠?」
てなわけで、慶は屋台の少し離れたところに自分が前使ってた財布を取り出す。
「ちょっと待って。それ囮にしちゃうの?」
「あ?悪いかよ」
「……別に」
なぜか不機嫌そうにする奏。
「安心しろ、中学の時にお前に誕生日でもらったもんだ。盗らせはしない」
「…………そっ」
返事はそっけないが、超嬉しそうな顔をする奏だった。で、、慶はベンチの上に置いといた。
「いや……あからさま過ぎるわよ」
奏がジト目でツッコむ。
「あんなん誰が盗むのよ。どんな馬鹿でも罠だって分かるわよ」
「俺なら盗るね」
「馬鹿ね」
なんて話してると、その財布に近づいて来る影。
「おい、来たぞ」
「さっそく捉えましょう」
「馬鹿、まだはえーよ。あいつが中身を見て初めてネコババ成立だ」
「お前が馬鹿」
「とにかく、このまま様子を見るぞ。死ね」
「お前が死ね」
で、そのまま様子を見る。すると、一人の男が近付いた。バッチし財布を見た後、財布の上に何も気付いてないフリをして座った。
「うーわ……」
「うーわ……」
二人して声を漏らす中、そいつはすぐに立ち上がり、歩き出した。
「追うぞ奏」
「本部に財布を届けに行った可能性は?」
「ケツポケットに財布二つ入れてる奴がいるか。それに、元から届けるつもりなら座るフリする必要もない。移動したのは場所を変えて中身を確認するためだ」
「本当に無駄に頭いいわね……」
「だーってろ」
で、そのまま二人はそいつを尾行する。そいつは校舎裏に逃げた。そして、中身を確認した。
「おい、ちょっと」
慶が声をかけると、そいつは振り返った。
「その財布、俺のなんだけど」
「そっか。ちょうど本部に届けようとしてたんだよ」
「中身見てたくせにか?」
「……………」
「今まで三人からも財布とってたよな。全部出せ。そうすれば、見逃してやる」
すると、そいつは口を歪ませると慶を睨んで言った。
「別にスリなんてやらなくても良かったんだ」
「あ?」
「カツアゲするってのも嫌いじゃないってんだ」
その瞬間、殴りかかってきた。寸前でかわす慶。
「中身入りの財布ももらう」
「やってみろ」
*
ライブ開始まで5分前。ステージ脇で顔だけ出して紗千子は客を見ていた。
(けーくん、いないなぁ……)
「はぁ……」と、ため息をつく紗千子。
(でも、お客さんのためにもきちんとやらないと)
なんとか気合いを入れる紗千子だった。
*
校舎裏。ボロ雑巾みたいになってるスリ犯を慶が引きずっていた。ちなみに慶は無傷である。
「ったく、面倒かけやがって……」
「ちょっとやり過ぎよ。その子泣いちゃってるじゃない」
「泣くほうが悪い」
「へぇ、そう。じゃあ私がボルシチを貴方に渡しても……」
「ゴメンなさい冗談です」
「最後まで言わせなさいよ。で、そいつ放り込んだあとはどーするの?」
「俺はさっちゃんのライブ行くよ。約束しちまったしな」
「………あっそ」
「お前なぁ……」
で、慶は困ったようにため息をつくと言った。
「一緒に行くか?」
聞くと、奏は少し目を見開かせた後、嬉しそうに微笑んだ。
「行ってあげる」
「なら来なくていい」
が、慶は冷たく言い放って去ろうとした。
「ち、ちょっと!行くってば!」