拾ったイケメンが自分はウルトラマンだとか言い出したんだけど   作:たいがー MA-2

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 更新が遅くなって申し訳ありません。


怪光

 ウルトラマンフェスティバル三日目。今日はフェスの中でも目玉の企画が用意されていた。

 それが、ウルトラマンミュージアムで開かれる、マケット怪獣による演習である。

 マケット怪獣とは、GUYS基地の地下に設置されている巨大なドーナツ状の素粒子加速器によって生成された「高エネルギー分子ミスト」に、過去のアーカイブに残された怪獣のデータを記録したナノマシンが結合することにより作り出された、対怪獣用人工怪獣である。

 このマケット怪獣が一般の目に触れられるのも、フェスならではの企画で、ウルトラマンミュージアムには我先にと多くの来客押し寄せてきていた。

 ガイドの仕事についたルナは、いつになく緊張していた。客の人数が多いからではない。いや、それもあるだろうが、それよりも。

「ルナさん、その服似合ってますね」

「あ、ありが、とう……」

 問題は、ガイドするグループに、綺麗な顔でこちらに微笑む美青年が居ることだ。

 確かに、家に彼を一人で置いておくのは心配だし、ルナの目の届く所に居てもらった方が良いのだが、昨日の今日なので、恥ずかしいという気持ちを拭いきれないでいた。

 しかし、ルナはあくまでもプロだ。私情に振り回されてはいけない。

「皆さん。本日はウルトラマンミュージアムにご来場頂き、誠にありがとうございます。ウルトラマンミュージアムでは、GUYSのアーカイブに残された貴重な資料をもとに、地球防衛隊がウルトラマンと共に歩んできた、戦いの歴史をご紹介いたします」

 今日は団体客のガイドだった。どこかの老人会のイベントらしく、ご老人が圧倒的に多い。その老人たちの中に一人、おばあちゃん達と楽しそうに会話する、二十前後の青年の姿があった。小さいおまんじゅうを貰っている。

 ガイドの仕事というのは、膨大な知識を区画ごとに正確に伝えなければならないという、一番面倒くさい仕事。しかし、ユリアンを使えば比較的に楽に行うことができる。

「まず最初は、ウルトラマンコーナーです。かつて地球へ訪れた、歴代のウルトラ戦士について、紹介していきます」

《まずはウルトラマンです》

(OK、分ってる)

 ユリアンと接続したコンタクトレンズに映し出された説明を、一言一句間違えずに読み上げていく。盛大なカンニングである。

「……そして最後は、皆さんご存知ですよね。ウルトラマンメビウスです。彼が地球に訪れたのは、西暦2006年の春のことです。ウルトラマン80が地球を去ってから、実に二十五年後の事でした。これほど間が開いたのは、初代ウルトラマンがきてから初めての事でした。二十五年ぶりに地球に出現した宇宙怪獣ディノゾールに、当時のCREW GUYS JAPANは全滅してしまいました。そこに現れたのが、ウルトラマンメビウスだったのです」

 なんだかんだ言いつつも、この仕事を始めて五、六年だ。滑舌やイントネーションは完ぺきである。

「あのぅ、ガイドさん?」

 ちょうど地球防衛隊コーナー、TACの説明に入ろうとしたとき、一人の老人がおずおずと声を掛けてきた。

「はい、何でしょう?」

「マケット怪獣っちゅうのは、いつ見られえるんでしょうね? 孫に写真を撮って来いって言われてるんですよ」

「大丈夫ですよ、マケット怪獣は怪獣コーナーで見られますので」

 パンフにそう書いてるでしょうが。

「時間は大丈夫?」

「あと四十分ありますので」

 どうして老人というものはこうも心配症なのだろうか。ルナは完璧な営業スマイルの下で悪態を付いた。やっぱり今日の目当てはマケット怪獣だけなのか。

 地球防衛隊コーナーを抜け、怪獣コーナーに着くと、そこは超満員だった。全員が怪獣コーナーの外に目を向けている。

 怪獣コーナーは、片側がガラス張りになっており、外にあるGUYS訓練場が一望できる。その目の前で、マケット怪獣を出現させるのだ。

 館内放送が流れた。

『これより、マケット怪獣による演習を行います。その前に、注意事項が三つほどあります。まずは――』

 放送と同時に、ガラスに映像が光り出した。毎年このガラスにはマケット怪獣の解説などが映し出されることになっているのだ。放送と連動して、映し出された女性が安全確認や避難経路の説明を終えると、少なくとも数百人は入っている怪獣コーナーが静まりかえった。

「ねえ、ルナさん」

 マモルが肩を叩いた。

「何? 今仕事中なんだけど」

「すぐに避難できるようにしておいた方が良い」

「え、何いってんの?」

 困ったように笑おうとうするが、マモルの真剣な顔に、上手く笑えない。何で、彼はこんなに心配そうにしているのだろうか。絶対に安全だということを説明したほうがいいだろうか。

(あれ? これって、傍から見たら見つめあってる感じに……)

 もうユリアンの音声が聞こえなくても、血圧が上がったのが分かる。頭が痛い。

「わ、わかった。じゃあ、避難経路を確認しておくね」

 ルナがそう言うと、マモルは満足したように頷いて、どこかへ行ってしまった。

(もうすぐ始まるのに)

 マモルが去って行った方を見ながらヤキモキしていると、外が光り出して、場内に歓声が満ちた。

『さあ、ご覧ください。宇宙恐竜ゼットンです!』

 ナレーションで歓声がピークに達する。もの凄い熱気だ。外には黒いシルエットに、頭部と腹部に黄色い模様がある怪獣が、妙な鳴き声を上げていた。

 宇宙恐竜ゼットン。言わずと知れた、宇宙最強の怪獣である。ドキュメントSSSP、ドキュメントMATに一件ずつ記録が残っており、どちらでも当時のウルトラマンを苦しめたと言われている。

 マケット怪獣として具現化させるのは、技術的には百五十年も前から可能だった。今ではドキュメントに残っている殆どの怪獣や宇宙人を、オリジナルの性能のまま召喚させる事が出来る。

 しかし、ゼットンだけは例外だった。電脳空間でのシュミレーションなどは完ぺきに行うことが出来たのだが、いざ現実に召喚しようとすると、たちまちエラーが起こる。それでも無理に具現化させると、こちらの指示を受け付けずに暴走してしまう。等等、様々な問題があった。

 そして今回、数々の改良や研究を重ね、ついにゼットンのマケット怪獣化に成功したのだった。

 なるほど、それならこの熱気も頷けるわね。と、ルナは納得した。百五十年にもわたる研究が、ようやく実を結んだのだから。

 歓声が止む頃、ゼットンの前にグレーの制服を着た壮年の男が立った。

『皆様、本日はウルトラマンフェスティバルにお越しいただき、誠にありがとうございます』

 男の姿は、ルナも何度か見たことがある。GUYS JAPAN総監、フジムラ テツオだ。 

『度重なる失敗の末に、ようやくこうして、ゼットンを皆様に御覧入れることができました。我々はウルトラマンの宿敵と言っても過言ではないこの怪獣を、完全に掌握する事が出来たのです。その戦闘能力はオリジナルを遥かに上回り、これからのGUYSの要となっていく存在になっていくことでしょう』

 近年の技術の進歩は目覚ましいものがある。このゼットンのマケット化もそうだ。しかし、そういったニュースを見るたびに、ルナは不安になるのだ。何か、踏み込んではいけない領域に、土足で踏み込んでいるような。何か、取り返しのつかないことになっているような。

 馬鹿馬鹿しい、とルナが自分の考えに首を振った時、怪しげな光が網膜を貫き、一拍遅く轟音が響いた。

 

 

「信じられん」

 CREW GUYSの隊長が、茫然と呟いた。仕方がないと言えば仕方ないだろう、これまで正常に作動していたマケット怪獣が、突然に誤作動を起こし、ミュージアムに攻撃したのだから。シャットダウンも無効にされている。八方ふさがりだ。

 だがしかし、今は茫然としている暇はない。フクザワ エイジは腰のホルダーからトライガーショットを取り出し、立ち尽くす隊長に向かって叫んだ。

「隊長! 早く避難命令を!」

「あ……」

「隊長!」

 これだから官僚上がりは! エイジは盛大に舌打ちを漏らし、ミュージアムの観客席に火球を撃ちこもうとする巨大な怪獣を狙撃した。

 役に立たない隊長を突き飛ばし、エイジはゼットンの足元へと走った。

「フクザワさん!」

「サエキ! 俺は総監を助ける! お前は避難命令を出して、ガンペガサスを発進させろ!」

 今この状況で本当に役にたつのは、情けないことに身長百五十五の女隊員だけだった。

 くそっ、これだから、碌に訓練してない奴がGUYSに来るから! エイジは倒れている総監の元へ駆け寄った。

「大丈夫ですか!? 総監!」

 呼びかけるが、ただ呻くだけで返事がない。さっきの爆音で気を失ってしまったらしい。エイジがフジムラを担ぎ上げるた時、再び頭上で爆音が響き、凄まじい熱風が降り注いだ。

『ただいま深刻なシステムトラブルに陥っています。落ち着いて避難してください!』

 放送が聞こえてくる。サエキの声だ。

 マケットゼットンは何故かミュージアムを執拗に攻撃している。今なら逃げられるかもしれない。

「総監、少し乱暴かもしれませんが、勘弁してくださいね」

 総監の体を担ぎ上げ、エイジは全力で走った。幸いにもゼットンには人間を襲う気はなさそうで、ミュージアムから出てくる人々には全く意に介していない。ミュージアムはニューフェニックスネストEXと同じくらいに頑丈だ、そうそう壊れはしない。

 頭上を五機のGUYSの戦闘機が飛んだ。

「フクザワさん、生きてますか?」

「サエキか!」

「ええ、これから迎撃に入ります。早くゼットンから離れてください!」

「やってる!」

 エイジはサエキとの通信を切ると、自分のAIに呼びかける。

「マリー」

『はい、御用件を申しつけください』

「近くのガンゼッターを来させろ」

『畏まりました。サイドカー付きのガンゼッターを、エイジ様の場所まで操作します。所要時間は六十秒ほどです』

「ありがとう」

『いえいえ、自分の仕事をしただけですよ』

 マリーの言ったとおり、一分もしないうちに自分に向って走行してくるオートバイが見えた。

 CREW GUYSの隊員の個人AIは、GUYSの各端末と接続されている。それゆえ、GUYSのアーカイブドキュメントに接続したり、今のようにGUYSのメカニックを自動操縦させる事が出来る。

 エイジは総監をサイドカーに乗せ、巨大なオートバイに跨った。電力で走るガンゼッターは、音もなくものの数秒でトップスピードに達する。

「サエキ、聞こえるか?」

「はい、フクザワさん」

「避難が完了しだい攻撃を開始しろ。粒子加速器を止めるにも時間がかかる」

「了解!」

 頭上を旋回していたガンペガサスは、一斉に攻撃を開始した。両翼に搭載された二文のレーザー砲から発射された青白い光線は、ゼットンの腹部に直撃する。

「あの馬鹿野郎っ!」

 その光景を、青ざめた顔で見るエイジは、悲鳴を上げるように叫んだ。GUYSの隊員のくせに、そんな初歩的な判断を間違えるなんて!

 エイジの懸念通り、ゼットンは光線を跳ね返した。跳ね返った光線が、無差別に基地を襲う。ガンペガサスにも当たり、二機が山奥に墜落して行くのが見えた。

 額に青筋を浮かべ、エイジが無線に手を掛ける。

「サエキ! てめぇ何やってんだ!」

「す、すみません!」

「小学生でも分かることだぞ!」

 仕方のないことではあった。サエキは対怪獣用の戦闘マニュアル通りに攻撃を行っただけで、通常ならなんら問題はない行動であった。しかし、相手がゼットンでは逆効果だ。

 初代ウルトラマンと戦ったその怪獣は、あらゆる光線を吸収、反射する事が出来る。ここはミサイルなどの兵器で攻撃すべきなのだ。光線での攻撃は、現在では当たり前となっている。相手の能力を見誤ったことが原因だった。

「スペシウム弾頭弾を使え。胸部ではだめだ、狙うのは角の部分。時間を稼ぐだけでいい、出来るな!?」

「はい!」

 完全に実践不足だ。四十年間も怪獣が出現していない現状からすれば、それも仕方無いが、問題はCREW GUYSをただのマスコットキャラとしか思ってないお偉方だった。地球の平和を守るはずのGUYSは、いつしか政治家や官僚のイメージアップに使われ、出世のためとしか考えていない奴が入隊してくる。いつしか、GUYSのための正式な訓練を受けた隊員は、CREW GUYSにはエイジと、サエキ リョウコ隊員の二人だけしか居なくなってしまった。

 エイジとサエキの二人は、ニューヨークの総本部で訓練を受けている。それでも、最後の怪獣出現は四十年以上前であり、実戦経験などあるはずもない。

 フェニックスネストに着いたエイジは、総監を職員に任せ、すぐさま飛行場へ向かった。

「おい! 今すぐ出られる戦闘機はあるか!?」

「フ、フクザワさん。それが、殆どの戦闘機がここには無く、広場に展示してありまして。今あるのは……」

「何だ? はっきり言え!」

「はい! 今あるのはちょうど清掃中だった、ガンローダーだけでして」

「くそっ!」

 余計な事をしてくれる。普通現在実際に使用している機体を展示するか? エイジは下くちびるを噛みしめ、上層部を呪った。

「今はえり好みしている場合じゃない。それに乗る」

「え?! 百年以上前の機体ですよ? 操縦だって今とはまるで違う」

「NYである程度の操縦は習った。実際に飛んでみれば、案外どうにかなるものさ」

 エイジはピカピカに磨かれた、化石のような機体のコックピットに、体を滑り込ませた。

 

 

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