バカとテストと文学少女っ!   作:しほ

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第10話 - 協定違反 -

「明久。とりあえずワシらは前線に戻るぞい。玲奈のことも心配じゃ」

 

そう言うと、秀吉は教室を駆け足で出ていく。

 

「ん。じゃあ雄二、あとよろしく」

 

「おう。シャープや消しゴムの手配をしておこう」

 

手を挙げる雄二に背を向けて、秀吉を追いかけ走り出す。

そこまで全力で走っていなかったのか、すぐに追いつくことが出来た。

 

「なんか…まだまだ色々やってきそうだよね。玲奈ちゃんのこともだけど…」

 

「うむ、この程度で終わるとは思えんのう。気を引き締めた方が良さそうじゃ」

 

次はどんな姑息な手を使う気だろうか。全く、そっちの方が戦力的には圧倒的に有利なんだから、正面から迎え撃つくらいの気概があってもいいのに。

 

っと、そろそろ戦場が見えてきた。

 

「では、くれぐれも用心するのじゃぞ!玲奈のこともよく見ておくのじゃ!」

 

「秀吉もね!玲奈ちゃんのこと任せたよ!」

 

互いに警告し合い、それぞれの部隊に戻る。

秀吉が向かう先は廊下戦。最高戦力である玲奈ちゃんと姫路さんが集い、Bクラスを押し込めている戦線だ。玲奈ちゃんの教科書があんなことになっていた以上、根本くんが玲奈ちゃんに対し何か卑怯なことをする可能性は十分にある。秀吉もそれはわかっているみたいだ。

 

心配もしてるし、僕が守ってあげたいとも思うけど、これはあくまで戦争。今は僕の私情をつき通すわけにはいかないし、秀吉のことは信用も信頼もしてるからね。

 

「吉井!戻ってきたか!」

 

出迎えてくれたのは須川くん。でもそれはおかしい。

部隊は副官である島田さんが指揮をとっているはずなのに。

 

「待たせたね!戦況は?」

 

「かなりマズイことになっている」

 

「え!? どうして!? 」

 

向こうから本隊が出てきたわけでもなさそうだし、戦力としては負けるはずがないのに、どうして。

 

「島田が人質に取られた」

 

「なっ!?」

 

今度は人質か!卑怯な手段の王道じゃないか!

 

「おかげで相手は残り二人なのに攻め倦んでいる。どうする?」

 

現在、僕の部隊はそのせいで敵と睨み合いになっているらしい。

 

「…そうだね。とりあえず状況を見たい」

 

「それなら前に行こう。そこで敵は道を塞いでいる」

 

須川くんが前を歩き、僕があとに続く。

僕の部隊の人垣をぬけると、そこには須川くんの言う通り、二人のBクラス生徒と捕らえられた島田さん及びその召喚獣の姿があった。

 

そして、そばには補習担当講師もいる。

 

「島田さん!」

 

「よ、吉井!」

 

なんだかドラマみたいだ。

 

「そこで止まれ!それ以上近寄るなら、召喚獣にとどめを刺してこの女を補習室送りにしてやるぞ!」

 

島田さんを捕らえている敵の一人が僕を牽制してきた。

そうか、数少ないウチの女子をただ戦死させるんじゃなく、人質にとって補習室送りをちらつかせ、こちらの士気を挫く作戦か。うまいやり方だ。

 

このまま攻め込めば、僕らが相手を倒す前に島田さんにとどめを刺され、補習室送りにされて辛い思いをさせてしまう。

 

……………問題ないな。

 

「総員突撃用意ぃーっ!」

 

「隊長それでいいのか!?」

 

仕方ないさ!戦争に犠牲は付き物なんだ!

決して日頃痛めつけられている仕返しじゃなくて、これは指揮官として必要な判断なんだ!

 

「ま、待て吉井!」

 

敵からちょっと待ったコールが入る。往生際が悪いな。

 

「こいつがどうして俺たちに捕まったと思ってるんだ?」

 

「バカだから」

 

「殺すわよ」

 

え?何?どうして人質にされている島田さんに僕が気圧されてるの?

 

「コイツ、お前が怪我したって偽情報を流したら、部隊を離れて一人で保健室に向かったんだよ」

 

なんだって!?

 

「島田さん…」

 

「な、なによ」

 

島田さんの顔は心なしか赤い。

 

「怪我をした僕にとどめを刺しにいくなんて、アンタは鬼か!」

 

「違うわよ!」

 

恐ろしい。これじゃおちおち保健室で昼寝もできないじゃないか。

 

「ウチがアンタの様子を見に行っちゃ悪いっていうの!? これでも心配したんだからね!」

 

え………?

 

「島田さん。それ、本当?」

 

「そ、そうよ。悪い?」

 

ぷいっと顔を背ける島田さん。

そっか。僕のことを心配してくれたのか。あの島田さんが……

 

「へっ。やっとわかったか。それじゃ、おとなしく」

 

「総員突撃ぃーっ!」

 

「どうしてよっ!?」

 

どうして?そんなの決まってるじゃないか!

 

「あの島田さんは偽物だっ!変装している敵だぞ!」

 

変装するべき相手を間違えたな!あの島田さんにそんな優しさがあるわけがない!嬉々として僕を殺(や)りに来るに決まってるじゃないか!

 

「おい待てって!コイツ本当に本物の島田だって!」

 

狼狽するBクラスの生徒。

 

「黙れ!見破られた作戦にいつまでも固執するなんて見苦しいぞ!」

 

「だから本当に_____!」

 

 

 

『Bクラス 鈴木二郎

 英語W  33点

 

VS

 

Fクラス 田中明

 英語W 65点』

 

 

『Bクラス 吉田卓夫

 英語W 18点

 

VS

 

Fクラス 須川亮

 英語W 59点』

 

 

 

まずは死にかけ二人を撃破!召喚獣にとどめを刺す!

 

「ぎゃぁぁぁー……!」

 

「たすけてぇー……!」

 

近くにいた補習講師に連行される二人。いい気味だ。

 

さて、残りは _____

 

「皆、気を付けろ!変装を解いて襲いかかってくるぞ!」

 

この島田さんモドキをどうするかだ。

 

「よ、吉井、酷い……。ウチ、本当に心配したのに……」

 

「まだ白々しい演技を続けるか!この大根役者め!」

 

島田さんはそんな台詞を吐いたりはしない!

 

「本当だよ!本当に心配したんだから!」

 

「取り囲むんだ。いくらBクラスでも、この人数なら勝てるから」

 

「本当に、

『吉井が瑞希のパンツ見て鼻血が止まらなくなった』って聞いて心配したんだから!」

 

「包囲中止!これ本物の島田さんだ!」

 

こんな嘘に騙されるのは彼女以外いない。

 

「島田さん、大丈夫だった?」

 

床に座り込む彼女に手を差し伸べる。くそっ、Bクラスめ、なんで卑怯な真似を。

 

「………」

 

素直に僕の手に掴まり、立ち上がる島田さん。珍しい。

 

「無事でよかったよ。心配したんだからね」

 

「………」

 

「教室に戻って休憩するといいよ。疲れているでしょ?」

 

「………」

 

「それにしても、卑怯な連中だね。人として恥ずかしくないのかな?」

 

「………」

 

島田さんのリアクションがない。

なんか、やりにくいな。

 

「あー、島田さん。実はね」

 

「……なによ」

 

やっと帰ってきたリアクション。

こちらを向いてくれた彼女に対してお礼の気持ちを込めて、僕の出来る最高の笑顔を作る。

 

「僕、本物の島田さんだって最初から気付いていたんだよ?」

 

殺されかけた。

 

 

 

 

☆

 

 

 

 

「………ここはどこ?」

 

目を覚ますと汚い天井が視界に入る。

そこは………ああ、教室か。

 

「あ、気がつきましたか?」

 

近くから可愛らしい声が聞こえてくる。この声は姫路さんだな。

 

「心配しましたよ?吉井くんってば、まるで誰かに散々殴られた後に頭から廊下に打ち付けられたような怪我をして倒れているんですから」

 

それ正解。

 

「いくら試召『戦争』じゃからといって、本当に怪我をする必要はないんじゃぞ?」

 

いや、あれは戦争というより一方的な虐殺だったような。

 

「ちょっと色々あってね。それで試召戦争はどうなったの?」

 

畳に横たわっているのが気持ちいい。もはや体も動かしたくない。ていうかさっきから視界がおかしい。

なんか柔らかいし、畳にしては布っぽい感触が頬にあるし。視界の隅には白い肌と赤いスカートが……って、え?

 

「……………ゑ?」

 

「明久くん、大丈夫…?身体とか痛くない?すごい怪我だったから本当に、本当に心配したんだよ…!?」

 

「………………………玲奈ちゃん。僕今キミの膝の上に頭を乗せていたりするのかな?」

 

「え?うん、その通りだけど…」

 

ゴンッ。

今すぐに頭を床に落として這いつくばって土下座したい。

むしろしよう。頭を床に落とすところまでは完璧に行えたし、あとは土下座して謝罪するだけだよね。

 

「あっ!もう明久くん、今は身体を休めないとなんだから勝手に降りちゃだめ!」

 

「幸せ者じゃな、明久よ…」

 

「私だって、吉井くんに膝枕したいのに…」

 

姫路さんが何か言った気がするけど聞こえなかった。

そして秀吉、たとえこれが幸せな状況でも僕はこれを甘受できないよ?

好きな女の子に膝枕されてるんだよ?そんな簡単に受け入れられないんだけど???

 

「玲奈ちゃん、お願いだから膝から下ろして。もう立てるから」

 

「ほんと?もう体痛くない?頭は?強打してたから、」

 

「大丈夫!大丈夫だから!!」

 

だからもうお願いだからこの幸せな太ももから解放してください!!!

 

「そこまで言うなら…うん、よいしょ…っと」

 

玲奈ちゃんは僕の頭を優しくどかして畳にゆっくりと下ろしてから、僕がうまく起き上がれるように背中に手を当てて起こしてくれる。まるで介護されている気分だ。

 

「…気を失っていた明久に説明すると、今は協定通り休戦中じゃ。

続きは明日になるじゃろうな」

 

「戦況は?」

 

「一応計画通り教室前に攻め込んだ。もっとも、こちらの被害も少なくはないがな」

 

雄二がこちらの被害を書いたメモを読み上げる。

どれも予想の範囲内だけど、こちらの被害もかなり大きい。

廊下戦は圧勝に見えるけどそれはこちらがほぼ全力を注いだ結果で、全体としては決していい状態ではない。

 

「ハプニングはあったけど、今のところ順調ってわけだね」

 

「まぁな」

 

でも、相手はあの根本恭二だ。絶対にまだ何かを企んでいるはず。

 

「…………(トントン)」

 

「お、ムッツリーニか。何か変わったことはあったか?」

 

気が付けばムッツリーニがそばに来ていた。

今日のムッツリーニは情報係で、戦闘には直接参加せずに周囲を警戒していた。相手の動きを逃さずチェックする為だ。

 

「ん?Cクラスの様子が怪しいだと?」

 

「………(コクリ)」

 

ムッツリーニの話によると、どうやらCクラスが試召戦争の用意を始めているとのこと。まさかAクラス相手に戦おうだなんて考えているわけないから_____

 

「漁夫の利を狙うつもりか。いやらしい連中だな」

 

雄二の言う通り、この戦争の勝者を相手に戦うつもりなのだろう。

疲弊している相手ならやりやすいだろうから。

 

「雄二、どうするの?」

 

「んー、そうだな」

 

ちらりと時計を見る。四時半、まだそんなに遅い時間じゃない。

 

「Cクラスと協定でも結ぶか。Dクラス使って攻め込ませるぞ、とか言って脅してやれば俺達に攻め込む気もなくなるだろ」

 

「それに、僕らが勝つなんて思ってもいないだろうしね」

 

Cクラスが僕らと結ぶのはそう難しい話ではなさそうだ。

 

「よし。それじゃ今から行ってくるか」

 

「そうだね」

 

痛む身体に活を入れて立ち上がる。うん、特に動きに支障はなさそうだ。

 

「明久くん、本当に大丈夫?頭痛んだり、立ちくらみしたりとか…」

 

「大丈夫だって、玲奈ちゃんは心配性だね」

 

「でも、本当にひどい怪我で…今こうして普通にしていられるのがすごいくらいなのに…」

 

「僕頑丈だし。玲奈ちゃんも一緒に行くよね?Cクラス」

 

「うん。もしものためにもついていこうと思ってるよ」

 

「じゃあ玲奈ちゃんが監視しておいてよ、僕のこと」

 

「…わかった。無理したらすぐにでも引き返してもらうからね!」

 

ふんす、と気合を入れてこちらをじっと見つめている玲奈ちゃんが可愛い。こんな監視ならいつまでもしていてほしい。

 

「秀吉は念の為ここに残ってくれ」

 

「ん?なんじゃ?ワシは行かなくて良いのか?」

 

「お前の顔を見せると、万が一の場合にやろうとしている作戦に支障が出るんでな」

 

「よくわからんが、雄二がそう言うのであれば従おう」

 

素直に引き下がる秀吉。でも、雄二の言う念の為って何を想定してのことだろう。

 

「じゃ、行こうか。ちょっと人数少なめで不安だけど、姫路さんも玲奈ちゃんもいるしね」

 

秀吉を残して、僕、雄二、姫路さん、ムッツリーニ、玲奈ちゃんの5人でCクラスに向かう。

 

「吉井。アンタの返り血こびりついて洗うの大変だったんだけど。どうしてくれんのよ」

 

「それって吉井が悪いのか?」

 

廊下に出たところで、ハンカチで手を拭っている島田さんと鞄を肩に担いでいる須川くんに会った。

 

「あ、島田さんに須川くん。ちょうど良かった、Cクラスまで付き合ってよ」

 

まさかないとは思うけど、万が一僕が使者をやっている時のようにCクラスの人にボコられそうになった時、この人数では心許ない。何より、玲奈ちゃんを守るための人材も必要だ、そう思って二人に声をかけてみた。

 

「んー、別にいいけど?」

 

「ああ。俺も大丈夫だ」

 

盾、もとい仲間ゲット。

 

「急がんとCクラスの代表が帰ってしまうぞい」

 

「うん、急ごう」

 

教室内にいた秀吉から声をかけられて、僕たちは7人でCクラスに向かうことになった。

 

「Fクラス代表の坂本雄二だ。クラス間交渉に来たんだが、このクラスの代表は?」

 

「クラス代表は私よ。クラス間交渉ね…ふぅん…」

 

あまり悪口は言いたくないんだけど、小山さんは優しく穏やかな性格ではなさそうだ。雄二の言葉を聞いていやらしい笑みを浮かべている彼女は、確かバレー部のホープだったと思う。混じり気のない黒髪のショートヘア。気の強そうな女の子だ。

 

「不可侵条約を結びたい」

 

「不可侵条約ねぇ……。どうしようかしらね、根本クン?」

 

小山さんは振り返ると、教室の奥にいる人達に声をかける。

え?根本?

 

「当然却下。だって必要ないだろ?」

 

「なっ!?根元くん!Bクラスの君がどうしてこんなところに!」

 

奥から取り巻きを連れて現れたのは、目下の僕らの敵であるBクラス代表の根本恭二くん。みるからに性格の悪そうな目つきは、同じ鋭い目でも雄二とは大違いだ。

 

「酷いじゃないかFクラスの皆さん。協定を破るなんて…

試召戦争に関する行為を一切禁止したよな?」

 

「何を言って_____ 」

 

「先に協定破ったのはそっちだからな?これはお互い様、だよな!」

 

根本くんが告げると同時に取り巻きが動き出す。そしてその背後には先ほどまで戦場にいた、数学の長谷川先生の姿が隠されていた。

 

「長谷川先生!Bクラス芳野が召喚を_____」

 

「させるか!Fクラス須川が受けて立つ!試験召喚(サモン)!」

 

Bクラス芳野くんが雄二に対して攻撃しようとしたところを、間一髪で須川くんが身代わりになる。須川くんのファインプレーだ。

 

「僕らは協定違反なんてしてない!これはCクラスとFクラスの_____」

 

「無駄だ明久!根本は条文の『試召戦争に関する一切の行為』を盾にシラを切るに決まっている!」

 

「ま、そゆこと♪」

 

「屁理屈だ!」

 

「屁理屈も立派な理屈のうちってな」

 

「明久、ここは逃げるぞ!」

 

「くそっ!」

 

戦闘を行なっている須川くんに背を向け、僕らはCクラスが離脱を試みて駆け出す。

 

「逃すな!坂本を討ちとれ!」

 

背後から聞こえてくる根本くんの指示と複数の足音。

はっきり言ってこれはかなりまずい。僕らはBクラス相手で勝負になるわけがないし、頼みの綱である姫路さんも先ほどの戦闘で数学の点数はかなり消費してしまっている。

さらに頼みの綱である玲奈ちゃんは昔から数学は苦手で、この教科においては僕たちFクラス並み、むしろそれ以下の点数を叩き出すこともある。

さすが玲奈ちゃんに嫌がらせをするだけのことはあって、玲奈ちゃんの苦手科目もしっかりわかっているってことか…!

 

「はぁ、ふぅ…」

 

「姫路、大丈夫か?」

 

廊下を走っていると、姫路さんが遅れ出した。運動が得意でない上に身体の弱い姫路さんにこの全力疾走は厳しそうだ。

 

「あ、あの、さ、先に……行って、ください……」

 

息も絶え絶えに姫路さんが言う。このまま彼女を連れていたら確実に追いつかれるだろう。だがここで彼女を失うわけにはいかないし、何より女の子を見捨てて逃げるなんて出来るわけがない!

 

仕方ない、か……

 

「雄二!」

 

「なんだ明久!」

 

「ここは僕が引き受ける!雄二は姫路さんを連れて逃げてくれ!」

 

その場に立ち止まり振り向いて、後から走ってくる姫路さんと雄二にそう告げる。まさかこの僕がこんなことを言う日がくるなんてね。

 

「よ、吉井くん、私のことは、気に、しないで、」

 

「……わかった。ここはお前に任せる」

 

姫路さんの言葉を遮って、雄二が応える。さすが雄二だ、感情に流されず、今必要なことを正しく判断できる。

 

「………(ピタッ)」

 

「いや、ムッツリーニも逃げてほしい。多分明日はムッツリーニが戦争の鍵を握るから」

 

一緒に立ち止まってくれたムッツリーニだけど、ムッツリーニにも重要な役割がある。ここで失うわけにはいかない。

 

「んじゃ、ウチは残ってもいいのかしら。隊長どの?」

 

「……頼めるかな?」

 

「はーいはい。お任せあれっと」

 

笑いながら追手が来る方向を見つめる島田さん。ありがとう。

 

 

 

 

☆

 

 

 

 

4対2の圧倒的不利な状況。

とりあえずどうにかしてこの場から逃げ出さないことには!

 

「島田さん!アレを!」

 

手が空いた島田さんに、前にも使った消化器を使うよう指示をする。

 

「了解!」

 

抱え上げ、安全弁を抜く島田さん。これで逃げ切れる_____

 

「………」

 

_____はずなのに、彼女は全く動かない。なんで?

 

「は、早く使って!」

 

「うーん。どうしよっかな〜?」

 

すごく楽しそうに笑顔を作ってくる。

 

「島田さん!何が望みなの!?」

 

こ、こんな時に島田さんの本性が!いつまでも三対一で戦うのなんてキツいのに!

 

「望み?うーん、そうね〜」

 

「今なら大抵の言うことは聞きます!」

 

「それじゃ、まずは呼び方から変えてもらいましょうか」

 

「変える!変えさせて頂きます!」

 

「じゃ、今後ウチはアンタのことを『アキ』って呼ぶから、アンタはウチのことを『美波様』って呼ぶように」

 

「み、美波様!これでいい!?」

 

「今度の休み、駅前の『ラ・ペディス』でクレープ食べたいな〜」

 

「おのれ!僕が塩水で生活しているというのになんという贅沢を_____ああっ!奢ります!奢らせて頂きますから置いていかないで美波様!」

 

「よろしい。じゃ、最後に」

 

「まだあるの!?もういいでしょう!?」

 

島田さん、とっても楽しそうです。

 

「ウチのことを愛してるって、言ってみて?」

 

くぅっ、調子に乗って!後で覚えてろよ!

 

「ウチのことを愛してる!」

 

一言一句間違い無く復唱しました!これで文句ないだろ!?

 

「……バカ」

 

そう呟いて消化器を吹き出そうとした島田さんだったけど、

 

「あ、あの、二人とも一体何を…?」

 

島田さんの行動は、突如現れた玲奈ちゃんによって保留になった。

 

「玲奈ちゃん!?どうしてここに、」

 

「あ、私は長谷川先生にお話があって」

 

そう言ってこちらを見つめる瞳は強い。多分余程伝えたいことがあるんだと思う。それに、戦わないなら点数の消費もない。そこまで言うなら、玲奈ちゃんを信じてみよう。

 

隣に立つ玲奈ちゃんは、少し怒ったような顔をしていた。

 

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