ゼスティリアリメイク   作:唐傘

41 / 45
38.守るための力

『フン』

 

 災禍の顕主、ヘルダルフは掴んでいた大剣ごとスレイを投擲(・・)する。

 砦の壁を易々と貫通し、勢いを失わぬままスレイは急降下した。

 

 地面はすぐそこまで迫っている。

 このまま激突すれば瀕死の重傷を負うことになるだろう。

 

『スレイさん!』

「くぅ……!!」

 

 体をねじりなんとか体勢を変えたスレイは大剣から迸る炎で落下の勢いを削ぎ、更には激突寸前に地面に突き刺した大剣と足で強引に抵抗を強めることで無事に着地した。

 

「大丈夫かスレイ!?」

「ああ、なんとかだけど……」

 

 スレイの体から飛び出したミクリオの切迫した声が届く。エドナも体から出てきた。

 

 だがほっとしたのも束の間、眼前に黒い陽炎が現れ、揺らぎの中からヘルダルフが姿を現したのだ。

 

「っ!」

 

 咄嗟に剣を構え直すスレイ。

 対するヘルダルフは何の構えも取らぬまま、無表情でスレイを睥睨(へいげい)している。そして。

 

『未熟よな』

 

 絶対強者の余裕を崩さぬまま、挑発とも取れる言葉を投げかけるのだった。

 

 そう言われて何も思わないでいられる程スレイはまだ大人ではない。自然、柄を握る手に力がこもる。

 

 だがそこに待ったをかける者がいた。ライラだ。

 

『無茶ですわ!今のわたくし達では束になっても敵うはずがありません!撤退しましょう!』

「駄目だ!」

『ですがっ!』

「これはもう、ただの戦争なんかじゃない!ここで俺達が戦わないと戦いは止まらないんだ!それに、今逃げたらこいつはアリーシャを殺す。そうなったらもう戦争は誰にも止められなくなる!」

『スレイさん……』

 

 スレイの叫びに、ライラはついに何も言うことが出来なくなる。

 

『逃げるのならば好きにすると良い。だがお前の後ろにはお前の従士と、そして幾万の無辜(むこ)の民が控えていることを忘れるな』

 

 敵に言われずとも解っている。

 自分はこの時代にただ一人の導師なのだと。

 世界の災厄を鎮める救世主なのだと。

 

 だが『導師』という称号がこれ程までに重いと感じたのは、これが初めてかもしれなかった。

 

 そして元より、スレイにはアリーシャを見捨てるという選択肢はない。

 

 

 選択肢ははじめからただ一つだった。

 

 

「全く、君って奴は……。だから放ってはおけないんだよ」

 

 ミクリオから盛大な呆れと共にこの戦いに付き合おうという気持ちがその声から伝わってくる。

 

「……わたしは納得いかないわ。『また人を好きになってもらいたい』とか言って連れ出しておいて、勝手に心中するなんて嫌よ」

「エドナ!そんな言い方は――!」

「でも」

 

 エドナがミクリオの言葉を妨げる。

 

「スレイやアリーシャみたいな『変なヤツ』に死なれたら気分悪いし迷惑だから、手伝うくらいはしてあげるわ。何よりこの髭ネコの態度とか気に食わないし」

 

 そう続けたエドナの表情は傘で見ることは出来ない。

 

 

「みんな……。ここで、災禍の顕主を倒すんだ!」

 

 スレイ達はヘルダルフに対峙する。

 

『眩いばかりに無垢よな。そしてあまりに無知。ならば全力で来るがいい、導師』

 

 

 そして導師と災禍の顕主の戦いが幕を開ける。

 

 

 

「『《龍幻残火!バーニングエコー!》』」

 

 唱えると同時にスレイの体と大剣に炎が纏わりつく。そのままヘルダルフへと斬りかかった。

 

 ヘルダルフはその巨大な腕で難なく受けるも、炎がまるで蛇のように纏わりついて来る。それは受ける回数を重ねるごとに増していく。

 

『攻撃や防御の度に受ける炎の応酬か。だが我には効かぬ』

 

 その言葉通り、まるで堪えた様子を見せないヘルダルフは炎を無造作に振り払いスレイに殴りかかる。

 

「《障壁集く、肉叢(ししむら)に。バリアー!》」

 

 だがエドナの張った無色の障壁がそれを阻む。しかし威力を殺しきれず、途端にひび割れる。

 

「っ、なんて馬鹿力なの」

 

 スレイが回避した直後には障壁は硝子細工のように粉々に砕け散ってしまった。

 

「駄目だ、中途半端な攻撃じゃ歯が立たない!……二人共、一瞬で良いから奴の動きを止められないか?」

「全く面倒ね」

「やってはみるけど期待はできないぞ!」

 

 二人のそれぞれの返事を聞いたスレイはヘルダルフから距離を取り、腕を伸ばして構える。

 逆にミクリオとエドナは距離を縮めていく。

 

 

 先に仕掛けたのはエドナだ。地面に片足をつけるとそこを起点に亀裂が生じていく。それは生き物のように素早くヘルダルフを囲むとすぐに、ヘルダルフの立っていた地面が一気に陥没した。

 

「地の天響術はただ地面を突き上げるだけじゃないわ。こういう使い方だってあるのよ」

 

 すかさずミクリオも仕掛ける。

 

「《出でよ、絡み合う荘厳なる水蛇!アクアサーペント!》」

 

 ミクリオが唱えると杖の先から二頭の水蛇が出現し、縛るようにヘルダルフに巻き付く。

 

「凍てつけ!」

 

 その状態のまま水蛇は凍りつき氷の拘束具と化した。

 

 

『今ですわ、スレイさん!』

「『《原始灼光!エンシェントノヴァ!》』」

 

 拘束されるがまま身動き一つしないヘルダルフに、スレイは灼熱の太陽を降って落とす。

 陥没した地面で爆発し、轟々と燃え続けるそれは大抵の憑魔ならばひとたまりもないだろう。

 

「やったか!?」

 

 燃え盛る炎の中、一抹の不安を抱えながら赤く彩られた影を見つめ続ける。

 

 不意に、影の中に黒い光が見えた。それはヘルダルフの掌に集束し黒さを増していく。

 それが攻撃の前兆であると気づいた時には遅かった。

 

 放たれた光は炎をかき消し、ミクリオとエドナを余波で吹き飛ばし、スレイに直撃する。

 大剣で受け止めたスレイはその衝撃に耐えていた。だがほんの一瞬、神依(カムイ)が途切れたような感覚を覚え、同時に力が抜けていく。

 

その一瞬で全ては決した。

 

 疑問を挟む余地もなく弾き飛ばされるスレイ。威力を殺したために重傷は負っていないものの、反動で地面に倒れたまま動くことが出来なかった。そこへいつの間にか歩み寄っていたヘルダルフに体を掴まれてしまう。

 

「スレイっ!」

 

 ふらつきながら叫ぶミクリオ。

 

 スレイは巨大な腕から抜け出そうと必死にもがくが、そうこうしている間にヘルダルフの纏う濃密な黒がスレイへと流れ、そして侵食していく。

 

 直後、弾かれるように腕から脱出は出来たものの、神依は解除されスレイとライラは地面に倒れこんだ。

 

「スレイっ!」

「うぅぐっ……!っがはっ…はっ…!!」

 

 駆け寄るミクリオ。スレイは何とか起き上がるも、突如込み上げた嘔吐感によって吐き出してしまう。

 ライラにはエドナが駆け寄るが、どうやら気を失っているようだ。

 

「どう…して……っ」

『神依が解除されたのか。あれは確かに切り札たり得る威力を持つが、お前のような未熟な神依では干渉して解除することなど容易い』

 

 さも当然のように話すヘルダルフは追撃することもなく、今だ膝をついたままのスレイを睥睨し続ける。

 

「はっ…、はっ……!」

『恐ろしいか?死の予感、甘美であろう?』

 

 

 怖い。

 ヘルダルフの言う通り、スレイの心は恐怖一色に染められつつあった。

 

 体格差もさることながら、スレイの目にはヘルダルフが異様に大きく映る。

 切り札の神依も通じず、全てが無駄に思えてしまう。

 

 体が抗うことを止めたかのように全身に力が入らない。まるで立ち上がる気力すらヘルダルフに奪われてしまったかのようだった。

 

 

『……なんだその目は?』

 

 だがそれでも。

 スレイは気丈にもヘルダルフを見つめ返していた。

 

 

 敵わないと知ってもそこで諦める訳にはいかない。

 

 導師としての責任だけではない。スレイはもう、自分の恐怖や絶望に負けて誰かを見殺しにするような真似だけは絶対にしたくなかったのだ。

 

 

 スレイの心が今だ折れていないことを見て取ったヘルダルフは掌を向け黒い靄を放つ。靄がスレイと傍にいたミクリオを包んだかと思うと、まるで重力に押さえ付けられたかのように二人は身動きが出来なくなる。

 

『よく見ておくがいい』

 

 スレイから目を離し、砦の方へ体を向けると片方の手を引き絞り大仰に構え、そしてその巨大な手の平には全てを塗り潰すような漆黒の光が集束していく。

 

 

 スレイを今度こそ絶望に落とさんがためと言うように。

 

 

「あれはさっきの……!」

「や、止めろ……っ!」

 

 ヘルダルフが何をするのか理解したミクリオとスレイは必死にもがき声を絞り出す。

 

 エドナが止めようと天響術を放つも咆哮一つで術がかき消え、ライラ共々吹き飛ばされてしまう。

 

 

『我を憎め。我を呪え。その胸に宿る絶望を糧に強くなれ』

 

 

 災禍の顕主は、止まらない。

 

 

「アリーシャ――――ッ!!」

 

 スレイが力の限り叫ぶ中、無情にもそれは放たれた。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 一方、導師スレイと獅子のような魔物になった大男が去った砦内は静まり返っていた。

 

「スレイっ!」

 

 アリーシャはスレイが投げ出され崩れた壁から乗り出し叫ぶ。

 周囲の者はその声にはっと我に返る。

 

 アリーシャの傍には騎士クレムが、気絶しているマルトランにはシレルや他数名の騎士が駆け寄っていく。

 砦の兵士は副団長の指示の下、被害状況の確認や負傷者の手当てに動き始めていた。

 

 副団長は一度アリーシャを見るものの拘束等の指示は出さなかった。

 指示を出していたランドンが倒れた今、自国の王女を拘束または殺害などという無茶な命令に従うべきではないと判断したのだ。

 

 アリーシャはスレイが無事であることを確認するとほっと息を吐くも、憑魔がスレイを追って行ったことに不安を滲ませていた。

 

 

「っ!姫様危ない!」

 

 突然クレムが鋭い声を発すると同時にアリーシャに飛びつき共に転がされる。

 アリーシャが何事かと見回すと、そこにいたのはハイランドの鎧と勲章を身につけた、熊とも狼ともつかない醜悪な顔をした人型の憑魔が立っていたのだった。

 

 ついさっきまでアリーシャのいた場所には幅広の剣が振り下ろされ、床に食い込んでいる。

 

『小娘エェェェェッ!このランドンのぶ武功を邪魔立てししおっテ、ゆ許さぬゾォ!』

「ランドン師団長…!」

 

 微妙にろれつの回っていない叫びが砦全体に響き渡る。アリーシャへの恨みが憑魔化してなお、意識を繋いでいるようであった。

 

 見れば先程までランドンの倒れていた場所には何人もの兵士が血を流して倒れている。

 

 

「師団長が魔物に!?」

「と、とにかく取り押さえろ!」

 

 砦の兵がランドンを取り囲むが邪魔だとばかりに次々となぎ払われていき、アリーシャだけを睨みつけ直進していく。

 

「ひ、姫様お逃げ下さい!私が――!」

 

 震える手で剣を構えるクレムが言い終わる間もなく幅広の剣が振り下ろされる。

 あわや両断されるかというところで、クレムはアリーシャに押し出され事なきを得た。

 

 

 ランドンを挟む形でクレムとは反対側に回り込んだアリーシャは槍を構え対峙する。

 

『砕ケ散れェ!』

 

 ランドンの振るう力任せの猛攻を何度も受け続けるアリーシャ。

 

 技量はマルトランと比べるべくもないが、憑魔化した影響もあり一撃一撃が非常に重い。

 ついには耐えきれず槍を落としてしまい、その隙にアリーシャは首を掴まれ高々と持ち上げられてしまった。

 

「ぅくっ…!」

「姫様っ!」

『ハハハハハ!オワ終わりダ小娘!貴様の首をミ見レババルトロ卿もヨ喜ばレレだろウ!オ王座についテワタ私二高いチチ地位をオオ――!』

 

 既に支離滅裂になりつつあるランドンは首を掴んだままアリーシャに剣の切っ先を向けた。

 

 次の瞬間には殺されるかも知れないという状況の中で、アリーシャはふと、スレイの声が聞こえた気がして崩れた壁から眼下を覗く。すると、黒い強烈な光を見た。

 憑魔がこの砦にあの光を放とうとしているのだと理解出来た。

 

 導師であるスレイをああも簡単にあしらう憑魔だ。あれが本当に災禍の顕主であるならばこの砦を破壊するなど容易いだろう。

 

 

 

 悔しい。

 

 アリーシャの胸にそんな想いが込み上がる。

 

 国を守るために騎士となったのに、周囲に守られ続ける弱い自分。

 従士であるにもかかわらず、導師の助けになれないばかりか足枷となってしまう自分。

 王女であるが故に新たな戦争の火種となるかもしれない自分。

 

 そんな自身の至らなさに無性に腹が立ち、そして自身の無力さに悲しくなり自然と涙が流れる。

 

「私にも……みんなを守れる力があれば……っ!」

 

 

 堪え切れない想いを露吐したその時だった。

 

『ナ、何だコレハ!』

 

 アリーシャを刺し殺そうとした刹那、それを阻むように光の膜がアリーシャを包み込んだ。

 

「コホッ…い、一体何が……?」

 

 アリーシャは痛む首を押さえつつも自分の状況に困惑する。

 

「姫様、剣帯から光が……!」

 

 クレムの言葉を聞いて見てみると確かに光は短剣から発せられていた。取り出した短剣を鞘から抜き放つとそれは一層の光を放つ。

 そこには光り輝く古代語の文字がはっきりと刻まれていたのだ。

 

「これは……『真名』……?」

 

 アリーシャには古代語は読めない。だが、旅の途中でスレイ達に聞いたことがある。

 天族が作り出す御霊(オーブ)と呼ばれるものを道具に宿すことで、その天族の属性の天響術が使えると。

 

 そして道具にはその天族の真名が刻まれるとも。

 

『ガアアァァァ!!』

 

 獣のようなランドンの叫びに我に返ったアリーシャは短剣を握りしめランドンに立ち向かう。

 ランドンとしての意識はもう残っていおらず、獣のように咆哮するのみ。

 

 力任せに強引に振り回す剣を、アリーシャは輝く短剣で受けた。すると今度は何の反動もなく、驚く程あっさりとランドンの剣を断ち切ったのだ。

 

「はああっ!」

 

 アリーシャは勢いのままにランドンへ迫り、躊躇なく短剣を突き刺す。

 

 

 天響術が使える道具とはつまり、憑魔を浄化する霊力が宿っているということ。

 

 ランドンの獣染みた姿は刺された箇所から崩壊を始め、浄化されていく。

 元の姿へと戻ったランドンは意識を失ったまま床に倒れるのだった。

 

 

 アリーシャは急いで外に目を向ける。既に憑魔の攻撃は放たれており、それはあと数秒もせずにこの砦を瓦礫の山と化すだろう。

 

 もう砦からの退避は間に合わない。

 このままでは皆が死んでしまう。

 

 そんな考えが()ぎる中、アリーシャはここにいる皆を守りたいと強く想う。

 すると、その想いに応えるかのように短剣の光がアリーシャの槍へと移り包み込んでいく。

 

 

 槍を手に取った時、アリーシャはある奥義を思い出した。

 

 師匠であるマルトランが得意とする秘中の奥義であり、また今日まで自分が習得出来ていない技。

 だが、今この一瞬だけは自分もその境地に届くと確信する。

 

 

 迫り来る黒へ、アリーシャは槍を腰だめに構えてしっかりと見据え、心を落ち着かせてその時を待った。

 

 自身の射程に届いたその時、アリーシャは満を持してその秘奥義を放つ。

 

「この一瞬に全てを賭ける!翔破、烈光閃っ!!」

 

 繰り出したのは目にも止まらぬ一槍必殺の連続突き。

 

 視認不可能な槍の一突き一突きが流れるように真っ直ぐな軌跡を幾筋も刻み、光の天響術と相まって流星のようにも見える。

 

 衝突し、僅かな時間拮抗した黒と白の光。だが徐々にアリーシャが押され始める。

 光の天響術で威力が上乗せされたとしても、ヘルダルフの攻撃を相殺するには至らなかったのだ。

 

 アリーシャが最後の一突きを繰り出したと共に槍を覆っていた光は黒い光へと吸い込まれ、遂には強い衝撃波を伴い爆散した。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 ミクリオと共に地面に縫い付けられたまま、爆発の余波に晒されるスレイ。

 

 だがそんなものはどうでもいいとばかりに必死に砦へと目を凝らす。

 

 そこには爆発の衝撃波を浴びて半壊した砦。もう砦としての機能を果たすことは出来そうにないが、それでも倒壊することなく建ち続けていた。

 そして遠目からでも見える、傷つき槍を杖代わりにしながらも懸命に立つアリーシャの姿だった。

 

 

『従士が光の天響術だと?威力を削がれたか』

 

 

 訝しむヘルダルフを余所に、スレイとミクリオは自身に対し強く憤っていた。

 

 

 ヘルダルフの口ぶりからアリーシャが何かをしたのだろう、最悪の事態は免れた。

 

 だが次はもうない。

 

 

 

 災禍の顕主に縛り付けられるまま、ただ見ていることしか出来なかった。

 

 誰かを見殺しにしたくないと誓いながら、放っておけないと口にしながら、今目の前でアリーシャ達が殺されそうになっても何も出来ずにいる。

 

 スレイとミクリオは、それが悔しくて悔しくて堪らなかった。

 

 

 そして二人は強く想う。災禍の顕主に打ち勝つ力が、みんなを守れる力が欲しいと。

 

 

 スレイとミクリオの想いが完全に重なったとき、それは起こった。

 

 

『ほぉ』

 

 スレイ達の変化にヘルダルフは関心を寄せる。

 

 水色の光を伴った斬撃が舞った直後、黒い靄の拘束は払われ立ち上がったスレイ。だが普段とはその様相は異なっていた。

 

 

 体全体から微かな水色の光を宿し、特に儀礼剣と導師の手袋を着けている左手の甲の紋様はその光が強く激しい。

 緑色だった瞳も今は澄んだ水色に彩られており、服の変化はないがそれはまるで神依を彷彿とさせる姿であった。

 

 そして何よりの変化は、スレイの姿に時折ミクリオが残像のように重なって映るという不可思議な状態であるということだった。

 

 

 それは正に一心同体。

 スレイは、いや二人は儀礼剣の切先をヘルダルフへ向ける。剣の光はより一層激しくなる。

 

『憎むでもなく呪うでもなく、守るために強さを得るか。成程、正しく導師よな』

 

 ヘルダルフはスレイの変化にこの時初めて笑みを浮かべて見せた。

 

 

「『俺達(僕達)の力の全てを、この剣に注ぐ!』」

 

 ヘルダルフへと迫る二人。

 互いに振り上げた剣と拳が激突する。

 

『無駄な足掻きだ』

「『それでも!俺達(僕達)は諦めない!』」

 

 両者供譲らない押し合いの中、ヘルダルフは二人の負けられないという想いの強さに、決定的な一歩を許してしまう。

 

「『うおぉぉぉっ!!』」

『ッ!?』

 

 一閃。

 攻めぎ合いに打ち勝った二人はヘルダルフに対し、確かな一筋の傷をつけたのだ。

 

 

 

 だが、そこまでだった。

 

 

 突如スレイとミクリオは弾かれるように分離した。地面に倒れた二人はピクリとも動けない。

 

 

 地面に伏したままのスレイを静かに見下ろすヘルダルフ。

 

 やがて、何故かスレイや天族に止めを刺すこともなく踵を返して立ち去ろうとする。

 

「ま、待て……!」

 

 ヘルダルフの不可解な行動に理解が追い付かないスレイは朦朧とする意識の中、気がつけばヘルダルフを呼び止めていた。

 

『導師。今はその時(・・・)ではない』

「どういう…意味だ…?」

『ローランスへ来るが良い。その時こそ我らの雌雄を決する時だ』

 

 

 ヘルダルフはそう言い残して黒い陽炎に飲まれていく。

 姿が見えなくなる頃にはスレイは気を失っていた。

 

 

 

 意識を取り戻したのはそれから三日後のことだった。

 




第二章のメインはこれで終わりです。
あとは第三章へ続くちょっとしたものを書いて次に移ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。