ゼロの黒龍   作:無想転生

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夜遅くに投稿します。

使っている機械の調子が悪く、時間がかかってしまいました。
本当にすみません。


土くれのフーケ

ルイズはとても感激していた。

トリステインの姫君であるアンリエッタが自分に会いに、わざわざ訪ねに来てくれたらだ。

 

「いけませんわ姫殿下!こんな下賤な所にお一人で」

しかし相手は姫殿下である、こんな所を誰かに見られたら騒ぎになるかもしれない…ルイズは膝をつけながら、アンリエッタにそう言った

 

「そんな堅苦しい行儀はやめて、ルイズ・フランソワーズ。

今のわたくしはトリステインの姫君なんかじゃないわ、あなたのお友達である、ただのアンリエッタよ」

 

「もったいないお言葉です」

ルイズは頬を赤らめながら、心底嬉しそうに言った。

 

「本当に…久しぶりね…ルイズ・フランソワーズ。

ずっと会いたかったわ」

アンリエッタの目に涙が浮かんでいる、一国の姫というのも、色々と多難なのだろう。

ルイズはその涙を見て、心配そうな顔でアンリエッタの手をそっと握った。

 

「ごめんなさいね…お父様が亡くなって以来…ずっと心を開いて話せる人もいなくて…」

そう言って、自分の目から溢れる涙を指で拭き取るアンリエッタ。

ルイズにはアンリエッタの姿が、酷くやつれている様に見えた。

 

「…わたくしも…姫様に会えて本当に嬉しいですわ」

ルイズはアンリエッタを優しく抱きしめた。

 

「ありがとう…ルイズ・フランソワーズ」

アンリエッタも応えるようにルイズを抱き返した。

目はまだ潤んでいたが、その顔は喜びで染まっている。

 

「ほう…これが話に聞く姫殿下とやらか…」

ふと…蚊帳の外になっていたミラが、アンリエッタをじっくりと眺めながら、ルイズの隣でそう言った。

 

そしてその数秒後、ミラの腹からグゥーと、大きな音が鳴り響いた。

 

「あんたはッ‼︎姫様を相手に何てこと考えてるのよッ‼︎」

 

「い、いや…今のは偶然腹が鳴っただけだ」

怒号をあげて杖を突きつけるルイズに、ミラが両手を振って弁解する。

 

「その方は一体…?一緒の部屋にいるようだけど…」

首を傾げてルイズに尋ねるアンリエッタ。

それはそうだ、親友の部屋に…そもそも女子寮にこんな男がいれば、誰だって疑問に思うだろう。

 

「こ、こいつは私の使い魔でございます

…ほら、あんたも姫様の前でぼけっとつっ立ってないで」

ルイズがアンリエッタの前で改まりながら、ミラに対し視線を送った。

 

「いや…私は…」

嫌という程自分に突き刺さってくるルイズの視線。

それに対しミラは僅かに眉をひそめたが、一週間の食事抜きは嫌なので、渋々ながらもアンリエッタに向き合いその場で膝を付いた。

 

「お初にお目にかかります、アンリエッタ姫殿下。

私の名前はミラボレアス、我が主、ルイズ・フランソワーズの使い魔をさせていただいております」

始まりの龍やルーツとも呼ばれる…白いドレスの少女に習ったように、跪き丁寧に挨拶をするミラ。

因みにルイズのことをルイズ・フランソワーズと言ったのは、単にルイズの名をフルネームで覚えていないからである。

 

「ルイズの使い魔…?わたくしが聞いた話では、召喚されたのは黒いドラゴンだったはずなのですが…」

 

「ミラは人の言葉を解し、人の姿に変化する能力を持っています」

少し自慢気になるルイズ。

憧れであり友人であるアンリエッタに、自分の使い魔を紹介できるのが誇らしいのだろう。

 

「言葉を解し人の姿になれる…それって…まさか韻竜⁉︎

凄いわルイズ‼︎韻竜を召喚するなんて!」

まるで世紀の大発見でもしたかのように喜び、興奮するアンリエッタ。

 

実際とても凄いことだ、絶滅していたと思われていた生物を使い魔にしているのだから(我々の世界で例えるならば、ニホンオオカミをペットとして飼っているようなものだ)

大げさではなく、本当に世紀の大発見とも言えるかもしれない。

 

「お…お褒めいただき、光栄でございます」

顔を真っ赤にして照れるルイズ。

召喚できたのはただの偶然…その上自分のいうことなどろくに聞かないが、憧れの王女様にも褒められる立派な使い魔。

それを召喚できたことを、ルイズは改めて誇りに思った。

 

が…正確に言うと、喜ぶ二人には悪いが、ミラは韻竜ではなく古龍と呼ばれる別の種族である。

しかしそれらは人間の付けた総称であるため、違いなどあまり分かっていないミラには、わざわざ口に出してまで否定する気にはなれなかった。

 

「それはそうと…あなたも当然、翌日の品評会には出てくださるのでしょう?韻竜の使い魔さん」

 

「はい、そうさせていただく所存です」

 

「頑張ってくださいね、応援していますわ」

アンリエッタが太陽の様な笑顔をミラに向けた。

普通の男ならば、心が脈打つように揺れ動きそうな程の、可愛らしくて美しい笑顔だ。

 

「……さて、本当に名残惜しいですが、わたくしはそろそろ戻らないといけません」

アンリエッタが残念そうに呟いた。

 

短時間であれ、一国の王女が行方を眩ませれば、さっきも述べたように騒ぎになる可能性がある。

だから長時間ここに滞在しているわけにはいかないのだ。

 

ルイズとアンリエッタ…本音を言えば双方、どちらももっと一緒に話をしたいと思っているが、互いにそれはできないと分かっていた。

だからルイズも何も言わなかった。

 

「ここ数年間、最も楽しい一時でしたわ。

ありがとう、ルイズ・フランソワーズ」

 

「わたくしもですわ、姫様」

別れを止めることはできないが、二人はその分、互いに強く抱きしめ合った。

 

「では、ルイズに使い魔さん。

明日は楽しみにしていますわ」

アンリエッタが再び、フードで顔を隠しながら二人に言った。

 

扉を閉め、廊下を歩き去って行く頃には、口元しか顔は見れなかったが…

それでも確かに、ルイズにはアンリエッタの顔が、悲しみに歪んでいたのが分かった。

 

それが、久しぶりに再会した友人と過ごす時間が、短かすぎたことへの嘆きなのか…

それとも他にあるのか…

 

ルイズにはわからなかった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

朝日に照らされる、トリステイン魔法学院。

朝日が登ったばかりであるため、辺りはまだほんのり薄暗い。

そんな中を、ロングビルは一人歩いていた。

 

薄明かりの庭は静けさに包まれていた。

動物の声も一切しない。ただ聞こえてくる音は、風の突き抜けるような音と、ゴゴゴという、奇妙な地響きにも近い何かだ。

 

この奇妙な音と薄暗さがあいまって、ロングビルの心は徐々に不安にかられていった。

 

一体こんな所でロングビルは何をしているのか…その答えは、ロングビルの目指す目的地にあった。

 

目的地に到着したロングビルの目の前に広がるのは、黒い鱗。

そう、ロングビルはオスマンの命令で、ミラボレアスを呼びに来たのだ。

 

「さて…どうしたものか…」

ロングビルが目を細めながら言った。

 

さっきの音の正体はこれなのだろう、目の前で大きないびきを立てて眠るミラボレアス。

要件を伝えるにも、相手が眠っていては意味がない。

だからと言って無理矢理起こして、もしも目覚めが悪かったりすれば命に関わる。

 

相手はオスマンという、スクウェアクラスのメイジですら警戒する黒龍なのだ。

注意を払いすぎるということはない。

 

しかしこのままでは一向に前には進まない、ロングビルはやるせない気持ちで、眠っているミラボレアスをただ眺めていた。

 

「…‼︎」

しかし次の瞬間、ロングビルの体はピタリと硬直した。

 

時間が経過し、辺りがほんのりと明るくなったからか、ミラボレアスが目を開いていたのだ。

 

ロングビルに緊張が走る。

自分でもわかる程に、杖を握る手の力が強くなっているのを感じた。

 

【だれだ?】

しかし黒龍から発せられたのは、意外にも穏やかな声であった。

その声を聞き、ロングビルはホッと胸を撫で下ろした。案外寝起きは良かったようだ。

 

【人間…それも女…見たこともないな…】

 

「私はこの学院の学院長、オールド・オスマンの秘書をしているロングビルと申します。

オールド・オスマンの命で、あなたを学院長室に案内しに参りました」

できる限り相手を刺激しないよう、丁寧な態度を試みるロングビル。

 

【学院長…よくわからんが、ここで一番偉い人間のことか?】

 

「その通りです」

 

ミラボレアスは少し黙り込んだ。

寝起きというのもあり、あまり頭がさえていないのだろう。

 

【…その学院長…オールド・オスマンとやらは優れたメイジなのか?】

 

「え?……あ、はい。

オールド・オスマンはハルケギニアでも数少ない、スクウェアクラスのメイジと言われています」

ロングビルは突然のミラボレアスの問いに、ほんの少しだけ疑問を抱いたが、ここで答えず無駄に機嫌を損なわせるわけにもいかないので、ロングビルは正直にミラボレアスの問いに答えた。

 

【スクウェア…ルイズの話では確か…四つに分けられる中でも最高クラスのメイジ…だったか】

 

ミラボレアスは自信を人間の姿に変え、ロングビルをまっすぐ見て言った。

「いいだろう、案内してくれ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ロングビルに案内されたミラは、オールド・オスマンの居る学院長室に招かれていた。

 

現在学院長室の中にいるのは、案内をしたロングビルに…コルベール…学院長であるオスマン…そしてミラだけである。

 

「君に折り入って話があるのじゃが、いいかね?」

オスマンが威厳溢れる真剣な表情で、セコイアの机越しに話をきりだした。

 

「お前がオールド・オスマンか…

あぁもちろんだ、学院長直々の話というのなら、聞かなければ失礼だろう」

ミラが笑みを浮かべながら応えた、確かな実力を持つメイジを前に、心が高揚しているのだ。

 

一方で、コルベールはそんなミラを不思議そうな顔で見つめていた。

同時にコルベールは驚いていた。

目の前で悠々と座っているこの男が、本当にあの時の黒龍なのか⁉︎と…

 

「…で?話というのは一体何だ?」

 

「今日の昼間に、使い魔のお披露目を目的とした品評会が行われるのは知ってるかね?」

 

「あぁ知っている、この国の姫君が見学するからと、ルイズもバカに張り切っているからな」

ルイズだけではない、学院にいる他の生徒や教師までもが何日も前から忙しそうに準備をしていた。

この学院内にいる限り、知らない方がおかしな話だ。

 

「その品評会についてで…君には言いにくい話なのじゃが…」

言葉の通り、言いにくそうにしどろもどろと言葉を濁すオスマン。

相手は人間ではなく龍だ、今は大人しいが何がきっかけで機嫌を損ねるかはわからない。

だから尚更言い出しにくいのだろう。

 

「なんだ…?辞退ならできないぞ?私にも都合がある」

 

「いやいやそうじゃない。

……君には自分の正体を隠してもらいたいのじゃ」

 

「正体を隠す?」

意味のわからない頼みに、ミラは若干間の抜けたような顔になる。

 

「人間の姿に変化できることや、人の言葉を扱えることなど…王室を含む学院外の者達にそれらの事を隠し通して、君には普通の竜として振舞って貰いたいのじゃ」

 

「何故だ?隠して何の意味がある?

だいたい、既にこの学院の連中には知れたことだろう」

オスマンの言いたいことは分かった、しかしなぜそんなことがしたいのか、その意図まではよくわからない。

 

「人間の世界では韻竜は絶滅したとされる生き物じゃ。それが生きていることを欲深い者達に知られれば、君や周りの人間にも被害が及ぶかもしれん。

もちろんこの事はこの学院の者達にも呼び掛ける……それでどこまで通じるかはわからんが…

…頼む、君自身の安全の為にも、聞き入れてはくれんか?」

 

「私の身の安全など不要だ。

お前達の助けなどなくとも、自分の身くらい自分で守れる」

ミラが「不愉快だ」とばかりの顔をオスマンに向けた。

 

自分よりも格下である人間に守られるなど、始祖の龍に近い存在としての、自分のプライドが許さない。

しかし面倒事に巻き込まれるのはミラとしても好ましくない。

相手が自分の求めるような強い人間ならば大歓迎だが、虫ケラのような輩に集まられてもうっとおしいだけである。

 

「だが…まぁいい、そんなことくらいなら聞き入れよう」

 

「助かる」

ミラが顔を歪めたのには肝を冷やされたが、意外にもあっさりと聞き入れてくれたことに、オスマンはホッと一息ついた。

 

「…とは言ったが、残念ながらトリステインの姫には既にバレている」

 

「今なんと…⁉︎」

 

「昨日ルイズの部屋に訪れていた時に、そのまま正直に話してしまった。

いや…すまない、まさか都合の悪い事だとは思わなかったのでな、悪かったよ」

重大なことをサラリと言い放ったミラに対し、驚愕するオスマン。

それに対し謝罪するミラだが、言葉とは裏腹にその様子からは全く悪気を感じられない。

 

「…そうじゃったか、それは困ったのう…

だからできれば昨日の内に話しておきたかったんじゃが…」

頭を抱えて考え込むオスマン。

 

昨日にこの話を切り出せなかったそもそもの原因は、アンリエッタ王女の来訪にあった。

学院をあげての歓迎式の準備に、王室の者達との会談、おまけにアンリエッタ王女の人騒がせな失踪事件…それらによって話す時間が無かったのだ。

 

とは言っても、もうとっくに過ぎてしまった話だ。

過去のことを今更言ったところで、現在が変わるなんてことはない、今は姫様が他人に話していないことを祈るしかないのだ。

 

オスマンは苦々しい表情で溜息をこぼした。

「ふむ…仕方ない…

姫殿下にはわしの方から何とか言っておこう」

(姫殿下が話のわかる方ならいいのじゃが…)と、オスマンが頭の中でつけ加えた。

 

「なら話は終わりだな、私はおいとまさせてもらおう」

そう言ってミラは席から立ち上がり、背後にある扉に手を掛けた。

 

しかしその手は、扉に数セントの隙間を開けたところでピタリと止まった。

理由は背後から声をかけられたからだ。

「何だ?」

首を傾げながら声の方向に振り向くミラ。その視線の先にいるのは、コルベールである。

 

言いたいことが引っ込んでしまったのか…自分から声をかけたにも関わらず、聞き返されて困ったように頭をかくコルベール。

「あっ…いや……学院長の話…私の方からも頼んだよ」

明らかに他に言いたいことがあったのがわかる、違和感のある、含みを込めた言い方だった。

 

ミラも薄々それを感じていたが、わざわざ掘り下げてまで聞く気にもなれなかったので「分かった」とだけ言い、今度こそ扉の外へと出て行った。

 

部屋の中にバタンという、扉が閉まった音が鳴り響く。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

現在、トリステイン魔法学院の広場にたくさんの人が集まり大いに賑わっている。

いよいよ使い魔のお披露目会が始まったのだ。

 

大多数の二年生達が皆、この時を今か今かと待ちわびていたことだろう。

あるものは緊張でガチガチになり、あるものは自信満々でどっしりと構え、あるものは優勝を目指して自らの使い魔と共に燃え上がっていた。

 

当然ルイズも、そんな生徒達と同様に気分が高まっていることだろう…

かと思ったが、現在ルイズは大変ご立腹であった。

「もぉー!あんたが朝からどっか行ってたせいで、結局本番への打ち合わせも何もできなかったじゃない‼︎」

 

【仕方ないだろ、学院長に呼ばれていたんだ。

それに私に考えがあると言っただろう?打ち合わせなどいらん】

 

「その考えってのも、何なのか聞いてないんだけど」

 

【時期分かる、そろそろ…前に五人程度だろう】

ジト目で睨みつけるルイズを他所に、ミラボレアスが舞台の方へと目をやった。

舞台では丁度、ギーシュとその使い魔であるヴェルダンデが退場しているところであった。

因みにパフォーマンスは、薔薇を加えたギーシュとヴェルダンデがキザったらしいポーズをとるというものだった。

 

評価は良かったようで、たくさんの観客から惜しみない拍手をもらっている。

言っておくが、決してギーシュのパフォーマンスが受けたからではない。

純粋にギーシュの使い魔、ヴェルダンデが高く評価されたのだ。

 

ヴェルダンデが最も驚かれた点、それは成長速度の凄まじさである。

ギーシュに召喚されたばかりの頃…使い魔召喚儀式の時のヴェルダンデの大きさは、精々小型のモグラ程度のものだった。しかし今現在のヴェルダンデの大きさは1メイル以上ある…たった一ヶ月程で、人を乗せてもビクともしない程に逞しく成長しているのだ。

 

これだけではない、他にもヴェルダンデには驚かされる点が幾つも存在する。

まずはその体の特徴である。最初はその体の大きさや、地中を掘り進む特技を持つことからモグラの一種か何かだと言われていたが、よく調べるとまったくちがう生物なのである。

上顎に生えている二本の牙を除けば鯨にも見えるが、鯨には無いゴツゴツとした硬い岩のような肌が特徴的である。

中には龍の一種なのではないか…と称える者もいるが、推測の域を出ていない。

 

ともかく、それらの点からヴェルダンデはかなりの高評価をもらったようだ。

 

 

ヴェルダンデに続いて登場したのは、キュルケの使い魔フレイムであった。

その評価は想像通り、かなりのものである。

 

火龍というだけでも相当だが、中でもフレイムは珍しい種類のものだった。

その名は“リオレウス” 場所もわからぬ程に遥か遠くの土地から伝わってきた名称だ。

 

「フレイム‼︎」

キュルケの指示でリオレウス…もといフレイムは空高く舞い上がった。

とある土地では“空の王”とも呼ばれていたリオレウス、力強い飛翔で観客の目を集めた。

 

しかしそれだけでは終わらない。

「フレイム!」

キュルケが2度目の指示を出した。

 

キュルケの指示に従い、フレイムが今度は火を吐いた。

メラメラと燃える赤い火の玉は空中で膨張し、巨大な火の輪へと変わってゆく…

そして急降下するフレイム、フレイムはその抜群の飛行能力で、自らの作り出した巨大な火の輪を猛スピードで突き抜けた。

 

フレイムの体に撃ち抜かれた火の輪は、その風圧で散り散りに四散し、美しい火花を残して消滅した。

 

フレイムの着地の瞬間、観客席から大きな歓声が沸き起こった。

珍しい炎のドラゴンに、美しいパフォーマンス、それらが審査員の心をガッシリと掴み取った。

 

キュルケ自身にとってもこれ以上ないできであった。

おそらくギーシュのヴェルダンデも越え、今年の最高得点を叩き出しただろう。

 

 

刻一刻と迫ってくる自分の番、自分達の前にいるのは後三人…この三人退場したら、次は自分達の番だ。

宿敵キュルケの高評価に、ルイズの緊張は更に高まった。もし失敗すれば、この一週間程はキュルケに嫌味ったらしい自慢話を聞かされるという、嬉しくない特典がついてくるからだ。

 

【言っておくが、目の前で人の姿になる…何てことはできないぞ?】

 

「分かってるわよ」

他の誰かには聞こえないように、そっとルイズに耳打ちをするミラボレアス、オスマンとの約束はちゃんと守るつもりのようだ。

 

「あんたは韻竜ではなく、普通の竜として扱わないといけないんでしょ?」

ルイズも品評会が始まる前にコルベールから話を聞いていたので、その事については知っていた。だからそれをパフォーマンスに取り入れようなんてつもりはない。

 

しかし不安は無くならない、ミラボレアスは今もまだ自分の考えとやらを教えてはくれない。

「本当に大丈夫なんでしょうね?」

 

【あぁ、もちろん、いけるはずだ】

不安を隠せないルイズとは対照的に、ミラボレアスはやけに自信満々だ。

 

「・・・・・」

ルイズは溜息をつきながら、舞台の方に目をやった。

残りは後一人、丁度タバサがシルフィードの背に乗り、空を飛んでいた。

 

荒々しく豪快に空を飛ぶフレイムに対し、シルフィードは華やかに美しく空を舞っている。

対照的だが双方どちらも評価は高い、しかし飛行能力においてだけは、主人を乗せても難なくそれを行えるシルフィードの方が上手だろう。

 

おそらく今年の優勝者は、キュルケのフレイム…タバサのシルフィード…このどちらかだ。

 

少なくとも、今現在の時点では確実だろう。

 

「続きまして、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール」

名を呼ばれた。いよいよ出番が来たのだ。

 

ルイズは後ろにミラボレアスを引き連れて舞台へと上がった。

 

ミラボレアスも先のフレイムやシルフィードと同じドラゴンであるが、歓迎の拍手の音は小さい、皆ミラボレアスに威圧され恐縮しているのだ。

いくら檻の中とはいえど、巨大な猛獣を目の前にして平然とできる人は少ない、それと同じである。

いや、自分達とドラゴンの間に何の隔たりもない分、こちらの方が威圧感があるだろう。

 

「ご紹介します。私の使い魔ミラボレアスです。

種族はドラゴンです」

観客の何人かが「おぉー」という声を漏らした。今までに類を見ない程に獰猛そうなドラゴンだからだ。

 

「今から私の使い魔、ミラボレアスの特技を披露します」

そうルイズが言い終わると同時に、ミラボレアスが前へと進み出た。

 

前に立ったミラボレアスは紅い眼球で辺りを見回した。見知った顔に見たことのない顔、様々な顔がこちらを見ているのがわかる。

 

そしてミラボレアスはゆっくりと正面を向き、思い切り息を吸い込んだ。

ゴォオオオオと、風の音が響いてくる程に、ミラボレアスの喉奥に流れていく大量の空気、それらは一気に体内に送り込まれ、ミラボレアスの肺を膨らませる。

 

まるで空気ごと辺りを飲み込もうとしているかのような勢いに、ルイズを含む観客達全員が戦々恐々とした表情に変わった。

全員が悪い予感を抱いたのだ。

 

風の音はピタリと止まった。

同時にミラボレアスの体から熱が発せられた。

 

熱は次第にミラボレアスの口へと移動していき、そのまま豪炎となって吐き出された。

豪炎は勢いを衰えることなく、巨大な球体の形のまま宙を突き進む。

 

嫌な予感は見事に的中した。

 

その強大なエネルギーを持つ炎の球体は、触れる物を皆焼き尽くし、ドロドロに溶かす。

それは岩や鉄といった強固な物体も例外ではなく、ミラボレアスの火球は城壁の一部を抉り取った。

 

【フッ…】

自慢気にドヤ顔をルイズに向けるミラボレアス。

しかしとうのルイズにはそんなものに目を向ける程の余裕はなかった。

ルイズは無残に焼き焦がれ大穴を開けた城壁を前に「主としての責任」という言葉を頭に浮かべながら、オスマン達教師陣と共に顔を真っ青にしていた。

 

 

ーーーーーーー

 

 

発表会は一時中断となった。

当然だ、学院の城壁が大きく損傷しているのだから。

 

ルイズの方は姫殿下のおかげもあって、幸いにも厳重注意だけで事が済んだようである。

 

しかし機嫌は最悪、その怒りは当然ミラボレアスへと向けられた。

「この馬鹿ドラゴンッ‼︎何を考えてんのよ‼︎」

 

「バカはないだろ、私だって頑張ったんだ」

ルイズの自室で正座させられ、嫌そうな顔をするミラ。

 

「頑張る方向が大はずれなのよ!

というか、今までさんざん内緒にしてきたのって、結局あれのこと⁉︎」

 

「あぁそうだ、迫力あっただろう?」

 

「ありすぎよ‼︎」

 

「何をそんなに怒ってるんだ?壊れた所は自慢の魔法で直せばいいはなしだろう?」

 

「そういう問題じゃない!」

悪びれる様子の見えないミラに対し、更に怒りを増すルイズ。

ミラの言い分も理解できなくは無いだろう、いくら壊れようが簡単に戻せるのなら問題ない。

しかし人間社会ではそうはいかない。例え全てが元どおりになろうと、やったことは認めなければならないし、それを反省しなくてはならない。

とは言え、人間ですらない全く価値観の違うミラにそれを言っても、意味などまったくない。

そもそもあれだけ派手にぶっ壊したら、いくら優秀なメイジの集まるこの魔法学院といえど、そうそう簡単には直すことはできないだろう。

 

「ハァー…」

湧き出る怒りは空回り、聞き入れるという言葉のきの字すら感じられないミラの様子には、ルイズもため息しか出てこなかった。

 

「ミス・ヴァリエール」

コンコンというノックの音の後に、ロングビルの声がルイズの部屋に響いた。

 

「何か…ようでしょうか?」

話の途中で中断されたというのもあり、内心若干のイラつきを抱きながらも、ルイズはロングビルへの応対のために自室の扉を開いた。

 

「学院長、オールド・オスマンがお呼びです、少しご同行をお願いします」

ルイズに再度、嫌な予感が襲いかかった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ロングビルに連れられたルイズはオスマンの学院長室に案内されていた。

 

またもや嫌な予感が的中しそうだ。

部屋の中には学院の教師達が重苦しい顔で集結しており、何故かその中にはキュルケとタバサの姿が見られた。

 

「よく来たのう、ミス・ヴァリエール」

オスマンに促されセコイアの机の前に移動するルイズ。

いかにも何かが起こったであろう教師達の表情に、不安が募っていった。

 

「あの…やっぱり私の使い魔の事…ですか?」

恐る恐るオスマンに尋ねるルイズ。

 

「あぁ、正しくその事じゃ」

オスマンの言葉に「やっぱり」と、ルイズがうな垂れた。

 

「“土くれのフーケ”世間を騒がせている泥棒の名前でな…恥ずべき事にこの学院に侵入を許してしまい、ある物が盗まれてしまってのう…」

 

「そんな‼︎そんな輩となんて、私は一切関わっていません‼︎」

 

「慌てるでない。

勿論じゃ、君が土くれのフーケと共謀していただのとは微塵も思っちゃおらん」

不安のあまり混乱するルイズに対し、オスマンが「落ち着け」と手で促した。

 

「じゃがちとばかし…土くれのフーケが宝物庫から盗み出した方法に問題があるのじゃ」

 

オスマンはゴホンと咳払いし、ゆっくりとこう言った。

 

「どうやら土くれのフーケは…君の使い魔があの時放った炎によって、偶然開けられた穴から侵入したらしい」

 

(あ…あ…あの馬鹿ドラゴン!!!!)

この時、ミラボレアスに対する、本日何度目かのルイズの雷が落ちた。

 

 

 




少し今回も急ぎ気味、次回はvsフーケ。
次回こそは真剣に書いていきたいと思います。

では、また次回。
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