俺だけ能力を持ってない   作:スパイラル大沼

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第9話

 

 

 

 

夜。慶が食卓についてテレビを観てたときだ。どっかで見たことあるやつがアイドルやっていた。

 

「……奏、こいつどっかで見た気がしなくもないんだが……」

 

「どっかでも何も、そこにいるじゃない」

 

「あ?」

 

奏の視線の先には光がすごい笑顔で慶を見ていた。

 

「…………まじ?」

 

「マジだよ!王家ってことは内緒でね!」

 

「そういえば、あの時あんた部屋に篭ってゲームしてたもんね」

 

奏がきゅうりを口に運びながら言った。

 

「あの時?」

 

「アイドルのプロデューサーがお父さんに土下座したのよ。アイドルやらせてくれーって」

 

「ふーん……」

 

「どう?けーちゃん!あたし、アイドルだよ?」

 

ドヤ顔の光。だが、慶は冷めた表情で言った。

 

「俺、アイドルに興味ないから悪いけど。てか俺のアイドルは栞だけだ」

 

「や、だからそれ気持ち悪いって……」

 

完全にドン引きしてる光。テレビはCMになった。すると、ゲームの広告が始まった。

 

「あ、そういや明日発売か」

 

「あんたねぇ……明日、期末よ?試験大丈夫なの?」

 

言ったのは当然、奏だ。

 

「余裕。あんなん勉強する必要皆無だろ」

 

「あら、すごい自信ですこと」

 

「まぁな」

 

なんてやってると、茜と岬がガタッと立ち上がって慶の席の後ろで土下座した。

 

「「勉強教えてください」」

 

「いくらで?」

 

「「2000円で!」」

 

「ダメだな」

 

「2500円で!」

 

「お願いします!」

 

「一人につき2815円なら許す」

 

「細かい⁉︎」

 

すると、奏が慶に聞いた。

 

「なんの値段?」

 

「明日のゲームが5630円なんだよ」

 

「なるほど……」

 

「さて、小遣い稼ぎのために頑張るか。ご馳走様」

 

そう言うと、慶は自室に引き返した。

 

 

 

 

そんなわけで、夏休み。期末も終わり(慶が学年トップ)、思いっきりダラけている慶。

 

「慶」

 

そんな慶に修が声をかけた。

 

「なにー?」

 

「出掛けるぞ。うちのプライベートビーチに」

 

「はぁ?そんなん持って……あぁ、そういうこと」

 

「それ以上は言うなよ。さて、行くぞ」

 

「ほーい」

 

そんなわけで、移動した。

 

 

 

 

プライベートビーチ(仮)。周りの兄弟姉妹達が水着ではしゃぐ中、慶は私服でビーチパラソルの下でボンヤリしていた。

 

「けーい!」

 

隣に奏がやって来た。

 

「なんだよ」

 

「どう?新しい水着」

 

「はいはい、オッパイオッパイ」

 

「殺すわよ」

 

なんてやってると、隣にいた遥が能力を使った。

 

「なんの予知?」

 

「アレだよ。スイカ割り」

 

「…………なるほどね」

 

「じゃあ私は私に一票」

 

入ってきたのは奏だった。

 

「ふーん、僕の予知だと奏姉さんは1%なんだけど、いいの?栞が80%だよ?」

 

「いいのよ、なんかムカつくし」

 

「じゃあ俺も俺に賭けよう。負けたら?」

 

「アイス奢りってことで」

 

「「OK!」」

 

奏の提案に遥と慶は威勢良く答えた。まず一人目の輝。慶がアドバイスした。

 

「いいか?木刀を振ってると思うな、釘バットを振ってると思え」

 

「はい!」

 

わけのわからないアドバイスだったが、元気良く答えて輝は出発した。が、大きく外した。

 

「くっそう……僕はスイカも割ることが出来ないのか……!」

 

膝をついて悔しがっているうちに光も出発。だが、外した。

 

「いっけなーい!失敗失敗☆」

 

「寒気するから本当にやめて殺したくなる」

 

「酷ッ⁉︎」

 

次は岬の番だ。

 

「岬、あの西瓜を遥だと思え。そうすればブラコンのお前なら辿り着け……」

 

「よ、余計なこと言うなぁ!」

 

慶が木刀で殴られた。次は茜。目を隠して出発した。

 

「前!そのまま!」

 

「もう少し右だよ!」

 

などと輝や光が声を上げる中、フラフラした足取りで進む。そして、木刀を振り上げた時だ。慶がパシャッと写真を撮った。

 

「ふえっ⁉︎い、今シャッター音が……ひゃあ!」

 

転んで終わった。

 

(この写真はふ、ふく……福井?辺りにでも売ろう)

 

そう心に誓いつつ、次は修の番。慶はビーチパラソルの下に戻った。

 

「あの修兄さんには余計なアドバイスしなくていいの?」

 

遥が聞いてきた。

 

「ああ。それと葵にもな。あの二人ならちゃんと栞のために残すさ」

 

「それもそだね」

 

予想通り、修も葵も外した。そして、次は奏だ。目隠しをする前に慶と遥を見た。そして、邪悪に笑って見せた。

 

「「ッッ‼︎」」

 

「なぁ、奏ねえさん……」

 

「ああ、やる気だな。大人気ない」

 

そして、ニヤニヤ笑ったまま迷いのない足取りでスイカに向かう。スイカの前に立った。

 

(悪いわね栞。でも、これにはアイスがかかってるのよ!)

 

そのまま木刀を振り下ろした。だが、

 

「奏、愛してる!」

 

「ふぁ⁉︎」

 

『ブフッ‼︎』

 

慶の突然の告白に顔を真っ赤にし、動揺した奏は空振りした。他の兄弟も思わず吹き出す。そして、奏は目隠しを外してキッと慶を睨んだ。

 

「いっいいいいきなり何言うのよ!」

 

「いや、みんなにアドバイスしたし奏にもと思ってな。ちなみに冗談だから」

 

「…………殺す。殺す殺す殺す殺す!ぜーったい殺すー!」

 

顔を真っ赤にしながら鈍器を召喚して襲い掛かる奏。それをどうどうと修と葵が落ち着けてる中、慶は遥の横へ。

 

「これで、あとは俺と栞だな」

 

「うん。でも、悪いけど僕が勝つよ」

 

「そいつはどうかな」

 

栞が出発。そのままスイカの前に立った。が、中々殴らない。

 

「………どうしたのかな」

 

「多分、スイカの声が聞こえてきたんだろうな。割られたくないよーみたいな」

 

解説しながら慶は立ち上がった。そして、栞の手を握った。

 

「栞、もしかして木刀重いのか?」

 

言いながら慶は邪悪な笑みで奏を睨んだ。その瞬間、遥は戦慄した。

 

(ま、まさか……!二人で割ることによって奏姉さんを独り負けさせるつもりか⁉︎ど、どこまで鬼畜なんだ!)

 

「へ?兄様?ち、違う……」

 

「じゃ、一緒に割ろうな。せーのっ」

 

「ま、待って!」

 

だが、栞の静止も虚しく、慶は栞と一緒に木刀を振り下ろした。見事に割れるスイカ。

 

「やったぁー!」

 

と、輝や光、岬が喜ぶ中、慶は栞の頭を撫でながら言った。

 

「良かったな、栞」

 

「良くない」

 

「えっ?」

 

「お兄様、きらいっ」

 

「」

 

慶のガラスのハート、ワールドブレイクした。

 

 


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