九州北部の佐賀県。重工業と言った産業も存在するが、全国的に知名度は低く九州から離れるほど忘れられる県と言える。
佐賀県山間部にある鼻毛村は人口の過疎化で廃村もおかしくない。ここ最近、村役場に転入届けが多数提出されていた。帰化中国人、韓国人だ。人口の少ない村では税収が増える事は喜ばしい。歓迎すべき住民だった。
普通の相手ならば──。
北東アジアの情勢は混迷を極めていた。日本との融和はないとして、大韓民国の軍事政権と中華人民共和国の共産党政権は手を組んだ。
特殊作戦を統括するヤン将軍は、対日開戦に備えて橋頭堡を確保すべく動いた。過疎化の村を合法的に手を入れると言う平和的な計画だった。
だが突然の自動車事故でヤン将軍は入院、後任のイ大佐は成果をあげる必要があった。ここで成果をあげれば党上層部の覚えも良くなると下心もあった。
「残った住民は土地買収に応じないのか」
「年寄りばかりで、土地にしがみついてます」
頼る親類もなく還暦前後の年齢になれば「新しい生活を他所で」と言われても「はい、そうですか」と頷く事も無かった。死ぬなら過ごした家でと言うが、イ大佐もいつまでも待ってはおれない。ヤン大佐の退院までにポストを自分の物にしたかった。
「多少は手荒な手段も仕方ない」
金で片をつけたかったが、年寄り連中は土地にしがみついて聞く耳を持たない。中国や韓国なら強制退去させる事も出来たがここは日本だ。
「奈義組に任せよう」
蛇の道は蛇と言うように暴力団を使って排除を行う事とした。
奈義組は中国地方に勢力を伸ばす大陸系マフィアで岡山県の片田舎を根拠地としている。都会よりも警察の目を引きにくい地方の田舎を選ぶ生存の知恵があった。
鼻毛村で青年団の寄り合いが行われていた。
最近、村で問題になっている暴力団の土地買収。それにどう対抗するかの話し合いだ。
「警察は駄目だ。あいつらにしっかりと玉を握られている」
青年団は自警団ではない。村を脅かす暴力団に対抗できない。
「じゃあ、どうするんだ! みすみすヤクザに家を奪われろと言うのか」
法の番人であるはずの警察が守ってくれない以上、自衛手段を講じるのは当然だった。
「傭兵を雇おう」
そう言ったのは戦場カメラマンだった富永。荒んだ出版業界に嫌気がさして田舎に戻ってきた。
「傭兵?」
「ベトナム戦争で活躍したコマンド・チームだ。ロサンゼルスで活動してると聞いている」
ベトナム戦争中、ハノイの銀行を襲って1億ドルを奪った部隊で、基地司令が死亡した為に命令の証拠はない。
刑務所を脱獄し逃亡犯としてMPに追跡を受ける立場にある。だが金さえ払えば何でもすると言う事で、裏の仕事人として噂になっていた。
「傭兵なんて信用出来るのか?」
「ああ、連中は必殺仕事人みたいな物で、金さえ払えば助けてくれる」
必殺シリーズは、松平健の暴れん坊将軍、加藤剛の大岡越前と並ぶヒットシリーズで、田舎でも知名度の高い作品だった。
「中村主水?」
一転して、仕置人や仕事人で村人には話が通じた。
「俺がアメリカに行ってくる」
富田は米軍に居る伝を頼り接触を取ることにした。だが誰も他の選択を考えすらしなかった。
地元警察がまともに機能していないなら、公安委員会や監察室に通報したり、マスコミに訴える事も出来た。
「Aチームを雇いたいだって? 正気か、お前さん」
渡米した富田に対して、犯罪者幇助に成ると友人は警告してくれた。
「俺の田舎がヤクザに好き勝手されて、このままじゃ家や土地を奪われて追い出されるんだ」
「わかったよ。二、三日くれ。俺も調べてみるから」
連絡方法は意外と簡単に分かった。
だがAチームは追われる立場にあり、依頼が罠である場合も多い。裏切りや嘘は必ず見抜かれると聞いたが富田の意思は変わらなかった。
『A型トラクター買いたし。極東への輸出仕様。委細は面談の上にて。連絡乞う』と広告をロサンゼルスの新聞に乗せた。
しばらくしてかかってきた電話での指示で、富田はあちこちを歩き回り埠頭で待ち合わせをする事になった。
釣りをしている老人以外に誰も居なかった。
(本当に来るのか?)
時間を30分ほどオーバーしていた。他に当てもなく、釣りをしている老人に話しかけた。
「ミスター・リーに聞いて来たんだが、もしかして貴方が?」
紹介してくれた中国系移民の名前を出すと老人は頷く。
「話は聞いている。ヤクザに襲われている村を助けるという仕事だな」
髭をモゴモゴとしながら老人は答えてくれた。
「ああ、村がこのままではやつらに乗っ取られてしまうんだ」
富田の顔をしばらく見て、何やら頷くと老人は言ってきた。
「今回は顔見せだけだ。返事は仲間と話し合ってからする。モーテルで待っていてくれ」
釣り道具を片付けると老人は通りかかったスポーツカーに乗って去っていった。
港湾施設の一角にある貸し倉庫。そこに先程の老人とAチームの面々が集まっていた。
髭を剥がし老人の変装を解く男はリーダーだ。
「フェイス、裏は取れたか? リンチ大佐の罠と言う可能性はどうだ」
大佐と言う階級にも関わらずAチームを指揮して実戦参加していた奇人変人、ジョン・"ハンニバル"・スミスは、軍刑務所を脱獄後も仲間達を束ねる立場にあった。
「OKだよ、依頼に嘘は無さそうだ。真っ白な物さ。それに今回は日本まで飛ぶんだぞ、幾らリンチでも追いかけて来ないさ」
依頼主の背後関係を調査して来たのはテンプルトン・アーサー・ペック。
ルックスが良くフェイスマンと呼ばれている。「誠実な詐欺師」として、物資の調達から資金管理まで行っていた。
話題にあがったデッカー大佐は軍刑務所の責任者であったが、Aチームに脱獄された屈辱から追跡に執念をかけている。
「飛ぶ? 飛ぶだと! 俺は飛行機になんて乗らねえぞ!」
そう言って興奮し出した黒人の巨漢は、B・A・バラカス。
軍隊時代は軍曹で、将校と下士官と言う階級差はあったが、仲間として友人として信頼されている。
腕が立つだけではなく頭も切れて、技術面のプロフェッショナルだ。
「落ち着けよ
「そう言っていつも俺を騙しやがる。今回はそうはいかねえぞ」
ハンニバルに迫りバラカスは拳を振り上げた。
「そんなに興奮すると体に毒だぞ。ほら、3、2、1……」
ばたりと倒れるバラカスを見下ろし、ニヤリとするハンニバルとフェイスマン。
全ては予定調和、いつも通りだった。
「ここはどこだ?」
目を覚ましたバラカスはきょろきょろと当たりを見回す。アジトと違う。
「おはよう
どこかの山奥で北米とは景色の違う植生、コングは中国を思い出した。かつて
今回も
(──そんな訳がない)
意識がはっきりして来た。またはめられたと言う事が咄嗟に理解できた。
「ここはどこだ!」
怒鳴るバラカスの形相は鬼気迫る物を感じられたが、ハンニバルは平然と答えた。これも慣れだ。
「ここは日本だ」
バラカスは頭に血が昇った。騙した。騙された。様々が感情が怒りとなって噴き出す。ハンニバルに詰め寄りぶん殴ってやろうと考えた。
「日本だと! 俺をまた眠らせやがったな!」
飛行機に乗せられた。あれほど嫌だと言ったにも関わらずだ。
「バラカス軍曹、落ち着け! 俺達は敵地に居るんだ。団結しないでどうするんだ」
上官らしい物言いで叱責するがそれで納得する訳もない。
「もっともらしい事を言っても俺はだまされねえぞ」
フェイスとモンキーが繁みをかき分けて現れた。二人はハンニバルの指示で偵察から戻ってきた。
「おや、コング。おはようさん」
「ああ、目が覚めたんだ。何か飲むかい」
モンキーがバラカスの肩を軽く叩くと、不機嫌さを丸出しで振り払った。
「うるせえ黙ってろ」
「中尉、それで村の状況はどうだった」
ハンニバルは報告を求めた。どさくさに紛れてコングの怒りから話題をそらす考えだ。
「ああ大佐、村には情報通りにごろつきがうろついてました。連中、銃は持ってないようです」
兵隊らしく空気を切り替えて報告するフェイスと、苦虫を噛み潰した様な表情でやり取りを見るコングが対照的だ。
「そいつは良い。ご挨拶といきますか」
ハンニバル達が村に近付くと、畑にジープで乗り入れて荒らすならず者が居た。
大切に育てられた野菜が破壊され、村人が追われている。
「ジャパニーズ・マフィアのヤクザだな」
「許せねえな」
バラカスも義憤に駈られていた。
「どう言う手で行くんだ?」
連中はこちらに気づいていない。そこでハンニバルは散開の指示を出した。
「それで俺は格好良く登場するって訳だ」
またハンニバルの悪い癖が出たと首を振る仲間達だった。
自慢の革製ブーツで農道の砂利を踏み締めながらハンニバルは近付く。
「おやおや、まるで西部だな」
ハンニバルが声をかけるとヤクザ達は振り返った。
黒い手袋をはめて葉巻を持つ以外に武器を持ってる様には見えない。
「お前さん達、堅気を泣かせてただの愚連隊か。大人しく帰った方が身のためだよ」
日本の田舎では珍しい白人だ。流暢な日本語を喋るハンニバルの言葉にヤクザは反応を返した。
「外人が出しゃばるんじゃねえ。ふざけるな」
「ふざけちゃ居ないよ」
ヤクザは飄々としたハンニバルの態度に腹をたてて胸ぐらを掴みかかった。
「
ハンニバルの声にバラカスはM60機関銃を構えて現れた。アメリカが銃社会と言う事は知られている。玩具だとは思えなかった。
固まるヤクザの足元に7.62ミリの弾がばらまかれた。慌てて逃げ出すヤクザは「畜生、覚えてやがれ!」と捨て台詞を残していった。
「出直して来なさい」
余裕の笑みを浮かべて葉巻をくわえるハンニバルだった。
一方、組の事務所に戻ったヤクザ達は、組長に平手打ちを喰らっていた。
「なにやってんだ、てめえら。ヤクザが素人のジジイとババアに舐められてどうする!」
「でも連中、助っ人を呼んだんです。マシンガンなんか持って、ありゃあプロの傭兵ですよ、きっと!」
その言葉に組長も考える。日本では素人がおいそれと銃を手に入れる事は難しい。それなのにマシンガンを持っていたと言う。
用心棒だと判断する頭もヤクザ達にもあった。
組長から連絡を受けたイ大佐は「こうなったら手段は問わない。何としても村を手に入れるんだ」と、直接行動に出て武装したゲリラが村を襲撃した。
電話線は切断され車や農具は破壊された。
鳴り響く銃声はAチームの面々にインドシナ半島の戦場を思い出させた。
「どうするんだ大佐」
フェイスマンの言葉にハンニバルは表情を歪める。
「敵の数は多い。村は完全に包囲されてるな」
自分達だけなら逃げ切れるが村人を守りながら戦うのは犠牲者を覚悟しなければならない。
「しょうがない、今は降参しましょう」
村人とAチームの面々は、持っていた猟銃や日本刀、AR-15、M60を取り上げられた。
「M16か。お前らアメリカ人だな」
ハンニバルの胸を突くイ大佐の銃はチェコの生んだ名銃CZ-75だが、入手は困難な品だ。
共産圏の人間だろうと当たりを付けてハンニバルも「まあね。そう言うお前さん達は日本人じゃないな」と答えたが、そう言うと頬を銃で殴られた。
「聞かれたこと以外で口を開くな」
イ大佐に殴られた頬を撫でながら「はいはい」と返事を返す。
ゲリラの装備は典型的な東側製で、AK-47、RPD、PKM、RPG等で武装していた。
「こいつら、ただのヤクザじゃないな」
「ああ、昔懐かしい共産ゲリラだ」
集会場に押し込められる村人とハンニバル。
「さて、どうするんだ」
死を覚悟すれば怖くはない。
「相手はマシンガン持った兵隊がざっと1個小隊は居るな」
「そうだな……」
葉巻を加えながら辺りを見回すハンニバル。扉を開けて奥を覗き込むとにやりとした。
「こいつは、使えるねえ」
集会場に併設された村の郷土史料館。そこには旧日本軍の機関銃、小銃、手榴弾、擲弾筒などが飾られていた。
「お前ら、極道で飯を食ってるんだろう。何をやってるんだ! とりあえず、その妙な外国人は村の連中と一緒に始末しろ。始末さえすれば後はどうとでも成る」
イ大佐の部下と共にヤクザが郷土資料館を外から取り囲んでいた。指示を受けて部下が中に入ろうとした瞬間、エンジン音が鳴り響き扉をぶち破ってバイクが現れた。
「イヤッホー!」
歓喜の声をあげてバイクを運転するのはモンキー。その後ろでハンニバルは機関銃をぶっぱなした。7.7ミリの99式軽機関銃は、FN MAGやM60に比べれば口径こそ大きいが初速は遅く反動は小さい。
イ大佐は武器を取り上げたはずなのにと唖然とした。
Aチームはリヤカーをバイクに引かせ荷台に機関銃を据え付けていた。
古かろうと機関銃は機関銃だ。
蹴散らされるゲリラとヤクザを99式小銃や100式短機関銃、軍刀で武装した村人達が取り囲む。ゴボウ剣で知られる銃剣は凶器として十分な恐怖感を煽る。
日本を揺るがす巨悪の侵略だったが、マスコミや政府内部の協力者が情報操作で事件を隠蔽した。
70年代にチリのアジェンデ政権転覆をNSAがやった時と同様に、中韓の関与は無かった事として闇に葬られたのだ。
皮肉な事にそのお陰でAチームの名前が表に出なかった。
「本当にありがとう、助かりました」
「なあに、俺達は共産主義のアカが嫌いなだけさ」
ベトナムで戦ったハンニバル達にとって誰が敵かははっきりしていた。
「そうさ、共産主義者は自由主義世界の敵だからな」
北ベトナムの収容所に入れられた苦い経験があり、コングも胸を叩いて主張するほどだ。
「困った事があったらまたいつでも呼んでちょうだいな」
フェイスが調子のいいことを言っているが、今回の出張はサービスも多い。
「かくしてAチームは共産ゲリラのあしき野望を打ち砕いたのであります──」
リポーターかナレーターのように演じるモンキーが、精神異常者なのかネタなのかマジなのかは誰にも分からない。
今回の依頼は達成した。MPの心配も無いのでしばらく日本で羽を伸ばすのも良いとハンニバルは考えた。