俺だけ能力を持ってない   作:スパイラル大沼

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第59話

 

茜にアドバイスをしてから茜はドンドンと票を伸ばしプに再び返り咲いた。

 

「けーちゃんのおかげだよ!ありがとう!」

 

「おー」

 

テキトーに返事して慶はゲームをする。その隣の部屋では、

 

「じゃ、終戦したのは何年?」

 

「え、えと……1941年!」

 

「それは開戦でしょうが!」

 

奏が光に勉強を教えていた。

 

(まったく……茜の追い上げで選挙も焦ってるってのに……葵姉さんの頼みでも断ればよかったわ)

 

で、奏はため息をついた。

 

「もう!なんで1940年代に開戦して終戦しちゃうの⁉︎同じ4年なら1939年〜1943年でもいいじゃん!」

 

「そんなの今更言っても仕方ないでしょう。とにかく、年号暗記なんて覚えるしかないのよ。じゃあ、1940年に結ばれた同盟は?」

 

「え、えと……日米和親条約!」

 

「同盟って言ってんでしょうが!」

 

で、奏はため息をついた。

 

「まったく……どうして私の妹がこんなにアホなのかしら……」

 

「そもそも!日本の歴史なんて覚えてなんの役に立つわけ⁉︎日本の歴史からこれからに活かせるような事があると思ってるの⁉︎」

 

「またとてつもなくすごいこと言うわねあんた。というか、人間は失敗から学ぶことのほうが多いのよ」

 

「奏ちゃんこそ失敗って言ってるじゃん……」

 

「とにかく、最初からやり直しよ」

 

「もう嫌!奏ちゃんと勉強しても全然やできる気がしないよー!」

 

「失礼ねあなた!言っとくけど私だって教えたくて教えてるわけじゃないんだからね⁉︎葵姉さんに頼まれたから……!」

 

そこでピーンッと閃く奏。そして、ニヤリと笑って言った。

 

「光、せっかくだから慶に教えてもらったら?」

 

「けーちゃんにぃ?勉強できんのぉ?」

 

「あんた知らないの?慶、勉強学年トップよ?」

 

「そーなのぉ⁉︎」

 

「ええ。しかも、天才型じゃなくて努力家だから貴方にも合うんじゃないかしら?」

 

その心は茜と慶を引き離して選挙の形勢逆転を狙うことだった。あと普通に嫉妬。

 

「期待しないで言ってみるよ」

 

「いってらっしゃーい」

 

そのまま光は出て行った。ようやく一息ついて奏は選挙の作戦を考えようと思ったときだ。

 

「奏」

 

葵の声がした。ビクッとする奏。

 

「光の成績が落ちるようなことがあったら、私選挙頑張っちゃおっかな?」

 

「一緒に面倒見てきます……」

 

 

 

 

「いやいやいや、可笑しい。なんでそれで俺に頼ろうと思ったの」

 

「いいじゃない慶。正直、馬鹿すぎてその子は私の手には負えないわ」

 

「ふざけんなよ。こちとら忙しいんだよ。もうすぐエンドワールドのイベント終わるんだよ」

 

「知らないわよ。じゃあ、gleeのプリペイドカード1枚でどお?」

 

「いいだろー。光、こっち来い来い」

 

言いながら慶は自分の膝の上を叩く。

 

「いや……さすがにこの年で膝の上に座るのは……」

 

「小学生までは俺は妹は溺愛するって決めてんだよ」

 

「確かに栞が生まれる前はそうだったけど……」

 

「えいっ」

 

奏が膝の上に座った。

 

「重い帰れババァ焼くぞ」

 

泣きながら黙って退いた。

 

「ほれっ、ほいっ」

 

「う、うぅ……わ、わかったよ……」

 

顔を赤くしながらも慶の膝の上に座る光。

 

「えへっえへへっ……」

 

「ウザくて忘れてたけど可愛いなお前」

 

「久しぶりで、ちょっと安心する……」

 

「ほれほれ、もっと甘えてもい……」

 

と、言いかけた慶の後頭部を奏は踏付けた。光もろとも目の前のちゃぶ台にめり込む。

 

「イチャ付いてないで仕事しろ」

 

「「…………はいっ」」

 

てなわけで、勉強開始である。

 

 

 

 

「で、どこがわからないって?」

 

「太平洋戦争の辺り」

 

「まぁあの辺はややこしいからな。とりあえず、戦争の歴史ならこの機動戦士……」

 

その瞬間、慶の横に奏の拳が通った。慌てて説明を切り替える慶。

 

「は、はぁ?あんなんただの年号暗記だろうが」

 

「それができないんだよー!」

 

「まぁ年号暗記にも色々覚え方があるからな。それに歴史は流れを掴まないと出来るもんも出来ねーよ」

 

言いながら慶は教科書をパラっとめくった。

 

「例えばこの1940年の日独伊三国同盟な。これがどの国を指してるか分かるか?」

 

「さぁ?」

 

「全力のアホかお前は。日は日本、それは分かるな?」

 

「うん」

 

「まずこのイタリアの伊だが……これは、伊藤くんの伊だ」

 

半眼になる光と奏。

 

「イタリアっつーのはな?伊藤くんの国なんだよ。だから、イタリアの伊は伊藤の伊なんだ」

 

「な、なるほど……」

 

なぜか納得する光だった。

 

「で、次に独の文字。これはドイツだ。この時のドイツを治めていたのはヒトラーこれは知ってるだろ?」

 

「うん」

 

「なんで独かっつーと、ヒトラーって、プロの独りぼっちの人って意味もあるんだ」

 

「そ、そーなの⁉︎」

 

「ああ。だから、独の文字が使われてる。日本、ぼっち、伊藤。この三つを合わせて『日独伊三国同盟』となるんだ」

 

「ま、まさかそんな悲しい同盟だったなんて……知らなかった」

 

光はそのままブツブツと日独伊三国同盟について呟く。

 

「どうよ奏。この俺の華麗なる……」

 

と、言いかけた慶の襟を奏は掴んで廊下に引きずり出した。

 

「変なこと教えるのやめなさいよ。何を嘘教えてんの?」

 

「バッカお前アホには嘘教えてもいいんだよ。問題で出そうなところだけ押さえとけばな」

 

「どこの国の理論よ!光の成績が落ちたら私が葵姉さんに叱られるんだからしっかりやんなさいよ!」

 

「わーったよ。まぁ俺に任せろ」

 

部屋に戻った。

 

 

 

 

「で、この日独伊三国同盟の覚え方だが……」

 

「なんか奏ちゃんが行くよ俺たちとか言ってたけど……」

 

「違う。行くよおっぱいで1940年だ」

 

「何処からオッパイ出てきた!」

 

奏が突っ込んだ。

 

「なんだ、お前知らねぇのか。あの同盟は三国の指導的地位と相互軍事援助が取り決められたとなってるが、本当は世界のおっぱいをもみしだく会だからね」

 

「そんなわけないでしょ⁉︎三つの国でどんな会作ってんのよ!完全にヘンタイ国家じゃない!」

 

「男はみんなヘンタイだ。だから、日本がハワイの真珠湾をぶん殴りに行ったのも、水着のおっぱいがたくさん見れるかもしれないって思ったからだ。それが行くよ一発で1941年になるわけだ」

 

「どんな一発の使い方⁉︎」

 

「ねぇけーちゃん。一発って何?」

 

「あん?それはセッ……」

 

その瞬間、葵のドロップキックが慶の後頭部に突き刺すように飛んできた。ドンガラガッシャーンと慶は吹き飛ばされる。で、葵は慶を担いで部屋を出る直前、奏に言った。

 

「続き、よろしくね奏」

 

「…………はい」

 

 


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