夜。慶が食卓についてテレビを観てたときだ。どっかで見たことあるやつがアイドルやっていた。
「……奏、こいつどっかで見た気がしなくもないんだが……」
「どっかでも何も、そこにいるじゃない」
「あ?」
奏の視線の先には光がすごい笑顔で慶を見ていた。
「…………まじ?」
「マジだよ!王家ってことは内緒でね!」
「そういえば、あの時あんた部屋に篭ってゲームしてたもんね」
奏がきゅうりを口に運びながら言った。
「あの時?」
「アイドルのプロデューサーがお父さんに土下座したのよ。アイドルやらせてくれーって」
「ふーん……」
「どう?けーちゃん!あたし、アイドルだよ?」
ドヤ顔の光。だが、慶は冷めた表情で言った。
「俺、アイドルに興味ないから悪いけど。てか俺のアイドルは栞だけだ」
「や、だからそれ気持ち悪いって……」
完全にドン引きしてる光。テレビはCMになった。すると、ゲームの広告が始まった。
「あ、そういや明日発売か」
「あんたねぇ……明日、期末よ?試験大丈夫なの?」
言ったのは当然、奏だ。
「余裕。あんなん勉強する必要皆無だろ」
「あら、すごい自信ですこと」
「まぁな」
なんてやってると、茜と岬がガタッと立ち上がって慶の席の後ろで土下座した。
「「勉強教えてください」」
「いくらで?」
「「2000円で!」」
「ダメだな」
「2500円で!」
「お願いします!」
「一人につき2815円なら許す」
「細かい⁉︎」
すると、奏が慶に聞いた。
「なんの値段?」
「明日のゲームが5630円なんだよ」
「なるほど……」
「さて、小遣い稼ぎのために頑張るか。ご馳走様」
そう言うと、慶は自室に引き返した。
*
そんなわけで、夏休み。期末も終わり(慶が学年トップ)、思いっきりダラけている慶。
「慶」
そんな慶に修が声をかけた。
「なにー?」
「出掛けるぞ。うちのプライベートビーチに」
「はぁ?そんなん持って……あぁ、そういうこと」
「それ以上は言うなよ。さて、行くぞ」
「ほーい」
そんなわけで、移動した。
*
プライベートビーチ(仮)。周りの兄弟姉妹達が水着ではしゃぐ中、慶は私服でビーチパラソルの下でボンヤリしていた。
「けーい!」
隣に奏がやって来た。
「なんだよ」
「どう?新しい水着」
「はいはい、オッパイオッパイ」
「殺すわよ」
なんてやってると、隣にいた遥が能力を使った。
「なんの予知?」
「アレだよ。スイカ割り」
「…………なるほどね」
「じゃあ私は私に一票」
入ってきたのは奏だった。
「ふーん、僕の予知だと奏姉さんは1%なんだけど、いいの?栞が80%だよ?」
「いいのよ、なんかムカつくし」
「じゃあ俺も俺に賭けよう。負けたら?」
「アイス奢りってことで」
「「OK!」」
奏の提案に遥と慶は威勢良く答えた。まず一人目の輝。慶がアドバイスした。
「いいか?木刀を振ってると思うな、釘バットを振ってると思え」
「はい!」
わけのわからないアドバイスだったが、元気良く答えて輝は出発した。が、大きく外した。
「くっそう……僕はスイカも割ることが出来ないのか……!」
膝をついて悔しがっているうちに光も出発。だが、外した。
「いっけなーい!失敗失敗☆」
「寒気するから本当にやめて殺したくなる」
「酷ッ⁉︎」
次は岬の番だ。
「岬、あの西瓜を遥だと思え。そうすればブラコンのお前なら辿り着け……」
「よ、余計なこと言うなぁ!」
慶が木刀で殴られた。次は茜。目を隠して出発した。
「前!そのまま!」
「もう少し右だよ!」
などと輝や光が声を上げる中、フラフラした足取りで進む。そして、木刀を振り上げた時だ。慶がパシャッと写真を撮った。
「ふえっ⁉︎い、今シャッター音が……ひゃあ!」
転んで終わった。
(この写真はふ、ふく……福井?辺りにでも売ろう)
そう心に誓いつつ、次は修の番。慶はビーチパラソルの下に戻った。
「あの修兄さんには余計なアドバイスしなくていいの?」
遥が聞いてきた。
「ああ。それと葵にもな。あの二人ならちゃんと栞のために残すさ」
「それもそだね」
予想通り、修も葵も外した。そして、次は奏だ。目隠しをする前に慶と遥を見た。そして、邪悪に笑って見せた。
「「ッッ‼︎」」
「なぁ、奏ねえさん……」
「ああ、やる気だな。大人気ない」
そして、ニヤニヤ笑ったまま迷いのない足取りでスイカに向かう。スイカの前に立った。
(悪いわね栞。でも、これにはアイスがかかってるのよ!)
そのまま木刀を振り下ろした。だが、
「奏、愛してる!」
「ふぁ⁉︎」
『ブフッ‼︎』
慶の突然の告白に顔を真っ赤にし、動揺した奏は空振りした。他の兄弟も思わず吹き出す。そして、奏は目隠しを外してキッと慶を睨んだ。
「いっいいいいきなり何言うのよ!」
「いや、みんなにアドバイスしたし奏にもと思ってな。ちなみに冗談だから」
「…………殺す。殺す殺す殺す殺す!ぜーったい殺すー!」
顔を真っ赤にしながら鈍器を召喚して襲い掛かる奏。それをどうどうと修と葵が落ち着けてる中、慶は遥の横へ。
「これで、あとは俺と栞だな」
「うん。でも、悪いけど僕が勝つよ」
「そいつはどうかな」
栞が出発。そのままスイカの前に立った。が、中々殴らない。
「………どうしたのかな」
「多分、スイカの声が聞こえてきたんだろうな。割られたくないよーみたいな」
解説しながら慶は立ち上がった。そして、栞の手を握った。
「栞、もしかして木刀重いのか?」
言いながら慶は邪悪な笑みで奏を睨んだ。その瞬間、遥は戦慄した。
(ま、まさか……!二人で割ることによって奏姉さんを独り負けさせるつもりか⁉︎ど、どこまで鬼畜なんだ!)
「へ?兄様?ち、違う……」
「じゃ、一緒に割ろうな。せーのっ」
「ま、待って!」
だが、栞の静止も虚しく、慶は栞と一緒に木刀を振り下ろした。見事に割れるスイカ。
「やったぁー!」
と、輝や光、岬が喜ぶ中、慶は栞の頭を撫でながら言った。
「良かったな、栞」
「良くない」
「えっ?」
「お兄様、きらいっ」
「」
慶のガラスのハート、ワールドブレイクした。