正月。家族で温泉旅行に行った。
「旅館貸切なんてよかったのかなぁ」
「そうでもしないと誰かさんがくつろげないからねー」
「しゅびばしぇん……」
茜の呟きに奏がツッコむと、涙目で申し訳なさそうに謝る茜。で、体を流して女子は湯船に浸かった。
「はぁ〜♪カメラもないみたいだし天国だぁ」
「ここにカメラあったら問題でしょ……」
「安心しろ。ここはプレハブじゃない。本物の旅館だ」
修が言った。
「別にプレハブ小屋だっていいけどさ……」
だが、その次の言葉が出ない。声が明らかに低かったからだ。で、ザパァッと上がる。
「って、なんで修ちゃんがいるのっ⁉︎」
胸を隠しながら思わず温泉から上がった。
「こ、ここ…ここって混浴⁉︎」
「いやちがう」
「え⁉︎じゃあ男湯だった⁉︎」
「いや、それも違う」
で、修は目を開いて言った。
「俺たちが間違えた」
「出てけ!」
修に向かって茜は桶を投げようとした。
「ま、待って。俺たち……?」
葵がそう呟くとその隣に誰かが湯に入った。
「ふぅ〜……疲れたぁ……」
「け、慶⁉︎どうしてここに⁉︎」
「あ?葵?なんでここに?」
「こっちの台詞よ!」
「慶、ここは女湯みたいだ」
修が落ち着いて言った。
「なんか豪快な覗きになっちまったな」
「そーだな」
「いいから出て行きなさいよ!」
茜が吠えるも無視。
「け、けーちゃん!」
桶とタオルで身体を隠した岬が声をかけてきた。
「も、もしかして……遥もいるの?」
「ああ、サウナにいるんじゃないか?」
その瞬間、サウナに突撃していく岬。数秒後、遥の悲鳴が聞こえた。遥も大変なんだなぁーっと慶が心にもないことをしみじみ思ってると、くいっと誰かに引っ張られた。見下ろすと、栞がタオルも巻かずに慶を見ていた。
「お兄様、一緒に入ろ?」
「OK」
メチャクチャいい顔で即答する慶。その慶をジト目で睨む茜、奏、葵。
「シスコン」
「ヘンタイ」
「ハンザイ」
「おい待て最後の。どういう意味だコラ」
「お兄様、はやく、あっち」
反論はしたものの、栞に急かされてすぐにまたシスコンの顔に戻って栞の後を追った。
「つーか奏。お前意外と動じないのな」
修が言うと、「どういう意味よ?」と言った顔で聞いてきた。
「いやほら、茜みたいに慌てるとかそういうの無くて意外だったってだけだ」
「あーそれは……いろいろあって……」
全裸を見る見られるどころかお互いの体を交換までしたのだ。そりゃ慣れるだろう。
「まさか…お前、BLもののエロ本とか……」
「違う!」
そのやり取りを見ながら、葵は終始ニコニコしていた。
*
旅館に入る前にクジで決めた部屋割り通りに部屋に泊まる一同。
1、パパ、ママ、輝
2、葵、奏、修
3、茜、岬、遥
4、慶、光、栞
(俺も死んでもいいや)
割と本気でそう思った慶だった。