土くれのフーケは不幸であった。
運良く念願の破壊の杖を手に入れた所までは良かったが、その後だんだんと土くれのフーケの計画は崩れていったのだ。
ヴァリエール家の三女が召喚した黒龍の使い魔。
学院中を騒がせ危険視されていたあの龍が、自分を捕らえるためにやってきたのだ。
破壊の杖の使用法を知る為、学院側の人間を誘き寄せる必要があったが…まさかあの龍がくるとは思いもしなかった。
正直言ってまともに戦っても勝てるとは思えなかった。
スクウェアクラスのメイジですら勝てるかどうかだ、トライアングルクラスの自分では勝ち目は無い。
しかし相手は使い魔である、主人であるルイズを人質に取るなりして処置をすれば、倒せはしなくとも退けることは出来るはずだ。
しかも何故かは知らないが破壊の杖の使用法も知っていた。これならば本来の目的も達成できる。
ならば取るべき行動はこうだ。
破壊の杖を使用してゴーレムを破壊した所をしっかりと確認し、即座に人間と同サイズのゴーレムを造りルイズを拘束。
そのまま拘束したルイズを脅しに使い、破壊の杖を回収してルイズと共にその場から逃走する。
共に連れ去ったルイズは、どこか目立つ場所に拘束したまま放置すればいい、そうすれば追跡の目はそちらの方へ向くはずだ。
黒龍が破壊の杖を起動させるために手を加えているのが見えた。
手順は覚えた。小型のゴーレムの配置も完了した。
後はゴーレムが破壊された瞬間…その瞬間でルイズを拘束するだけだ。
そしてその瞬間はやってきた。
同時にフーケの背筋は凍りついた。
紅い目が…こちらを見ている。
黒龍はその強靭な脚力で、一瞬にしてこちらへと接近し…
そしてその紅の目と白い歯を妖しく輝かせ、不敵な笑みを浮かべながらこう言った。
「さて…そろそろ遊ぼうか、ロングビル…いや、土くれのフーケと言った方が正しいか?」
そして今に至る。
警戒すべき、あの黒龍にこれほどまでの接近を許してしまったのだ。
当然フーケに緊張感が走る、杖を握る手に力が入るのを感じる。
こちらに不備はない。ゴーレムを操作し、敵を観測できるギリギリの距離にいたはずだ。
しかも魔法を使ったカモフラージュや、木の陰に潜んだりして敵から姿を隠していた。
にも関わらずだ。
「一体何故…!」
「そんなことはどうでもいいんだ、早くやろう。
凄腕のメイジなのだろう?だったら私を楽しませてみせろ」
「何でわざわざ私が、あんたなんかを楽しませなくちゃいけないわけ?」
フーケは真剣な表情でミラボレアスを睨みつけたまま、挑発するように言った。
「お前にその気があろうが無かろうが関係ない、要は私の気分だ。
強い者と戦うのが好きなのさ」
「戦闘狂ってやつか…私にはわからないし、わかりたくもない感情だね」
「人間よりも長生きなんでな、随分と退屈している。
そんな時に刺激を求めるというのは、人間にもあることだろう?」
「……そうかもね…だけど、今はそんな気分じゃあ…ないんだよ!」
唐突にフーケが杖を降り、魔法を詠唱した。
それを見たミラボレアスは、まってましたとばかりに満面の笑みを浮かべながら、腕を鳴らしてそのまま迎えうった。
しかしフーケからの攻撃は飛んでこない、目の前に巨大な壁を造り出しただけだ。
「お前…!まさか…!」
かけ離れていく足音、自分を倒すどころか、傷つけようという意図すら感じられない魔法…ミラボレアスはフーケがしようとしている行動を理解した。
「当然だろ!私は兵士や戦士じゃなく盗賊だ!
悪いけど、あんたと戦うつもりなんてこれっぽっちもないよ!」
フーケはミラボレアスのいる方向とはまったく逆の方へと走り去っていった。
言葉の通り、戦うつもりなど毛ほども無いのだ。
念願だった破壊の杖を諦めるのは心苦しいが、自分の身の安全の方が大事だ。
フーケは脇目も振らず逃走した、逃げる為に、捕まらない為に…
ここで捕まるわけにはいかないのだ。
捕まるわけにはいかない理由がある。
「逃げをとったか…
しかし残念だったな、いつもの私ならば狩り以外で逃げる者を追うことはないが…今回はそうはいかん。
逃げられると思うな」
ミラボレアスは思いきり地面を蹴り、全速力でフーケを追いかけた。
(やっぱり、簡単には逃がしてくれないか…!)
フーケは後ろを向いて舌打ちした。
ミラボレアスの脚力は人間よりも遥かに強い、普通に逃げていては絶対に逃げ切ることはできないだろう。
少しでも足止めするため、フーケは小型のゴーレムを二体造り出し、ミラボレアスに嗾けた。
しかし効果はない、二体のゴーレムはどこからか取り出した二本の黒い剣を握った、右手左手それぞれの腕によって切り崩された。
ほとんどすれ違いざまの出来事だ、時間稼ぎなどまったくできていない。
(くっ…!速すぎる!)
どれだけ土の壁で行く手を塞ごうと、どれだけゴーレムを戦わせようと、一瞬にして次々と打ち崩していくミラボレアスに対し、早くも八方ふさがりに陥ったフーケ。
走る速度で負けている今、足止めが通じないということはつまり、フーケとミラボレアスの距離がだんだん狭まっていくことを意味する、当然その状態が続けば捕まるのは確実だろう。
「掴んだ、もう逃げられんぞ」
ミラボレアスがフーケのフードを掴んだ。
走っている最中に突然掴まれたのだ、フーケの首は締まり、ゴホゴホと咳き込んだ。
しかしそんなものはミラボレアスには御構い無しだ。
既に剣をしまったその手で、ミラボレアスはフーケにさらなる追撃を与えようとする。
(まずい…!)
このままではやられる、そう咄嗟に判断したフーケは、地面からゴーレムの拳だけを造り出し、ミラボレアスの顎に強烈な一撃を食らわせた。
「くッ…!チッ…!」
顎の下からかち上げるような攻撃、人間の体なら幾ら硬いとはいえ、多少なり脳も揺れる。
ミラボレアスはフーケのフードから、思わず手を離してしまった。
解放されたフーケは考えた、このまま逃げ続けても、今みたいに捕まるだけだ。
速度に歴然な差がある限り、ただ逃げても絶対に逃げ切れない。
おまけに足止めも効かないときた、どうするべきか…思考を重ねる。
(逃げられないんなら、“今”は逃げなければいいだけのこと…!)
フーケは杖を構えてまっすぐミラボレアスを見た。
戦うつもりだ。
「やっとその気になったか」
嬉しそうにミラボレアスが笑みを浮かべ、戦うために…敵を討つために一歩前に進み出た。
「隙だらけだよ!」
フーケの杖が空を切った。
瞬間、礫が…石が…岩が…雨のように激しくミラボレアスの体に襲いかかった。
常人ならば体がバラバラになっている程の猛攻、しかし相手は常人ではない、化け物だ。
その硬い皮膚には攻撃が通ることなく、ただ歩くだけで全ての攻撃は弾かれる。
「どうした?遠慮はいらないぞ、もっと撃ち込んでこいよ」
雨のように降り注ぐ礫の中を、笑みを浮かべながら平然と歩いてくるミラボレアス。
全身を見ても多少体が汚れただけで、ほぼ無傷である。
「くそ…」
フーケはギリリと歯ぎしりした。
効かないとはわかっていたが、ここまでとは予想していなかった。
たった一滴すら血を流していない…あまりにも理不尽過ぎる力の差に、苛立ちすら覚えるほどだ。
しかしここで諦めてはいけない、相手が油断しきっている今がチャンスなのだ。
フーケは再度杖を振った。
それにより現れたのは、またしてもゴーレム。
しかしさっきのゴーレムとは少し様子が違う、さっきまでのゴーレムは土や岩の塊だったが、今度のゴーレムは鉄の鎧を着せられているのだ。
大きさは2メイルほどだが、強度だけで言えば、先ほどルイズ達が戦っていた巨大ゴーレムを超えるだろう。
「硬いな…」
直ぐに破壊しようと攻撃を加えるミラボレアス。
しかしその怪力を持ってしても壊れない、表面だけを鉄で包んでもこうはならない筈だ、おそらく錬金によって、中身にまで細工が施されているのだろう。
これならいけるか…?一瞬そう思ったその瞬間、フーケの目の前が炎に包まれた。
「こんな森の中で…いかれてんのかい」
そう呟いたフーケだったが、今この瞬間、敵の視界が遮られているこの瞬間をチャンスととった。
「だけど…今なら逃げられそうだね」
フーケはニヤリと笑って、そのまま後ろを向いて、森の木々をかいくぐって逃走した。
その一分後程で、突如として炎は消し去られた。
木の葉や枝が焼かれ、辺り一面黒に染まっていたが、不思議とそれほど広い範囲までは燃え広がっていなかったようだ。
黒の中心に立つミラボレアスは、地面に転がるグニャグニャに破壊されたゴーレムを弄びながら、ため息混じりにこう呟いた。
「逃げられたか…」
ーーーーーーーー
森の中、魔法により地面に穴を開け、その中でフーケは身を隠していた。
あの黒龍から逃げ切ることには何とか成功したが、その後の事を考えると、体力の回復を優先させた方がいいと判断したのだ。
小型大型合わせて何体もゴーレムと作っている、その他にも色々な魔法を使用していた。
魔力的にも限界がきているのだ。
来る時に乗ってきた馬車を使って逃げようとも考えたが、あの近くには3人の小娘がいる、魔法を使っての戦闘においてはこちらの方がベテランだが、この状態で3人も相手にして勝てると思うほど自惚れてはいない。
数時間か…やはりここは、このまま身を隠して相手が諦めるのを待つしかないだろう。
しかしその場合心配なのは、やはり呼吸だ。
ここは地面の中、酸素の量には限りがある、広めに作ったからそれなりの酸素がこの場にはあるが、果たして保つのかどうか…ギリギリだ。
当然明かりはつけられない、火を焚けばそれだけで酸素を消費するからだ。
そんな理由もあり、現在は真っ暗な場所で一人佇むフーケだったが、その心は不思議と安心に満ちていた。
それだけあの黒龍は恐ろしい相手だったからだ、不気味な赤い目…自分の攻撃が一切通じない頑強な体…不敵な笑み…ゴーレムをも簡単に砕く怪力…どれもこれも、自分を畏怖させるものがあった。
あの時…あの怪力でフードを掴まれたあの時など、生きた心地がしなかったものだ。
我ながら、良くあそこまで威勢を保つ事ができた。
しかしもう大丈夫だ、あの化け物からは逃げ切った。
破壊の杖は今でも心底名残惜しいが…この判断に間違いはない、あのままだと殺されていたかもしれない。
フーケは安心感からか、湧き出る眠気に襲われた。
ここは安全地帯だ、あの黒龍だってこないだろう…
そう思い、フーケはゆっくりと目を閉じた。
視界が暗くなり…意識が沈んでいく…
しかしその直後、辺りに鈍い音が響いた。
フーケは一気に覚醒し、上方を睨みつけた。
そう…音は上から響いてきたのだ。
「ま…まさか…!」
やがて…一筋の光がフーケの顔を射した。
天井の穴からは目玉が1つ、こちらを覗いている。
あの…宝石のように不気味に輝く、紅い眼球だ。
「みーつけた」
紅い目はグニャリと歪んで笑みを浮かべた。
同時に腕が一本、こちらに向かってゆっくりと伸びてきた。
後光を浴びながら伸びて来るその手は、まるで悪魔の手のように感じられた。
ゆっくりとゆっくりと…確実にこちらを捕まえるために伸びてくる…捕まれば終わりだ、しかし…逃げ場はない。
フーケは声にもならない言葉を発しながら、必死に抵抗した。
しかし抵抗は虚しく、悪魔の手に緑色の髪を掴まれ、力づくで地上へと引きずり上げられた。
「酷いじゃないか土くれのフーケ、私との遊びの途中で何処かへ行ってしまうなんて」
耳元で囁くような黒龍の声は、妙に甘ったるかった。
それがフーケの恐怖を更に煽ってゆく。
「もう本当に何もないのか?まだ見せていない魔法は?
本当に逃げるだけで、もう他に策はないのか?」
買ってもらったばかり玩具で遊ぶかのように、楽しそうに笑みを浮かべるミラボレアス。
それとは対照的に、フーケの気分は最悪だった。
他にまだ手はないのか?そんなものがあるならとっくにやっている。
悔しいが、もうどうすることもできない。
「そうか…」
無言のフーケに対し、ミラボレアスが残念そうに呟いた。
「…逃すなとは言われていたが、生死の方はどうだか忘れたな…
まぁいい、私が捕まえたんだ、私の好きにしよう」
ミラボレアスが撫でるように、フーケの首筋を優しく舐めた。
首筋に気持ちの悪い感覚が走る、フーケは目をギュッと閉じ、身じろぎをした。
「今朝は何も食わずに出たからな…
ここでお前を食い殺すというのもいいかもしれん」
フーケに吐き気がする程の動悸が襲った。
こいつは…この目の前の化け物は言ったのだ。
はっきりと…自分に対する死刑宣告に等しい言葉を言い放ったのだ。
目の前の化け物は白い歯を覗かしている。常人の歯よりも鋭く尖った歯だ、あれで喉を噛みちぎられれば、一瞬であの世にいけるだろう。
いや、普通の人間の歯でも思いきり噛みつけば喉を喰いちぎることだってできる、むしろ鋭い分楽に死ねるかもしれない。
しかしそんなことは関係ない、楽か苦しいかじゃないのだ、死ぬということが問題なのだ。
「…ティファ…ニア」
フーケは自分の妹とも呼べる存在の名を呟いた。
フーケの死ねない理由とはこれのことだ、ティファニア…彼女の存在がフーケに活力を与えてくれたのだ。
彼女の為に…自分は死ねない!
フーケは自分にそう言い聞かせ、自らを奮い立ち上がらせた。
フーケはキッと目を見開き、杖が軋むほど強く握りしめ、渾身の力でミラボレアスの目を突き刺した。
「グッ…⁉︎ぬぅ…!」
既に戦意を喪失していたと思っていた相手からの手厚い反撃に、初めてミラボレアスが痛みで呻き声をあげた。
「まだ戦えたか…!」
ミラボレアスがズキズキと痛む左目を抑えながら、杖を振りかざし対面するフーケを睨みつけた。
フーケも対抗するように睨み返す。
その目にはもう、逃げようなどという感情は一切含まれていなかった。
フーケは心の中ではっきりと、目の前にいる化け物に勝つと、そう決心したのだ。
「…いい目になったな、今度こそは本当に楽しませてくれそうだ」
「悪いけど…私はこんなところで死ぬわけにはいかないのよ。
…あの子を残して、絶対に死ねない!」
もう魔力は殆ど残っていない。
それでも、ティファニアという存在がフーケに戦う力を与えてくれた。限界を超える力を引き出してくれた。
これが最後の魔法…全身全霊を込めた、本当の本気の魔法。
「ここで今、あんたを倒す‼︎」
フーケは今ある全て魔力を注ぎ、30メイルを超える巨大ゴーレムを三体造り出した。
「……見事だ」
ミラボレアスは目の前の光景に、左目の痛みを忘れる程に見惚れていた。
相手は限界寸前の人間…このような巨大ゴーレムは当然として、普通のゴーレムすら作れるかどうかという魔力量だ。
力強く立ちはだかる巨大なゴーレムを前に、ミラボレアスの心は飛び跳ねるように大きく踊った。
意識は薄れ…疲労困憊で今にも倒れそうになりながら、土くれのフーケは弱々しい足でしっかりと地面に根を張った。
その目はまっすぐミラボレアスを睨みつけている、その手は強く杖を握りしめている。
やがてフーケはゆっくりと杖を振った。
同時に三体のゴーレムが一斉にミラボレアスに襲いかかった。
岩の塊が、ミラボレアスの体ごと何度も何度も地面を叩きつける、その度にゴォンゴォンと地鳴りが起こった。
地面が揺れる程の猛攻を受けたミラボレアスは、その衝撃によって吐血した。
ここに来て初めて明確なダメージを与える事が出来たのだ。
しかしそれも長くは続かない。
ミラボレアスは先住魔法とガンダールヴの力により召喚した、巨大なハンマーを使って、ゴーレムを次々に破壊していった。
ハンマーを一振りしてゴーレムの腕を砕き、もう一振りしてまた別のゴーレムの足を砕いてゆく。
そしてとうとう、手足を破壊されたゴーレム達はバランスを失い、その場で倒壊した。
同時にゴーレム達を形成していた魔力の制御を失ったのか、破壊されていない箇所までボロボロと崩れていった。
ゴーレムの形は完全に失われた。
元から無理な事だったのだ、ここまでゴーレムが形を保っていた方が奇跡だった。
満身創痍の鼠が、猫を前にして勝てる訳がないのと同じく、フーケのゴーレムは圧倒的力の前に二つ名通りの土くれに還った。
だがしかし、崩れゆくゴーレムを眺めるフーケの顔には、落胆などという文字はなかった。
絶望に歪んでいるはずの口元が、うっすらと笑みを浮かべていた。
瞬間、土くれと化したゴーレムの残骸が一斉に動き出し、ミラボレアスの身体を取り囲む。
やがて物凄い勢いで一点に凝縮された土くれは、ミラボレアスの体に纏わりつき、その動きを封じ込めた。
これが追い込まれた末にたどり着いた、フーケの必勝法だ。
相手は鉄をも超える強度を持つ体…正攻法で挑んでも絶対に勝てない。
全力でやれば手傷を負わせるくらいはできるが、あくまで傷を負わせるだけである、致命傷はおろか一時的な行動不能にも至らない。
たがそれは、あくまで外側だけの話である。
例えどんな化け物であろうと、生物ならば共通して絶対に行わなければならない行動がある…
それは呼吸だ。
空気中から酸素を取り入れなければ、どんな生き物も生きてはいけない。
そう、正面から物理的な攻撃を続けても勝ち目がない事を理解したフーケは、ミラボレアスを完全に封じ込め、窒息させようと考えたのだ。
「生き埋めになりな」
フーケは静かにそう呟き、ミラボレアスを覆う土くれを、錬金によって鉄に変えた。
窮鼠猫を噛む…という言葉がある。
追い詰められた鼠でも、時には猫に噛みつくこともあるのだ。
その一撃を見事猫の喉元に喰らわせることができれば、立場一気に逆転し、猫に勝利することもできるかもしれない。
今のフーケは正にそれだ。
追い詰められ立ち向かい、逆に強者を討ち滅ぼさんとしている。
フーケは勝利を確信した。
身体中を満遍なく鉄でコーティングしたのだ、例えるならばミノムシのミノの様に…いかに怪力といえど、ちょっとやそっとじゃ破壊できない、息ができず力尽きるのが先だ。
「…これほどとは……よくぞここまで私を追い詰めた」
土くれが次々と覆い被さり、鉄へと変わっていく中…まだ僅かに自由だった口元から、ミラボレアスがそう呟いた。
「ならば私も相応に応えよう…真の姿で闘ってやる」
ミラボレアスの目が紅く光った。
それは一瞬の出来事だった…
ミラボレアスを拘束していた鉄や土くれは粉々に吹き飛ばされ、辺りには黒龍の咆哮が響き渡った。
確かに、窮鼠猫を噛むという言葉は存在する。
しかし今回フーケが相対したのは、猫などという可愛らしい存在ではなく…“圧倒的な獅子”であった。
フーケは地面に倒れた。
魔法を使うことによってすり減った、精神力の消耗による疲労が原因だ。
フーケは黒龍の姿を瞳に映しながら、段々と薄れていく意識に身を任せ、その目をゆっくりと閉じた。
『もう…終わりか…
やはり本気で戦うことはできかったか…』
地面に倒れ伏したフーケを見下ろしながら、黒龍が残念そうにそう呟いた。
『だが案外楽しめた、食うのは止めにしてやる。
引き渡した後お前がどうなるのかはわからんが…運が良ければまた会おう』
貴族から盗みを働いた同族だ、捕まれば無事では済まないことは、周囲の人間の様子からミラボレアスにもわかっていた。
だがそれでも…またいずれ会うことになる、なんとなくだがミラボレアスはそう思ったのだ。
ミラボレアスは再び人間の姿となり、主の元へ帰るため、森の中を軽快に歩き進んだ。
その後、ルイズ達討伐隊は土くれのフーケを捕らえた英雄として城に迎えられ、土くれのフーケは衛士に引き渡され投獄された。
土くれのフーケ編終了です。
この後2話ほど話を挟み、いよいよレコン・キスタ編に突入します。
そこから他のモンスターも続々登場しますので、楽しみにしていてください。