ゼロの黒龍   作:無想転生

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最近忙しく、投稿が大幅に遅れてしまいました。

申し訳ありません。





アルビオンへ

ルイズ達は、薄く立ち上る朝靄の中、馬に鞍をつけていた。

ここから馬で、アルビオンへのフネが出る港町へ向かうらしい。

 

「・・・・・」

ミラが馬を眺めながら、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

 

「ダメよ」

 

「私は何も…」

 

「いいえ!今食べてみようとか考えたでしょ⁉︎

まったく…あんたさっき朝ごはん食べたばっかだって言うのに、どれだけ食い意地はってるのよ」

ミラが馬を見て、あらぬ欲求を抱いていたようだが、出発前から貴重な足を胃の中に送る訳にはいかない、当然ルイズからのお叱りを受けた。

 

「まったくもう!」と腹を立てて腕組みをするルイズに、ギーシュが近づいた。

「…なぁルイズ、僕のウェルダンデを連れて行きたいんだが」

 

「ウェルダンデって、モグラのように地中を掘り進む龍でしょ?」

 

「その通り、地中を掘り進む速さは馬にも負けない程だ」

 

「でも連れて行けないわ。私達は今からアルビオンに行くのよ?」

アルビオンは上空3,000メートルに浮かぶ浮遊大陸だ。

一部の飛行能力をもつ生物以外、フネでしか渡るしか方法は無い。もちろん、地中を掘り進む動物など論外である。

 

「そんなぁ…ここでお別れなんて…そんなの辛すぎるよ」

ウェルダンデのゴツゴツとした体を抱きしめながら、ギーシュは露骨にショックを受けた。

 

ウェルダンデは慰めるように、長く突き出た牙でギーシュの肩を軽く叩くが、突如ピタリと停止し…操られるようにルイズの元へ近づいて行き…そのまま押し倒した。

 

「なっ⁉︎ちょ、何すんのよ⁉︎っていうか重い…!潰れる…!」

ルイズがウェルダンデを突き放そうと暴れるが、ウェルダンデの体重にのしかかられ、まったく身動きが取れないでいる。

それでもウェルダンデはルイズにのしかかり、ルイズの右薬指にはめられた指輪に鼻を近づけていた。

 

「あぁ、なるほど…指輪か、ウェルダンデは宝石が大好きだからね。いつも僕の為に貴重な宝石や鉱石を見つけてくれる、土属性の僕にはぴったりの使い魔さ」

この状況でも、鼻高々にウェルダンデの自慢をするギーシュ。彼のウェルダンデ愛は相当なものである。

 

「言ってないで助けなさいよ!」

 

「…先が思いやられるな、我が主よ」

ミラがやれやれと首を振り、ルイズを助け出そうとウェルダンデを持ち上げようとした。

 

その瞬間、どこからともなく風の塊が飛んできて、ルイズの上に乗っているウェルダンデを吹き飛ばした。

 

「誰だ⁉︎」

ギーシュの声だ。ウェルダンデを攻撃され、怒りを帯びている。

 

ミラが赤い目で朝靄の中を睨みつけた。

その視線の先からは、羽帽子を被った長身の男が、ゆっくりと現れた。

 

「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。

済まないね、自分の婚約者が襲われてるのを見ては、ジッとしていられなくてね」

 

「ワルド…様…⁉︎」

優しい笑顔でギーシュに謝罪するワルドと名乗る男を見て、ルイズが惚けた顔で声を漏らした。

 

「久し振りだね!ルイズ!僕のルイズ!」

ワルドが満面の笑みでルイズに駆け寄り、ルイズの体を抱き上げた。

ミラとギーシュの二人が、ポカンとした顔でそれを眺めている。

 

「お久しぶりですわ、ワルド様」

 

「ははは、相変わらず軽いなきみは、まるで羽のようだ」

顔を赤らめ、されるがままに抱きかかえられるルイズに、そんなルイズを愛おしそうな視線で見つめ、笑顔を浮かべるワルド。

事情はわからないが、何やら、辺りがピンク色の空間に包まれたような気がする。

 

「ふむ…で、王女が護衛の為に寄こしたというのは、お前であっているか?」

 

声をかけられ、二人の微妙な視線に気がついたワルドは、ルイズを地面に降ろし、羽帽子のつばを整えて二人に対面した。

「その通りだ。

…そういう君は、土くれのフーケを捕まえたという、韻竜の使い魔だね?」

 

「何故それを知ってる?」

 

「王室の方でも君の噂は広がっているさ」

 

任務で共に行動する以上、自分から話しておこうとは思っていたが、既に相手には知られていたようだ。

どこから漏れたのか、オスマンの努力も虚しく、結局ルイズが韻竜を召喚したという話は、あらゆる場所に広がっているらしい。

 

「姫殿下もつい最近、透明化の能力を持つ韻竜を召喚してね、その実力を目の当たりにしたが、相当なものだった。

それと同じ韻竜である君には期待しているよ。もちろん…グラモン元帥の息子である、君にもね」

ワルドが気さくな態度でミラとギーシュに握手を求めた。

ミラは「あぁ」と言って握手に応え、グリフォン隊への憧れというのもあり、ギーシュは興奮気味にその手を強く握り返した。

 

「さて、出発前に確認といこう。

我々の目的はアルビオンのウェールズ皇太子より、姫殿下の手紙を回収することだ。

アルビオンへは当然フネでいく、その為には港町であるラ・ロシェールまで馬で行かなければならない。

知っての通り、現在アルビオンの王室は貴族派連中と交戦中だ。悲しいことだが、状況から見てアルビオンの王党派の敗北は、時間の問題だろう。

時間は限られている、なので今夜中にはラ・ロシェールに到着しておきたい。通常ならば馬でも二日はかかる道のりだが、途中の駅で馬を交換しながら進めば、不可能ではない筈だ。

長時間馬を飛ばし続けるのはキツイかもしれないが、頑張って付いて来てほしい」

真剣な顔で、今回の任務についてをざっと説明するワルド。

 

彼の言うとおり、今回の旅はのんびりとはしていられない。アルビオンの王党派は劣勢だ、敗北は確実、それも七日と経たない近い内に、アルビオンの王族は滅びるだろう。

ルイズ達の到着よりも先にアルビオンが滅びれば、目的の達成は絶望的だ。そしてその、アンリエッタがウェールズに渡したという手紙は、アルビオンの貴族派の手に落ちるだろう。

そうなればゲルマニアとの同盟は破棄され、今度はトリステインがアルビオンと同じ運命を辿ることになる。

それだけは阻止しなければならない。

 

「夜までぶっ通しで走り続けるというのは確かにキツイな…でも、行くと決めたからにはそれ位のことはやらなくてはね」

 

「馬に乗るだけだろう?何がどう疲れるんだ?」

 

「君は乗馬の経験なんて無いだろうから、わからないかもしれないが…乗馬にだって技術がいる。全力で飛ばすならなおさらね。

それが数時間…半日以上と続くんだ、かなりの神経をすり減らすことになる、その上止まることのない上下の揺れ…振り落とされないように手綱を握り続ける為、握力の疲労だってある。

まぁ、どれも人間基準の話ではあるがね」

 

「なるほどな…」

 

「ん…?」

ここでギーシュはある疑問を抱いた。

それはたった今、自分が言葉に出して言ったことなのだが…

 

「そういえば君…どうやってラ・ロシェールまで行くつもりだい?」

 

ギーシュの問いに、ルイズが「あっ…!」と、声を漏らした。

完全な凡ミスだった。それも気づくのが遅すぎた。アンリエッタから大役を貰い緊張していたというのもあったが、普通に考えたらわかることである。

 

ミラはドラゴンだ、馬になど乗れる筈がない。

長時間連続走行による疲労だとか、それどころの話ではなかったのだ。

 

「どうしよう…」

 

「大丈夫だろ、乗っていればその内慣れる」

そうお気楽に言うミラであったが、ルイズにはとてもそうは思えなかった。

 

あるのはただただ不安だけ、ミラから一定の距離を開け、決してそれより先は、一歩たりとも接近しないワルドのグリフォンを見て、ルイズはうっすらと勘づいていた。

 

「おわっ⁉︎」

案の定、ミラは恐怖で暴れまわる馬に振り落とされ、後頭部から地面に叩きつけられた。

 

「…やっぱり」

ルイズが手で顔を覆いながら呟いた。

訓練されたグリフォンですら恐れを見せる生き物だ、訓練のされていない馬の背に乗せたら、こうなるのは当然のことである。

 

「馬に乗れない以上…置いていく他ないな…」

 

「心配には及ばない、本来の姿となって移動すればいい話だ」

ワルドの言葉にミラは否定の意を唱えるが…

 

「ダメよ、あんな目立つ姿で移動はできないわ」

隠密行動…任務の性質上、敵に自分達の行動を悟らせないことが第一である為、その案はあっさりと却下された。

 

「ならどうしろと?」

ワルドの言う通り、この場に置いていくという手もあるが、ミラの実力は嫌と言うほどしっている。

ルイズ自信、できれば連れて行きたいと思っているのだが、現実はそうもいかない。

 

「…思ったんだけど、別に敵の目に触れさせても構わないんじゃないかな?」

声を出したのはギーシュであった。

 

「あんた話を聞いてなかったの⁉︎

私達の動向は、アルビオンにもゲルマニアにも悟られてはいけないのよ⁉︎」

何度も言わせないで!と、イラついた様子で、ルイズがギーシュの提案を却下した。

 

「そんな事は僕にも分かっているさ、だけど敵に見つかってはいけないのは僕達だけだろう?」

ギーシュがルイズを静止させながら、話を続けた。

 

「ミラには僕達が走っているところを、上空からついてきて貰えばいいんだ。

考えてもみなよ、普通、あんな不気味な龍に近づこうなんて輩がいるかい?僕なら絶対に回避するね」

ギーシュの提案を聞き、ルイズは少し考え込んだ。

 

確かにその通りかもしれない。

目立たない行動ばかりを考えて盲点になっていたが、龍が飛んでいる真下を人間が走っているなど、普通の者なら考えもしない。

例えそれが使い魔だとしても、ミラボレアスのような、姿を見ただけでも畏怖させるような化け物に、進んで近づきたいと思うような者は、まず存在しないだろう。

 

目立ち過ぎると考えたが、逆に人避になるかもしれない。

 

「…それもそうね、じゃあその方法でいきましょう」

ルイズも納得したらしく、ミラの同行が許された。

 

「感謝するぞ、ギーシュ。

御礼に今度、オーク鬼の肉を獲ってきてやろう」

 

「遠慮しておくよ」

ミラなりの好意ではあるが、オーク鬼の肉など、食べたいと思う者はまずいない。もちろんギーシュもその一人である。

 

ギーシュはミラの御礼をやんわりと断った。

 

「話が終わったのなら早く行こう、さっきも言った通り、時間が無いんだ」

 

「ミラ」

 

「分かっているさ」

ルイズの指示で、早速その姿を元の姿へと変化させた。

黒い鱗に紅い眼球、恐ろしい風貌のドラゴンが姿を現す。

 

「…なるほど、君の使い魔を見た者は、皆口を揃えて恐ろしいと言っていたが…実際に見てその気持ちが分かったよ」

額から汗を流しながら、ミラボレアスを見上げるワルド。

 

しかし流石はグリフォン隊の隊長と言ったところか、他の者と比べて、その表情には余裕が見える。

 

ワルドはそのままルイズの隣に向かい、皆に聞こえるくらいの声量で、こう言った。

 

「皆、これから向かうのは戦地であるアルビオンだ。

もちろん安全は保証できない、向かう覚悟はできているな?」

 

ワルドの問いかけに対し、ルイズとミラとギーシュの三人は、ただ無言のまま、首を縦に振った。

 

覚悟はできている。ということだろう。

 

「では行こう!」

ギーシュは馬に、ワルドとルイズはグリフォンの背に跨り、ミラボレアスは翼を広げて空を飛んだ。

 

そして早朝の中、三体の影はトリステインを飛び出した。

 

 

 

 

しかし彼らは気づいていない。

トリステイン魔法学院を抜け出したルイズ達の後を、微熱を抱いた一人のメイジが、羨ましげに見つめていた事に…

 

 

 

 

 

 

 

 




少し短かったかもしれませんが、また次回
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