俺だけ能力を持ってない   作:スパイラル大沼

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第66話

 

正月。家族で温泉旅行に行った。

 

「旅館貸切なんてよかったのかなぁ」

 

「そうでもしないと誰かさんがくつろげないからねー」

 

「しゅびばしぇん……」

 

茜の呟きに奏がツッコむと、涙目で申し訳なさそうに謝る茜。で、体を流して女子は湯船に浸かった。

 

「はぁ〜♪カメラもないみたいだし天国だぁ」

 

「ここにカメラあったら問題でしょ……」

 

「安心しろ。ここはプレハブじゃない。本物の旅館だ」

 

修が言った。

 

「別にプレハブ小屋だっていいけどさ……」

 

だが、その次の言葉が出ない。声が明らかに低かったからだ。で、ザパァッと上がる。

 

「って、なんで修ちゃんがいるのっ⁉︎」

 

胸を隠しながら思わず温泉から上がった。

 

「こ、ここ…ここって混浴⁉︎」

 

「いやちがう」

 

「え⁉︎じゃあ男湯だった⁉︎」

 

「いや、それも違う」

 

で、修は目を開いて言った。

 

「俺たちが間違えた」

 

「出てけ!」

 

修に向かって茜は桶を投げようとした。

 

「ま、待って。俺たち……?」

 

葵がそう呟くとその隣に誰かが湯に入った。

 

「ふぅ〜……疲れたぁ……」

 

「け、慶⁉︎どうしてここに⁉︎」

 

「あ?葵?なんでここに?」

 

「こっちの台詞よ!」

 

「慶、ここは女湯みたいだ」

 

修が落ち着いて言った。

 

「なんか豪快な覗きになっちまったな」

 

「そーだな」

 

「いいから出て行きなさいよ!」

 

茜が吠えるも無視。

 

「け、けーちゃん!」

 

桶とタオルで身体を隠した岬が声をかけてきた。

 

「も、もしかして……遥もいるの?」

 

「ああ、サウナにいるんじゃないか?」

 

その瞬間、サウナに突撃していく岬。数秒後、遥の悲鳴が聞こえた。遥も大変なんだなぁーっと慶が心にもないことをしみじみ思ってると、くいっと誰かに引っ張られた。見下ろすと、栞がタオルも巻かずに慶を見ていた。

 

「お兄様、一緒に入ろ?」

 

「OK」

 

メチャクチャいい顔で即答する慶。その慶をジト目で睨む茜、奏、葵。

 

「シスコン」

 

「ヘンタイ」

 

「ハンザイ」

 

「おい待て最後の。どういう意味だコラ」

 

「お兄様、はやく、あっち」

 

反論はしたものの、栞に急かされてすぐにまたシスコンの顔に戻って栞の後を追った。

 

「つーか奏。お前意外と動じないのな」

 

修が言うと、「どういう意味よ?」と言った顔で聞いてきた。

 

「いやほら、茜みたいに慌てるとかそういうの無くて意外だったってだけだ」

 

「あーそれは……いろいろあって……」

 

全裸を見る見られるどころかお互いの体を交換までしたのだ。そりゃ慣れるだろう。

 

「まさか…お前、BLもののエロ本とか……」

 

「違う!」

 

そのやり取りを見ながら、葵は終始ニコニコしていた。

 

 

 

 

旅館に入る前にクジで決めた部屋割り通りに部屋に泊まる一同。

 

1、パパ、ママ、輝

2、葵、奏、修

3、茜、岬、遥

4、慶、光、栞

 

(俺も死んでもいいや)

 

割と本気でそう思った慶だった。

 

 


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