俺だけ能力を持ってない   作:スパイラル大沼

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第76話

 

 

 

葵の部屋。

 

「王様って何すればいいのかな」

 

茜がベッドにゴロゴロしながら言った。

 

「ん〜、例えば国を守ったりとか?」

 

「それはわかるけど、なんだか漠然としてて……」

 

「そうだねぇ……。町の人たちと触れ合ってみたら何かつかめるんじゃないかな」

 

「ウゥッ……ちょっと外出てみようかな……ジャミンググラスもあることだし……」

 

(それしていくんだ……。ていうか、大丈夫かな……)

 

自分で言っておきながら葵は不安になっていた。だが、茜は出掛ける準備をしてしまっている。

 

(心配だなぁ……。うーん、こういう時は……)

 

で、葵は部屋を出て慶の元へ向かった。

 

「と、いうわけなんだけど、一緒に行ってあげられないかな?」

 

「やだ」

 

(ですよね……)

 

自分でもそう思う葵だった。だからこそ秘密兵器を用意してある。

 

「この前さ、栞と岬と茜と光と奏でカラオケ行ったのよね」

 

「あっそ。で?」

 

「その時にコスプレ衣装があったんだけど、これいる?」

 

葵が取り出したのは猫耳メイドの栞と光だった。その瞬間、鼻血を出しながら葵の手を握る慶。

 

「葵」

 

「な、何?」

 

「結婚しよう」

 

「取引成立ね?」

 

そんなわけで、慶と茜でお出かけである。

 

 

 

 

「悪いな。今日ジャンプの発売日なんだよ」

 

「ううん。少し不安だったもん」

 

念のため、ジャミンググラスを装着してる茜だった。慶は付けてない。

 

(しかしまぁ……見事に街の人は困ってんな……。そりゃそうか、茜のヒーローごっこにいつも気付いてないフリしてくれてっからな。………俺の時はあっさりニュースで報道しやがった癖に)

 

怒りをなんとか押さえ込んで慶は茜と共に歩いた。そして、バス停の椅子に座る。

 

「なに、バス乗んの?」

 

「うん」

 

(あー隣に座って新聞紙で顔隠してるオッさん、ドンマイ)

 

しかも、さらに悪い事に茜はそのオッさんに声をかけた。

 

「あの……」

 

「はいっ⁉︎」

 

「この国のいいところってなんだと思います?」

 

「うええっ⁉︎」

 

困った声を上げるオッさん。

 

(こ、これはどっちで対応すればいいんでしょうか……。「茜様」?「スカーレットブルーム」?いやしかし、慶様も一緒にいるし……って、慶様は眼鏡かけてないし!ど、どうすれば……)

 

と、グルグル思考を巡らせた結果、オッさんは逃げた。

 

「あ、あれ?なんで?」

 

「ゴメンなさい……オッさん……」

 

「? なんで謝ってるの?」

 

「お前のせいだタコ」

 

「た、タコ⁉︎」

 

 

 

 

で、バスで移動した先は土手だった。

 

「懐かしいな」

 

「うん。小さい頃はよくここで遊んでたよね。久し振りに橋の下でも覗いてみよ?」

 

「お好きにどーぞ」

 

そんなわけで、慶と茜は階段を降りて見てみた。そこには猫の親子がいた。

 

「まぁっ」

 

「嘘………」

 

明るい声を上げる茜と絶望的な声を出す慶。その時だ。

 

「フシャーッ‼︎」

 

威嚇する親猫。

 

「ひぃっ⁉︎」

 

「ごめんなさい許してくださいお金ならいくらでも払いますから見逃して食べないでお願い」

 

「土下座⁉︎」

 

泣いて謝る慶にオロオロする茜。その後ろから声が掛かった。

 

「ちょっと!何してるのよ!」

 

「「土下座」」

 

「はぁ?」

 

「べ、別に悪さしようとしてたわけじゃ……」

 

と、なんとか言い訳しようとする茜に、後ろからやって来た女の子はシッシッと追い払おうとする。

 

「知らない人が近付いたらケーカイするわよ。お母さんが子供を守ろうとするのは当たり前でしょ。そんなこともわからないの?」

 

「ごめんなさい許してくださいマタタビでもアラガミでも買ってきますから見逃してください動物ダメなんですほんと勘弁してください」

 

「あんたはいつまで土下座してんのよ!………って、慶様⁉︎」

 

「ご、ごめんね……けーちゃん、猫苦手だから……」

 

なんとか慶を落ち着かせると、自己紹介タイム。

 

「私は玉緒。こっちの妹は美緒。おねーさんは?」

 

ああ、どう答えるんだろ。スカーレットブルームとか?

 

「えっあっえっと、さ……佐藤花です……」

 

「ブフッ!」

 

本気かこのアホは。

 

「ふ〜ん……慶様の彼女?」

 

「ふええっ⁉︎ち、違うわよ!」

 

「じゃあ、なんでこんな所に一緒にいるのよ」

 

「え、えと……」

 

だめだ。完全にテンパってる。そう判断すると慶が言った。

 

「花と俺は幼馴染なんだよ。さっき偶然会ったから昔遊んでたところを回ってるところ」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「ああ」

 

「そうだ!慶様、私達のこと覚えてない?」

 

「あ?」

 

「ずーっと前なんですけど、私と美緒、助けてもらったんです。変な人に絡まれてる時に」

 

(あー……そういやそんな事あった気がしなくもない……)

 

地味に思い出してる慶。

 

「ああ、そういやそうだったな」

 

「あれから慶様のファンです!選挙頑張ってください!美緒も応援してます!」

 

「ち、ちょっと、おねえちゃん……」

 

「俺は王様にはならないけどな」

 

「「ええっ⁉︎」」

 

一発で一蹴した。

 

「俺は王なんて器じゃねーよ。応援するなら、そうだな。茜辺りに頼むわ」

 

「茜様……うーん……私の中では茜様は二番目なんですけどね……」

 

「その方が俺のためだし国のためだ。頼むよ」

 

慶はそう言いながら玉緒の頭を撫でた。

 

(あれ?今、けーちゃんはなんで私を勧めたんだろ……)

 

茜はそれを聞こうと声をかけようとしたが、その前に慶が口を開いた。

 

「それよか、猫の世話はいいのかよ」

 

「そうだった!慶様も手伝ってくれますか?」

 

「猫に触れる事以外の事ならいいよ」

 

「えー」

 

「俺に泣かれたいの?猫だけは本当無理」

 

「分かりました…」

 

そんなわけで、慶は茜と一緒にお皿を洗いに行く。

 

「しかし、あの2人見てると懐かしいね」

 

「あ?何が?」

 

「優しかった頃のカナちゃん。いや今も優しい時は優しいよ?」

 

「優しくねーよ。優しさと一番無縁の人物だろうが」

 

「優しいよ。けーちゃんには特に」

 

「あいつは俺の事大好きなだけだろ」

 

「自覚あったんだ……」

 

で、洗い終わった皿を玉緒と美緒の元へ届けた。

 

「ほい」

 

「ありがとうございます。……はい、ごはんだよー」

 

「お願いだからこっちに近付けないでね」

 

「大丈夫ですよ別に……」

 

「てか、それなら家で飼えばいいんじゃねーの?」

 

「お父さんが猫アレルギーなんです。だから、家じゃ飼えないの」

 

「ほー」

 

「でも、お父さんが稼いでくれでお金でこうしてあげられるから、それで十分です」

 

「………なるほどな」

 

(間接的にこの子のお父さんがこの猫ちゃんたちを守ってるんだね……)

 

茜がそう思った時だ。

 

「お姉さん、触ってみる?」

 

「えっ?」

 

「なんか触りたそうな顔してたから」

 

「じ、じゃあ……」

 

「茜、頼むからこっちに連れてくんなよ」

 

「分かってるよ」

 

なんてやりながら、猫に触れ合った。

 

 

 

 

数分後、

 

「そろそろ行くね」

 

茜が立ち上がった。慶も。

 

「も、もう行っちゃうんですか?」

 

「ああ。また来るよ」

 

「あ、あの!」

 

声をかけてきたのは美緒だった。

 

「わ、私も、頭撫でてくれませんか……?」

 

「あ?別にいいけど」

 

「お願いします」

 

で、頭を撫でてやった。

 

「ほい、猫の世話頑張れよ」

 

「は、はい!」

 

そのまま別れた。今は帰りのバスの中。

 

「で、どーだ?王様になってからやりたい事とか決まったか?」

 

「うん……。決まったよ」

 

「………ならよかったよ。ジャンプ奢れよ」

 

「いいよ。今日くらいは」

 

帰った。

 

 


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