ゼロの黒龍   作:無想転生

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かなり時間がかかりましたが、今回は何と15000字以上!
今までの平均がだいたい4000字だったので、いつもの四倍近くはあるというわけです。
存分に楽しんでいってください。





青銅の意地

空は晴天、暖かな日差しが振り落ちるヴェストリ広場で、ミラボレアスの心は高揚していた。

 

ここで今行われているのは決闘。

一方はギーシュ・ド・グラモン。ここトリステイン魔法学院におく“青銅”の名を持つ土のドットメイジ。

この決闘を申し立てた本人である。

 

対するは平民の使用人、ミラボレアス。

多くの者達からはただの平民と思われているが、その実態はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの召喚した黒龍そのもの。

戦おうと思ったものなど皆無のため、その実力は未知である。

 

「決闘なんてすぐにやめなさい」

ミラボレアスの主人であるルイズが牽制に入った。この決闘は主の意図に逆らうものなのだ。

 

「しつこいぞ、これは私の決闘だ。部外者に口を挟まれるいわれはない。

例えそれが主でも然りだ」

依然として拒否を続けるミラ。興奮でギラギラと燃えるように光る目には、ルイズの姿すら写っていない。

 

「それに周りの者達もこの決闘を待ち望んでいるのでな、決闘相手だって黙ってないだろう。

何より私自身がこの決闘を求めている」

と、そう気味の悪い笑みを浮かべながら話すミラに、ギーシュも割り込んで続けた。

 

「その通りだルイズ。今更決闘をやめるなんて僕が許さない。

彼は平民のくせに貴族である僕に対し無礼を働いた。だが安心したまえ、今この場で謝るのなら許してやらないこともない」

 

「無用だ、是非ともこのまま続けて欲しいと思っているくらいだよ私は」

そんなギーシュの言葉を、ミラは鼻で笑って一蹴した。

 

「つくづく無礼なやつだな君は…

まぁいい、感謝するんだねゼロのルイズ。躾が行き届いていない君の代わりに、僕が教育しておいてあげるよ」

ギーシュは薔薇の杖を取り出し腕を大きく振り、決めポーズと言わんばかりにそれをルイズとミラに向けた。

 

「・・・・・」

それに対しルイズは何も言わなかった。

ただギュッと握りしめられた拳を、怒りでワナワナと震わせるだけだった。

 

(ゼロ…!せっかく助けてあげようと思ったのに…

もういいわ…)

ルイズは冷たい目をギーシュに向け、そのまま黙って観衆の元へと下がった。

その顔は真っ赤に熱を持っている。調子に乗ったギーシュを、ルイズは見放したのだ。

 

「ちょっと、止めなくていいの!?」

 

「いいのよ」

キュルケが口を挟むも、ルイズは冷たく吐き捨てるだけだ。

 

ギーシュの身を守るために行ったルイズの静止を、ギーシュは「ゼロ」という彼女への蔑称により裏切った。

敵の真実も知らなければルイズの考えなど、もちろんギーシュにはわからない。怒りで感情の高ぶる彼のこの発言は、当然とは言いたくないが、彼がプライドの高い貴族ということを考慮すれば仕方のない事なのかもしれない。

 

しかしそれを言われた本人である、ルイズが仕方のないなどと言えるだろうか?

答えは否、そんな事は第三者だからこそ言えることだ。

ルイズにはもう、そこまでしてこの決闘を止める気など無くなった。

 

あれでも自分の使い魔だ。ギーシュを殺したりはしないだろう。

怪我はするだろうが、この学院の優秀なメイジに治してもらえばいい。少しは痛い目にあえばいい…と、ルイズは心の中で思った。

 

「さてと、君の主も引き下がってくれたようだし、早速決闘を始めようじゃないか。

当然ながらメイジである僕は魔法を使わせてもらう、文句はないだろう?」

 

「あぁ、そうこなくては面白くないからな」

 

「ふん…そんな口がいつまで叩けるかな…」

ギーシュは杖を空に掲げた。

それが何を意味するのかは、この場にいる全員が何と無くだが直感で理解できた。

この杖が振り下ろされた瞬間が、決闘の始まりだ。

 

そして今、杖が振り下ろされた。

 

同時にギーシュの薔薇の杖から、一枚の花びらが地面に舞い散る。

そこから生み出されたのは、青銅で作られた女性用の鎧だ。

 

「ほう…何もない場所から突然…これがメイジの魔法というやつか…」

素直に感心したようなミラの声だ。

 

しかし一体…あの鎧の様な物で何をするつもりなのだろうか?

ミラは自分がこれまでに戦ってきた人間達を思い出す。

確かそれぞれが鎧に身を包み、その手に持つ武器を使って戦っていた筈だ。

ならばギーシュは、自分が作ったあの青銅の鎧を身に纏って戦うつもりなのか?

 

そう思い迂闊に近づいたのが間違いだ。

近づいた次の瞬間、青銅の鎧が突然動きだし、強烈なパンチを繰り出してきたのだ。

不意をつかれたミラの腹に、そのパンチが勢い良く突き刺さる。

 

ギーシュの攻撃がもろに当たり、周りから歓声が上がった。

 

「言い忘れていたが、僕の二つ名は“青銅”でね、従って君の相手は青銅のゴーレム、『ワルキューレ』が相手をするよ」

ギーシュは自慢気に杖を弄びながら、どうだと言わんばかりの顔でミラを見た。

自分が圧倒的有利に立っている、だからこその余裕を持った表情だ。

 

対するミラはほんの少し眉根を寄せ、攻撃が直撃した腹を片手で抑えていた。

その仕草が、観衆やギーシュから見れば攻撃を受けて辛そうにしていると思われているのだが、実の所大したダメージなど受けていなかった。その口からも「やはり人間の姿では戦いにくいな…」としか出ておらず、今の攻撃によるダメージや痛みなど一切口にしていない。

 

「まぁ、少し試しながら戦えばいい話だ」

ミラはニヤリと笑って、腕をコキリと鳴らした。

 

「まだ戦うのかい?さっさと降参して謝ればいいものを…」

 

「心配には及ばない、まだまだやれるさ」

 

「そうかい…なら遠慮なく仕掛けさせてもらうよ!」

ギーシュの振る薔薇の杖に従い、ワルキューレが再び攻撃を仕掛けた。

 

ワルキューレの青銅の拳は重い、人にぶつければ簡単に悶絶させるほどだろう。

何よりワルキューレには感情も痛みもない、だから主の命令があれば何度でも、何の躊躇もなく拳を振るうことができる。

 

ギーシュの杖が何度も空を切る、一撃、ニ撃、三撃と、何度もその拳はミラへと叩き込まれた。

「早く降参したまえ!でないと君の体がもたないぞ!」

 

ギーシュが叫ぶが、返ってきたのは嘲笑うかの様な笑みだけだ。

 

「そうか…」

ワルキューレが大きく拳を振りかぶった。

ギーシュは冷徹な目で、杖をミラに突きつける。

 

「決闘には怪我くらいつきものだ、文句はないだろう?」

今日一番、さっきよりも更に勢いのある拳がミラに襲いかかる。

並の人間ならば一撃でKOされるレベルの打撃だ。

 

ただ…

 

「何っ!?」

ギーシュは驚愕した。いやギーシュだけではない、その場にいる真実を知らない者達全員だった。

 

確かに青銅の体は頑丈かもしれない、しかし所詮は青銅…

鋼よりも硬いミラボレアスの強度に勝てるわけもなく、その拳は意図もたやすく片手で防がれた。

「なるほど…まぁやはり少し劣るが、そこそこだな」

ミラはそのまま万力の力でワルキューレの拳を握り潰し、左足でワルキューレを蹴り飛ばした。

 

ギーシュは呆然とした表情で後ろに倒れるワルキューレを眺めた。

あり得ないことだ、ゴーレムであるワルキューレの体重がどれだけあると思う?それを蹴り飛ばす…ましてや握り潰すなど…できるわけがない。

ふと我に帰ったギーシュは、ワルキューレがまだ動くことを確認して、ミラを見た。

 

「正直驚いたよ、まさか君がここまで馬鹿力だったとは…」

ギーシュの表情がいっそうに険しくなった。

 

「だが今度は、そうはいかない!」

ギーシュの薔薇の花びらがワルキューレの腕を包んだ。

すると、さっき破壊された部分が修復され、その手には槍が握られていた。

 

その槍を見た観衆がザワザワとざわめく。

武器まで使い始めた、それだけギーシュも本気なのだ。

 

「武器…か…いいぞ!やはり人間は武器を使ってこそだ!」

ミラボレアスには、槍を構えるワルキューレの姿が、元の世界で戦ったハンター達の姿と重なって見えた。

ミラボレアスのテンションは更にヒートアップしてゆく。

 

その心情に反応したのか、ミラボレアスの左手のルーンが突然輝き始めた。

「何だ?」

 

瞬間、ミラボレアスの頭に電流が走った。

 

これがこのルーンの力なのか……技が、技術が、ミラボレアスの頭の中に流れ込んできた。

そしてルーンの輝きの趣くまま、ミラボレアスは左手を掲げた。

 

左手に刻まれたルーンの名は…『ガンダールヴ』。

 

その左手に現れたのは、一振りの黒い短刀。

その右手に現れたのは、頑強な黒い盾。

 

古龍の先住魔法とガンダールヴ…二つの力が黒い騎士を生んだのだ。

「ほう…これは面白い…」

ミラボレアスは興味深げに現れた盾と剣を眺めた。

 

同時に思い出すは、ハンターとの戦い。ミラボレアスはこの盾と短刀に見憶えがあった。

ミラボレアスの黒い鱗には…その強度には秘密がある。それはハンターとの戦いで勝ち取った武具に関係する。

 

ミラボレアスは倒したハンターの防具や武器を住処に持ち帰り、己の炎によって溶岩の様に溶かすのだ。

その溶けた武具を、自らの鱗と同化させ、屈強な鎧を作り上げている。

 

そう、今ミラボレアスの手にしている武器は、その方法によって我が身の一部にした数多の武具の一つなのだ。

 

「何だその剣は!?どこから出した!?」

 

「さぁな…これについては私自信もよくわからん」

そう、ミラ自信もよくはわかっていない。ルーンによって突然舞い降りた知識だからだ。

ミラは一瞬だけ手に持っている短刀を見つめ、すぐに視線をギーシュに戻した。

 

「ただ何と無くだがわかることもある。

それはこれの出し方と、これの扱い方だ」

ミラはダッシュした。左手に持つ短刀を握りワルキューレに切りかかった。

そう、ミラにはわかるのだ。人間の道具だが、自分は今までに一度も使っていないが、使い方が頭の中に入ってくる。

 

ミラの斬撃は、ワルキューレの肩の部分を切り落とした。

ミラはドラゴンだ、当然剣など一度も扱ったことのない、ド素人と言ってもいい。普通、素人にこんな芸当などできるわけもない、青銅どころか、りんご一個切り落とすことだってできないだろう。

ガンダールヴの力は剣を操れるようになるだけではなく、その使い手を達人レベルにまで引き上げるようだ。

 

「くっ」

ギーシュは負けじと杖を振った。

指示を与えられたワルキューレはミラの横に回り込み、槍を突く。

 

槍がこちらに向けて飛んできた。それを見た瞬間、ミラは反射的に、まるで操られているかのように素早く盾で槍による打突を防いだ。

そしてそのまま、流れるような動きで剣を振った。

 

横一文字に振られた短刀は、ワルキューレの胴体を捉え、真っ二つに切断した。

 

「武器を持って相手を切るか…この私がまるで、人間のような戦い方だな」

ミラはフッと笑い、地面に転がるワルキューレを眺めた。

 

「………っ」

対するギーシュは大いに動揺している。

まさか決闘を挑んだ敵が、ただの平民だと思っていた敵が、これほどにまで強かったとは。

 

だが自分はまだ全力を出していない、そのことがまだ、ギーシュに僅かながら余裕を与えていた。

 

「お互い肩慣らしはこれくらいにしようじゃないか、青銅のメイジよ。

さぁ、次は何をしてくれる?何を見せてくれる?そろそろ本気で来いよ」

ミラは笑みを浮かべなから、盾を持っている方の手でクイクイと、挑発するように手招きした。

 

「そうだね、ではご希望に答えて、本気で行かせてもらうとしよう」

ギーシュは薔薇の杖を大きく振った。

杖先から複数枚の薔薇の花びら飛び散り、やがてそれが地面に舞い落ち、七体のワルキューレを作り上げた。

 

「今度は七体だ。七体のワルキューレが相手になる。

あぁ気をつけたまえ、もちろんワルキューレ全員に武器を持たせてある」

正面にワルキューレ達を並べて自慢気に語るギーシュ。

さっきの七倍の戦力だ、目の前にいるミラは驚かない筈がない。

そして今後悔している筈だ。恐れ多くも貴族に無礼を働き、絶対に勝てない決闘を受けてしまったことに。

やっとあの、薄気味悪い笑みを浮かべて、生意気な口ばかりたたく平民を黙らせることができた。

そう思ってチラリとミラを見たギーシュだったが、その顔を見た瞬間、体が硬直した。

 

どんな顔をしていたか。

依然と変わらず笑みを浮かべていた…?

いや違う。

 

冷めていた。

その顔は酷くガッカリとしたように、呆れ果てていたのだ。

 

「聞こえなかったのか?私は本気で来いと言ったんだ。

まさかとは思うが…その程度で全力ということはないだろう?」

 

「「その程度」…とはよく言ったものだ。

さっきの七倍もの戦力だぞ?さっきだって苦戦したくせに、少し武芸に富んだ程度でこの七体のワルキューレを突破できるとでも?」

自分の全力の魔法を馬鹿にされてイラつきを見せたギーシュは食ってかかるように言い返した。

 

対するミラはわざとらしく大きなため息を吐いた。

その反応が更にギーシュをイラつかせる。

 

「逆に聞くがお前、本気で…私が全力で戦っていたと思っているのか?」

冷たく光る赤い瞳がギーシュの姿を写した。

ギーシュはその目に、口では言い表せない恐怖を感じた。

 

「ガッカリだよ、お前には。

大口を叩くからどれほどのものかと思えば…そんな人形が七体揃ったところで、烏合の衆にもなりやしない」

そう言ってミラは後ろを向いた。

 

「やめだ。

こんな決闘を続けても暇つぶしにすらならん」

心底つまらなそうに、ギーシュに背を向けたまま、ミラは何処かへ去ろうとした。

 

「まて!」

しかし当然、ギーシュがそんなことを許すわけがない。

自分は貴族なのだ。決闘において、魔法すらろく使えない平民に、自らの誇る二つ名である青銅の魔法を侮辱されたのだ。我慢などできるわけもない。

 

ギーシュは背中に、何故か走る奇妙な悪寒を払いのけ、ミラを挑発した。

「暇つぶしにもならないだと?誤魔化すならもっとましな誤魔化し方を考えろ!

本当は自信がないだけなんだろ!?これだけの数を相手に…僕の魔法に勝てる気がしないだけなんだろ!」

 

しかしミラには何の反応も見られない。ギーシュの挑発に対しても、ほんの僅かな怒りすら抱いていなかった。

ただただ、依然として変わらない冷めたい視線をギーシュに向け、大きな溜息を吐くだけだった。

 

そしてその態度は、ギーシュのプライドを更に刺激することとなった。

 

「いいだろう…」

我慢の限界が来た。

今のギーシュにはもう、目の前の生意気な平民を潰すことしか頭になかった。

 

「そこまで言うのなら、僕の魔法を…!7体のワルキューレの猛攻を!その身を持って受けてみるがいい‼︎」

ギーシュは怒りのままに、槍を携えた7体のワルキューレでミラに襲いかかった。

 

7体のワルキューレはガシャガシャと激しい音をたて、ギーシュの怒りを体現するかのように、荒々しく槍をミラに突き立てる。

 

ワルキューレとミラの距離は、後僅か数サント…次の瞬間、このヴェストリ広場にボロボロになって崩れ落ちる平民の姿が現れるだろう。

 

……そう確信していた者達には、何が起こったかなど、まったくわからなかった。

もちろん、ギーシュも含めてだ。

 

 

突然、目の前が紅に染まった。

そしてその直後に、肌に強烈な熱が襲いかかった。

 

この現象を理解するのに、一体どれだけの時間がかかったか…いや、現実的にはほんの数秒ほどのことだろうが、感覚的にはその数十倍の時間が経過したように感じた。

 

……炎だ。目の前が紅蓮の炎に覆われている。

ギーシュはその炎を目の前に、ただただ呆然としていた。

何が起きたのかわからない、炎の熱など感じないほどに気が動転していた。

膝から地面に崩れ落ち、杖を落としたまま炎を眺めていた。

 

「何だ…これは…」

ギーシュは自然と漏れ出た自分の声で正気を取り戻した。

同時に襲ってくるのは、炎から発せられる高熱。それがギーシュの肌にヒリヒリと突き刺さった。

 

不思議なことに、炎の熱で熱いはずなのだが、内面…体の芯はつららを突っ込まれたかのように冷たく凍えていた。

 

身震いがするほどの冷えの正体は…恐怖。

ギーシュの視線は目の前の黒い影に釘つけになっていた。

 

「やはりこんなものか…つまらん」

ミラは炎の反射で更に紅く光る目で、炎に焼き尽くされドロドロに溶けたワルキューレを眺めた後、見下すような視線をギーシュに向けた。

 

「・・・・・」

ギーシュはもう何も言わなかった。と言うより、何も言うことができなかった。

ギーシュの目には、さっきまで見下していた筈の平民が、途方もない遥か怪物に見えていたのだ。

 

「始めは、お前が私をただの平民だと思って侮っているから、しょぼい魔法しか使ってこないのだと思っていたが…どうやらそうではなかったらしいな」

ミラボレアスがギーシュに話しかけるが、ギーシュの耳には届いていない。

必死に目の前にいる、炎を纏った化け物から逃げるために足をバタつかせているからだ。

 

「・・・・・」

ミラボレアスもこのままでは話が進まないと思い、腕を横に振って炎を消し去った。

 

炎が消えたことで焼け焦げた地面や、ワルキューレの残骸やほんのりとした肌寒さがその場に残った。

 

急激な温度の低下により、ギーシュの精神にもほんの少しだけ冷静さが取り戻された。

しかしミラボレアスに対する恐怖はまだまだ残っている。

 

「そんなに怖がるな…何もしやしないさ」

ミラボレアスが優しげな口調でギーシュに語りかけた。

 

「もっとも…これは決闘だ。

だからこれ以上お前が応戦すると言うのなら…その身は保証できんがな」

 

「その通りよギーシュ。もうやめておきなさい」

ミラボレアスの言葉に続き、ルイズが広場の中心へと進み出た。

見捨てようとも思ったが、やはり完全には見捨てることはできず、戦いの差中も杖だけはしっかりとその手に握られていた。

それが彼女の表には出さない優しい所なのだろう。

 

「……ルイズ…一つ聞きたいことがある…」

ギーシュは未だ尻餅をつきながら、ルイズに自分が抱いている疑問を問いた。

 

「僕が今決闘している相手…こいつは一体…何なんだ…?」

何故“誰”ではなく、“何”と尋ねたのかは自分でもわからなかったが、おそらくルイズに聞けば何かがわかるはずだ。

そしてルイズの口から出てきた言葉は、自分の想像していたものよりも更に衝撃的なものだった。

 

「…こいつは私の家の…ヴァリエール家の使用人なんかじゃ断じて無いわ…

こいつは私の使い魔よ!こいつの正体は、あの日私が召喚した黒龍なのよ!」

 

その言葉を聞いた瞬間、見物人達とギーシュの心が大きくざわついた。

ルイズの召喚した黒龍の話はここにいる全員が知っている。中には目の前で直に見たり、召喚した現場を目撃した者達だってもちろんいるだろう。

そしてその全ての者達が、その生物の危険性について直感していた。

 

ほとんどの者達が一斉に顔を青くし、その場から大きく後ろに下がった。

 

注目の的になっている本人であるミラボレアスは何も言わなかった。

ただ残念そうに…少し悲しげな表情で周りを眺めるだけであった。

 

一方、目の前のにいるのが、そんな危険な存在だったと知ったギーシュは大いに震えていた。

今まで、闘いの差中ででも疑問に思っていた僅かな恐怖が、確信的で大きなものに変わった瞬間だ。

 

敵はあの龍…あの時ルイズが召喚した恐ろしい龍。

あの時は自分もその現場にいた。あの時感じていたものは勘違いとかでも、考え過ぎだとかでも断じて無い。

紛うことなき現実だ。

実際についさっき、トライアングルクラスの炎でワルキューレを焼き払ってみせた。

 

勝てるわけが無い。あんな化け物に。

 

さっきルイズが「もうやめておきなさい」と言っていた。

言われるまでもない、こんな闘い…負けるとわかっている闘いなど、続けていても意味がない。

相手はこれ以上応戦しなければ何もしないと言っているんだ、従おう。

そうだ、こちらから何もしなければこのまま無事に帰ることができる。

 

そんなことを考えながら、ギーシュはふと後ろを向いた。

後ろを向いたギーシュの視線に、ある人物が写った。

 

その人物と言うのが…他でもない、この決闘の原因とも言える人物であり、ギーシュの思い人である、モンモランシーだ。

ミラボレアスを恐れて後ろへ下がった観衆に逆らい、一人残ってギーシュを心配そうな眼差しで見つめていた。

 

実の所、ギーシュが本当に一番に愛していたのは、このモンモランシーだ。

つい魔が差してしまい、かわいい一年生の後輩に手を出してしまったが、ギーシュはモンモランシーのことをいつも一番と心に思っていた。

ミラに対する怒りだって、二股をバラされたことよりも、モンモランシーの香水を割られたことの方がずっと大きい。

 

ギーシュは思った。そんな大切に思っている女性の見ている前で、自分は何をしているのだろう?…と。

相手はただの平民だと思って、息を巻いて決闘を挑み、相手の本当の実力を目の当たりにした瞬間、情けなく相手に首部を垂れる。

そんな自分の姿を見て、一体彼女はどう思っているのだろうか…

いや、彼女のあの表情を見る限り、おそらくは自分のことを本気で心配してくれている。

このまま戻っても彼女は喜んで迎えてくれるかもしれない、二股のことも有耶無耶にできるかもしれない。

 

だが…本当にそれでいいのか?

愛している女性の前で…誇り高き貴族である自分が…本当にそんなことでいいのか?

 

いや…いいわけがない!

 

ギーシュは自らの尊敬する人物である、父の言葉を思い出した。

「命を惜しむな、名を惜しめ」

この言葉の先にあるものこそが、ギーシュの求めている、理想の貴族像だ。

 

そうだ!

敗色濃い難敵にも!全身全霊をもって戦い抜く!

それが自らの掲げる理想の騎士道であり、なるべき貴族だ!

 

ギーシュはガクガクと笑う膝を押し殺し、震えながらも、しっかりとその足で地面に立ち、精一杯の威勢を絞り出し、杖を構えてミラボレアスにこう言い放った。

「舐めるなよ化け物‼︎僕はグラモンの血を引く、青銅の名を与えられしメイジ!ギーシュ・ド・グラモンだ‼︎

その血と名にかけて!全力で貴様と闘ってやる!!!」

 

ギーシュの目はメラメラと燃えていた。

もうさっきまでの貧弱な自分ではない。自らの目指すべき貴族の姿に、確実に近づいている!

その確固たる自信が、ギーシュに化け物と闘う勇気を与えていた。

 

そんなギーシュの決意の言葉に場にいる全員が驚いた。

中には感動を覚えるものもいる、中には「正気か?」と言う声も聞こえてくる。

モンモランシーも悲痛な顔で「やめてギーシュ‼︎」と叫んでいる。

 

それでもギーシュは一切迷わずに、まっすぐミラボレアスを見つめた。

 

「力の差は明らかだ、勝ち目など無い、それでも私に挑んでくると言うのか?」

ミラボレアスがギーシュに問いた。どことなく、少し嬉しそうに見える。

 

「それがどうした!力の差が何だ‼︎ただ立場が逆転しただけだ‼︎

…僕は、君の言うとおり…君がただの平民だと思って油断していた…

でも実際は逆だった。弱者は僕で、強者は君だった…それは認める…

だが!僕は逃げない!それは僕が、誇り高き貴族だからだ‼︎

あぁ!闘ってやるさ!来いよ化け物‼︎せめて一矢報いてやる‼︎」

 

それは揺るぎ無い目だった。

覚悟を決めた人間の目だった。

 

ミラボレアスはこの目を何度も見たことがある。そうだ、この目はハンター達と同じ、強い人間の目だ。

 

「その目を待っていた…」

ミラボレアスは大いに笑った。

 

十数年…自らの生きてきた時間と比べれば大したことは無いかもしれないが、なぜかとても懐かしく思えた。

 

久しく見なかった強い目だ。

ミラボレアスは愛しそうにギーシュを眺めてこう言った。

 

「よく言った!ギーシュ・ド・グラモン!見直したぞ!

…フフフ…さっきの言葉は撤回しよう。

そして決闘のルールを変えようじゃないか」

ミラボレアスは溢れ出る喜びの感情を抑えながら、ギーシュに自分の提案を突きつけた。

 

「たった一度、かすり傷でもいい、一度でも私に傷を付けることができればお前の勝利だ。

いいか?これは決してお前を侮っているからとかでは断じて無い。

お前も認める通り、私とお前の力の差は明白だ。これくらいしなければ決闘とは呼べない。

…もとよりお前も勝てはしなくとも、一矢報いるくらいはしてくれるつもりなのだろう?」

 

一見、相手を馬鹿にした提案だと思うかもしれない。

しかしギーシュにはわかっていた。

さっきまで自分と闘うことすら嫌っていた相手が、本気で自分を認めていることに。

 

むしろギーシュには喜ばしいことだった。

 

「いいだろう、それで受ける!」

ギーシュは快くそれを承知した。

 

「ギーシュ!」

声の正体はモンモランシーだ。

彼女は慌ててギーシュの元へと駆け寄った。

 

「お願いやめて!あなたに勝てるわけない!」

モンモランシーがギーシュの前に立ちふさがり、必死に決闘を辞めるように懇願した。

その目には涙が浮かんでいる。

 

「モンモランシー…それはできないよ」

ギーシュが優しい口調で首を振った。

 

「どうして!?このまま続けたらあなたがーー」

 

「そう言えばモンモランシー…情けない話、君から貰った香水を割ってしまってね…もし今持っているのなら…よかったら、その…今僕に一つだけ譲ってくれないか?」

ギーシュがモンモランシーの言葉を遮ってそう言った。

 

「香水なんて今はどうでもいいじゃない‼︎そんなの後で何個だって作ってあげるわよ‼︎

だからお願い…!手遅れになる前に…負けを認めてよ!」

モンモランシーは心の底から叫んだ。

ギーシュが彼女を思っている通り、彼女もギーシュのことを思っているのだ。

 

ギーシュは、自分が彼女にこれだけ心配されていることに素直に喜びを感じていた。

だけど彼女の願いには、どうしても応えることはできそうにない。

 

ギーシュはモンモランシーの言葉を聞いてもただ、「すまない、モンモランシー」と笑いかけるだけだった。

 

そのギーシュの顔を見て、モンモランシーは諦めた。

ギーシュの覚悟を優先したのだ。

 

モンモランシーはギーシュの手に自分が使っていた香水を握らせ…

「絶対無事で帰ってきて」とだけ言い残し、元の場所に戻った。

 

「ありがとう、モンモランシー」

ギーシュは大事そうに香水の小瓶を胸に握り、一言モンモランシーにお礼を告げた。

 

「さぁ、始めよう」

ギーシュがまっすぐミラボレアスを見てそういった。

 

「あぁ、そうだな。

…今なら楽しめそうだ」

ミラボレアスはニヤリと笑って、片手に剣を出現させてギーシュに切りかかった。

 

ギーシュも同時に動いた。

杖先から舞い落ちた一枚の花びらから、一体のワルキューレが瞬時に作り出された。

 

(早い‼︎)

ミラボレアスは驚いた。

ワルキューレを作る早さだけではない、ワルキューレの強度、動きのキレ、その速度、全てにおいて先ほどよりも格段に上がっている。

 

「やはり人間は面白い」

ギーシュの確かな成長に、ミラボレアスは嬉しそうに呟いた。

 

しかしそれでも、ワルキューレはミラボレアスの圧倒的な戦闘力とガンダールヴの力の前には歯が立たず、やはり容易く破壊されてしまった。

 

(やっぱり、正面から挑んでも勝ち目はないか!)

そう確信したギーシュが一歩後ろへ下がり、錬金により地面から多量の土煙を発生させた。

 

(視覚を奪ったか…無駄なことを…私は人間ではなく龍だ。

これ位、目が見えなくとも臭いで位置は特定できる)

そう思い嗅覚を研ぎ澄ませるミラボレアス。

しかし至る所から漂うある臭いが原因で、ギーシュの位置が特定できなくなった。

 

「!?」

困惑するミラボレアスの背後からワルキューレと瓦礫が襲いかかった。

 

「チィッ!」

ミラボレアスは瞬時に背後を振り向き、ワルキューレを切り倒し、飛んできた瓦礫を盾で防いだ。

 

「僕の魔法はワルキューレだけじゃない!

ワルキューレと、錬成により無限に生み出されるこの瓦礫による二段構えの攻め、加えてこの視界だ。攻撃を避けるのは困難だろう?」

ギーシュの声が濃い煙の中から聞こえてきた。

 

「確かにな…私とて見えない場所からの攻撃は驚きもする、たがそんなことよりも驚くべきことは、お前の臭いがまったく無いことだ。

いや…無いと言うよりは紛れてよくわからないと言うべきか」

 

「君の正体がドラゴンだと聞いた時点で、嗅覚が優れていることは想定できたさ。

…モンモランシーには感謝しないといけないな」

 

「‼︎…なるほど…この臭い…あの小瓶から僅かに漏れ出ていたものとそっくりだ」

 

ギーシュの作戦を簡単に説明するとこうだ。

錬金の魔法により、絶え間無く常に土煙を出すことによってミラボレアスの視覚を潰し、自分とワルキューレに香水をつけて自分の臭いを消しつつ分散し、自分の居場所と攻撃地点を完全に隠す。

相手に傷をつければ勝ち。つまり、確実に相手に攻撃を当てることが求められるこの決闘においては、正に効果的な作戦だ。

 

「見えもしなければ臭いもしない…おまけにワルキューレの足音しか聞こえん…

やつめ、動いていないのか?いや、そう言えば飛べたんだったな」

そんなことを言いつつも、ミラボレアスは飛んできた瓦礫を躱し、足でワルキューレを砕いた。

 

しかしこの作戦には致命的な欠点がある。

それはごく単純、ギーシュ本人にもミラボレアスの位置を完全には把握できていないという点だ。

ミラボレアスがギーシュの姿を見れないのと同じく、ギーシュだってミラボレアスを見ることはできない、当然の話だ。

 

視覚を遮られ、無駄に暴れるミラボレアスの物音を聞き取ってようやく位置を特定している程度。

しかしギーシュの聴覚がそれほど優れているというわけではない、魔法の補助でようやくといったところだ。

それでも殆ど感で攻撃しているようなもの、最初の攻撃もまぐれである。

 

しかもミラボレアスの表皮は硬い。

そんな攻撃でミラボレアスに傷をつけるなど、殆ど無理と言ってもいい。

 

そんなことなどは頭には無かったが、ミラボレアスには手っ取り早やくギーシュを攻撃する、ある方法があった。

 

「面倒だ、一網打尽にするか…」

それは…圧倒的火力による全体攻撃。

言ってしまえば、「見えないのなら全部焼き払えばいい」という、シンプルな答えだ。

 

ミラボレアスの炎が、再びヴェストリ広場を包んだ。

観衆は息を飲んだ。特にモンモランシーなど、気が気でなかった。

 

一通り焼いた後、ミラボレアスは自ら炎を消火した。

辺りにはワルキューレの残骸が転がっており、地面は更に黒く焼け焦げている。

ギーシュの姿は…無い。

 

「さっきよりは幾分抑えたつもりだが、人間の体では耐え切れずに焼失したか?」

 

その言葉に、モンモランシーは今にも泣き崩れそうになった。

 

だが一部の者達は思った。

いくら何でも、骨まで完全に焼失するものだろうか。

 

瞬間、ミラボレアスの背後で一体のワルキューレが立ち上がった。

 

「何ッ!!?」

 

いや、よく見れらばただのワルキューレではない。

そのワルキューレにはギーシュが身を潜ませていた。

 

「木を隠すには、森の中ってね!」

そう!ギーシュはワルキューレの中に潜むことで身を隠していたのだ!

あらかじめ半分欠けた状態でワルキューレを一体作り、地面に転がるワルキューレの残骸に紛れていたのだ。

土煙で視界を奪ったのも、臭いを分散させたのも、位置を捉えさせなかったも、あまり効果の無い攻撃を続けていたのも全てフェイク。

全てはこの…至近距離から全力の攻撃を食らわせる為のものだった。

 

「これで!終わりだー!!!」

そして今、ギーシュの攻撃がミラボレアスの顔面を捉え、攻撃を受けたミラボレアスは背中から勢い良く地面に倒れた。

 

だが…

 

「ククク…通りでワルキューレの足跡しか聞こえなかったわけだ。

だが残念だったな、このくらいでは私は戦闘力不能になりはしない」

ミラボレアスが笑みを浮かべながら立ち上がった。

 

「いや、もう終わりだ。

自分の額をよく確かめてみるがいい」

 

「?」

ミラボレアスは額から、何か生暖かいものが垂れ落ちたのを感じた。

それが何かを確認するため、ミラボレアスは指で鼻筋をそっと撫でた。

 

「なにッ!!」

手についていたのは赤い液体…そしてこの鉄の臭い、間違いない、血だ。

ギーシュの攻撃を受けた額から、一筋の血が流れていたのだ。

 

「君に傷をつけた。これでこの決闘は僕の勝ちだ!」

ギーシュがミラボレアスを指してそう宣言した。

 

「………なるほど…人間の姿というのは不便だな…

……まぁいい…こっちから言ったことだ、認めよう」

暫く呆気に取られたような顔をしたが、すぐに気を取り戻し、ミラボレアスは拍手しながらこう言った。

 

 

「名残惜しいがここまでにしよう。私の負けだ」

 

 

その言葉を言い終わってから数秒たった後、ドッと大きな歓声が湧き上がった。

 

「本当に勝ちやがった!」

 

「凄いぞギーシュ!」

そんな声が観衆の中から聞こえてくる。

 

そんな観衆達の祝福の声を浴びながらでも、ギーシュの目は一人の少女をまっすぐ見ていた。

 

「モンモランシー‼︎

約束通り、僕は無事に君の元へ帰ってこれたよ」

 

「何が無事よ‼︎体中傷だらけじゃない!

そこら中に煤だってついてるし……

本当に…心配させないでよ…!」

モンモランシーがギーシュに迫り、涙声で怒鳴った。

 

「本当にごめんよモンモランシー…そしてありがとう、君の香水のおかげで僕は勝つことができた」

モンモランシー…彼女が見ていたから…彼女という存在が、ギーシュを最後まで闘い抜く勇気を与えてくれた。その大きな一つと言ってもいいだろう。

だからギーシュは心の底からモンモランシーに感謝していた。何より、彼女が自分のために泣いてくれていることがこの上なく嬉しかった。

お世辞ではない、実際に彼女の香水は決闘において大変役に立ったのだから。

 

モンモランシーは黙ってギーシュに抱きついた。

一瞬驚いたが、ギーシュも力強く抱き返した。

抱擁する二人の間には、空になった小瓶がしっかりと握られている。

 

「かっこよかったわよギーシュ‼︎」

と、そんなギーシュに、女子生徒達からの黄色い声援が飛んできた。

 

条件反射というのは恐ろしいものだ。

ギーシュは自分の性分を隠せず、たった今モンモランシーと熱い抱擁を交わしていたというのに、デレデレとした表情で手を振りかえしてしまった。

 

ギーシュは背後からの殺気を感じ、サァーッと血の気の引いた青い顔で慌てて振り返った。

背後では鬼の形相のモンモランシーが、体から黒いオーラのようなものを発していた。

「そう言えばギーシュ…あの一年生の…ケティに手を出した事については、まだ何も解決してなかったわよね?

…今からゆっくり話をしましょうか?」

 

「いや、でもモンモランシー…僕は今魔法の使い過ぎでちょっと…」

 

「・・・・・」

 

「何でもないです…」

何とか言い訳をして逃げ出そうとするギーシュだが、モンモランシーの無言の圧力に押され、従順に従うしかなかった。

 

「それじゃあ…“ゆっくり”話をしに行きましょうか」

モンモランシーは先頭をきって城に戻って行った。

 

「とりあえず勝利おめでとう、青銅のギーシュ。

まさか、お前に負けるとは思っていなかったぞ」

 

話しかけてきたのはミラボレアスだ。

ギーシュは一瞬だけ体を強張らせたが、昨日の敵は今日の友という言葉の通り、決闘で最後まで闘い抜いた相手であるミラボレアスに対する恐怖感も薄れていた。

 

「かなりギリギリだったけどね…もう一回も魔法が使えないってくらい。

それに君が提案したあのルールがあったからこその勝利だしね」

 

「いいや、それでも人間にしてはやる方だ。

感謝する。久しくなかった楽しい時間だった」

 

ギーシュが意外そうに、驚いた顔でミラボレアスを見た。

 

「しかし最後の方は少しあっけなかったな…

そうだ、別の機会にまたどうだ?今度は本気で…」

 

「遠慮しておくよ」

 

「…そいつは残念」

ミラボレアスがクククっと笑った。

 

「何をしてるのよギーシュ‼︎早く来なさいよ!!!」

モンモランシーが城の出入り口から叫んでいるのが聞こえてきた。

声からしてかなりご立腹なのがうかがえる。

 

「…だそうだ。早く行った方が良さそうだな、でないとお前が私につけた傷よりも更に深いものをつけられるかもしれん」

 

「あぁ、その通りだね…」

ギーシュは青い顔でモンモランシーの方へと走って行った。

 

 

「ちょっとミラ」

 

走り去るギーシュ眺めるミラボレアスの背後から少女の声が聞こえてきた。

 

「どうした?我が主ルイズよ」

 

桃色髪の少女の姿が目に入り、ミラは今まで頭の中からスッポリと消えていた自分の主を思い出した。

 

「どうした?じゃないわよ!

あなたは私の使い魔でしょ!?何で主人の許可もなく勝手に決闘するのよ!」

 

「私が闘いたかったからに決まってるだろう」

 

「あんた昨日私に忠誠を誓うとか言ってたじゃない!

と言うか、何でそんな口調なのよ!?」

 

「何でも何も、これが元々の私の話し方だ。

あれは始まりの龍に無理矢理押し付けられた口調だ、だがもう始まりの龍もいない。それに飽きたしな」

 

ミラがニヤリと笑ながらルイズの前に歩み寄り、頭を鷲掴みにしてこう言った。

「私を従えたければもっと強くなるんだな。

せめて…ギーシュくらいまでになれば、ほんの少しくらいなら言いつけを聞いてやらんでもないが…

おっと…“ゼロのルイズ”には難しい話だったか?」

 

ルイズは顔を真っ赤にして怒り、ミラの顔を殴ろうとするが、長い腕に頭を掴まれているのでその腕はブンブンと虚しく空を切るだけであった。

その様子をミラは意地悪そうな目で眺めている。

 

「しかし…そのギーシュも心意気だけは見事なものだったが、実力の方は大したことなかったな…メイジというのはこんなものなのか…

だとしたら少し…期待はずれだ」

 

「メイジの強さはドット、ライン、トライアングル、スクウェアの四つに分かれてるのよ!

ギーシュはその中でも一番下のドット!もっと強いメイジだっていっぱいいるんだから!あんたなんて簡単に倒せちゃうメイジだってね!

っていうかいい加減離しなさいよ‼︎」

ルイズが頭をガッチリと掴んでいるミラの腕と闘いながら言った。

 

「ほう…!

……それはいいことを聞いた」

ミラは明るい顔でルイズの頭を離し、ゆっくりと空を仰ぎ見た。

 

「やはりこの世界に残って正解だったようだな」

 

大空を照らす太陽を薄目で覗きながら、ミラボレアスが心底嬉しそうに呟いた。

 

 

 




あれ?主人公ってギーシュだったっけ?

あといつも細部がだれてしまうんですよね…そこを直していきたいです。
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