俺だけ能力を持ってない   作:スパイラル大沼

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第6話

 

 

 

翌日。慶がニュースに出ていた。慶VS強盗を誰かが携帯で撮影していたらしく、それがテレビに丸々放映されていた。

 

『櫻田家次男、慶様見直される!スリの犯人を撃破!』

 

よくもまぁこれだけ失礼なタイトルをテレビ放映させられるもんだ、と思わずにはいられない慶だった。

で、今は登校中。

 

「良かったじゃない。これで慶の人気も上がるんじゃない?」

 

ニヤニヤしながら奏が行ってきた。

 

「冗談じゃねぇよ。今まで何のために校則とか平気で破ってきたと思ってんだ」

 

「………自分の人気を下げるためにやってたの?」

 

「当たり前だろ。そもそも、ニート志望の俺が王様になったらこの国どうなるよ」

 

「崩壊するわね」

 

「分かってんならお前の演説で俺の悪口メチャクチャ言ってくれよ」

 

「嫌よ。私の人気が下がるでしょ」

 

なんて話してる二人の後ろを歩くのは修、茜、葵の三人だ。が、例によって茜は隠れている。

 

「なんか仲良くなったね。あの2人」

 

葵が微笑みながら言った。

 

「そーだな。喧嘩は相変わらずだが、昔に戻った感じもあるな」

 

「懐かしいわ。奏が昔言ってたの覚えてる?けーちゃんのお嫁さんになるー!って」

 

「なんだ、知らないのか?今も寝言で言っ……」

 

その瞬間、修の顔面に拳がめり込んだ。

 

「嘘を言うな……」

 

「えっ……や、本当に……」

 

「じゃあ余計なこと言うな」

 

奏の拳だった。

 

 

 

 

一年棟に差し掛かる扉。

 

「じゃ、先行けよ茜」

 

慶の提案で、茜と慶は別々に教室に入る。と、いうのも、クラスに友達のいない慶とクラス委員の茜が一緒にいると茜の立場が悪くなる、というどこかのラノベで読んだようなアドバイスを慶がしたからだ。

だが、

 

「けーちゃん。私はあまり気にしてないよ?ていうか、クラスの子達も気にしないと思うよ?」

 

「ダメだ。俺ごときのためにお前に迷惑かけられるか」

 

だが、納得してない顔の茜。すると、茜が慶の腕を引っ張った。

 

「お、おいバカネ!」

 

「茜よ!いいから一緒に行くよ!」

 

「お前なぁ……」

 

(ていうか、何よりファンクラブの視線がめんどくせんだよな……)

 

で、教室に到着。すると、

 

「あ、茜来た!」

「慶くんも!」

「見たよーニュース!」

「映画みたいだった!」

 

などとわらわら寄ってくるクラスメート。

 

「えっ?えっ?」

 

「何か格闘技でもやってるの?」

 

「い、いや……その、剣道とか、やってた、けど……」

 

ちなみに慶はこの国の軍隊の訓練を自分から望んで一ヶ月だけ受けたことがある。感想は「もう二度とやらない」ではあったが、かなり優秀だったらしい。

 

「剣道⁉︎」

「そういえば昔、ニュースで見た!」

「俺も!櫻田家の人が剣道で全国出たって!」

「スゲェじゃん!そりゃつええわ!」

 

そこが限界だった。慶はその場から逃げ出した。

 

(けーちゃんも人見知りだもんね……。私ほどじゃないけど)

 

ほっこりする茜だった。

 

 

 

 

その日の帰り道。慶は一人で帰っていた。その時だ。

 

「櫻田くんのことが、好きだから!」

 

面白そうな台詞が聞こえ、携帯を構えてその方角へ向かった。そして、どっかの路地裏。慶は撮影を開始した。

 

「すまん佐藤……。佐藤の気持ちは本当に嬉しい。できることなら俺も……だが、今は選挙に専念したいんだ。奏を王様にさせないために妨害工作で忙しいんだ!」

 

「……なら、待っててもいいですか?」

 

「え?」

 

「選挙が終わるまで待ってていいですか?」

 

「佐藤…少なくとも二年は先のことだぞ?そんなに待たせるわけには……」

 

「私は全然平気です!」

 

「わかった!約束しよう!必ずや佐藤の想いには応える!」

 

「は、はい!」

 

と、見事なラブコメをやっていた。だが、

 

(なんで茜もいるの……)

 

と、思わずにはいられなかった。

 

(っと、そんなことよりこの動画、岬あたりに見せたら面白そうだな)

 

そんな事を考えながら帰宅した。無論、家で修に殴られた。

 

 

 

 

家。慶は岬とポーカーをやっている。金欠なので金を賭けているが、点数の数え方知らないから100円賭けて、みたいな。

 

「……………」

 

「んっ……くぅ〜……」

 

明らかに慶がボコボコにしていた。

 

「勝負でいいのか?」

 

「いいわよ!」

 

フラッシュと2ペア。

 

「っはぁー!また負けたぁ!」

 

「そりゃそうだろ。ポーカーフェイスの欠片もねーもん」

 

冷静に突っ込む慶。

 

「うるさいなぁ!逆にけーちゃんは表情動かなさ過ぎなんだよ!」

 

「そうしなきゃ勝てないからな」

 

「ゲームごときで何を怒ってるんだか……」

 

ボソッと、ボソッと口にした遥の何気ない一言がキッカケだった。

 

「オイ、遥」

 

慶の声にビクッとする遥。

 

「お前は今、言ってはならない事を言ったな……」

 

「な、何さ」

 

「ゲーム如きだと?」

 

「そうだよ。大体、僕にトランプゲームで勝つのは無理だよ。能力的にね」

 

「いいだろう。お前を今からトランプ勝負でボコボコにしてやる」

 

「………へぇ、言ってくれるね。負けたら?」

 

「なんでも言うこと聞いてやるよ。ただし、それはお前も同じだ」

 

「上等!」

 

で、やるのは大富豪だが、二人でやっても手札がバレるだけなので、トランプをランダムに27枚外した。

 

「ルールはスペ3、7渡し、8切り、10捨て、11バックに革命、縛り。それでいいか?」

 

「構わないよ」

 

ディーラーは岬。カードが配り終えられ、二つの束が出来た。遥は早速能力を発動し、右側の束を手にした。

 

(こっちのカードなら勝つ確率60%。ふっ……ゲームなら僕に勝てると思ったんだろうけどね兄さん、物事にはジャンルというものがあるんだよ。それを教えてやろう!)

 

そして、手札を見る。

 

(3が2枚、4が1枚、7が2枚、8が2枚、Qが1枚、Aと2が2枚ずつ。ジョーカー1枚。勝てる!)

 

「スペ3は僕が持ってる。僕から行くよ」

 

「へーへーどんぞ」

 

そして、遥は早速能力を使い、Qを出した。

 

「………ほい、K」

 

慶はすかさずKを出した。だが、能力を使ってさらにAを出す遥。

 

「パスだ」

 

カードが流れ、さらに能力を使って遥はカードを出す。

 

「8切り2枚」

 

当然流れ、遥は能力を使ってさらに7を2枚出した。

 

「7渡しだ。ほれっ」

 

渡したのは3を2枚。

 

(これで向こうが何を出そうと2を2枚かA+ジョーカーで勝てる。すでに勝利の方程式は出来ているよ兄さん!)

 

すると、慶は口を開いた。

 

「随分と能力を連発してるなぁ、遥」

 

「そうだねぇ。でも、まさか反則なんて言わないよね?」

 

「ああ。ほら、イレブンバック」

 

「パス」

 

(チィ、僕の手元に10以下で尚且つ、2枚あるカードはない。でも問題ない。向こうがどう来たって、僕には2とジョーカーが……!)

 

「いやー。7渡し2枚で3を2枚もくれるなんて、ほんと素直になったもんだ」

 

言いながら慶が出したのは3が4枚、つまり革命だ。

 

「んなぁッ⁉︎」

 

「お前、能力を使って手札の束を選んだだろ?だからそっちに強いカードがあって、こっちに弱いカードが入ってるのは大体予測できた」

 

「ッ………‼︎」

 

「出さないのか?」

 

分かってる事を聞く慶。悔し紛れに「パス……」と、遥が言うと、慶はさらにカードを2枚出す。

 

「10捨てだ。これで6とKをすてる」

 

「グッ……!」

 

慶のカードは残り4枚。

 

(だ、大丈夫だ。僕にはまだジョーカーがある。向こうはスペ3を捨ててるし、問題はない……)

 

と、思っていたのだが、

 

「あー悪い。終わりだわ」

 

慶が言いながら出したのは10が2枚だった。

 

「ほい、これで終わり」

 

慶は10捨てで残りの手札を捨てた。

 

「んなっ……ぼ、僕が………負けた……」

 

「そりゃそうだ。お前は能力によって常に最善の手しか打たない。お陰でどこで崩せばいいか計算しやすかったぜ。ありがとう」

 

「ンギッ……‼︎」

 

「プフッ」

 

思わず噴き出す岬だったが、遥に睨まれて萎縮する。

 

「さて、なんでも言うことを聞くんだったな……」

 

慶がニヤリと邪悪に笑うと、嫌な汗を流す遥。退路はいつの間にか岬によって断たれていた。

 

「さて、お前がこれからすべきことは……」

 

 

 

 

翌日。登校中。茜が慶に聞いてきた。

 

「ねぇ、けーちゃん。昨日、遥が私の枕の匂いを嗅いでたんだけど……どうしてあげればよかったのかな」

 

「慰めてあげれば良かったと思うよ」

 

 


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