俺だけ能力を持ってない   作:スパイラル大沼

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第73話

 

 

櫻田家。

 

「あれ?慶は?」

 

奏が聞くと、岬が答えた。

 

「けーちゃんなら動物園に行ったよ?」

 

「へ?誰と?」

 

「葵姉と光と輝と栞」

 

次の瞬間には奏はいなくなっていた。

 

 

 

 

昼飯が終わったあとはみんなで回る。すると、触れ合いコーナーなるものがあった。光の言ってた虎の赤ちゃんに触れるようだ。

 

「俺は行かないから、お前らだけで行って来いよ」

 

逃げようとする慶の腕を引っ張る光。

 

「どこに行くの?」

 

「あの、ほんと勘弁してもらえませんか?虎ってお前猫の上位互換みたいなもんでしょ?そんなもの触るってお前マリオがクリボーに触るようなモンだよ」

 

「大丈夫だよ。相手は子供だし」

 

「バッカお前子供の純粋さが一番怖いんだよ」

 

「もーけーちゃんめんどくさいなぁ……。栞」

 

光が呼ぶと、栞がキュッと慶の袖を握った。で、上目遣いで言った。

 

「お願い……お兄ちゃん……」

 

「よし行こうか」

 

出発した。

 

 

 

 

大量の人の列に並ぶ。輝やら光やら栞がしりとりとかして暇を潰してる中、慶は死刑宣告を待つような気分で立っていた。

 

「慶、大丈夫?」

 

葵が声をかける。

 

「へ、平気っす!」

 

「いや全然平気じゃなさそうなんだけど」

 

「大丈夫っす!自分元気っす!」

 

「ある意味元気良さそうね。でも無理は禁物よ?」

 

「うっす!」

 

「やっぱり大丈夫じゃなさそう……」

 

なんてやってると、ようやく櫻田家の番となった。周りが「葵様だ!」などとはしゃぐ中、順番に虎の赤ちゃんの頭を撫でていく。そして、慶の番になった。

 

「けーちゃん!頑張って!」

 

「兄様!頑張ってください!」

 

「お兄様……」

 

などと妹や弟からの声援をもらう中、慶が手を伸ばした時た。虎の赤ちゃんがピョンッと跳ねた。で、慶の頭の上に乗った。

 

「」

 

「」

 

「」

 

「」

 

全員が言葉を失う中、慶は恐る恐る口を開いた。

 

「………えっ、あれっ?何これ。あれっ?虎は?どこ行ったん?」

 

全員が慶の頭の上を指差す。

 

「は?何その指。どこに向いてんの?where?」

 

「あ、頭………」

 

葵に言われて慶は恐る恐る自分の頭に手を伸ばした。その瞬間、カプッと指がなんか暖かいものに挟まれた。所々尖っている。

 

「ありっ?指が……離れね……オラァッ!」

 

無理矢理、頭の上から指を引き抜くと、自分の中指に虎の赤ちゃんが噛み付いてぶら下がっていた。

 

「………………」

 

「………………」

 

「こ、こんにちは……」

 

後ろに倒れた。

 

 

 

 

気が付けば夕方になっていた。目を覚ますと、葵の背中の上だった。

 

「………ありっ?」

 

「起きた?」

 

「なんで俺背負われてんだっけ……」

 

「それは……覚えてない?」

 

「おう。さっぱり。なんで?」

 

「え、えっと……い、隕石が落ちてきて……」

 

「マジでか。なんでおんぶされてんの?」

 

「気絶しちゃったけど光達は回りたいって言うから、私がおんぶしてあげてたのよ。たまに輝が能力使って交代してくれたりしたけど」

 

「ふーん……なんか悪いな」

 

「そう思うなら降りてよ」

 

「やだ。このままのが楽」

 

言いながら葵の肩に顎を置く慶。

 

「まったく……甘えん坊なんだから……」

 

「おねーちゃーん」

 

「気持ち悪い」

 

「で、これどこに向かってるの?」

 

「動物園からでるとこ」

 

「なるほどな」

 

で、慶は3人に聞いた。

 

「おーいクソガキども。今日は楽しかったか?」

 

「はい!ライオンとか見れてすごく楽しかったです!」

 

輝が目をキラキラさせて言った。

 

「そうか。なら良かった」

 

「あたしはけーちゃんが寝ちゃってたからそーでもなかったー。まったく、虎の赤ちゃんに噛まれたくらいで……」

 

「あ?噛まれた?」

 

「光?」

 

ニコニコ笑顔で続きを言わせない葵。

 

「栞は?」

 

「楽しかった」

 

「なら良かったよ。いやマジで」

 

なんて話しながら動物園を出ようとする瞬間だ。

 

「慶?」

 

魔人ブウ並みのオーラを感じて振り返ると、奏が立っていた。

 

「何をしてるのかしら?」

 

「あ?帰るとこだけど?」

 

「その現状を聞いてるの」

 

「だから帰るんだってば。何言ってんだお前っつーかなんでここにいんだよ」

 

と、慶が言っても無駄だった。奏は笑顔で慶の首根っこを掴むと、葵から引っぺがした。

 

「行くわよ」

 

「あ?何処に」

 

「これから、私と動物園デート」

 

「はぁ?」

 

「私だけ不公平よね?いいわよね?」

 

「いいよ」

 

「ダメとは言わせ……えっ?」

 

「ほとんど寝てたから記憶おぼろげなんだわ。行こうぜ」

 

「そ、そう……」

 

思わぬ返答に戸惑う奏を捨て置いて、慶は葵に言った。

 

「そんなわけだから、行ってくる」

 

「遅くなる前に帰ってくるのよ」

 

「うーっす」

 

そのまま別れた。

 

 


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