錬鉄の軌跡 (凍結中)   作:倉木遊佐

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来年になる前に投稿っ!
『Fate/Calico Jack』も期待していてください!


とある一日の光景〜3〜

 アーチャーの呪文が発されると共に、フィーの身体に『何か』が流れ込む。これが魔力なのだろう、と思うと同時に、フィーは拍子抜けしていた。

(痛いというより、気持ち良い……?)

 その意見も魔力が身体の奥底まで至ろう瞬間に変わる。この時のことを、数分後のフィーは一言、「詐欺」と語った。

 心地よく流れていた魔力が身体全体に行き渡ると同時に、フィーは自分の何処かが切り替わるような感覚を得る。

「……っ、ん――っ゛!!?」

「やっと起動したか……くっ、暴れるでないっ!」

 これが魔術回路の起動かと思ったも束の間、其処から溶かした鉄を流し込まれるような痛みがフィーを襲う。

 アーチャーはその様子を見て、ちゃんと起動したことに安堵するも、フィーのバタつく足が見事にアーチャーの脛に何度も直撃している。ガシガシと尋常でない音が鳴る度にその顔が苦痛に満ちてゆく。

 

 

 

 ある意味もの凄い攻防が始まってきっちり二十秒後、アーチャーは魔力を流すのを止める。フィーに向けていた右手で右膝を庇うようにしながら、汗と涙で顔を少しばかり濡らしているフィーに問いかける。

「どうだ、イメージはつかめたのか?」

 その言葉を聞き、フィーは少し顔を上げる。

「……すっかり忘れていた」

「……もう一度だな」

 その言葉に顔を蒼褪めるフィー。内心、拷問技術並みの痛みを伴うこの作業がトラウマに成りかけている。

「この際諦める……」

 ふてくされる様に言いながら、ベッドにうつ伏せる。

 その瞬間さりげなく胸ポケットに手を入れーー

「鎮痛剤を飲んだとしても変わらないぞ、この痛みは神経とは無関係なのでな」

 取り出そうとした鎮痛剤を胸ポケットに再び戻す。この訓練に逃げ場などない、遠まわしにそう告げているのと同義である。

 ベアトリス教官から鎮痛剤を貰っていることは、霊体化した状態で眺めていたのか、知っている模様。

 どちらにせよ鎮痛剤の入手が徒労であったことに、フィーは落胆するのだった。

 

 

 

「……では始めるぞ」

「……わかった」

 アーチャーが、背中に右手を添えたのを感じ、絶望的な表情をするフィー。

 最終的に、痛みから逃れたければ考え続けるほかないとのことだ。あの痛みの中で考え続けることが出来るなら苦労しない、そう思いながら猿轡役の布を横たわりながら外す。

「ほう、いいのか?外してしまって」

「ん、痛みを許容しちゃうからね」

 その言葉にアーチャーは少し驚いたような反応を示す。

(まさか自分と同じ発想をするとはな……いやはや、今回のマスターは過去の自分(衛宮 士郎)と少々似ているな)

 摩耗していない記憶の一、切嗣が自分に初めて魔術を教えてくれた時のことを思い耽るアーチャー。

「アーチャー?」

 意識を今に戻せば、フィーが不思議そうにアーチャーの顔を覗いている。

「ふっ、何でもない」

 アーチャーは気を取り直したのを見て、フィーも心構えをしておく。

「……回路起動(トレース・オン)

 アーチャーの一言で、フィーは再び痛みに陥った。

 

 

(――――痛いっ、けど探さなきゃ)

 フィーは痛みに悶えながらも、今回は考える余裕を持つことが出来た。

 それはそうだ、これで百六十二回目(・・・・・・)の強制起動なのだから。空が少し明るさを持ち始めた今になり、彼女はようやくここまで至った。

 痛みで歯を食いしばったのだろう、フィーの端唇と歯茎に血が滲んでいた。八回目の時点で実行した策の一つ『他に痛みを与え、気を保つ』の結果である。最初から思いついてはいたが、痛みに対する耐性が弱いフィーは自傷行為に走れなかったようだ。

(…………っ、何だろコレ)

 探り続けていたフィーの脳裏に何かはっきりしたイメージが浮かぶ。

 長方形の容器の中に振り動く物、その動きに合わせて容器の上に着いた円盤の針が動いているイメージ。

(えっ、振り子時計)

 まさかのイメージに愕然とするほかないフィー。スイッチどころか切替の概念はどこにも残っていない。

 少々時間が掛かったが、振り子時計の原動力たる『振り子』を止めるイメージをする。

 振り子の振れ幅が短くなっていくのに合わせて、体の痛みが引いていく。

「どうやら停止出来たようだな。気分はどうだ、フィー?」

「気持ち悪い」

 停止を確認し終えたアーチャーがフィーに問いかける。フィーはそれに今にでも眠りそうな表情で答える。

 アーチャーはその返答に皮肉げに窓、というより外の様子を見る。

「それはそうだろうな、人生何度目かは知らないが、徹夜成功おめでとう。少しシャワーを浴びてくると良い」

 窓は半分朝日が浮かび上がっている空と、スズメがひさめく様子を映していた。

了解(ヤー)

 その様子を見たフィーはシャワー室へ、のっそりとした歩みで向かう。

 それを見届けたアーチャーは一つため息を吐く。

「さて、私はシーツを片づけるとしよう」

 アーチャーの視線の先には汗と少量の血で汚れたベッドシーツがあった。

(……これはどう処理すべきか。最悪嫌な勘違いをされかねない代物だ)

 まだ、Ⅶ組一同は起きる気配はない。サラ教官はこの時間は、食堂で酔いつぶれているだろう。

(やるなら今しかないっ!)

 アーチャーの体裁的にバレてはならない隠密行動が始まるのだった。

 ところでその時フィーは、

(……ん、危なかった。あと少しで寝てた)

 水による窒息死に遭遇しかけていた。

 

 

 

 約一時間後、ある意味苦行を強いられた二人――――言うまでもないがフィーとアーチャーである――――は再び自室にて集まっていた。

「最後にフィーの魔術属性と起源について説明するぞ。……フィー、あと少しだから頑張ってくれ」

「…………………分かった」

 アーチャーがコホンと咳払いをし、そう発言する。

 しかしながら、徹夜明けのフィーは眠気で意識が飛んでいたようだ。二三秒経ってから返事を返す。

 分かっていないだろ、と思いながらもそれを指摘せず話を進める。どうやら時間をかけない方がフィーの負担が少ないと考えたのだろう。

「魔術属性と起源だが、この二つのどちらが色濃く出ているかで魔術の使い方が変わる。属性が濃ければ、汎用的に魔術が使える。起源が濃ければ、一点特化という具合だな」

「それじゃ私の属性と起源は?」

「属性は『時』、おそらく架空元素『無』の内の一点を重視された属性だ。起源は『疾走』、自身に対する『速さの概念への干渉』を得意とする」

 フィーはその二つを聞き、

(自分の特徴なら、『小柄な体型』、『健脚』かな)

 性格面の特徴を上げないのは、自分の性格を一応把握しているが為か。一通り考えて、フィーは結論を出す。

「私は起源の方かな」

「半分正解だ。フィーの身体面は起源が色濃く出ているが、性格面では『少々時間にルーズ』、『過去への執着』と魔術属性が色濃い。よって正解は両方だ」

 アーチャーの物言いに文句があるのか、フィーはアーチャーをじっと見つめる。

「レディーに対してひどい」

「それはすまない、これまでずっとガールだと思っていたよ」

 アーチャーはそれに皮肉げな口調で返す。

「……」

「……」

 お互いに相手のことをジト目で見る。

「……」

「……はあ、話を進ませて貰うぞ。眠そうに頭を揺らして、眠られたら此方が困る」

 珍しく先に折れたのはアーチャーだった。だが置き土産を忘れないあたり、不可抗力の様だ。

「……むぅ」

 頬を膨らませながらもフィーは覚えがあるのか反論しない。

「さて、君の様に両面が色濃く出ている魔術師の大抵は、起源が色濃く出過ぎて、魔術属性が起源に塗りつぶされたが為。だからか、通常以上の一点特化ーーーー言うなら超一点特化の魔術師となる。この様な者わ魔術師業界では『起源覚醒者』と呼ばれる。起源だけなら通常の魔術が苦手なだけで、使えない訳じゃない。だが起源覚醒者は、自身の属性・起源(魔術特性)に関係する魔術以外は必ずと言って良いほど失敗する」

「かなりのマニアック具合だね」

「軽いな……まあ重くなるよりは良いか。フィーに出来る魔術はコレのお陰でかなり制限される。そこで習得する目標を私が決めさせて貰った」

 アーチャーの最後の言葉にフィーは目を輝かせる。

 超一点特化の自分に習得してもらう魔術は何だろうか、と期待を寄せているのが目に見える(主にアホ毛で)。

 そして、アーチャーはフィーに告げる。

「フィーの目標としたのは、適正の高いであろう『時間操作』の戦闘応用魔術、『固有時制御(タイム・アルター)』だ」

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