ゼロの黒龍   作:無想転生

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時間かかってしまいました。すみません。
しかもこんな、ストーリーにまったくと言っていいほど関わりの無い話に…


番外編《珍味のカニ味噌を追え!》

ミラボレアスはとてもお腹が空いていた。

前日は一睡も寝ていなかったこともあり、決闘後すぐに眠ってしまったのだ。

目が覚めたのは翌朝、そのため夕食を食べそこない、結局あの時(昨朝)の分も決闘のゴタゴタで忘れ去られてしまい、昨日は何も食べていない状態だ。

 

今朝の分はバッチリ食べたものの、自業自得だが二食も抜かされているため、それだけではまったく足りていない。

なのでミラボレアスは今、何か食べられるものを探していた。

 

「腹が減っては戦ができぬと言うしな、何か無いものか…

……ん?なんだこれは…?」

学校周辺の草むらをガサガサと探っていると、何やらよくわからない紙切れを見つけた。

紙切れには《アイルー食券》と書かれており、肉球の形のスタンプが押されている。

 

「よくわからんが、食えなければ意味はないな」

そう言って紙切れを捨てようとしたミラの鼻に、空きっ腹を刺激する美味しそうな香りが突き抜けた。

 

「むっ…!?なんだこの匂いは?いったいどこから漂っている?」

そう不思議そうな顔でクンクンとあたりを嗅ぎまわるミラ。

匂いに釣られてその足は、操られるようにフラフラと匂いの出処へと進んでいく。

 

 

 

匂いの出処は厨房であった。

今厨房では、学院に雇われた料理人や給仕達が生徒達の朝食の後片付けを終わらせ、自分達の分を食べようとしている所だった。

 

「今日もうまそうだ、流石俺の作った料理だな」

そう豪快に笑うこの男の名前はマルトー。

その料理の腕前は、この魔法学院のアルヴィーズ食堂においてコック長を勤めているほどだ。ちなみにその報酬は、下級貴族には及びもつかない額だとか。

 

マルトーはさっそく、手に持つフォークとナイフで料理を口に運ぼうとした。

 

(何だ?誰かこっちを見てんのか?)

しかし何者かの視線を感じ、マルトーは食事の動作をピタリと止めた。

 

そして確認のため、視線を感じる方向へとゆっくり首を曲げた。

 

「なかなかうまそうな物を食べているな…人間」

そこには血走った目をギョロリと見開き、口から滝のような涎を垂らした、恐ろしい形相のミラボレアスが立っていた。

 

「おわぁぁっ!!?」

平民の中でも勇敢な部類に入るマルトーだったが、流石にこれにはたまらず飛び退いた。

 

「誰だおめぇ!!?」

驚愕した表情のまま、マルトーが目の前のミラに叫んだ。

マルトーの大声につられ、周りの料理人や給仕達の視線も、自然にミラの方へと集まる。

 

「いや、こいつは失敬…

私はミラボレアスという者だ。主人からはミラとも呼ばれている」

丁寧にマルトーを含む他の者達に挨拶をするミラ、しかしその視線は依然として料理に釘付けになっており、口からは止まることなく涎が溢れている。

 

あまりにも突然のことに唖然とする料理人と給仕達。

そんな中を、一匹のネコが割り込んできた。

「ニャ!?その紙…!それはどこで見つけたんだニャ!?」

ミラが丸めて握っている一枚の紙を指して叫ぶネコ。

 

「ほう…こんな所にも喋るネコが…確か獣人族…アイルーとか呼ばれていたかな?

あぁ…この紙切れは学院の庭で見つけたものだ」

そう言ってミラは、自分の世界にもいた種族を興味深そうに眺めた。

 

「やっぱりそうか、お前は運がいいニャ」

 

「運がいい…?」

と、アイルーは首を傾げるミラの手から、丸められた紙を抜き取った。

 

「これはおれの作ったアイルー食券ニャ、外に隠しておいたんだけど…まぁ見つけたんならこれはお前のもんだニャ」

 

「それを持っていると、何かいいことでもあるのか?」

 

「この食券と引き換えに、おれが料理を作ってやるニャ」

 

「ほう…ならば早速頼むとしよう」

と、それを聞いて嬉しそうにアイルーに料理を注文するミラ。

 

他の者達はと言うと、口も出せず、ただトントン拍子で事を進める二人の半人を眺めているだけであった。

 

 

料理の完成を待つこと、二十分ほど経過した。

「待たせたニャ」

 

「待ちくたびれたぞ、つまみ食いでもしようかと考えていたところだ」

“何を”というのは聞かない方がいいだろう。

 

ミラは楽しそうにアイルーの運んで来たお盆を自分の前に回した。

お盆の上には見事な焼け色の焼け魚…こんがり魚と言っておこう。その他には真っ白な米…山菜がふんだんに使われた味噌汁など、ここハルケギニアではなかなか見られない料理が乗せられている。

 

「これ全部おれの奢りだニャ、遠慮なく食べてくれニャ」

 

「これは…なかなか…」

アイルーの作った料理を目の前に、ミラは子どもの様に目を輝かせながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。

そして料理へと手を伸ばし、豪快にも素手でそのまま焼き魚に食らいついた。

 

「ぐっ…これはっ!?」

すると、途端にミラが苦しそうに蹲った。

 

「おい!どうした⁉︎」

料理人と給仕達が苦しそうな唸り声をあげるミラを心配して駆け寄る。

 

「喉に詰まったのか⁉︎」

 

「それとも毒か⁉︎」

 

「流石に毒のある食材とそうでない食材の見分け方くらい知ってるニャ‼︎」

一人の料理人の言葉にアイルーが憤慨だ、とばかりに声をあげる。

 

「じゃあまた失敗したんじゃ…福料理長の料理って、普段は普通に美味しいけど、失敗すると担架が必要なレベルですし…」

 

「うぅ…」

何度かやってしまったことがあるのか、返す言葉が見つからないアイルー。

 

「うっ…うう…う…」

 

「おい、本当に大丈夫か?担架持ってこようか?」

と、そろそろ本気で心配になってきた料理人と給仕達だったが…

 

「うますぎるッッ!!!」

ミラのためにためた衝撃の天然ボケに、料理人と給仕達は一斉にズッコケた。

 

「私も人間を真似て肉や魚を焼いて食ったことはあるが…焼き方一つでこうも変わるものなのか!?

いや!これは焼き方だけではこの味を生み出すことなどできん!

適度な量の塩が淡白な魚の肉といい具合に絡み合っている!脂の乗ったジューシーな肉からは噛む度に肉汁が溢れ、それが塩と調和して口の中に広がってくる!

その上しつこくない!淡白な白身の魚な分脂は脂でもあっさりとした脂だ!嫌にならない!」

興奮気味なまま、ミラは次の料理に手を伸ばした。

 

「人間の作るスープとやらの一種か…?

嗅いだことの無い香りがするな…この浮かんでいる茶色いやつの匂いか?」

味噌汁の皿を持って、匂いをめいいっぱい嗅ぎながらまじまじと料理を見つめるミラ。

 

そして一通り観察を終えた後、ミラは味噌汁の入った皿を口に付け、そのままガブガブと飲み始めた。

 

「ふむ…これもなかなか美味いものだな。

これほどまでの様々な食材の味が、こんな液体の中に凝縮されているとはな…恐れ入った。

香り…と言うべきなのだろうか?スープの深みが口だけではなく鼻の中にまで染み渡ってくる。

正直言って、植物の葉や茎などのどこが美味いのかまったく理解できなかったが…これら一つ一つがスープに溶け出し、互いに互いを引き立て合っている、おまけに長時間スープに浸されたことによってちょうどいい食感に仕上がっている。

野菜というものも、認めざるを得んな」

 

「それはいいが、その食べ方は何とかならないか?

素手じゃなく、もっとこう…ナイフとかフォークを使ってよぉ」

そうマルトーが、味噌汁を飲むミラを、苦い顔で見ながら言った。

さっきの焼き魚の時もそうだが、ナイフやフォーク…スプーンなどの食器を完全無視したミラのこの、ワイルドな食べっぷりは、食にこだわりを持つ料理人にとってはあまり気持ちのいいものでは無いのだろう。

いや、何もそう思うのは料理人に限った話ではない。

ワイルドなどといい表現を使っているが正直な話、とても下品な食べ方である。

 

「…使い方を知らんのでな」

 

「いやいや、使い方くらい知ってんだろ。

いくら平民って言ったって、ここにいる以上そのくらいの作法は知ってるもんだ」

マルトーの言う通りであった。

ここは貴族達が魔法を学ぶ学院、トリステインだ。

マルトー達のように平民の中にも、この学院に雇われる形で出入りしている者達はけっこういるが、貴族達の気に障らない程度の最低限の作法や礼儀は心得ているものだ。

貴族嫌いのマルトーとて、表ではちゃんとそれらは守っているほどである。

 

「作法か…人間の考えたマナーだとか、ルールだとか…そんなものを人間でもない私に求められてもな…」

 

「人間でもない…?」

その場にいる者達が首を傾げた。

 

「いやまて、確かお前の名前はミラって言ったな?

その顔…そしてその名前、どっかで聞いたことあるような気がするんだが…」

そう、何かを思い出そうと眉をひそめるマルトー。

 

そんなマルトーの背後から、一人の、黒髪で愛嬌のある顔立ちのメイドが肩を叩いてこう耳打ちした。

「もしかしてそれって…昨日の決闘の話じゃないですか?」

 

その言葉を聞いて、マルトーは思い出したように目を見開いた

「そうだそれだ!ありがとうなシエスタ!

あんた昨日、貴族に決闘を仕掛けた平民だろ!?」

 

「別に仕掛けたわけじゃない、向こうから挑んで来たから受けたまでだ」

その言葉を聞き、料理人や給仕達がザワザワと騒ぎ始めた。

 

「やっぱりそうか‼︎こりゃ失礼したな、我らの剣よ!」

そう豪快に笑うマルトーの目は、何故か尊敬の眼差しに変わっていた。

 

「我らの剣…?」

マルトーの言葉に首を傾げるミラ。

 

「そうだ‼︎あの偉そうな貴族と決闘し、勝利とまではいかなかったがギリギリまで追い詰めた!

正に俺達平民にとっての剣‼︎あるいは希望だ‼︎」

興奮気味に話すマルトーの言葉に、ミラは複雑そうな顔をした。

 

「勝利とまではいかなかった…か……いや、確かにその通りだがな」

実際は勝負にすらならなかった決闘に、大きなハンデを与えてまで続行したものなのだが…負けは負けなので、ミラは少し苦い顔をしながらも小さな声で肯定した。

 

「しかし、私が平民の希望や剣などというのはどうかと思うがな」

 

「何でだ?」

 

「さっきも言った通り、私は人間ですらない、もちろん平民でもな…そんな私が平民の希望など、些か滑稽な話ではないか?」

そんなミラの言葉を聞き、少し暗い表情になるマルトー。

 

「人間じゃない…ってことは、あの噂は本当だってことか?

あんたが、ドラゴンだって話は」

 

「事実だ。

なんだったらここで元の姿に戻って見せようか?」

 

「いややめてくれ、ここが壊れたら俺達が困る」

マルトーが若干青い顔になりながらブンブンと首を振った。

流石に目の前にいるものがドラゴンと聞いて恐怖を抱いたのか、その場にいる料理人や給仕達も一歩ミラから遠ざかった。

 

そんな反応を、ミラは少しつまらなそうな顔して眺めながら、皿の中に残っている味噌汁を再び口に入れた。

「やはり美味いな…」

 

「ドラゴンでも、料理の味はわかるのかニャ?」

 

「わかるとも、こう見えても私は結構グルメだ」

味噌汁の美味さに、思わず笑みを浮かべるミラ。

 

「へぇ〜、そりゃ、料理人としちゃあ嬉しい話だな」

すぐさま調子を取り戻したマルトーが笑いながら言った。

 

「お前も、こいつと同じくらいのものが作れるのか?」

 

「同じくらいも何も、マルトーはここの料理人!

おれよりも美味い料理を作れるニャ‼︎」

マルトーの代わりに、胸を張って自慢気に答えるアイルー。

 

「はっはっは‼︎あんまり褒めるな!照れるだろウドン!」

嬉しそうに笑ながらウドンと呼ばれたアイルーの頭を、ポンポンと撫でるマルトー。

笑っている時ですら豪快だ。

 

「しかし聞いてくれよ。

俺たちゃ料理なら誰にも負けない自信がある!確かに貴族共は好かんが、いつも最高の料理を振舞っているつもりだ。

なのにあいつらは、いつも女王陛下や始祖ブリミルばっかで、俺達にゃあ感謝の一つもありゃしねぇ。俺達の最高の料理が当然のものだって思ってやがる!

その上俺達の料理の味が理解できる奴らなんか、あの中には一握りしかいねぇ!」

マルトーはテンションが上がったのか、酒を飲んだみたいに自分の抱えている貴族への不満を、ミラにぶつけた。

 

「そうニャ!そうニャ!料理長の言う通りニャ!」

他の料理人達も同じ不満を抱えているのか、同意するようにうんうんと頷いている。

 

「それを私に言われても、どうすることもできんが…

少なくとも…全てがそうとは言わんが、大した魔法もしか使えない、威張るしか脳の無い貴族と比べれば、こんな素晴らしいものを生み出せるお前達の方が、有能だとは私は思うがな」

 

「ほんとにそう思うか⁉︎」

 

「あぁ」

本心からの答えだった。それだけミラはここの料理を気に入っているのだ。

しかしそれでも、やはり貴族側に自分を苦戦させるような人間がいれば、ミラボレアスは迷わずそちらに評価を下すだろう。

 

「いいやつだなぁー…お前は…本当にいいやつだ!」

マルトーは嬉しさのあまり、目に涙を浮かべながらミラに抱きついた。

 

「俺はもうその言葉で胸がいっぱいだ‼︎

この溢れる感謝の気持ちをお前に返そうと思う!接吻させてくれ‼︎」

そう言ってマルトーは腕に力を入れ、唇をミラの顔に近づけた。

 

「ええい!邪魔だ!離れろ!」

流石に暑苦しくなったか、ミラは迫り来るマルトーの唇を手で防ぎ、押し返した。

そのおかげで誰も得をしないキスシーンという、酷過ぎる絵面になる危機は回避された。

 

「ところで話は変わるが猫よ、このスープ…どことなくカニの風味がするんだが?」

ミラが味噌汁の匂いを嗅ぎながら言った。

 

「おぉ!よく気づいたニャ!

最近増えてきたあるカニをダシに使ったニャ」

 

「やはりな…」

 

「もしかして、カニは嫌いだったかニャ?」

少し不安そうに尋ねるウドン。

 

「いや、カニは好物だ」

 

「だったらいいニャ」

そう言ってウドンは胸を撫で下ろした。

 

「本当は“サザミソ”って言う、その味噌汁のダシに使ったカニと同種のものから取れるカニミソを使いたかったんだけどニャ…

流石にそこまでは個人では手に入らなかったニャ…あれがあれば故郷の味が再現できるんだけどニャ」

 

「サザミソと言えば…八年ほど前に発見された新種のカニか、あれは珍味と噂されているしな」

ミラに突き飛ばされた時にでも打ち付けたのか、自分の尻を抑えながら話に参加するマルトー。

 

「しかしさっきは増えてきたと言ったな?

ならば数は結構多いんじゃないのか?」

 

「確かに繁殖が進んで数は結構いるんだけどニャ、ちょっと事情があって獲るのが難しいんだニャ」

 

「事情?」

 

「とんでもなくデカイんだニャ、そのカニが」

精いっぱい大きさを表現しようとしているのか、手を大きく広げるアイルー。

 

「なるほど、要するに仕留めるのが難しいというわけか…」

そう言ってミラが考えるように黙り込む。

 

「………美味いのか?そのサザミソとやらは」

 

「もちろん、噂通りの珍味ニャ」

 

「俺も何度か食ったことはあるが、ありゃ絶品だったぜ」

二人の言葉に、ミラの期待値がどんどんと上がってくる。

 

「ならば私が直々に捕ってこよう。お前達にはそれの調理を頼む」

ミラがペロリと唇を一舐めした。

 

「捕ってくるって…今からか?」

マルトーが唖然としながら尋ねた。

 

「善は急げと言葉もある、早い方がいいだろう」

そう言って残っている味噌汁を全て飲み干し、席から立ち上がるミラ。

 

「道案内にここにいる者達から一人連れて行っていいか?」

 

「行くなら止めないけど、目的地までの地図ならかすがニャ?」

 

「いらん、地図は読めんからな」

そう言ってミラはその場にいる者達を舐めるように見渡し…

 

「そこの娘、悪いが案内を頼めるか?」

 

「私…ですか⁉︎」

ミラの目線は、先ほどマルトーにシエスタと呼ばれていた、黒髪のメイドを見て止まった。

 

「こりゃまた、何でシエスタを?」

 

「いやなに…その娘からはいい匂いがしたんでな…

それに、若い娘の方が(食欲的に)そそるだろう?」

ミラが悪そうな顔でニヤリと笑った。

 

「ひっ…!」

シエスタはその顔と発言に、今までにない程の悪寒を感じ、思わず自分の体を抱き寄せた

 

「いやでも…シエスタもここで働いてる働いてるわけだしなぁ…

ここからだと目的地まで三日以上かかる、あまり離れられても困るんだが…」

 

「…!」

マルトーの言葉に賛同し、シエスタは冷や汗まみれの顔で必死に頷いた。

 

「心配には及ばない、私はドラゴンだと言っただろう?

飛んで行けばいい、夜には帰ってこれるさ」

 

「だってよ、どうするシエスタ?

お前がいいんなら俺達の方は構わないが…」

シエスタは首を横に振った。それはもう必死に、何度も何度も振り続けた。

 

「因みに拒否権はない、嫌だと言っても無理矢理連れて行く。

…安心しろよ、何もしないさ………たぶんな」

 

シエスタは泣き出しそうになった。

 

「お…おぉ…頑張れよ…シエスタ」

これには流石のマルトーも、苦笑いしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

果たしてシエスタは無事に帰られるのだろうか?

 

 

 

 

 

 




はい、今回の話はここで終了です。
ちょっと無駄話が多かったですかね?
ぶっちゃけこの話、ギーシュの時に出せなかったシエスタを登場させるために作ったようなもんですからね。







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