ゼロの黒龍   作:無想転生

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気付いたら一ヶ月が過ぎていた。

遅くなって申し訳ありません。


ガリアの狩人

ルイズは医務室のベットで横になっていた。

理由は昨日の舞踏会で、ミラと一緒にダンスを踊ったからである。

 

「…せっかくの休日だと言うのに、ベットに釘付けだとはなぁ…」

 

「だ…誰の所為でこうなったと思ってんのよ…!」

哀れみの目で見つめてくるミラを、包帯まみれのルイズが鬼の形相で睨みつけた。

怒鳴れるものなら怒鳴り散らしている…そんな顔だ。

 

「憶えは無いな」

対するミラは、わざとらしく首を振ってそう言った。

誤魔化しているとかそういうのではなく、酔っ払っていたためその時の記憶が吹っ飛んでいるのだ。

 

「・・・・・」

全く悪気の無いミラの態度に、怒りが更に膨れ上がったルイズは、目の前のこいつを爆破してやりたいという衝動に駆られたが、医務室の担当教師の目が光っているので渋々諦めた。

 

「まぁ良かったじゃないか、今日1日安静にしていれば治る程度の怪我だったのだろう?」

 

「まぁ…そうだけど…」

ルイズは頬を膨らまし、ムスーとした態度で応えた。

 

「休みは今日だけではないんだ、明日から旅行に出かけるなりして休暇を楽しむといい、私の背に乗れば、馬などより早く目的地に着くしな」

ミラは自分なりに、ルイズを励ました。

ここで機嫌を損ねたままにして、後で食事抜きなどと言われたら堪らないからだ。

 

「…休暇で思い出したが…馬車に乗り込むタバサとキュルケを見たのだが、奴らは一体何処に行ったんだ?」

本当は興味ないのだが、話を変えるために、今朝自分が見たものについてルイズに話を振った。

 

「タバサの実家に遊びに行くとか何とか、キュルケが言ってたわ。

キュルケに聞かされて初めて知ったけど、タバサはガリア王国からの留学生だから、きっと今頃ガリアに向かってるんでしょうね」

ルイズが素っ気ない態度を取りながらも質問に応えた。

 

「ガリアか…」

ミラが顎に手を添え、考え込むようにして繰り返した。

 

ガリア王国…空の上から見下ろした事はあったが、未だその地に足をつけた事は一度もない。

一つ気になる点があるため、いつか近い内に行ってみようと思っていた場所でもある。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

時は少し遡る。

 

昨日、場所は学院長室。

そこではオールド・オスマンとミラが、木製の机越しに対面していた。

 

「ふむ…破壊の杖を何処で手に入れたのかを、教えて欲しいと?」

オスマンが自分の髭を撫でながら、目の前にいるミラをまっすぐと見据えながら言った。

もう慣れたのだろう、それに学院長の自分がいつまでも戦々恐々としてはいられない、オスマンのその表情には確かな余裕が見られ、威厳も十分に備わっていた。

 

「その通りだ、あれは本来…私の世界にいる人間が使っていた武器だからな」

 

「私の世界…?」

 

「あぁ、そういえば言ってなかったな、私はこの世界ではなく、別の世界から来た存在だ」

 

「別の世界じゃと…⁉︎」

オスマンは目を見開いて驚き、唖然とした。

目の前の龍は、衝撃的かつ重大な事をさらりと言い放ったのだ。

 

「…まぁ、突然言われて信じろと言う方が、無理な話かもしれんがな」

ミラが笑いながら言った。

意外なことに、この龍にもそれくらいの常識は持ち合わせていたらしい。

 

「……いや、信じよう。

実は私の友人にも一人、君と同じく別の世界から来たと言う者がいる」

ピクリと、ミラがこれまでに無い程大きく反応した。

それ程までに興味深い内容なのだろう。

 

調子を取り戻したオスマンは更に続けた。

「その友人というのが、他でも無い、私に破壊の杖を譲ってくれた人物なのじゃ」

 

「…詳しく聞かせて貰おうか」

ミラは「待ちきれない」と言った表情で、オスマンに視線を送って催促した。

いつもなら大して興味を持たない内容の筈なのに、今回に限っては何故か、知りたくて知りたくてたまらなかったのだ。

 

「そうじゃのう…あれは10年程前の話…その時私はガリア王国に立ち寄っていた」

そのままオスマンは静かに語り始めた。

 

 

まず始めに、ガリア王国というのはエルフの住む地、サハラと面している国でもあることを説明しておこう。

 

そしてその人物…オスマンの言う彼の友人であり、破壊の杖をトリステイン魔法学院に持ち込んだ人物は、そのサハラと呼ばれる土地からやって来たという。

その時、その瞬間を目撃していたオスマンは当然驚いた。サハラというのは砂漠地帯なのだ。いや、それ以上に、エルフというのは人類の天敵とも言われるほど恐れられた種族、双方の間で多少の交渉は行われることもあるが、好き好んで近づく人間などそうそういない。

 

訳を聞いても、男は「いつのまにかここにいた」としか答えず、砂漠に何故いたのか…何をしていたのかも分からず終いだ。

 

「その時彼はこう言っておった「自分は何処か…とても遠い所から来た人間」と。

そしてこうとも言っていた 「恐らく自分のいた場所は、こことは別の世界なのかもしれない」とな」

 

「別の世界か…」

 

「…これはあくまで私の勘じゃが、おそらく彼のいた世界と、君のいた世界は同じなのだと思う」

オスマンがミラの目をまっすぐ見ながら自分の推測を述べた。

 

そう思ったのは何も、別の世界から来たという共通点だけからでは無い。

その男は破壊の杖以外にも、様々な珍しい武具を持っていたのだ。

斧や剣に形状を変化させる武器…特殊な虫を操る棍棒など、ハルケギニアでは見られない物を含め、剣や弓…果ては防具まで、どれもこれも未知の鉱物…または生物の素材で作られていた。

 

「そいつの名前は?」

 

「シグルスじゃ、彼はそう名乗っておった」

 

「シグルス…どこかで聞いたことがあるような気がするが…どこだったか…」

 

「話を耳にしていても不思議ではない、彼は未知の武器を持って各地に赴き、様々な戦果をあげた結果…今や彼は、平民にしてガリアからシュヴァリエの称号と、領地を譲渡された英雄になっておる」

シュヴァリエとは…国家に対し大功のあった者に送られる、騎士の称号である。

純粋な実力と実績を評価されなければ与えられない称号であるため、爵位のように金で手に入れることも、世襲で受けることも不可能である。

因みにタバサもこの称号を持っている。

 

「その…譲渡されたというガリアの領土に行けば、そいつに会えるか?」

 

「無理じゃろうな…彼は忙しい身じゃ、私も最後に彼に会ったのは三ヶ月程前、偶然この国…トリステインでバッタリと出会ってそれっきり、私の方から訪ねてもだいたい留守じゃからな。

…平民での優遇故、貴族から妬みの対象にされておる、それも一か所に身を留めていられない理由の一つなのじゃろうな」

 

「そうか…」

 

「やはり…帰りたいかね?」

オスマンが残念そうに項垂れるミラを見て、憐憫の目でそう尋ねた。

 

「いや、そうでもない、帰ったところで私を待っているのは、人間の古城で食って寝るだけのつまらない日々だ。

こっちにいた方がずっと楽しめる」

オスマンはミラが元の世界に帰るため、シグルスに会いたがっていると思っているのだろう。

しかし実際は違う、ミラは帰るつもりなど毛頭ない、その男に会いたいと思ったのは、ただ単純に、シグルスという男に興味を抱いたというだけの話である。

 

「それに帰る方法なら知っている。

いや、正確には、“帰る方法を知る者”を知っている…と言った方が正しいか」

 

「帰る方法を知る者じゃと…?」

 

「一度この地に姿を現していただろう?

まぁ、あの時は大分姿を変えていたがな…本来の奴の姿はもっと恐ろしいさ、私ですら畏怖するほどな」

 

「まさか…あの少女のことかの?」

あの少女…以前この学院に侵入し、その後消息を絶ったあの白いドレスの少女のことだ。あの夜は騒ぎになった、オスマンも嫌でも覚えている。

しかしあの時の彼女の姿は…多少神秘的なものを感じたがどうさ見ても可憐な少女だった、あれから目の前の黒龍ですら畏怖させる姿など、まったく想像できない。

 

(まぁ…おそらく魔法で人間の姿に化けただけじゃろうがな…)

だがオスマンは気づいていた。

目の前の青年がそうなのだ、ならばあの白いドレスの少女も同様だと考えるのが普通だ。

 

「今の話で更にこの世界への興味が深まったよ、いつか出会いたいものだな、その男に…」

 

「もし会ったらどうするつもりなんじゃ?」

 

「そりゃあまぁ…当然…」

 

ニヤリと凶相を浮かべるミラを見て、オスマンは察した。

同時に、自分の友人について話した事を後悔した。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

ここはガレア王国の領域内、ガレアとトリステイン間にあるラグドリアン湖を抜けた先にある、とある屋敷。

 

「ここがタバサの御実家ね」

屋敷の前に停車している馬車から降りたキュルケが、伸びをしながら屋敷を見上げてそう言った。

 

家柄はいいのだろう、ガリア王国首都リュティスから、遠く離れた国の端に位置する屋敷だが、そこらじゃ見られないほどに立派である。

 

(あれ…ちょっとまって…)

ふと、屋敷を見上げるキュルケがある事に気がついた。

屋敷の門の真上にある紋章…知らぬはずがない、“ガリア王家”の紋章だ。

 

「タバサ、あなたもしかして…ガリア王家のーー」

慌ててタバサに尋ねるが、タバサは何も言わぬまま、屋敷の方へと足を進めていった。

 

タバサが到達するより前に門が開く。

中から現れたのは、この屋敷の執事だろうか…スーツに身を包んだ、眼鏡を掛けた高齢の男だった。

 

「お待ちしておりました、シャルロット様」

屋敷の執事が丁寧にお辞儀をして、タバサを迎え入れた。

 

 

その後、屋敷内の部屋に案内されたキュルケは、青色のソファーに腰掛けていた。

部屋には暖炉が設けられており、その上には巨大な額縁が取り付けられている。掲げられているのは、タバサと同じ青色の髪をした、美しい容姿の男性の絵だ。

 

「まずはお父様に挨拶したいな」

タバサの顔を見ながら、何気なくそう言ったキュルケであったが…

対するタバサは横に首を振り「ここで待ってて」と言って、この部屋を後にした。

 

取り残されたキュルケは首を傾げながら、もう一度額縁の絵を見上げた。

見れば見るほどタバサそっくりの青髪だ、おそらくあの人がタバサの父親…とても優しそうな顔をしている、別に隠す理由などないはずだ。

 

ここでキュルケは察した、タバサの父親は…目の前の額縁の絵の男は…もう既に…

 

次の瞬間、コンッコンッというノックの音が響いたので、キュルケは思考に向けていた意識を扉の方へ向け直した

「失礼いたします」

タバサと入れ違いになる形で、先程の執事の男が部屋の中に入ってきた。その手にはお盆を持ち、湯気が昇る暖かい紅茶が入ったカップを乗せている。

 

「私は、オルレアン家の執事を務めております、“ペルスラン”と申します」

紅茶を机の上に置いたペルスランが、お辞儀をしながらキュルケに自己紹介をした。

 

「私はゲルマニアのフォン・ツェルプストー、お世話になります」

 

「シャルロットお嬢様がお友達をお連れになろうとは、思いもしませんでした」

 

「シャルロット…?

シャルロットが、あの子の本当の名前なのね⁉︎」

 

「…は?」

親友の本名を初めて聞いた事で、興奮して詰め寄るキュルケ、事情を知らぬペルスランは思わず目を丸くした。

 

ーーーーーー

 

その後、キュルケはペルスランから、今までタバサが抱えてきた事情を聞き出した。

 

現在の王である兄との継承争いの末、タバサの父親であるオルレアン公が暗殺されたこと…

母親がエルフの秘薬により、心を病んでしまったこと…

タバサという名は、彼女が幼い頃に母親から貰った、人形の名前であること…

 

ペルスランはタバサの友人ならばと、キュルケを信用できる人間として、一切を包み隠さず打ち明けた。

 

「ーーそれ以来、あれだけ活発で明るかったお嬢様は、別人の様におなりになりました。

まるで…言葉と表情を自ら封印されたかのように…」

タバサの事を語るペルスランの表情は悲しげで、ぶつけることのできない悔しさを、強く握り締める拳が物語っていた。

 

「・・・・・」

キュルケは何も言わずに、黙ってその話を聞いていた。

いや、何かを言おうにも、喉から言葉が出なかったのだ。

今知った事と、知らなかった事があまりにも多過ぎたのだ。

 

元々タバサは口数が少なかったが、自分の事ととなるとこと更に何も話さなかった。だから知らなくても仕方のない事なのかもしれない…それでも、キュルケはタバサの親友として、何もしらなかった自分を責めずにはいられなかった。

 

「奥様の事があって、表だってお嬢様を亡き者にしようとする輩はいなくなりました。その代わり、王家はお嬢様の魔法の力が強い事を理由に、困難な…生還不可能と言われる様な仕事を言い付ける様になったのです。

ですが、お嬢様はこの理不尽な命令を全て完遂させました。御自分と奥様の身を守る為に、命懸けで…」

 

「ッ…」

キュルケの胸の痛みが更に強くなった。

フーケの時だってそうだ、タバサはいざという時にものすごく頼もしくかった。どんな状況でも冷静に対処できる判断力、優れた魔法の腕…

しかしそれらの裏には、まさかこんな事情があったとは…

 

「………あの子は…何故トリステインの魔法学院に?」

 

「思惑通りに行かぬ王家は、本来なら領地を下賜されてしかるべき功績にも関わらず、シュヴァリエの称号のみを与え、厄介払いの如く外国へと…」

 

「…厄介払い、か…」

キュルケが皮肉気に笑みを浮かべた、自分も同じように、厄介払いという形でトリステイン魔法学院に留学したからだ。

そしてそれがあったからこそ、二人はこうして出会い、親友になることができた。だからこそ、それ故の皮肉なのである。

 

と、二人が話し込んでいる最中、部屋の扉が開く音が聞こえてきた。

タバサが用事を済ませ、帰ってきたのだ。

 

「もう!遅いじゃないタバサ!」

タバサの顔を見た瞬間、キュルケは今まで暗く沈んでいた表情を嘘の様にパッと明るくし、いつもの調子でタバサに話しかけた。

 

「とにかく、長旅の汗を流したいわ」

さっきの話を聞き、色々とショックを受けているだろうに、それを友人の前では一切顔に出さないキュルケ。

例えどんな過去を聞こうが、変に気を使わず、憐れんだりもしない、いつも通り接し方…それが彼女の優しさなのだろう。

 

(お嬢様は本当にいいご友人を、お持ちになった…)

そう…キュルケを眺めながら、ペルスランは感慨の気分に浸っていた。

 

しかし、いつまでもそう、お嬢様の事でそういう気分にも浸ってはいられない。

今から自分の言葉で、お嬢様を危険な任務へと向かわせる事になるのだから、もちろんペルスランの意図でそうなるわけではない、五日前から届いていた王宮からの特例だ。一介の使用人が逆らえる筈もない。

 

「お嬢様…王宮から勅命書です」

ペルスランは感情を表に出さないよう、淡々とした態度でタバサに王宮からの指令を記した紙を手渡した。

 

「勅命って…」

当然、さっきの話を聞いているキュルケには、それが何を意味するのかは想像できていた。

 

「火竜山脈にて、大型火竜の討伐とのこと。

…いつ頃、取り掛かられますか?」

 

「…明日の晩」

 

「ご武運を、お祈りいたします」

短く答えるタバサに、ペルスランはそれだけ言い残し、後ろに下がった。

 

「…じゃあ、あなたが帰ってきたのは…これのため?」

 

「ここで待ってて」

キュルケの問いに対し、タバサはさっきのように小さくそう答えた。

 

「ごめんなさい、さっきの人に全部聞いちゃったの」

 

「・・・・・」

そんなキュルケの言葉を聞き、タバサは一瞬だけ目を見開き、横目でペルスランを見たが、直ぐに表情を元に戻し、キュルケの目を見て、短く…

「危険」

とだけ言い放った。

 

「だからこそ行くのよ!私だって、あなたの力になりたいわ!」

 

「・・・・・」

威勢良く言い張るキュルケだが、タバサは応えない。

悩んでいるのだろう、正直気持ちはありがたいが、あの王家の勅命だ、今までの経験でわかる、生半可な仕事ではないことは確かだ。

別に足手まといだとか思っているわけではない、キュルケが優秀なメイジだということはタバサもよく分かっている。

 

しかしそれでも…自分のたった一人の親友を、危険に晒すことはできない。

 

「失礼」

突然のノック音と共に、一人の男が部屋の中に入ってきた。

 

白い髪に白い髭…そして顔に刻まれた深い皺から、ペルスランと同じくらいの高齢だということがわかる。

しかしその体格は、全身に纏ったローブ越しでもわかる程に良く鍛えられ、ガッシリとしている。

 

「意気込んでいる所悪いのだが、その件については私が解決した。

いやはや…この歳で火龍のつがいを同時に相手するというのは、流石にキツいな」

 

「シグルス殿?おいでなさっていたのですか?」

 

「伝令がこちらの方にも来ている、と聞いたものでな、わざわざ無駄足を踏ませる訳にもいかんだろう。

それに、シャルロット殿がご帰宅なさっていると耳にしてな、挨拶も兼ねてだ」

 

「シグルスって…まさかシグルス・シュヴァリエ・ディ・ラウレンティス⁉︎

どうしてこんな所に…」

シグルスという名を聞き、キュルケが驚愕した顔でそう叫んだ。

 

「…君は…話に聞いたシャルロット殿の御友人だな?顔も知らない異国のお嬢さんにも、私の名を知ってもらっているとは、光栄だな」

シグルスがキュルケを見てそう呟いた。

皺の刻まれた顔が、優しげに緩んでいる。

 

「…知らない方がおかしいわ」

キュルケが恐縮気味にそう答えた。

相手は平民、自分は貴族という身分の差はあれど、相手はそんなものを簡単に埋め尽くしてしまう程の戦果を上げてきた大英雄…

一部のメイジや貴族にこそ嫌われているが、平民の間では劇が作られるほどの人気だ。当然知名度も高い。

 

「ほぉ…自分で言うのもなんだが、私も名が知れたものだ…

ところで、屋敷の前にいた火龍は、もしかして君の使い魔かね?」

 

「火龍って…フレイムのこと…?」

 

「フレイムと言うのか。

火龍討伐任務の直後に屋敷の前にいたものだからな、驚いて腰を抜かすところだったぞ。はっはっはっは‼︎」

豪快にそう笑い飛ばすシグルス。

その姿からは、世間のイメージである完全無欠な騎士の姿など想像もできない。

 

「勅命の件も無事解決したことだし、シャルロット殿は安心して、御友人と楽しい時間を過ごしてください。私も翌朝にはここを出ますのでな」

そうにっこりと笑みを浮かべ、タバサに笑いかけるシグルス。

こうして見ると、ただの気のいいおじいさんである。

 

「・・・・・」

対するタバサは沈黙していた。

タバサにとっては朗報この上ないのだが、なんというか…肩透かし食らった様な気分になった。

キュルケの同行にを許可するか、それともやっぱり危険だから置いていくか、あれだけ悩んでいたというのになんだか馬鹿らしくなってくる。

 

「むっ⁉︎いつも寡黙なシャルロット殿が、いつもに増して沈黙しておられる…

まさか私に仕事を取られたのを、気にしてなさるのですかな?」

 

「・・・・・」

 

「と、言わましても…ハンターたる私は、依頼に従い獲物を狩るのが仕事…他人の仕事を盗ってしまうことも稀にあるやもしれんが…そこは分かって頂けないと、私にも生活が…」

 

「⁉︎…今なんて?」

自分の聞き間違いがなければ、この男は確かに、自分のことを「ハンター」だと言っていた。

聞き覚えのある言葉だ。そう、あれは最近…あの夜に、二頭の龍が発していた言葉に、それが含まれていた。

 

「どうかしたのですかな?シャルロット殿」

考え込むタバサに対し首を傾げるシグルス。

 

ここでタバサは、自分が唐突に抱いたある疑問をぶつけた。

 

「…ミラボレアス…という言葉に聞き覚えは?」

 

「!!?…どこでそれを?」

瞬間、シグルスは一歩後退し、目を見開いて驚愕した。

それは知るはずのない言葉なのだ、理解できる筈もない…少なくとも、この世界では。

 

シグルスはゆっくりと目を閉じて調子を取り戻し、タバサの目を見て説明した

「ミラボレアスと言うのは…私の故郷に伝わる…“黒龍伝説”と言うおとぎ話に登場する、世界を滅ぼしうる力を持つという、伝説の邪龍の名前のこと…

しかしあくまでおとぎ話、シャルロット殿には関わりの無い言葉だ。

理解していただけましたかな?」

 

「・・・・・」

タバサは無言で頷いた。

 

「では私はそろそろお暇しよう。今日はもう休みたいのでな…

あ、ペルスラン殿、すまんがお茶を淹れてもらっても構わないかね?」

 

「えぇ、承知しました」

 

「ありがとう。

では、また会いましょうぞ、シャルロット殿」

シグルスは手を振りながら、ペルスランと共に退室した。

二人の足音が遠のき、部屋の中はシーンと静まり返る。

 

「嵐のようなおじ様だったわね…」

キュルケが唖然としながら呟いた。

 

「でもミラボレアスって…ルイズの召喚した龍の名前がよね?

なのに伝説上の存在だって……どういうことかしら?」

 

「…さあ」

キュルケの問いかけに、肩をすぼめてそう答えるタバサ。

 

しかし…確かにその通りだ、ミラボレアスはルイズに召喚され、今もトリステイン魔法学院にいる。確かに存在しているのだ。

ならば何故、シグルスは伝説上の存在などと言ったのだ?もちろん、本人が本当にそう思っている可能性もある。

しかし、シグルスは嘘をついている、もしくは本当の事を話していない…と、確証は無いが、タバサはそう思っている。

 

あの黒龍が自分の名を偽っている可能性も低いだろう。

嘘をつく理由がないのだ。伝説では世界を滅ぼす力を持っている程の、恐ろしい龍であるらしいが…ハルケギニアではあまり知られていない伝説であるが故、名前による相手への牽制の効果は薄い…それ以前に、そんなものは必要ないほどに、あの龍は強い。

 

何にせよ、シグルスとミラボレアスに、何らかの繋がりがあるのは明らかだ。それはさっきのシグルスの反応が物語っている。

 

思えばシグルスも相当怪しい人物である、10年前に突然現れ、あの憎きガリア王ジョセフとも関わりのある。

 

シグルスとミラボレアス…この二つの関係が果たして何を意味するのか…それはわからない、わからないが…今は何もできないだろう。

 

 

 




はっきり言って今回はつまらなかったですかね?

でも次回はレコンキスタ編。若干話に変化がありますが。楽しみにしていてください。
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