俺だけ能力を持ってない   作:スパイラル大沼

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第56話

 

 

とりあえず、二人で今、一番人が集中してると思われる場所へ行った。

 

「で、どうやって探すのよ」

 

「どうするかなー。とりあえず片っぱしから殴る」

 

「逮捕するわよ」

 

「ごめんなさい」

 

なんて話しながら二人で進む。

 

「とりあえず、現場を抑えるしかないよな……いや、どうせなら罠でも張ってみるか」

 

「罠?」

 

てなわけで、慶は屋台の少し離れたところに自分が前使ってた財布を取り出す。

 

「ちょっと待って。それ囮にしちゃうの?」

 

「あ?悪いかよ」

 

「……別に」

 

なぜか不機嫌そうにする奏。

 

「安心しろ、中学の時にお前に誕生日でもらったもんだ。盗らせはしない」

 

「…………そっ」

 

返事はそっけないが、超嬉しそうな顔をする奏だった。で、、慶はベンチの上に置いといた。

 

「いや……あからさま過ぎるわよ」

 

奏がジト目でツッコむ。

 

「あんなん誰が盗むのよ。どんな馬鹿でも罠だって分かるわよ」

 

「俺なら盗るね」

 

「馬鹿ね」

 

なんて話してると、その財布に近づいて来る影。

 

「おい、来たぞ」

 

「さっそく捉えましょう」

 

「馬鹿、まだはえーよ。あいつが中身を見て初めてネコババ成立だ」

 

「お前が馬鹿」

 

「とにかく、このまま様子を見るぞ。死ね」

 

「お前が死ね」

 

で、そのまま様子を見る。すると、一人の男が近付いた。バッチし財布を見た後、財布の上に何も気付いてないフリをして座った。

 

「うーわ……」

 

「うーわ……」

 

二人して声を漏らす中、そいつはすぐに立ち上がり、歩き出した。

 

「追うぞ奏」

 

「本部に財布を届けに行った可能性は?」

 

「ケツポケットに財布二つ入れてる奴がいるか。それに、元から届けるつもりなら座るフリする必要もない。移動したのは場所を変えて中身を確認するためだ」

 

「本当に無駄に頭いいわね……」

 

「だーってろ」

 

で、そのまま二人はそいつを尾行する。そいつは校舎裏に逃げた。そして、中身を確認した。

 

「おい、ちょっと」

 

慶が声をかけると、そいつは振り返った。

 

「その財布、俺のなんだけど」

 

「そっか。ちょうど本部に届けようとしてたんだよ」

 

「中身見てたくせにか?」

 

「……………」

 

「今まで三人からも財布とってたよな。全部出せ。そうすれば、見逃してやる」

 

すると、そいつは口を歪ませると慶を睨んで言った。

 

「別にスリなんてやらなくても良かったんだ」

 

「あ?」

 

「カツアゲするってのも嫌いじゃないってんだ」

 

その瞬間、殴りかかってきた。寸前でかわす慶。

 

「中身入りの財布ももらう」

 

「やってみろ」

 

 

 

 

ライブ開始まで5分前。ステージ脇で顔だけ出して紗千子は客を見ていた。

 

(けーくん、いないなぁ……)

 

「はぁ……」と、ため息をつく紗千子。

 

(でも、お客さんのためにもきちんとやらないと)

 

なんとか気合いを入れる紗千子だった。

 

 

 

 

校舎裏。ボロ雑巾みたいになってるスリ犯を慶が引きずっていた。ちなみに慶は無傷である。

 

「ったく、面倒かけやがって……」

 

「ちょっとやり過ぎよ。その子泣いちゃってるじゃない」

 

「泣くほうが悪い」

 

「へぇ、そう。じゃあ私がボルシチを貴方に渡しても……」

 

「ゴメンなさい冗談です」

 

「最後まで言わせなさいよ。で、そいつ放り込んだあとはどーするの?」

 

「俺はさっちゃんのライブ行くよ。約束しちまったしな」

 

「………あっそ」

 

「お前なぁ……」

 

で、慶は困ったようにため息をつくと言った。

 

「一緒に行くか?」

 

聞くと、奏は少し目を見開かせた後、嬉しそうに微笑んだ。

 

「行ってあげる」

 

「なら来なくていい」

 

が、慶は冷たく言い放って去ろうとした。

 

「ち、ちょっと!行くってば!」

 

 


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