拾ったイケメンが自分はウルトラマンだとか言い出したんだけど 作:たいがー MA-2
「ねえ、誰なのよ、あのイケメン」
二日目の今日はミライが一緒に受付の仕事だった。ガイドの仕事にいったアズミの事が心配だが、今はそれどころではない。ミライの対応でいっぱいいっぱいなのだ。
ミライは先ほどから、マモルのことをずっと聞いてくる。ルナはマモルを安易に連れてきたことを後悔した。彼の事など、ルナも分っていないのだ。
「えっと……従弟……?」
「は? ルナって従弟は居ないんじゃなかった?」
「あ、いやっ。は、はとこ、だったかな?」
「ふーん」
マモルはずっと、ウルトラマンコーナーを練り歩いている。
(本当にウルトラマン好きなんだなぁ)
咄嗟にウルトラマンだと名乗るくらいのウルトラマン好きだ。どれだけ見ても飽きないのだろう。
しばらくすると、オオクボ館長が自ら休憩を告げてきた。
「食堂へ行かないかい? 奢ってあげるからさ」
「えっ、いいんですか!? ありがとうございますぅ! いやー、助かっちゃったな」
「いやいや、いいんだよ。ルナちゃんもどう?」
「あ、えっと、連れがいまして……」
ルナはマモルへと視線を向ける。すると、オオクボ館長はニコッと笑った。
「それならそのお連れさんも一緒に行こう。見たところ、異星から来た人だろう?」
「え!?」
ルナとミライは同時に声を上げた。
「ルナ、そうなの?!」
「ど、どうして分かるんですか?」
「ん? ああ、まあ、雰囲気だよ。こっちの重力にあんまり慣れていないようだったのでね」
凄い観察眼だ、とルナは感嘆の息を吐いた。すると、ミライが訝しげにルナの方を見た。
「さっきルナのはとこだとか言ってたじゃん。あれ嘘だったの?」
「ぅえ? そ、それは……」
「まあいいじゃないか。折角だし、彼も呼ぼう。おい君ぃ!」
オオクボ館長が呼ぶと、マモルはすぐに振り向き、こちらに駆け寄ってきた。
「なんです?」
三人がルナに視線を送る。なるほど、お互いをお互いに紹介すればいいわけだ。
「こちら、このミュージアムの館長の、オオクボ リュウセイさん。そしてその横が、私の同僚のアマネ ミライ」
「よろしく」
「よろしくね!」
「それで、こっちが……」
どう紹介しようかと悩んでいると、マモルは勝手に喋り出した。
「ホシノ マモルです。ミソラさんには大変お世話になってます」
妥当なところだろうと、ルナは胸を撫で下ろしたのも束の間、ミライの射抜くような視線が、マモルに注がれているのが分かった。完全にロックオンしている。仕方がない。ウルトラマン好きの変人でも、ルックスは一級品。モテ女代表のミライのお眼鏡にかかるのも当然と言えた。
ルナは何気なくため息をついた。
スペースジェネレーションが地球に来たとき、驚くものがある。青い空や海、吹きつける風、そして食事である。火星や月には当然大気という物が無い、あるいは薄い。そのため、頑丈な居住空間でしか生きられず、外へ出るにも許可を申請する必要があるのだ。海を見ることも、まして風などを感じる経験などあるわけない。
居住空間には牧場や農場などもあるが、生産量も少なく、地球産の物と比べると、やはり品質が大分落ちてしまう。異星の食事になれたスペースジェネレーションにとって、初めて食べる地球の食事というのは、とても新鮮なものなのだ。
「こ、これはなんと言う食べ物なんですか!?」
「と、豚カツも知らないの、ホシノ君?」
「豚カツというんですか……とても美味しいです!」
だから、スペースジェネレーションであろう青年マモルが豚カツのことを知らなくても、なんら不思議ではない。しかし、いくらなんでも彼の反応は大げさすぎじゃないか、とルナは思った。
メニューの端から端まで片っぱしから頼んで、驚くべき速度で腹に収めている。職員割引で安くなっているとはいえ、代金は自分持ちだと高らかに宣言したオオクボ館長の顔色は、見る見るうちにバルタン星人のような蒼白に染まっていった。先ほどから乾いた笑いをこぼすのみである。
「は、ははは、喜んでもらえて、嬉しいよ……」
このあとどうフォローしようか、そんなことばかり考えてしまって、せっかくの日替わりAランチの味がまったく分からない。
「そういえばマモル君って、あ、マモル君って呼ぶね。マモル君って、どこの星から来たの?」
ちゃっかりとマモル君と呼ぶミライの手腕には、相変わらずあっぱれというほかない。
マモルは小さく微笑んだ。
「ウルトラの星です」
「は?」
「おおっ、面白いねえ、君!」
“ウルトラ”というワードを出した瞬間に、オオクボ館長のテンションがマックスに達する。
「地球に来たウルトラマンの中では何が一番好きかね? 私は二番目に来たウルトラセブンだね。彼の特徴はやはり頭頂部のアイスラッガー、そして彼だけは何故かカラータイマーがないんだ。我々マニアの間では、彼だけは違う宇宙人なんじゃないかっていう噂も」
「それは違います。彼は正真正銘、M78星雲光の国出身です!」
「ま、まあ、これはただの一説だよ。ウルトラセブンと言えば面白い話があってね、当時のウルトラ警備隊の隊員である友里アンヌさんという方が、孫にセブンはウルトラ警備隊の中に居た、なんていう話をしたらしいんだ。まあ真偽のほどは定かではないがね」
心底どうでもいい話だ。
「防衛隊の中にウルトラマンの一員が居たという話は、公式に認められていた例があるのは知っているよね?」
「はい、さっきウルトラマンコーナーで見ました。メビウスですよね」
「そうさ。驚くべきことに、百五十年前のウルトラマンメビウスは、当時のGUYSクルーであるヒビノ ミライという青年だったんだ。エンペラ星人襲撃の際に、なんとニュース番組で取り上げられたらしい。ウルトラマンが人間の姿になれるという説が公式に肯定されたんだ。いやー、私も百五十年前に生まれていれば、もしかしたら本物のウルトラマンに会えたかもしれないんだねぇ」
「あ、私の名前も、そのヒビノ ミライから来てるんだよ?」
またその話か。ルナは呆れたようにため息をついた。
「何回目よその話。別に珍しくも無いじゃない」
エンペラ星人の侵略を防ぎ、地球を去っていったウルトラマンメビウス。その後、彼の人間体であるヒビノ ミライの名を、子供に付ける親が急増した。一時期は出生時の半分以上が、「ミライ」という名前になったという。今ではもう落ち着いているが、その名残で「ミライ」という名前の人は、一定数いるのだ。
「マモル君には初めてですー」
「はっはっは、まあいいじゃないか。それで、ミヤノ君は誰が一番好きなんだい?」
「そうですね、やっぱり……ゾフィーですかね」
「ゾフィー?」
ゾフィーって誰だっけ、とルナは一瞬首を傾げた。
「またマニアックなところを突いてくるね。ゾフィーと言ったら、地球に長く留まった記録は無いし、あまり姿を見せないウルトラマンだ。ゾフィーの知名度は最も低い」
「私も、オオクボ館長の説明聞くまで忘れてました」
「そう言えばそんな奴も居たなぁ、って感じ」
ルナ達がそう言うと、マモルは信じられないとばかりに目を見開いた。
「か、彼は最も偉大な戦士です!」
「え」
予想以上の反応に、三人は固まってしまった。マモルの鼻息が荒くなる。
「ゾフィー隊長は……いえ、彼はウルトラ戦士のピンチに幾度となく現れています。一番尊敬できる人物だと、僕は思います!」
「そ、そうなのか。なるほど、君のゾフィーに対する気持ちは凄く伝わったよ。だから座りなさい」
「はい」
「マモル君って面白ーい」
何熱くなってるんだか。ルナは味噌汁を一気に飲み干した。
ルナは暗い帰り道を、少し変わった美青年と歩いていた。いつもと同じ道なはずなのに、やっぱり何かが違って感じる。
「ねえ、ミソラさん」
「ん?」
「しばらくミソラさんの家に居候させてください」
「え?」
「迷惑ですか?」
「迷惑っていうか……」
迷惑というより混乱してしまう。男と同棲なんて、久しぶりだし、今までの一人暮らしから突然住人が増えるなんて、どうしていいか分からない。
「せ、狭いわよ?」
「構いません」
「美味しいものとか、作れないから」
「構いません」
「布団とかも無いから、ソファで寝ることになるよ?」
「大丈夫です」
「変な気とか、起こさないでよね」
「変な気、ですか?」
自分は何を言っているんだと、ルナは顔を赤くさせた。
「じゃあ、いいよ」
「ありがとう。ミソラさん」
頬が赤くなるのを見せたくなくて、前を向いて歩く。マモルはルナのすぐ後ろを歩いていた。
(ち、近いんですけど)
《心拍数が上昇しています。ゆっくり深呼吸してみましょう》
ユリアンの余計な心遣いにイラッとしながら、マモルから距離を置こうと早足で歩いた。それでも、マモルはまる忠犬のように、ルナにピタッと付いてくる。
「み、ホシノ君、少し離れて」
「何でです?」
「何でって……」
恥ずかしいからに決まってるではないか。
「……マモルって呼んでいいですよ」
「え?」
思わず振り向いてしまう。美青年は綺麗な顔で、優しそうにほほ笑んでいた。一瞬息が詰まる。
「そう呼びたいんでしょう?」
「は、はあ!? 何言ってるのよ!?」
「え、違うの? 顔にそう書いてあるけど」
「違うわよ! バッカじゃないの!?」
《心拍数が上昇しています。ゆっくり深呼吸してみましょう》
「うるさい!」
何で? 何でそんなことが分かるの? 昼間、ミライがマモルの事を名前で呼んだとき、ルナはムッとした。今考えるとあれは嫉妬だったんだろうと分かった。出会って間もないのに、嫉妬なんかする訳ないと、ルナは無意識にその感情を脳内から消去していた。はずなのに、何でそんなこと、彼に分かるんだ?
「ふふっ、素直じゃないんですね」
「なっ!?」
「嘘はいけませんよ、ルナさん?」
そう言って、マモルはニヤッと笑った。頭がショートする音が聞こえた気がした。
《心拍数が上昇しています。ちょっと落ち着きましょうよ》