櫻田家。
「あれ?慶は?」
奏が聞くと、岬が答えた。
「けーちゃんなら動物園に行ったよ?」
「へ?誰と?」
「葵姉と光と輝と栞」
次の瞬間には奏はいなくなっていた。
*
昼飯が終わったあとはみんなで回る。すると、触れ合いコーナーなるものがあった。光の言ってた虎の赤ちゃんに触れるようだ。
「俺は行かないから、お前らだけで行って来いよ」
逃げようとする慶の腕を引っ張る光。
「どこに行くの?」
「あの、ほんと勘弁してもらえませんか?虎ってお前猫の上位互換みたいなもんでしょ?そんなもの触るってお前マリオがクリボーに触るようなモンだよ」
「大丈夫だよ。相手は子供だし」
「バッカお前子供の純粋さが一番怖いんだよ」
「もーけーちゃんめんどくさいなぁ……。栞」
光が呼ぶと、栞がキュッと慶の袖を握った。で、上目遣いで言った。
「お願い……お兄ちゃん……」
「よし行こうか」
出発した。
*
大量の人の列に並ぶ。輝やら光やら栞がしりとりとかして暇を潰してる中、慶は死刑宣告を待つような気分で立っていた。
「慶、大丈夫?」
葵が声をかける。
「へ、平気っす!」
「いや全然平気じゃなさそうなんだけど」
「大丈夫っす!自分元気っす!」
「ある意味元気良さそうね。でも無理は禁物よ?」
「うっす!」
「やっぱり大丈夫じゃなさそう……」
なんてやってると、ようやく櫻田家の番となった。周りが「葵様だ!」などとはしゃぐ中、順番に虎の赤ちゃんの頭を撫でていく。そして、慶の番になった。
「けーちゃん!頑張って!」
「兄様!頑張ってください!」
「お兄様……」
などと妹や弟からの声援をもらう中、慶が手を伸ばした時た。虎の赤ちゃんがピョンッと跳ねた。で、慶の頭の上に乗った。
「」
「」
「」
「」
全員が言葉を失う中、慶は恐る恐る口を開いた。
「………えっ、あれっ?何これ。あれっ?虎は?どこ行ったん?」
全員が慶の頭の上を指差す。
「は?何その指。どこに向いてんの?where?」
「あ、頭………」
葵に言われて慶は恐る恐る自分の頭に手を伸ばした。その瞬間、カプッと指がなんか暖かいものに挟まれた。所々尖っている。
「ありっ?指が……離れね……オラァッ!」
無理矢理、頭の上から指を引き抜くと、自分の中指に虎の赤ちゃんが噛み付いてぶら下がっていた。
「………………」
「………………」
「こ、こんにちは……」
後ろに倒れた。
*
気が付けば夕方になっていた。目を覚ますと、葵の背中の上だった。
「………ありっ?」
「起きた?」
「なんで俺背負われてんだっけ……」
「それは……覚えてない?」
「おう。さっぱり。なんで?」
「え、えっと……い、隕石が落ちてきて……」
「マジでか。なんでおんぶされてんの?」
「気絶しちゃったけど光達は回りたいって言うから、私がおんぶしてあげてたのよ。たまに輝が能力使って交代してくれたりしたけど」
「ふーん……なんか悪いな」
「そう思うなら降りてよ」
「やだ。このままのが楽」
言いながら葵の肩に顎を置く慶。
「まったく……甘えん坊なんだから……」
「おねーちゃーん」
「気持ち悪い」
「で、これどこに向かってるの?」
「動物園からでるとこ」
「なるほどな」
で、慶は3人に聞いた。
「おーいクソガキども。今日は楽しかったか?」
「はい!ライオンとか見れてすごく楽しかったです!」
輝が目をキラキラさせて言った。
「そうか。なら良かった」
「あたしはけーちゃんが寝ちゃってたからそーでもなかったー。まったく、虎の赤ちゃんに噛まれたくらいで……」
「あ?噛まれた?」
「光?」
ニコニコ笑顔で続きを言わせない葵。
「栞は?」
「楽しかった」
「なら良かったよ。いやマジで」
なんて話しながら動物園を出ようとする瞬間だ。
「慶?」
魔人ブウ並みのオーラを感じて振り返ると、奏が立っていた。
「何をしてるのかしら?」
「あ?帰るとこだけど?」
「その現状を聞いてるの」
「だから帰るんだってば。何言ってんだお前っつーかなんでここにいんだよ」
と、慶が言っても無駄だった。奏は笑顔で慶の首根っこを掴むと、葵から引っぺがした。
「行くわよ」
「あ?何処に」
「これから、私と動物園デート」
「はぁ?」
「私だけ不公平よね?いいわよね?」
「いいよ」
「ダメとは言わせ……えっ?」
「ほとんど寝てたから記憶おぼろげなんだわ。行こうぜ」
「そ、そう……」
思わぬ返答に戸惑う奏を捨て置いて、慶は葵に言った。
「そんなわけだから、行ってくる」
「遅くなる前に帰ってくるのよ」
「うーっす」
そのまま別れた。