当番のくじ。櫻田家では年長組の五人がクジを引いて決める。クジの内容は掃除、洗濯、料理、買い物、そして休みの五つだ。で、全員が引いた。
「買い物ぉおおおおおお‼︎」
雄叫びを上げて頭を抱えるのは茜だった。その様子を見ながら慶は部屋に戻る。手元に握られている札には料理の二文字。基本、慶は面倒だからサボるのが自分のスタイル。その慶の肩を葵が掴んだ。
「サボりはダメよ?」
「…………うぃっす」
なんてやってると、光が茜に言った。
「あたしカレー食べたいっ!なんなら一緒に行ってあげるから!」
「出かけたくないって言ってるじゃん〜…宅配ピザじゃダメ?」
「あかねちゃん!そんなにカレーが嫌なの⁉︎」
「カメラが嫌なんだってば!」
「この前全国に自分のパンツ晒しといて何言ってんだよ」
慶のいうこの前、とはあのぬいぐるみの時だろう。慶と奏が争ってる時に途中で競技が終わってしまったのは、茜が遥にケツを触られ、動揺して能力を誤作動し、輝に突っ込んだ所を修が瞬間移動で助けたのだが、間違えて茜のスカートごと移動してしまい、パンツを全国に晒されたらしい。
「言わないで!」
なんて話してると、奏が口を挟んだ。
「あんた達って選挙活動する気ゼロよね」
「まぁな。俺は将来は王様になったやつに養われるつもりだ」
「どうでもいいけど、私が王様になっても養わないからね」
「嘘っ⁉︎」
「ていうかあたしはやる気あるもん!」
光がグイッと会話に入る。
「光じゃ相手にならないの」
「そんなことないよ。光だって頑張ってるよね」
「いや頑張ってはいないかも」
「フォローした私の為にも頑張って⁉︎」
茜が絶望的な声を出しながらも光は無視して言った。
「大丈夫!いざとなったらあたしの能力で票集めなんて楽勝だもん!」
「国民にはあんたが10歳ってバレてるんだから意味ないじゃない。それも変化するのは外見だけだし。見た目で人を引きつけようなんてダメよ」
そう言う奏は鏡を見ながら前髪を弄っている。
「自分だって外見めちゃめちゃ気にしてるじゃん!」
で、光は何を思ったか、胸を張る。
「いいもん。将来はあたしの方がおっぱい大きくなるし‼︎」
「はぁ?おっぱいは形が大事なの」
「大きさだよ‼︎修ちゃんが言ってた‼︎」
「言ってねぇ!感度だ……」
「けーちゃんはどう思う⁉︎おっぱい‼︎」
「お前らは何も分かってない。いいか?オッパイは形でも大きさでもない……」
「「はぁ?」」
言いながら慶は手だけで栞を呼んだ。すると、とててと寄ってくる栞。そして、慶の膝の上に乗せた。
「見ろ!このオッパイを!」
「…………小さいし子供オッパイじゃん」
「光!お前、なんっも分かってねぇな!形だ大きさだじゃない、オッパイは……可愛い子のオッパイがベストなんだっ!」
言いながら慶は栞を抱き締める。
「慶お兄様……痛い……」
「お?そうか?悪いな我が天使よ。今日の飯なにがいい?栞の好きなもの作っちゃうぞー?」
「じゃあ……唐揚げっ!」
「任せろ。栞のために作ってやるからな。オイ栞以外のその他大勢、貴様らの飯はこの栞様のついでだ。ありがたく思え」
「シスコン……」
「気持ち悪い……」
「死ねばいいのに……」
「おい最後の奏。言い過ぎだろ」
*
なんやかんやで、茜と光は買い物へ行った。
「さて栞。お前なんでそんなに可愛いの?天使なの?もう結婚しちまおうぜ、な?」
「ちょっと、気持ち悪いわよ本気で」
奏に止められる慶。
「なんだよ。別にいいだろ。可愛いんだから。なぁ栞?」
「ちょっと……怖い……」
「えっ」
「ほら見なさい」
「奏、言葉に気を付けろ。うっかり自殺するぞ」
「だから死ねばいいじゃない」
「………お前、なんか怒ってる?」
「別に」
「いや怒ってるだろ……」
「別に」
なんなんだ……と、眉をひそめていると、ポンっと肩に手を置かれた。
「修………」
「大丈夫。お前は悪くない」
「ならいいんだが……」
「それより、今週のジャンプ貸してくれ」
「おう」
そんな事を話しながら自室に向かった。
*
「ただいまー」
帰ってきた。が、茜が小さくて光が大きい。
「おう、待ってたぜ」
「な、なんで⁉︎もしかして私に会いたかったとか……」
「ようやく栞たんに美味しい唐揚げを作ってやれるからな」
盛大な勘違いに顔を真っ赤にする茜を捨て置いて、慶は聞いた。
「つーか、買い物袋は?」
「ていうか突っ込めよ⁉︎なんかお前らサイズ違くね⁉︎」
修が遅れてツッコム。
「何々⁉︎なんかあったの⁉︎何この子どこで捕まえたの⁉︎」
岬がハプニングの匂いを嗅ぎつけ、ちっこい茜を抱き締めて誘拐した。
「猫を助けるためにね。で、自分が大きくなったんだけど服がアレで……それで茜ちゃんを小さくして服を取り替えたの」
そう説明する光は猫を抱いている。
「……なるほど。で、さっきから気になってるんだが……慶。何してんの?」
「えっ?」
修の視線の先では、慶が奏を盾にして隠れていた。
「な、なに……どしたの?」
光が聞いた。
「知らないの?慶って猫ダメなのよ」
「「嘘ぉッ⁉︎」」
修と光が声をそろえて突っ込んだ。
「はぁ⁉︎お、おまっ……ナイフ持ってるスリ男は倒せんのに猫はダメなの⁉︎」
「なんでよ!どういうこと⁉︎」
と、問い詰める二人に奏は冷静に答えた。
「実はね、小さい時に私と慶はよく一緒に遊んでたんだけど、その時に猫が近寄ってきて、慶がたまたま持ってた煮干しをあげようとしたのよね。そしたら、噛まれて、その時の猫の歯が思いの外深く刺さって……」
「すごく痛かったんだぞ!血ぃ止まらなくて!」
(可愛い)
(可愛い)
(可愛い)
ほっこりする光と修と奏。
「だから早く捨ててこいよ!そんな人類壊滅兵器!」
「ダメだよ!可哀想じゃん!」
「俺の方が可哀想だろ!」
「それは頭だけでしょ⁉︎」
「どぉぉういう意味だコラァっ‼︎」
「うるさい。耳元で叫ばないで」
ペシッと慶の額を叩く奏。
「栞、ちょっときてくれる?」
言われて来る栞。
「あの猫の心を読んでくれる?」
言われて能力を発動した。
「『………木の上から助けてもらい、この人間なら信用しても構わないと思ったのだが、その中にまさかこれほどまでに器の小さなものがいたとは、王族もたかが知れたものだな』」
「んだとこのクソ猫がコラァッ‼︎」
「にゃー」
「ごめんなさい……怒らないで……」
「「「「弱っ⁉︎」」」」
修、光、奏、栞が思わず声を上げる。すると、猫が言った。それを、通訳する栞。
「『なんだ、大したものではないようだ。ならば、力付くで貴様の意見を捻じ曲げてやろう……』」
「ご、ごめんなさい!わかりました!ここに住んでくださいお願いします!」
「『分かればいい』」
そのまま猫はのっしのっしと家の中へ消えて行った。
「………奏」
「何?」
「今日は一緒に寝てください」
「仕方ないわね……」