『Fate/Calico Jack』も期待していてください!
アーチャーの呪文が発されると共に、フィーの身体に『何か』が流れ込む。これが魔力なのだろう、と思うと同時に、フィーは拍子抜けしていた。
(痛いというより、気持ち良い……?)
その意見も魔力が身体の奥底まで至ろう瞬間に変わる。この時のことを、数分後のフィーは一言、「詐欺」と語った。
心地よく流れていた魔力が身体全体に行き渡ると同時に、フィーは自分の何処かが切り替わるような感覚を得る。
「……っ、ん――っ゛!!?」
「やっと起動したか……くっ、暴れるでないっ!」
これが魔術回路の起動かと思ったも束の間、其処から溶かした鉄を流し込まれるような痛みがフィーを襲う。
アーチャーはその様子を見て、ちゃんと起動したことに安堵するも、フィーのバタつく足が見事にアーチャーの脛に何度も直撃している。ガシガシと尋常でない音が鳴る度にその顔が苦痛に満ちてゆく。
ある意味もの凄い攻防が始まってきっちり二十秒後、アーチャーは魔力を流すのを止める。フィーに向けていた右手で右膝を庇うようにしながら、汗と涙で顔を少しばかり濡らしているフィーに問いかける。
「どうだ、イメージはつかめたのか?」
その言葉を聞き、フィーは少し顔を上げる。
「……すっかり忘れていた」
「……もう一度だな」
その言葉に顔を蒼褪めるフィー。内心、拷問技術並みの痛みを伴うこの作業がトラウマに成りかけている。
「この際諦める……」
ふてくされる様に言いながら、ベッドにうつ伏せる。
その瞬間さりげなく胸ポケットに手を入れーー
「鎮痛剤を飲んだとしても変わらないぞ、この痛みは神経とは無関係なのでな」
取り出そうとした鎮痛剤を胸ポケットに再び戻す。この訓練に逃げ場などない、遠まわしにそう告げているのと同義である。
ベアトリス教官から鎮痛剤を貰っていることは、霊体化した状態で眺めていたのか、知っている模様。
どちらにせよ鎮痛剤の入手が徒労であったことに、フィーは落胆するのだった。
「……では始めるぞ」
「……わかった」
アーチャーが、背中に右手を添えたのを感じ、絶望的な表情をするフィー。
最終的に、痛みから逃れたければ考え続けるほかないとのことだ。あの痛みの中で考え続けることが出来るなら苦労しない、そう思いながら猿轡役の布を横たわりながら外す。
「ほう、いいのか?外してしまって」
「ん、痛みを許容しちゃうからね」
その言葉にアーチャーは少し驚いたような反応を示す。
(まさか自分と同じ発想をするとはな……いやはや、今回のマスターは
摩耗していない記憶の一、切嗣が自分に初めて魔術を教えてくれた時のことを思い耽るアーチャー。
「アーチャー?」
意識を今に戻せば、フィーが不思議そうにアーチャーの顔を覗いている。
「ふっ、何でもない」
アーチャーは気を取り直したのを見て、フィーも心構えをしておく。
「……
アーチャーの一言で、フィーは再び痛みに陥った。
(――――痛いっ、けど探さなきゃ)
フィーは痛みに悶えながらも、今回は考える余裕を持つことが出来た。
それはそうだ、これで
痛みで歯を食いしばったのだろう、フィーの端唇と歯茎に血が滲んでいた。八回目の時点で実行した策の一つ『他に痛みを与え、気を保つ』の結果である。最初から思いついてはいたが、痛みに対する耐性が弱いフィーは自傷行為に走れなかったようだ。
(…………っ、何だろコレ)
探り続けていたフィーの脳裏に何かはっきりしたイメージが浮かぶ。
長方形の容器の中に振り動く物、その動きに合わせて容器の上に着いた円盤の針が動いているイメージ。
(えっ、振り子時計)
まさかのイメージに愕然とするほかないフィー。スイッチどころか切替の概念はどこにも残っていない。
少々時間が掛かったが、振り子時計の原動力たる『振り子』を止めるイメージをする。
振り子の振れ幅が短くなっていくのに合わせて、体の痛みが引いていく。
「どうやら停止出来たようだな。気分はどうだ、フィー?」
「気持ち悪い」
停止を確認し終えたアーチャーがフィーに問いかける。フィーはそれに今にでも眠りそうな表情で答える。
アーチャーはその返答に皮肉げに窓、というより外の様子を見る。
「それはそうだろうな、人生何度目かは知らないが、徹夜成功おめでとう。少しシャワーを浴びてくると良い」
窓は半分朝日が浮かび上がっている空と、スズメがひさめく様子を映していた。
「
その様子を見たフィーはシャワー室へ、のっそりとした歩みで向かう。
それを見届けたアーチャーは一つため息を吐く。
「さて、私はシーツを片づけるとしよう」
アーチャーの視線の先には汗と少量の血で汚れたベッドシーツがあった。
(……これはどう処理すべきか。最悪嫌な勘違いをされかねない代物だ)
まだ、Ⅶ組一同は起きる気配はない。サラ教官はこの時間は、食堂で酔いつぶれているだろう。
(やるなら今しかないっ!)
アーチャーの体裁的にバレてはならない隠密行動が始まるのだった。
ところでその時フィーは、
(……ん、危なかった。あと少しで寝てた)
水による窒息死に遭遇しかけていた。
約一時間後、ある意味苦行を強いられた二人――――言うまでもないがフィーとアーチャーである――――は再び自室にて集まっていた。
「最後にフィーの魔術属性と起源について説明するぞ。……フィー、あと少しだから頑張ってくれ」
「…………………分かった」
アーチャーがコホンと咳払いをし、そう発言する。
しかしながら、徹夜明けのフィーは眠気で意識が飛んでいたようだ。二三秒経ってから返事を返す。
分かっていないだろ、と思いながらもそれを指摘せず話を進める。どうやら時間をかけない方がフィーの負担が少ないと考えたのだろう。
「魔術属性と起源だが、この二つのどちらが色濃く出ているかで魔術の使い方が変わる。属性が濃ければ、汎用的に魔術が使える。起源が濃ければ、一点特化という具合だな」
「それじゃ私の属性と起源は?」
「属性は『時』、おそらく架空元素『無』の内の一点を重視された属性だ。起源は『疾走』、自身に対する『速さの概念への干渉』を得意とする」
フィーはその二つを聞き、
(自分の特徴なら、『小柄な体型』、『健脚』かな)
性格面の特徴を上げないのは、自分の性格を一応把握しているが為か。一通り考えて、フィーは結論を出す。
「私は起源の方かな」
「半分正解だ。フィーの身体面は起源が色濃く出ているが、性格面では『少々時間にルーズ』、『過去への執着』と魔術属性が色濃い。よって正解は両方だ」
アーチャーの物言いに文句があるのか、フィーはアーチャーをじっと見つめる。
「レディーに対してひどい」
「それはすまない、これまでずっとガールだと思っていたよ」
アーチャーはそれに皮肉げな口調で返す。
「……」
「……」
お互いに相手のことをジト目で見る。
「……」
「……はあ、話を進ませて貰うぞ。眠そうに頭を揺らして、眠られたら此方が困る」
珍しく先に折れたのはアーチャーだった。だが置き土産を忘れないあたり、不可抗力の様だ。
「……むぅ」
頬を膨らませながらもフィーは覚えがあるのか反論しない。
「さて、君の様に両面が色濃く出ている魔術師の大抵は、起源が色濃く出過ぎて、魔術属性が起源に塗りつぶされたが為。だからか、通常以上の一点特化ーーーー言うなら超一点特化の魔術師となる。この様な者わ魔術師業界では『起源覚醒者』と呼ばれる。起源だけなら通常の魔術が苦手なだけで、使えない訳じゃない。だが起源覚醒者は、
「かなりのマニアック具合だね」
「軽いな……まあ重くなるよりは良いか。フィーに出来る魔術はコレのお陰でかなり制限される。そこで習得する目標を私が決めさせて貰った」
アーチャーの最後の言葉にフィーは目を輝かせる。
超一点特化の自分に習得してもらう魔術は何だろうか、と期待を寄せているのが目に見える(主にアホ毛で)。
そして、アーチャーはフィーに告げる。
「フィーの目標としたのは、適正の高いであろう『時間操作』の戦闘応用魔術、『