俺だけ能力を持ってない   作:スパイラル大沼

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第81話

駅前。集められた紗千子は心臓をバックンバックン鳴らしながら待機していた。

 

(こ、告白って言ってたよね……?それってつまり告白は告白であって告白以外の何物でもないあの告白だよね?好きです、付き合ってくださいだよね?)

 

そう思うだけで顔が赤く染まっていった。

 

(うあー!どうしようどうしよう!いやいやいや、落ち着いてわたし。そもそも、愛の告白である可能性は高いけど、確定じゃない。というか、けーくんの場合はむしろ告白である可能性の方が低いよ。そうそう、どうせ「競馬で勝ちました〜」みたいな告白に決まってるわ。期待しちゃダメよ紗千子……)

 

自虐的に微笑みながらそんなことを思ってると、「おーい」と声が聞こえた。

 

「お待たせ。さっちゃん」

 

慶が奏を連れてやってきた。

 

「待ってないよ、けーくん」

 

予想していたからか、大したダメージはない。

 

「こんにちは。米澤さん」

 

「こ、こんにちは……」

 

「悪いな、どうしてもついてきたいとかほざくから仕方なく連れてきちまった」

 

「ううん。大丈夫だよ」

 

「よし、じゃあ行こうか」

 

「何処へ?」

 

「え、どこって……あー何処行こっか。二人で落ち着いて話せるとこがいいんだけど……」

 

「ちょっと慶?私もいるんですけど?」

 

「黙ってろブラコン」

 

「ぶ、ぶぶぶブラコンじゃないし!」

 

奏の無理ある否定を完無視して、慶は言った。

 

「とりあえず、散歩しながらにしようか」

 

「うん。そだね」

 

 

 

 

そういうわけで、慶と紗千子は並んで歩き、その後ろで奏が二人の様子を見張るように歩いていた。

告白、というより慶が修に相談した内容を知っている奏は、自分がいるだけで告白を防げる、と思っているようだ。

 

(まさか、姉の前で告白なんてしないでしょ)

 

そのオーラを感じ取ってか、紗千子は実に居心地が悪そうなのだが、慶は一人だけ呑気に話し始めた。

 

「この前の件なんだけどさ、」

 

「え?う、うん」

 

「悪かったな」

 

「へっ⁉︎い、いやいやいや!悪いのは私だよ!自分で呼び出しておきながら、勝手に不貞腐れて帰っちゃったんだし」

 

「葵に怒られてさ、なんでさっちゃんが怒ったか考えてみたんだよね。そしたら、どう考えてもさっちゃんが俺のこと好きなんじゃねーのって結論しか出なくてさ」

 

「「ふぁっ⁉︎」」

 

紗千子と奏が声を漏らすも、無視して話を進めた。

 

「だから、もしそうだとしたら、本当に悪かったって思って」

 

「い、いいよそんな!別に気にしてないし!謝らないでよ!」

 

「や、でも」

 

「謝らないで!恥ずかしいから‼︎」

 

「え、おう」

 

紗千子が顔を真っ赤にして、慶の両頬を両手で挟み込んで言い、それに若干引きながらも、慶は言った。

 

「ああ、それで二つ目の話なんだけど」

 

「へ?うん」

 

「好きだから付き合ってくんない?」

 

空気が、凍り付いた。

 

 

 

 

櫻田家。葵の部屋。パキッという音が響いた。

葵がコーヒーを飲もうとした時、マグカップの取っ手が折れたのだ。

 

「………?」

 

 

 

 

外。修が花と歩いてると、草履の鼻緒が切れた。

 

「あっ」

 

「……あの、なんでこの時期にサンダルなの?」

 

 

 

 

公園。遥と岬が二人でベンチに座ってると、黒猫が前を通り過ぎた。

 

「わっ、黒猫」

 

「………あ、ほんとだ」

 

 

 

 

茜の部屋。急に何かを感じたように茜は天井を見た。

 

「な、なに⁉︎どうしたの茜ちゃん⁉︎」

 

「………カナちゃんの霊圧が、消えた……?」

 

 

 

 

土手。

 

「………えっ⁉︎お姉さんの前で⁉︎」

 

顔を真っ赤にしながら紗千子は思わず言ってしまった。

 

「え、ダメ?」

 

「い、いやっ、そのっ……空気読んだ方がっ……」

 

「えーだってついて来るなって言ってんのに無理矢理付いて来たのこいつだぜ?俺ぁ、悪くないぜよ」

 

気まずそうに、紗千子は奏を見た。超涙目である。

そして、

 

「覚えてなさいよおおおおおおお‼︎」

 

三下じみたことを言いながら号泣して逃げて行った。

残された紗千子と慶。

慶はジッと紗千子を見た。

 

「え、えと……」

 

「………………」

 

「あ、あの……」

 

「………………」

 

「そのっ………」

 

「………………」

 

「うわあああああああああん‼︎」

 

「えっ、ちょっ」

 

逃げられてしまった。

 

「…………ふ、振られた……。アイドルに告白して振られた……」

 

慶は膝を着いた。

 

 


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