「はぁ?演説?」
「うんっ」
茜が紙を差し出した。
「毎回同じこと言ってもアレだからさって葵お姉ちゃんが……。で、訂正は慶にしてもらいなさいって」
「ったく……あの野郎」
渋々紙を受け取った。で、紙に書かれている事をチェックする。
「どう、かな。我ながらうまくかけたと……」
「32点」
「赤点ギリギリ⁉︎な、なんで⁉︎」
「はい、茜さんに質問です。人を惹きつけるのに一番必要なものはなんでしょう」
「は?え、えと……それは……」
「それは、笑いだ」
「……………はっ?」
「この紙に書かれていることは偉くまともだ。内容も悪くないし、仮に王様になったとして、実行出来そうな事が書かれてる。そこまではいいんだ。だけど、文の中身がお利口さん過ぎてつまんないんだよ」
「ど、どういうこと?」
「この内容は、他の誰かでも言いそうなことなんだ。お前がいないんだよ。お前しか書けない事がないんだ。特徴がないと言ってもいい。顔のないアイドルは売れっこないだろ?そういう事だ」
「あー……そういうことか。でもそれでなんで笑い?」
「他の兄弟は全員クソ真面目だろ。つまんないこと言うくらいなら笑いなんてしないほうがいいが、真面目で全員が真剣な中、一人だけ愉快な話をすれば『あの人の治める国は楽しそうだな』ってなると思わないか?」
「確かに……」
「それと文が長い」
「ええ、それはやっぱりほら、自分の言いたいことを詰め込まなきゃいけないわけだから……」
「バカ、カス、消えろ、てか消すぞ、5円で売るぞ」
「言い過ぎじゃない⁉︎」
「人前で話すのが苦手なのに長文しゃべってどうすんだよ。短いほうがいいとは言わないけど」
「そ、それはそうだけど……」
「長文過ぎてお前のあのオン飛びしたような喋り方じゃ聞き手は聞き取れないだろ。だが、内容を要約すれば覚えてもらえる。覚えてもらえるってことは、相手に自分の印象がつくってことだ」
「なるほど……すごいねけーちゃん」
「普通だ。内容をどうまとめるかは俺に聞くなよ、めんどくさい」
「うん。わかった。ありがとねけーちゃん!」
そのまま茜は再び葵の部屋に戻って行った。
*
翌日の夜のニュース。茜の演説に前回までの倍以上の人が集まったことがニュースになっていた。
「すごーい!あか姉何したの⁉︎」
岬が素直に驚いた。
「いやー特に何もしてないよ。ただ演説の内容を少しだけ変えてみたんだ」
「ちょーっと、けーちゃんにアドバイスもらってねー」
たははっと頭を掻いた。
「へぇ、けーちゃんにねぇ……」
少し意外そうな顔をする岬。
「なんだその顔は。そんなに意外かこら」
「べっつにー?」
「ねぇけーちゃん。今日も何かアドバイスちょうだい?」
茜が聞いてきた。
「やだ。人に頼るな。自分で生きろ」
「いやニート志望の人に言われたくない……」
「とにかく断る。めんどくせーよ」
「ふーん?」
すると、茜は言った。
「ボルシチ」
「是非とも手伝わさせていただきます」