ゼロの黒龍   作:無想転生

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随分とお待たせしました。

前回の話の続きは、本編とは関係のない話なので前回の話共々番外編ということにしました。

また時間がある時に投稿しようと思います。


土くれのフーケ編
品評会と姫君


トリステイン魔法学院学院長、オールド・オスマンはため息をついていた。

 

「ハァ……姫殿下が品評会を視察か…急な話じゃのう…」

 

「普段ならば喜ばしいことですが、今は時期が時期ですからな」

ハゲ頭の教師…コルベールが同調するように、ウンウンと首を縦に振った。

 

「ミス・ヴァリエールの使い魔…正体不明の強力な黒龍…か…」

 

「その上始祖ブリミルに纏わる、伝説の使い魔ガンダールヴでもありますし…」

 

二人の悩みのタネ…それは言わずもがな、ルイズの使い魔ミラボレアスである。

 

二人はミラボレアスとギーシュの決闘を“遠見の鏡”で見物していた際、ミラボレアスのその実力と、ガンダールヴの印が本物である確証を得ていた。

 

故に、警戒心が更に強くなっているのだ。

 

「大丈夫でしょうかね…姫殿下に危害が加わる…なんて事にはならなければいいのですが…」

 

「そこはおそらくじゃが心配はいらんだろう…

ミスタ・グラモンとの決闘でも、相手の命まで無闇に取ろうとはしなかった。

僅かにじゃが…ミス・ヴァリエールがストッパーになっているのじゃろう」

 

「しかし…警戒しておくに越したことは無いのでは?」

 

「それはもちろんじゃ。

じゃがそれ以上にワシが不安視しておるのは、あれ程の韻竜が存在するという事実…それが王室に、または世間に漏れ出すということじゃ。

しかもそれが、ガンダールヴの力まで持っているとなると…知られればロクなことにならんのが目に見えておるからのう」

 

韻竜は絶滅したとされる生物だ。

その生き残りがいたとなれば、当然それを狙う者も現れる。

強力な力を持っている故、王室の者に見つかれば、軍事的な利用を企む者だって現れるかもしれない。

 

下手にミラボレアスの存在を世に広めれば、ミラボレアスは上記のような、様々な欲望に目を眩ませた者達に、付け狙われることになるだろう。

そしてそれは同時に、周りにいる生徒達にも危害が及ぶことを意味している。

だからできる限り、情報の漏泄は阻止しなければならないのだ。

 

「…これは一度、本人と話し合った方がいいかもしれんのう…」

 

「話し合うというのは、あの黒龍とでしょうか?」

 

「そうじゃ」

オスマンの提案に、僅かに表情を濁すコルベール。

召喚初日のこともあり、あまり気が乗らないのだろう。

 

何にせよ、しばらく気が休まらなそうだ。

と、これからの事を思うとため息が止まらない2人であった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ぶえっくしゅっ‼︎」

ミラが大きなくしゃみを放った。

 

「きゃっ!ちょっと風邪⁉︎

気をつけてよ!大事な品評会の前なんだから」

ルイズはミラの口から飛んで来た唾がかからないように、身を屈めてくしゃみを躱した。

 

「誰かが私の噂をしたような気がしてな…

しかし大事な品評会ね…そこまで準備をしなくてはならない理由が、私にはわからないんだがな…」

 

「メイジの実力を測るには、まずは使い魔を見ればいい…なんて言われてるくらいなのよ。

…それに今年は…アンリエッタ姫殿下がいらっしゃるんだから」

 

「姫殿下…ね…」

嬉しそうに笑うルイズを見て、ミラがそう呟いた。

 

王女と言うからには、ある程度の尊敬を集めるのは納得できるが、ルイズの顔を見ると、その表情には尊敬の他に…何処か昔を懐かしむような…親しい友人と会う時のような笑みが含まれている。

 

「随分うれしそうだな」

 

「そりゃあそうよ、姫殿下は国中の憧れだもの」

 

「私にはわからんがな」

ミラは人間ではなくドラゴンだ、それも人間より圧倒的に力の強い存在だ。

だから相手が平民だろうと貴族だろうと王族だろうと…ミラの目には階級など関係なく全て同じ、一人の人間としてしか写っていない。

 

だいたいミラのような、生物の頂点に君臨する存在にとって、人間の王などは無縁のものなのだ。

 

「まぁあんたがわからないのは無理もないわ。

でも絶っっっ対に!姫殿下の前で失礼な態度をとっちゃ駄目よ!」

ルイズが鬼気迫る顔でミラに念押しした。

 

「あ…あぁ、気をつけておくよ」

そのあまりの迫力に、ミラは思わず一歩後ろにさがった。

 

「それならいいのよ。

さてと…品評会の為に、何か一つ芸でもできるようにならないとね」

 

「芸か…そんなもの、火を吹くか飛ぶかくらいしか私には無いぞ?」

もっとも、ドラゴンであればただ空を飛ぶ、火を吐くといった行動だけでも、十分評価はされるだろう。

 

しかしルイズは納得しなかった。

「それだけじゃ駄目よ。今年はドラゴンの使い魔が、あんた以外にも二体いるんだから。

しかもその内の一体はキュルケの使い魔、私はキュルケだけには絶対負けたくないのよ!」

 

宿敵である、キュルケに対抗心を燃やすルイズに、ミラは(またか)と内心呆れた。

ミラとしては、ヴァリエールとツェルプストーの因縁など知ったことでは無いし、ルイズとキュルケの仲にも興味はない。

「勝手にやってくれ、自分を巻き込むな」口には出さないが、これがミラの本心である。

 

しかし、そんなミラにも、ルイズの話には同調する部分があった。

正直、その品評会とやらの趣旨も意図も、ミラにはまったくわからなかったが、ものの優劣を決めようというのなら、とりあえず優勝しておきたいと思うのが、単純な脳みそを持つミラの思考である。

 

キュルケの使い魔であるフレイムは、強力な種なのか…まだ完全には成熟していないにも関わらず、その力も口から吐く炎も、他の火龍とは勝るとも劣らない程だ。

しかしさっきも言った通り、あくまでも成熟し切れていない子どもである、ミラに比べれば見た目の迫力からしてかなりの差がある。

 

ここまでの事から、ミラの方が優勝には圧倒的に近いと言えるだろう。

が、優勝に燃えるキュルケはフレイムと共に、日夜芸の訓練に励んでいるという、その様子はルイズもミラも何度か目撃したことがあるくらいだ。

もしその訓練が功を奏していれば、フレイムはミラとの差を一気に縮め、そして優勝するかもしれない。

 

ルイズが不安視しているのはそこだ。

だからルイズは、ミラにも何か芸を覚えさせたいのだ。

 

「何か案は無い?」

ルイズがミラにアイデアを求めた。

 

「私に聞くな、そういうのはお前が考えることだろう。

……まぁ、無いことも無いがな…」

 

「ほんと⁉︎」

 

「よくわからんが要するに…私の存在をアピールすればいいのだろう?

なら無駄な小細工などいらん、堂々と振舞っていればそれでいいのだ」

ミラの出した案とは、言ってしまえば芸などには頼らず、ありのままの姿をそのまま見せる…

要するに、案が無いのがミラの出した案なのである。

 

「何もしなくてはいいって…本当にそれで大丈夫なの?」

 

「まぁ…なんとかなるだろう、まったく何もしないというわけでは無いしな…」

そう言ってミラは立ち上がり、部屋の窓を開き、そこから外へと飛び出した。

 

「ちょっと!どこに行くつもりよ⁉︎」

慌ててルイズも窓に身を乗り出して叫んだが、ミラは「私は眠いんだ」とだけいい、構わずそのまま去って行ってしまった。

 

「私の使い魔なのに…勝手すぎよ…」

本能のまま行動するミラに対して、ルイズは大きくため息をついた。

 

しかしもう既に半分諦めているのか、ルイズは明日の朝寝坊してしまうのは事と思い、そのまま就寝の準備を始めた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

翌日、トリステイン魔法学院は大いに賑わっていた。

理由は言うまでもない、アンリエッタ姫殿下の訪問だ。

 

生徒や教師…学院で働く平民達の歓迎を浴びながら、アンリエッタ姫殿下は豪華な馬車の中から、その姿を現した。

 

護衛に囲まれても尚霞むことのないその美線に、多くの羨望の眼差しが集中する。

 

歓声があがり、うっとりとした表情でじっと見つめる者もいれば、ギーシュなどの様に、恋文のようなものを呟き始めた者もいる。

 

彼女は何千年も続く王家の血族でありながら、誰もが見惚れる程の美貌の持ち主だ。

これだけの尊敬を集めるのも、納得できることである。

 

そんな中、他の者達よりも一層熱い視線をアンリエッタに送る者がいた。

他でもない、ルイズである。

ルイズは昨晩よりも更に穏やかな笑顔で、頬を赤らめながらアンリエッタの歩く姿を、ジッと眺めていた。

 

因みにミラの姿は無い。

昨晩話をしていた時も、姫殿下にあまり興味を持っていなかったことから…おそらく終わるまで、暇なのでそこらを適当にブラついているのだろう。

 

別にミラだけの話ではない。

女王といえど完璧では無いのだ、ミラ以外の人々の中にも、王女にあまり関心を持っていない者は少なからず存在する。

例えばキュルケやタバサのように、国外出身の者なんかは、他と比べてやや冷めた態度とっていたりしている。

 

とは言っても、やはりアンリエッタを慕う者の方が遥かに多い。

彼女の訪問には、学院をあげて祝福していると言っても過言ではないだろう。

 

アンリエッタは太陽のような笑顔をふりまきながら、学院長オールド・オスマン含む、トリステイン魔法学院の教師達と対面した。

「突然のわがまま、申し訳ありませんでした。ミスタ・オスマン」

 

「滅相も御座いません。

生徒共々、お待ちもうしておりました」

流石は王女と言ったところである。

強力なメイジであるトリステイン魔法学院の教師達が、綺麗に列を揃えて膝を地面につけ、頭を下げている。

壮観とも言える光景だ。

 

「今年だけは、是非ともこの目で見ておきたくて」

 

「ほう…それは?」

 

「個人的なことですわ」

ほんの少し、ドキリと冷や汗を垂らすオスマンに対し、アンリエッタは笑顔でそう言った。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

歓迎式も無事終了し、忙しさから時間はあっという間に流れていった。

 

現在は夜である。

 

「ちょっとミラ!何であんた、歓迎式にこなかったの⁉︎」

ルイズが怒った顔でミラを問い詰めている。

 

「興味が無かったんだ。

それに私は使い魔だ、教師や生徒はそうだとしても、使い魔の私は強制参加ではないだろう?」

 

「相手は姫殿下なのよ⁉︎強制とか関係なく、自ら喜んで参加するのが常識でしょ!」

 

「“人間の”常識を私に押し付けるな」

 

「…もし明日、今日みたいに品評会をすっぽかしたり、姫様に無礼な事をしたら、一週間食事抜きにするからね」

ルイズの今の一言で、ミラの体は硬直した。

 

食事抜き…ミラは自分で食べ物を獲ってきたりできるので、食事を抜かれようと飢えることはない。

しかし食べ物の質は変わる。

ここはミラにとっては異世界だ、自分で獲物を捕まえるにしても、この辺りに生息しているのはよくわからない生き物ばかり…とても味の保証はできない。

だから毎日ルイズが与えてくれる、上質な肉が食べられなくなるのは、ミラにとってはとても困ることなのだ。

 

「一週間だと…⁉︎まて!それは少しやり過ぎじゃないか?」

 

「私との約束を守れば済む話じゃない」

表情に焦りの色を浮かべるミラに対し、ルイズが淡々とした顔で言い放った。

 

「ぐぬぬっ…!」

ミラが唸ったがルイズは一切動じない。

このままでは、一週間クソまずい肉を食わされることになる。

 

ミラは考えた。

しかし考えてもどうにもならないのでミラは…

 

「誰か来たようだな、私が出よう」

別の話に切り替えることにした。

 

誰か来たというのは嘘では無かったらしい、確かに扉の向こう側…廊下の方から人間の足音が聞こえてきた。

ミラは扉の前で足音が止まるや否や、ノック音が聞こえてくる前に扉を開けた。

 

現れたのはフードで顔を隠した謎の人物、顔は隠れてわからないが、着ている衣服から女性だということだけはわかった。

 

何もしていないのに突然扉が開いたからか、フードの女は足を止めて一瞬呆然としていたが、ルイズの姿を確認した瞬間、早足でルイズの元に駆け寄った。

 

「ちょっと…!誰よあんた!」

 

「久しぶりね」

 

自分の方に向かってきた怪しい人物を前に、ルイズは警戒して杖を構えた。

しかし謎の女が声を発したと同時に、ルイズの警戒が少し解けた。フードの女の言葉の通り、聞き覚えのある声だったらしい。

 

「ずっと会いたかったわ!ルイズ・フランソワーズ!」

フードの女は顔を覆っていたフードを外し、嬉々としてルイズに抱きついた。

 

その顔を見た瞬間、ルイズの警戒は完全に解け、杖を持つ手を咎めるように強く握った。

そして同時に、その顔は驚きと嬉しさで満たされていた。

 

「姫殿下⁉︎」

そう、突然ルイズの部屋に訪問してきた人物とは、この国の…トリステインの姫君、アンリエッタその人であった。

 

 

 

 




投稿スピードが遅いので、話のテンポを進めました。

次回もこんな感じになると思います。
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