実際、この迷路はあまり複雑ではなく、かなり単純な設計をしていた。
罠や仕掛けの類は無く、魔獣とやらも、そこまで強い訳でもなかった。
そんな旧校舎の迷路(この世界ではダンジョンと言うらしい)の一角で、アーチャーはフィーの戦いぶりを観察していた。
フィーの戦闘スタイルは、持ち前のスピードを生かして敵に手数で攻める。
それでいて、回避技能も高く、まさに理想の『アタッカー』とも言える。
だが、時折回避に失敗した時に来る痛みの耐性や、身軽さ故の防御力の低さと体力の無さ。
ある意味、これを含めると他の『Ⅶ組』メンバーと釣り合いがとれているだろうと、アーチャーは推察していた。
「ーーーーふっ」
フィーが双銃剣を一振りして、鞘に仕舞う。どうやら、終わったようだ。
「どうだった、アーチャー?」
フィーがアーチャーの方を向いて言った。感想が欲しいのだろう。
「ふむ、キツめの推察と、非道な感想。どちらが良いか」
「どっちも同じじゃん」
アーチャーの問いに真面目に返すフィー。この二人共、ある時は無表情で冗談を言うものだから恐ろしい。
アーチャーは目を閉じて言った。
「では、言わせてもらおう。
まず、遠距離攻撃時の広範囲掃射、『クリアランス』は対象を中央に捉えるのではなく、複数の敵が射程に入るような地点を中心にすると良いだろう。
射撃などは、一つを見るのではなく、全体を見ることが大事だからな。
次に、君は痛みに対する耐性が少ない。今度、魔術回路の起動訓練で慣れてもらおう。
最後に、君は才能があるのに、体力が人と比べて異様に少ない。体力を増やすことを念頭にこれからの訓練内容を仕上げてやろう。
と、こんなところだな」
アーチャーが閉じていた目を開き、フィーの方を見やる。
「理に適ってるけど……褒めてくれたっていいじゃん」
「飴と鞭のバランスは大事だからな。言うときは言うさ」
フィーのジト目を、小さく笑みを浮かべて受け止めるアーチャー。
じっと見つめ合う二人。その均衡を壊したのはフィーだった。
「頑固だね、次はアーチャーの番」
「君が言うか、フィーよ。まぁ、実力を知らないと、私と合わせづらいだろう」
そういう二人は、一斉に動いた。フィーは後方、フィーを観察していたアーチャーのいた位置に。アーチャーは前方、魔獣たちが群がっている場所に。
魔獣たちがこちらに向かっているのは、二人とも察していた。
一応、フィーとアーチャーはお互いの戦闘能力を、これまで把握していなかった。
だから、この際お互い確認しよう、という事になっていた。
内容は、魔獣たちとの戦闘。単純なルールだからこそ、相手の戦闘スタイルがよくわかる。
「さて、魔獣どもよ。未練はないだろうな」
『
人体を機械、魔術を動作と例えれば、魔術回路は機械の回路そのものだろう。
回路が多い程出来る事の範囲が増え、一工程に一本に掛かる掛かる負担も軽減される為動作をスムーズに行えるのは、機械回路も魔術回路も同じだ。
アーチャーなら、投影するまでの時間が短縮され、高位の宝具もスムーズに投影できる様になる。
だが、魔術回路は通常増やすことは出来ない。出来るには出来るが、他人の魔術回路を奪うこと前提で無いと不可能だった。
しかし、魔術回路で作り出した魔力を溜め込むことは可能だ。
遠坂家の宝石魔術が良い例だろう。
遠坂凛はそこに目をつけた。この世界にある、使用者に恩恵を与えるマスタークオーツと遠坂家の宝石魔術を組み合わせればどうなるか。
魔術回路を擬似的に増やせるのではないか?
その実験で作られたのがマスタークオーツ『アイデアル』であり、その効果は今まさに、アーチャーが実感していた。
(ふむ、投影がスムーズに行え、負担も少ないようだな)
真名解放は、未だに実践していないが、投影によるアーチャーとフィーの負担はとても少なく、
さらにアーチャーの体と
(この世界に来たからこその芸当だが、あの世界では宝具となってもおかしくない代物だな)
そんなことを考えながら、戦闘を行っているアーチャーを、フィーは無表情ながらもかなり舌を巻いていた。
弓で牽制し、槍等で引き寄せ、剣で倒す。
近中遠距離を武器を変えながら戦う、さながら『オールラウンダー』の戦闘スタイル。
何本も空中から武器を呼び出す(実際は作り出しているのだが)未知の
そのどれにも驚くが、一番驚愕したのは違うことだった。
剣に、槍に、鎌に、斧にと一つの分野に秀でたものには負けるだろうが、『オールラウンダー』の理想とも言える才能、戦いの才能を持ち合わせている。武器の熟練度やためらいの無い行動をするところから、実戦経験もかなり積んでいるだろう。
(まだ、一流に至っていない私は多分負ける……団長といい勝負、かな)
初見時とは違うことを考える中、目の前でアーチャーが戦闘を終えるのを見届けた。
そして、フィーは思う。
――――――アーチャーはどんな人生を送っていたのかな