ある日。始まりは慶の一言だった。葵の部屋に入ったら着替え中だった。相変わらずのタイミングの悪さである。
「………何か言うことは?」
「葵ってさ、奏よりオッパイ、小さくねっ?」
ヴァギャッと音がした。葵が壁を握り潰した。
「もう許さないから。絶対許さないから」
「あっ、いや冗談です」
「いや遅いから。絶対遅いから」
てなわけで、追いかけっこである。
「ふおおおお!殺される!間違いなく!」
「…っ…っ…っ」
「無言で走ってくるな!本物の化け物か!」
「殺す殺す殺す殺す殺す……」
「いーややっぱり黙っててくれればいいです!」
で、そのまま玄関を出て外へ逃げた。が、当然慶のほうが足が速い。さっさと蒔いた。で、フゥ……と、息を吐きながらどっかの家の角を曲がった所で誰かとぶつかった。奏だった。
「うおっ」
「きゃっ」
「すまねっ、だいじょぶか?って、なんだ奏か……」
「慶?なんだとは何よ!」
「謝って損したと思っただけだ」
「なんですって⁉︎あんたは私のことなんだと思って……」
プップゥ〜ッと音がした。
「「あっ?」」
二人して振り向くと、トラックが迫っていた。
「! 奏!」
慶は奏を庇うように押し倒した。
*
病院。
「いやー弟さんに庇われたおかげでしょうな。直撃なのにほぼ無傷ですよ。その弟さんの体も素晴らしいものです。あなたも無傷ですね」
二人に医者が言った。
「まぁでもどこか痛む所はあると思いますから、とりあえず安静にしていてください」
「「分かりました」」
二人は頷いた。で、二人で病院を出て向かい合った。
「で、なんで俺が目の前にいるの?」
「で、なんで私が目の前にいるの?」
ハモった。それと共に大量の汗をながす。
「い、いやいやなぁい。ありえなぁい。入れ替わりなんてそんなベタなこと、起こるはずがなぁい。今21世紀だよお前。それなのにそんな入れ替わりなんてお前……」
「……………」
奏は黙って鞄から何かを探す。
「おーいなんか言えよお前。なに、お前はそういうの信じる口?バカなの?死ぬの?てか死んどく?」
で、奏が取り出したのは鏡だった。
あ、念のためここで説明しときます。入れ替わりネタはどっちが何を言ってるのかまるで分からなくなるので、心の方で進めていきます。つまり、今鏡を取り出したのは慶の身体をした奏な。
で、その鏡を慶の前に出す。当然、写るのは奏の顔した慶の顔。
「…………」
「…………」
「おい、奏……これ………」
言われて奏は頷いた。
「この鏡、穴空いてるぞ」
「いや、違うでしょッ⁉︎」
慶の台詞に奏が突っ込んだ。
「入れ替わってんのよ!あんたと私が!クロスソウルしてんの!」
「いや黙れよ!俺は認めねぇぞ!絶対……!」
と、言いかけた慶の目の前の奏の姿が消えた。葵のドロップキックである。
「あ、葵姉さん⁉︎」
「見ぃつけたぁ……」
「な、何⁉︎なんで私に⁉︎」
「へぇ、惚けるんだぁ……私のあんな姿見て、あんなこと言っといて……」
「な、なんの話か知らないけど私は関係ないわよ!今、慶と私入れ替わってるの!」
「そんな言い訳が通用するかぁぁぁぁぁ!」
「ああああっ‼︎頭割れる!目ん玉飛び出すって!慶!あんたからもなんか言いなさいよ!」
「慶……あなた何したか知らないけど人を傷付けといてそれはないわよ……」
「んなっ……⁉︎って葵姉さん!ギブギブギ……‼︎」
あがががっとキャメルクラッチを喰らう奏を捨て置いて、慶は家に帰った。