バカとテストと文学少女っ!   作:しほ

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文系女子によるバカたちとのラブコメディの始まり始まり。
「数学なんて滅べばいい」


序章 -プロローグ-

問 以下の問題に答えなさい。

 

『調理の為に火にかける鍋を制作する際、重量が軽いのでマグネシウムを材料に選んだのだが、調理を始めると問題が発生した。このときの問題とマグネシウムの代わりに用いるべき合金の例を1つあげなさい』

 

姫路瑞希の答え

『問題点……マグネシウムは炎にかけると、激しく酸素と反応する為危険であるという点。

合金の例……ジュラルミン』

 

教師のコメント

正解です。合金なので鉄ではダメと言うひっかけ問題なのですが、姫路さんは引っかかりませんでしたね。

 

 

前原玲奈の答え

『問題点……マグネシウムは炎にかけると、激しく酸素と反応して危険であるという問題点。

合金の例……鉄』

 

教師のコメント

残念ながら不正解です。合金の例で引っかかってしまいましたね。問題点は合っているので中身の理解は出来ています。鉄は合金ではないので注意してくださいね。

 

 

土屋康太の答え

『問題点……ガス代を払ってなかった事』

 

教師のコメント

そこは問題じゃありません。

 

 

吉井明久の答え

 

『合金の例……未来合金(←すごく強い)』

 

教師のコメント

すごく強いと言われても。

 

 

 

 

 

文月学園。

試験召喚システムと呼ばれる訳のわからない物を導入した進学校であり、私 前原玲奈の通う高校。

私は今日、振り分け試験と呼ばれる高校2年生一年間を決めるといっても過言ではないテストで、(前日の明け方までミステリー小説を読んでいたことにより)寝坊をしてしまいました。

 

 

 

 

 

 

4月。

桜の並木道を潜り、本日は余裕を持って登校してきた私は、もう20分以上お説教を食らっています。

 

「お前はバカか!!? 数学以外はBクラス並みの学力を持っていながら振り分け試験に遅刻し、挙句その理由が明け方まで本を読んでいただと!!?」

「……」

「ハァ……文学好きなのはいいことだ。この時代本を読む若者は少ないし、お前が純粋に本を読みたかったという気持ちは分かる」

「……」

「だが、それにより高校生活の一年間を棒に振ったことになるんだぞ…」

「……返す言葉もございません」

 

私の目の前で私に事実と言う名の暴言を吐いているのは、西村教諭。担当科目を受け持たず、彼の補修は「鬼」とまで呼ばれ、密かに「鉄人」という渾名まである、ちょっとおかしな先生だ。

私は意外とこの人が好きだったりするのだが。

 

「…仕方ないな。俺も最後まで抗議したが…決まり(ルール)だからな。お前にはこれを渡すしかない」

「最後まで抗議して頂けただけ光栄です。西村先生、本当にありがとうございました」

「…ああ…

(真面目で勤勉、本を溺愛しすぎているところはあるが、それもこいつの魅力の一つだと思うんだがな…)」

「では」

 

ぺこりと西村教諭に頭を下げて、私は校舎へと足を進めた。

 

 

 

 

「…これは、また」

 

なんというか。

そう呟いた私を見ている人はいないにしても、少し独り言が大きかったかなと反省し、目の前にある酷い有様の教室を見る。

 

新校舎にも寄ってみたが、Aクラスとの設備の差が激しすぎる。

 

「……まあ…でも、Aクラスにいけるような学力なんて、生憎持ち合わせてないし…」

 

仕方ないよね、とガラリと扉を開けた。

 

「……」

 

まさかの誰もいない。

20分も説教を食らっておいて一番乗りということは、やはり素行もあまり宜しくないメンバーばかりのようだ。

 

「……本でも読んでおこう…」

 

持ち前の影の薄さを利用して、教室の一番後ろ端に腰をかけると、分厚い小説を開いた。

 

本が好きだ。

引き込まれるような世界観も、自分が主人公になれたような満足感も、主人公に対する共感や反感、たった一つの小さな世界が、自分を離さない。

本を読んでいる間の私はいつも、きっとどうしようもなく近寄りがたい雰囲気を醸し出しているに違いなかった。

 

____________だから、だろうか。

 

教卓に立つ男子生徒も、彼に罵倒されるバカの代名詞という不名誉な称号を持つ男子生徒も、その後ろから現れた福原教諭の声を聞くまで気がつかなかった。

 

「えー、おはようございます。2年F組担任の福原慎です。よろしくお願いします」

「(あれ、福原先生!!? いつの間に…もう30分も経ってる…!)」

 

いつもの癖だ。読み始めると止まらない。

これが治らない限り、私は来年の振り分け試験でも同じことをするのだろう。

小さく溜息を吐いた。

 

「皆さん、全員に卓袱台と座布団は支給されていますか?不備があれば申し出てください」

 

正直勉強する環境としては不備しかないと思う。

しかしそんなことを言えるはずもなく、またひっそりと小さな溜息を零すことに留まった。

 

「せんせー、俺の座布団に綿がほとんど入ってないです!」

 

確かに、そういう不備くらいなら受け付けてくれるよね。

私がそんなしょうもないことで納得したのも束の間。

 

「あー、はい。我慢してください」

 

受け付けてくれなかった。

 

その後も卓袱台の脚が折れているだの、窓が割れていて寒いだのと不備を申し出たが、全て塩対応に終わり、何だかもう溜息を吐くのにも疲れてきた、そのとき。

 

「では、自己紹介でも始めましょうか。そうですね。廊下側の人からお願いします」

 

そう言った福原先生の言葉によって自己紹介が始まった。すると、私とは正反対に座っている綺麗な男子生徒が腰を上げた。

 

「木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる―――――と、いうわけじゃ。今年一年よろしく頼むぞい」

 

木下秀吉という名前を聞いて、自分の親友を思い浮かべる。そうか、彼は噂の弟くんか________と一人納得していると、彼は自分の自己紹介を終えて笑みを浮かべた。

 

「(やっぱり綺麗だなぁ。顔の節々が整っていて、優子に似ているからちょっと女の子っぽい感じ)」

 

思わず、ほう…と見惚れてしまう。そういえば彼は演劇部のホープと言われていたな、とそんな豆知識程度のことを頭に思い浮かべていると、次々と自己紹介は進み、小柄な男子生徒が腰を上げた。

 

「……土屋康太」

 

彼は見たことがある。何度か彼が盗撮を試みているのを見たことがあるのだが、この歳の男子生徒が女子生徒に対して興味や関心を覚えるのは当然のことだと思っているので、気づいても放置することにしている。

 

「……(彼も整った顔立ちだから、自分で自分の女装写真とか撮ったら売れると思うんだけど)」

 

ちなみに彼がムッツリ商会という名目で撮った写真を男子生徒に売り捌いていることは知っている事実だったりする。そんなことを考えていると、またもやどんどんと自己紹介は進んでしまう。

 

「(みんな淡白だなあ)」

 

そんなものなのかな、と考えながら次の自己紹介を待っていると、ポニーテールが揺れた。

 

「――です。海外育ちで、日本語はできるけど読み書きが苦手です。あ、でも英語も苦手です。育ちはドイツだったので。趣味は―」

「(わ、女の子だ…しかもカワイイ…)」

 

声まで可愛いな、と考えながら私以外の女子生徒にこっそり安堵していると、

 

「趣味は吉井明久を殴ることです☆」

 

特定の人物にターゲットを絞る危険な趣味の持ち主だった。

 

「はろはろー」

「……あぅ。し、島田さん」

「(こ、恐い…!!)」

 

初めて女の子に恐怖を抱いた。物理的な意味で。

 

「――コホン、えーっと、吉井明久です。気軽に『ダーリン』って呼んで下さいね♪」

「(あれ、この人ってさっきの女の子の…)」

『ダァァーリィーン!!』

 

野太い男声の大合唱。 これは女の子が言うべきものではないだろうか。

 

可哀想な人だな、と思わず哀れんだ視線を送ってしまう。彼自身も吐き気を催したようで、すぐに自己紹介を終わらせようとしていた。

 

そして、気がつけば自己紹介は私の番になっていた。

誰もが退屈そうに欠伸をしているのを見て少しホッとする。

 

その方が緊張しないよね、と一人納得して席を立つと、いきなり視線が集中した。

 

「(えっ、な、何…?)」

『……え?』

「あ、あの…前原玲奈です!図書委員長を務めています!よ、よろしくお願いしますっ」

 

あまりにも視線が厳しかっただけでなく、ざわざわと私のことで話をしているのが恐くて、逃げるように話を終わらせた。

 

『……んで…』

『あり…な……』

「(……)」

 

何を言われているのか分からなくてびくびくしていた私は赤髪の男子生徒にじっと見られていたことなんて、気がつかなかった。

 

ガラリッ

 

「あの、遅れてすみま、せん…」

『えっ?』

 

心待ちにしていた次の人の自己紹介、と思っていたら、そこには桜色のふわふわしたロングヘアー、綺麗な青くて丸い瞳、そして豊満なバストを持った女子生徒がいた。肩で息をしながら飛び込んできたところを見ると、どうやら走ってきたらしい。

 

「(え?あれって姫路さん、だよね…?姫路さんはAクラスじゃ、)」

「丁度よかったです。今自己紹介をしているところなので姫路さんもお願いします」

 

特に驚く様子もなく自己紹介を促す福原教諭の言葉を聞く限り、彼女は間違えてこのクラスに来たようではないらしかった。去年同じクラスで彼女の努力を知っているから、少し悲しく、虚しい気持ちでいっぱいだ。

 

姫路さんに何があったのだろうか。

 

「は、はい!あの、姫路瑞希といいます。よろしくお願いします」

「(でも、そんなに接点がないとはいえ、同じクラスに知り合いがいて良かった…)」

「はいっ!質問です!」

 

私が先ほどの女の子よりは心が安らぐ女子生徒の登場に、心から安堵した。

すると、男子生徒から質問の声が上がる。

 

「あ、は、はい。何ですか?」

「何でここにいるんですか?」

「(…その聞き方は失礼なんじゃ、)」

 

とは言い出せなかった。

思わず苦笑いが溢れてしまったものの、その質問は私を含め、きっとここにいる誰もが聞きたかったことだろう。

何故なら姫路さんは容姿端麗で成績優秀、入学最初のテストで学年2位という快挙を記録し、その後も一桁以内に常に名前を残している、才色兼備な優秀なる女子生徒だからだ。文月学園の生徒で彼女を知らないなんて人は存在しない筈、そう言い切れるほどに。

 

そんな彼女がFクラスにいるのはおかしい。きっと学年中の誰もが、姫路さんはAクラス行き確実だと思っていたに違いなかった。

そして、私もその一人だった。

 

「そ…その………振り分け試験の最中、高熱を出してしまいまして……」

『ああ、なるほど』

 

今度ばかりはみんなと一緒に納得した。

試験の途中退席が0点扱いとなるのはこの学園の方針で、彼女は振り分け試験を最後まで受けることが出来なかったのだ。

 

「(私の場合は欠席で0点だけど…)」

 

乾いた笑みを溢していると、不意に男子生徒たちが一斉に言い訳を始めた。

 

『そう言えば俺も熱(の問題)が出たせいでFクラスに』

『ああ。科学だろ?アレは難しかったな』

『俺は弟が事故に遭ったと聞いて実力を出し切れなくて』

『黙れ一人っ子』

『前の晩、彼女が寝かせてくれなくて』

『今年一番の大嘘をありがとう』

 

こんな人達と馴染んでいけるのだろうか。

私は明らかに論点や考え方に大きく違いのある人達を見て不安を募らせた。

 

「で、では、一年間よろしくお願いしますっ!!」

 

姫路さんは緊張からか、逃げる様に…確か吉井くん、と…赤髪の男子生徒の隣の席に着いた。それは私の二つ隣の席なのだが、彼女は吉井くん…と赤髪の男子生徒とのお話に夢中で気がついていなかった。

 

「はいはい。そこの人たち、静かにして下さいね」

「あ、すみませ………」

 

バキィッ!パラパラパラ……

 

福原先生が教卓を叩いて彼らに注意したので、吉井くんが謝ろうとすると、教卓が壊れてゴミになった。

 

「えー……替えを用意してきます。少し待っていてください」

 

気まずそうに告げて教室から出て行く福原先生をみながら、私は再度ため息を吐いた。

 

 

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