他のも殆ど手付かずの状態でしたが、何とか一話だけできました。
ラ・ロシェールの港町…そこで一人の少年と幻獣は困惑していた。
「チェルノボーグの監獄から、土くれのフーケが脱獄⁉︎
それも何者かの作為によるものだって⁉︎」
土くれのフーケ…本当の名をマチルダ、投獄されていた彼女を助けに行こうとしていたサイトとリンであったが、偶然手に入れた朝刊に、土くれのフーケ脱獄の記事が記されていた為、その足をラ・ロシェールで止めていた。
「おい、幻獣さんよ、おめぇさんには何か心当たりはねぇのか?」
インテリジェンスソードであるデルフリンガーが、サイトの隣にいる白髪の青年に尋ねた。
「特には…奴に他に仲間がいるとは聞かされていないしな。
だいたい、私は奴の使い魔と言っても、ティファニアの御守りばかりで奴の仕事に関わった事は殆どない」
「まぁ、おめぇさんは走るだけでも目立つから、泥棒稼業には向かないだろうからな」
「じゃあ、一体誰なんだ?マチルダさんの脱走に手を貸したっていう奴は…」
サイトとリン、デルフリンガーが頭を悩ませるが、答えがでる気配は一向にない。
「このままでは埒があかないな、私が奴の居場所を探ってみよう」
リンが片方の目を手で抑え、祈るように、何処かへと念を送った。
使い魔には共通として、主人の目になる能力が与えられている。
その能力を応用し、マチルダの見ている視点から、彼女の居場所を見出そうとしているのだ。
「見つけた…
…が、これはどういう事だ?」
「何だ⁉︎何が見えたんだ⁉︎」
サイトも、人間に関わらず使い魔ではあるが、その主人はマチルダではない為、サイトにはリンの様に、マチルダの見ているものを見る事はできない。
それ以前に、何故かサイトには視覚の共有能力は備わっていないのだ。
サイトは、何かおかしなものを見たのか…不思議そうに眉根を寄せて疑問を浮かべるリンに、何を見たのかを問いた。
「……何故かは知らんが…どうやら奴は、この町にいるらしい」
「どういうことだよ?」
マチルダの居場所は割り出せたが、謎は更に深まるばかりであった。
ーーーーーーーー
ルイズ達は予定通り、その日の夜までにラ・ロシェールに到着できた。道中、馬の交換以外では、立ち止まる事もあまり無かったからだろう。
遠くの方で、山賊の様な武装した集団が見えたが、やはり上空でミラボレアスが目を光らせていたからだろう、おかげで襲われることもなく、スラスラと進む事ができた。
「今夜はここで宿をとろう。
もうフネは出航してしまっただろうし、何より皆疲れもある、そんな状態で戦地に向かえば、かえって危険だ」
ワルドはグリフォン隊の隊長だ、この中では誰よりも判断能力に長けている。ルイズ達は一切の否定もなく、ワルドが乗ったグリフォンに続き、ラ・ロシェールに入っていった。
「はぁ…」
「どうした?疲れたのか?
まぁ、かくいう私も、休憩無しでここまでの飛行には、疲れをかくせないがな」
深くため息をつくギーシュに対し、ミラがそう言った。
「いや…まぁ…乗馬での走行もそうだけど…
今日はなんか…精神的にも疲れたよ…」
何かを言いたそうに、目の前のワルドとルイズに視線を送るギーシュ。
それが何を察しているのかは分からない為、ミラの頭に?が浮かんだ。
空を移動していたミラには分からない事だが、地上を走るルイズとワルドからは、絶えず甘い雰囲気が漂っていたのだ。
二人は婚約者…それも久しぶりに会ったという訳なのだから、多少は仕方ないが…
常にルイズへ向けて甘い言葉を囁き続けるワルド、それに対し、顔を赤くしながら照れるルイズ。
耐え難い、ピンク一色の空間に包まれながらの乗馬によって、ギーシュは身も心も擦り減っていた。
自分がモンモランシーに言い寄っている時も、周りはこんな気分だったのだろうか…
これからは、公然の前で女性との戯れはなるべく控えようと、ギーシュはそう思ったり…やっぱり思わなかったりしたという。
「しかしそんな疲れも、この町を見渡していると癒されていく様な気がするよ」
ギーシュはうっとりとした表情で町を眺めた。
「ここにある建物は全部、一つの岩を彫って作られたものなんだ。
土系統のスクウェアメイジによる、言わば匠の技だね」
岩と一体化したような造りの建物を指差し、ギーシュが嬉しそうに説明した。
彼もこの町を造ったというメイジと同じ、土系統のメイジだ。そして彼の趣味は石を用いた彫刻造り。
ドットであるギーシュにとって、話に出てきたメイジとは雲泥の差はあれど、いつかはそんなメイジになりたいと、憧れを持っているのだろう。
「何であんた達がここにいるの⁉︎」
突然、ルイズの叫び声が聞こえてきたので、ミラとギーシュは慌てて前を向いた。
そこには、見た事のある二頭のドラゴンを連れた、これまた見た事のある赤い髪の少女と、青い髪の少女が立っていた。
言わずもがな、キュルケとタバサ…そして使い魔のシルフィードとフレイムである。
「随分なご挨拶ね、ヴァリエール。
朝方、あんた達が出かけていくのを見たから、タバサと一緒に後をつけて来たのよ」
タバサと一緒…と言えば聞こえはいいが…
実際は無理矢理連れて来たのだろう、パジャマ姿のまま、不機嫌そうに本を読んでいるタバサを見て察した。
「あのねぇ、ツェルプストー…これはお忍びなのよ?」
「あら、そうなの?それなら早く言いなさいよ。言わなきゃ分かんないわ」
全く悪気の無い調子で話すキュルケ。というか話し方の時点で、悪気などある訳が無かった。
「まぁ本当は、あんた達が山賊や夜盗にでも襲われたら、助けてあげようとでも思ったんだけど…それはいらなかったようね」
キュルケがミラを覗き見ながらそう付け足す。
「どころで、この方は?お髭が素敵ね」
キュルケが今気づいた様な風に装いながら、ワルドの方に近づいた。
「素敵なお髭の貴方、情熱はご存知かしら?」
色っぽい仕草でワルドに言い寄るキュルケ。
その姿を見て、ルイズは一瞬にして「最初から目当てはこれね」と、キュルケの企みを見抜き、そんなキュルケに対して心底呆れた。
「君の好意は嬉しいが、それ以上近寄らないでくれたまえ。
私の婚約者に、あらぬ疑いをかけられたくはないのでね」
しかしそんなキュルケに対し、ワルドは苦笑を浮かべながら、キュルケを優しく押し返した。
その目でルイズを指しながら。
「あら?なぁに?あなたの婚約者だったの?」
つまらなそうに言うキュルケに対し、ワルドが黙って頷いた。
ショックで項垂れるキュルケであったが…
惚れっぽくて冷めやすいと自称する通り、ここまで追いかけて来たにも関わらず、諦めるのは早かった。
ーーーーーーーー
ラ・ロシェールの裏路地に、一軒の酒場があった。
看板も外れかけ、外装がボロボロになっているその酒場は、もっぱら傭兵やゴロツキのたまり場となっている。
そんな店の中で、大人数が集まり、なにやら話し合いが行われていた。
その中心にいるのは、二人のメイジ。
一人はローブを着込んだ仮面の男…もう一人はスタイルのいい、緑色の髪の女…何を隠そう、今脱獄事件で騒ぎになっている、フーケ本人である。
「何?翌日の仕事を破棄するだと?」
仮面の男が威圧を含めて、傭兵にそう言った。
「あんた達に言われた通り、ターゲットを監視してたが…
見ただろう⁉︎あいつらが連れてたあの黒いドラゴン!あんなのがいるなんて聞いてねぇぞ‼︎
無駄死にはごめんだ!金は返す!だから俺達は降りさせてもらうぜ‼︎」
どうやら、ルイズ達が遠目に見た集団は彼らだったらしい。
ルイズ達を襲う様に雇われていたが、ミラボレアスの姿を見て、戦意を喪失してしまったらしいのだ。
「それを聞いて、そうかと見過ごすとでも思うのか?
貴様らは色々と知りすぎている、依頼を受けないのであれば、ここで死体になって貰うぞ?」
仮面の男が杖を向けて、傭兵達に脅しをかける。
傭兵達は「ヒィッ」と、悲鳴をあげた。
「だが安心しろ、別にお前達があのドラゴンの相手をすることはない。そっちは我々で対処する」
「…本当か?」
「あぁ、だからお前達は予定通り、依頼を果たせ」
仮面の男の言葉に、心底安心して、景気付けに酒を飲み交わす傭兵達。
そんな彼らを尻目に、仮面の男はフーケに話しかけた。
「どうした?何を不安そうな顔をしている?土くれのフーケ」
「私は一度、あのドラゴンに敗北している、それも完膚なきまでに…」
弱々しい声でそう呟くフーケ。
その顔は荒々しい泥棒ではなく、一人の…普通の女性の様にか弱々しかった。
「まさかと思うが…お前も抜け出すなんて言わないだろうな?」
「それは無いさ、あんた達に従う、それが条件だろ?
…ただ、やっぱり…」
「…目的は撃退でも討伐でもなく、あくまで時間稼ぎだ」
「分かってるよ、それくらい」
黒いドラゴン…ミラボレアスの相手をする者というのは、フーケの事である。
仮面の男は訳あって、あまり派手に動く事はできない、そんな条件下で、ミラボレアス相手に程度戦う事ができるのは、現時点では彼女しかいない。
仮面の男の言う通り、目的は時間稼ぎだ。生半可な者が相手をしても、一瞬で叩き潰されるのがオチである。
しかしフーケには、未だトラウマとも言える、ミラボレアスに対する恐怖心が残っていた。
ミラボレアスの顔を思い出すだけで、背筋が震える程である。
それを察したのか、仮面の男もあまりキツイ言葉はかけなかった。
もちろん、余計なプレッシャーを与え、フーケが任務に失敗したり、使い物にならなくなるのは困るというのもあるが…彼も血も涙もない鬼という訳ではない。
しかしここで辞めていいと言う程、彼は優しくない。
どれだけ怖かろうと、やるべき事はきっちりとやってもらう。辞めたいと言えば辞められる程、甘い世界ではないのだ。
フーケもそれは重々承知している。
しかしそれでもやはり、一度刷り込まれた恐怖心というものは、なかなか消す事はできない。
(土くれのフーケ程のメイジに、ここまで恐怖を与えるとは…)
フーケを見ながら、仮面の男はミラボレアスの危険度に対する警戒を、更に高めた。
「おい…本当にここにいるのか?」
「最後に視覚を共有した時は、確かにここを写していた。
…というか、それほど不思議な事でもないだろう?奴も泥棒なんだからな」
「いや、まぁ…そうかもしれないけどさ…」
酒屋の入り口からだろうか、どちらも聞き覚えのない、正体不明の声が聞こえてくる。
「おい、誰だ?」
「怪我したくないなら出て行きな、今は俺達の貸切だ」
二人のゴロツキが来訪者を追い出す為に席をたった。
今はなるべく、人には聞かれたくない話をしている。
例え誰が来ようと、力づくで追い出されるだろう。
もっとも、相手が自分達よりも弱ければの話だが…
「ぎゃあああああ‼︎」
突如として酒場の中に、青白い閃光と、男の野太い悲鳴が走る。
「何だおい!何があった⁉︎」
場が騒然とざわめき始めた。
無理もない、何かが光ったと思えば、突然大の男が二人も気を失ったのだから。
来訪者は倒れた男を跨ぎ、堂々と酒場の中に侵入してきた。
一方は錆びた剣を背負った、黒い髪の少年、もう一方は丸腰の白い髪の青年。どちらも若く、とても強そうには見えない。
「てめぇらがやったのか⁉︎クソがッ!」
その場にいたゴロツキの一人が、来訪者二人に掴みかかった。
しかしその手は二人に伏せる事なく、途中でピタリと止まった。
再び青白い閃光が走り、顔の横を通過したからだ。
ゴロツキの男は背後の、青白い閃光によって開けられた穴に目を向けながら、驚愕の表情で停止していた。
「誰だ?お前達は」
仮面の男が静かに問いた。
どうやら相手はただ者ではなかったようだ。
子どもだと思って油断していたが、その肉体は逞しく、戦闘用の訓練を積んでいる事が見て取れた。
白い髪の青年の方は、黒髪の少年程体格は良くないが…
杖を使わずに、ライトニング・クラウンに近い魔法を放っていた。これは明らかに、先住魔法だ。
人間の天敵と言われるエルフ…そんなエルフ達の使う魔法と同じものを行使してきたのだ、もっとも油断ならないのはこの男の方である。
仮面の男は警戒するように、白い髪の青年を睨みつけた。
「失礼、別に敵意がある訳じゃない。
いきなり脅しかけられたので、少々威嚇しただけだ。用が済めばすぐに出て行こう」
白い髪の青年が、静かにそう呟いた。
手にはバチバチと、目に見える程の電気が蓄電されている。
「手を出せば丸焦げにする」と、暗に警告しているのだろう。
「用が済めば…だと?お前達の目的は一体なんだ?」
仮面の男が堂々とした態度で、来訪者に問いただした。
「人探しだ。土くれのフーケという女盗賊を探している。
私は奴の使い魔だ、ここにいるのは分かっている。話をさせてほしい」
「使い魔…だと?」
目の前にいる者は、どう見ても人間にしか見えない。
使い魔などと言われても、納得のできる話ではなかった。
しかし隣にいる人物、目の前の相手が探しているという土くれのフーケの動揺を見る限り、ただの戯言などではないことは明らかだ。
とはいえ、はいそうですかと信用できる話でもない。
特に今は極めて重要な任務に就いている最中、得体の知れない人物と関わるなど以ての外だ。
だが無視もできない。
今ここで、あの白い髪の青年と戦うことになれば、こちらにも多大な被害が出るだろう。そちらの方がデメリットはでかい。
どうしたものか…と、仮面の男が沈黙のまま考えていると、事の中心であるフーケが声をかけてきた。
「あいつらは私の知り合いだ。目的は私だってんだろ?なら私がどうにかしてみせるよ」
「知り合い…というのは間違いないんだな?
なら奴は本当に、お前の使い魔なのか?」
仮面の男の問いに、土くれのフーケは無言で頷いた。
「……ならばここはまかせよう」
にわかには信じがたいが、当の本人であるフーケが言うのだから間違いはないのだろう。
もちろんフーケも嘘をついている可能性はある。しかしもしそうだったとしても、フーケには何のメリットも無い。
このままにしていても、使い魔と主という関係上…主人であるフーケ側のこちらにはなにも不利益なことは無いはずだ。
フーケのみを信用しなくてはならないというのは、少しばかり苛立たしいが、今はそうするしかない。
仮面の男はそう判断した。
「そっちも何か言いたいことがあるようだけど、こっちにも言いたい事はある。
取り敢えず、表に出て話をしようじゃないか」
「リン、そしてサイト」と付け加え、土くれのフーケは出入り口の前に立って目で誘導した。
フーケに続いて酒場の外へと出て行くサイトとリン。その3人を、酒場にいる者達は、黙って見送ることしかできなかった。
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翌日、宿泊した宿の酒場で目を覚ましたミラは、ラ・ロシェールの街をぶらついていた。
昨晩は酒を嗜んでいたワルド達につられ、ミラもご馳走になっていたのだ。
しかし元から酒には余り強くなかった事も重なり、人間体のまま飲んでいた為か、どうやら酔いが回って酒場で眠りこけてしまったらしい。
そのままでは酒場の店員にも迷惑がかかるので、ルイズ達はミラを起こし、部屋に連れて行こうと努力はしたのだが、眠っているところを起こされて不機嫌なミラに暴れられた為、宿の主人に謝って泣く泣くその場に放置することとなった。
それに関係するのか、今朝のギーシュからは何故か、バーベキューのような香ばしい匂いが漂っていた。
ともかく、そんな事もあったからか、今朝はルイズからの大目玉を喰らい、散々な朝だった。
アルビオンへのフネの出航は、二つの月とアルビオンの大陸の位置関係により、本来は明後日であったが、ワルドが交渉を行った結果、足りない分のフネの動力をワルドの風の魔法で補う事と、最上級の積み荷と同等の金額を払う事を条件に、今日の午後には出版できることになった。
出航時間までにはまだ余裕がある。
なのでミラは、開いた時間を散歩で埋めることにしたのだ。
「空に浮かぶ大陸か…私のいた世界にはそんなものはなかった」
ラ・ロシェールに吹く風をその身に浴びながら、ミラはこれから向かうべき目的地に思いを馳せた。
何か素敵な出会いがありそうだと、今からでも心が踊る。
そんなミラに、二つの影が近づいていた。
その影に気づいたのか、無言のまま振り向くミラ。
「お前が…ヴァリエールとかいう貴族の使い魔か?」
相手は少年だった。おそらくギーシュと同じくらいだろう、錆びた剣を背負う少年が、こちらをまっすぐ睨みつけていた。
「いかにも、私はルイズ・フランソワーズの使い魔をしている」
ミラは答えた。
同時に目の前の少年が剣を抜く。ミラも応戦するように身構えた。
「俺の名前はサイトだ。悪いがここで、倒れてもらう」
堂々と名乗りを上げるサイトであるが、対する白い髪の青年…リンは明らかに動揺を示していた。
「まったく…安請け合いするべきではなかったな、奴らもとんでもないものに手を出したものだ」
ミラボレアスは目を細めながら、自分の前に立ち塞がる二人を睨みつける。口からは威嚇するかのように炎が漏れ出ていた。
「理由は分からんが…それは私に、戦いを挑むということか?」
不気味な赤い目を向けられ、リンは一歩後退した。
しかしサイトは恐れない。それどころか、より一層威勢を増してこう答えた。
「その通りだ‼︎」
答えを聞き、ミラボレアスは一瞬目を見開いらくも、直ぐにニヤリと白い歯を見せた。
「まったく人間というのは…やはり馬鹿な生き物だな」
ミラボレアスは一歩踏み出した。
その体からは、景色が歪んで見えるほどに熱気が放たれる。
「いいだろう、ならばかかってこい人間。
望み通り、潰してやる」
その場の空気が一変する。
しかしミラボレアスは気づいていない。
今この時に、自分の主であるルイズに危機が訪れていることに。
評価も低くなってきたし、もう誰もあんまり見ていないだろうと思って後回しにしてましたが、「続きはまだか」というコメントを頂き、「そこまで言われたらやるしかないだろう」と、頑張りました。
今後も、できるだけ早くできるように頑張ってはみます。