錬鉄の軌跡 (凍結中)   作:倉木遊佐

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入学式

 七耀歴 一二〇四年 三月三十一日

 

 

 あと一日で四月となるこの日、近郊都市トリスタではライノの花が美しく咲き乱れていた。

 このトリスタは、良く言えば一般的、遠慮せず言って普通な街だ――――ただ、一点を除けば。

 それは、

 

    かの大帝・ドライケルス・ライゼ・アルノールが設立したとされる『トールズ士官学院』だ。

 貴族の嫡子から平民の生徒まで、在校生は多種多様であり、卒業後の進路もそれ同様。

 その様な伝統的な学校がこの年にはあった。

 そして、この日はその入学式がある日でもあった。

 少年少女達は、在校する二年間で何をし何を遂げるのか。

 そう考える新入生らは期待と不安を併せ持ちながらも、トリスタに訪れていた。

 

 

 

「ライノの花か、綺麗だな」

 視界から溢れんばかりのライノの花吹雪を見てそう呟いた少年、リィン・シュバルツァーも同様新入生だった。

 他の者と似た心境に立ってはいたが、他の新入生とは違う点が少しあった。

 トールズ士官学院では、貴族生徒は白、平民生徒は緑の制服を着るのだが。

 彼はそれらとは違い、赤色の制服に身を包んでいた。

(しかし、何故普通の新入生とは違う色なんだろう。他にも自分と同じ制服の人も居たが、圧倒的に少ないようだ)

 そう考え、立ち止まるリィンだったが、すぐに考えるのを止め歩き出した。

 彼はついさっきも考え更け、自分と同じ制服の女子にぶつかったばかりなのだ。

 歩き続けたリィンは、公園が目に映るとそちらに方向転換した。

 ――――――――少し休憩するのもいいな

 そして、公園内に入りベンチを見つけるとそこに腰掛けた。

 ふと、隣のベンチを見れば、全身をベンチに乗せ眠りふけている銀髪の少女がいた。

 よく見れば、これまた自分と同じ制服を少女が着ていることに気づき、

 こんな幼い子も士官学院に入るのか、と思いながらリィンは瞼を閉じて……

 

「少年よ、もうすぐ入学式の時間なのだが、寝てて良いのか?」

 

 男の声を聞いて、閉じていた目を開いた。

 どうやら、疲れが溜まっていたようだ。時計を見れば、入学式十五分前。

 次いで、自分を起こしてくれた人物の方を見た。

 そこには黒いシャツに赤い服を着た、白髪の二十代半ばの男が立っていた。

「む……起きたようだな」

「あっ、起こしていただき、ありがとうございます」

 男が話しかけてきたのを、リィンは感謝の言葉で返した。

「いや、構わないさ。もののついでだからな」

 男はそう言うと、今度は隣のベンチに向かい、未だ寝ている少女に声を掛けた。

 どうやら、本命はこちらのようだ

「フィー、起きるのだ。遅刻するぞ」

 フィーと呼ばれた少女は、少し体を動かすと、

「むぅ……あと一時間」

 と眠たそうな目でかえす。

「遅刻すると言っているだろう。さぁ、起きろ」

「めんどい。……分かった」

 少女は文句を言おうとしていたが、男が発する無言の圧力に負け起き上がった。

 男はため息をつくと、リィンの方に向き直った。

「では……む、フィーと同じ制服だな」

 リィンは男のその発言を聞くと頷いた。

「はい。案外同じクラスかもしれませんね」

「ふっ、そのときはこの子を頼むよ」

 リィンの発言に男は微笑み、そういった。

「ん……アーチャー。行こ」

 どうやら男はアーチャーと呼ばれているらしい。

 フィーとやらが催促している。

「分かった。ではまた会おう、少年」

 アーチャーはそう言うと、フィーの元へ向かい走っていった。

(まるで、親子みたいだ)

 そう思いながら、リィンは二人を見送った。

 

 

 

「『若者よ、世の礎たれ』――― ”世”という言葉が何を示すのか。何を以て”礎”とするのか。その意味を、考えて欲しい」

 入学式も無事に間に合い、アーチャーは学院長の話に耳を傾けていた。

 隣にはマスターであるフィーが船を漕ぎながら話を聞いていた。

『おい、フィー。起きろ』

『起きてる、多分』

 アーチャーが声を送ると同時に背筋を伸ばすフィー。

 何故アーチャーが新入生席に座っているフィーの隣に居るのか。

 それは聖杯戦争でも重宝された、サーヴァントの霊体化だ。

 そして、その派系の念話でフィーとアーチャーは会話していた。

『多分ではない、明らかに眠りかけていただろう』

『ん、だってこの式長い』

『そんな訳無かろう。普通はもっと長いぞ……終わったか』

 アーチャーが昔のことを懐かしんでると、学院長が壇から降りていた。

 そこに、教頭らしき男が声を出した。

「それでは、新入生の皆さん。制服と共に入っていた案内書に書かれたクラスにむかってください」

 その言葉に、アーチャーは疑問を持った。

(おかしいな、確かサラ教官から渡されたのは制服とARCUSとやらだけだったはずだが……)

 フィーも心当たりが無いようで、戸惑っている。

 一応言うと、アーチャーもARCUSとやらを持っている。

 フィーがサラ教官にアーチャーの存在をばらし、もう一台貰ったのだ。

 そして、いつの間にか周囲に人が居なくなり、残っているのは赤い制服を着た生徒達だけとなった。

「はーい、赤い制服を着てる子たちはコッチに注目~」

 赤い制服の生徒達が困惑した様子で、おろおろしていると場違いな明るい声が講堂に響いた。

 声のした方に振り向いて見れば、そこには赤髪の元遊撃手、サラ・バレスタイン教官が笑顔で立っていた。

「サラ、騙した?」

 フィーが疑い深そうな視線をサラにぶつける。

「いやいや、元々このやり方だったのよ」

 それを、サラは手で払うようにして受け流した。

 一同がこの二人を見つめている所を、その片割れであるサラがこれまた明るい声で宣言した。

「これから、きみたちには『特別オリエンテーリング』に参加してもらいますっ」

 その発言を聞いたアーチャーは嘆息した。

 --――――――――――絶対に碌な事態にならんな……。

 セイバーの直感スキルを持っていなくとも、そのことだけは予知できた。

 

 

 

 

 

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