「Bクラス!そこで止まるんだ!」
相手の気勢を削ぐように、強い口調で呼び止める明久くん。
明久くんは優しい人だけど、こういう強い口調で話すこともあるんだなあ。やっぱりどんなに酷いことをされても、友人には強く出られないみたい。優しい人だ。
「いい度胸だ。たった3人で食い止めようってのか?」
「いいえ。その前に、長谷川先生にお話があります」
私も、私のやれることをやるんだ。
☆
「なんでしょう、前原さん」
少し息の荒い長谷川先生が前に出てきた。
その表情は柔らかい。やっぱり玲奈ちゃんは先生達から絶対の信頼を得ているようだ。
「Bクラスの協定違反を訴えるつもりなら、話を聞く限り、休戦協定を破ったのはFクラスのようですが」
「私が訴えたいのは協定違反云々のお話ではなく、BクラスがFクラスに対し行った、妨害行為のことです」
「……と、いいますと?」
長谷川先生の目が厳しくなる。どうやらこの件に関して、Bクラスは予想していたらしく余裕の表情だ。
「Bクラスの生徒数名が、Fクラス代表である坂本雄二とその他数名のFクラス生徒がBクラス根本恭二と休戦協定を結ぶ為に教室を空けている間に、教室にあったシャープペンシルや消しゴム、教科書などの備品を壊して回っていました。
これに対し、Bクラス生徒のあなた方は何か反論はありますか?」
「はっ、何を証拠にそんなことを!俺たちは試召戦争に参加してたんだ、そんなことできるはずがない!
そもそも根本とお前らのクラスの代表との休戦協定だって後から聞かされたんだぜ?俺たちの知ったことじゃないな!」
「そうですか。では話を続けます。
_____ここに、一枚のビデオテープがあります。
これは私たちFクラスにとって希望のテープなのです。なぜかお分かりですか?」
「知るわけないだろ、そんなこと。てかいつの時代だよ、ビデオテープって…」
「このビデオテープは、昔ながらのカセットビデオが搭載するボイスレコーダーで教室内を録音したものですよ」
「……!」
玲奈ちゃんの言葉に、Bクラス生徒の顔がひきつる。
長谷川先生がちらりとBクラス生徒を見たのがわかった。
「ビデオテープ自体には映像はありませんので、大した証拠にはなりませんが……
あなた方の声や行動の“音”は立派に録音されていると思いますよ。
もしあなた方が先ほど行った、休戦協定のことを知らなかった、と言う言葉が本当なのであれば_____
私たちFクラスの教室に、間違っても用などありませんよね?
それも、代表も生徒もいない空っぽの教室なんかに」
「…っ!」
「ああ、それから。被害の中には私の教科書も含まれていましたが、あれは散々な書かれようでした。
あまり丁寧な字とは言い難いものでしたが、筆跡を照らし合わせれば誰が書いたものかわかるでしょうか?
急いで書いたんでしょう、よほど乱雑な字でしたので、その人の癖が出ていると思います」
「…っなんの話だ!俺たちはそんなものは、」
「知りませんか?本当に?ではこのビデオテープは長谷川先生にお渡しして、確認していただいても良いのですね?」
「………っ!」
「ああ、困りました。
壊されたものの中には確か、高価な万年筆が入っていたはずなのですが…あれは父からの頂き物で、確か数万はくだらない代物なんですよね」
はあ、とため息を吐く姿すら絵になる。玲奈ちゃんは可愛い。
それなのに、さっきから玲奈ちゃんはずっと真顔でちょっと怖い。
「もしこのビデオを確認して、あなた方の声が入っていなかったなら…一体誰が弁償してくださるのでしょう。
ねえ、あなたはご存知ないですか?私の万年筆」
「ご存知?ねえな!そもそもお前の鞄の中に万年筆なんてなかったんだから…「バカ、てめえ!」………っ!」
「…ふふ。もう遅いですよ。
長谷川先生。この通り、彼らはどうやらFクラスの_____ひいては私の荷物に触れたと言う確固たる事実があるようです」
「……そのようですね。
この協定違反について以前に、クラスの備品に対してなんらかの妨害を行ったことが事実なのであれば…私はFクラスの皆さんに謝らなくては」
「いえいえ、長谷川先生に謝っていただくようなことはございません」
ですが、ここは痛み分けということで、お互いに休戦状態を守り直すと言うことで手を打たせてはいただけませんか?
玲奈ちゃんの言葉に、Bクラスは口惜しげに俯き、長谷川先生はゆっくりとうなずいた。
「私は、Bクラスに戻って事実確認をしたいと思います。
前原さんにも、もしかするとお話を聞くかもしれません。
申し訳ありませんが、もう少しだけ教室で待っていてくださいますか」
「はい、わかりました」
「ありがとうございます。では」
そう言って、長谷川先生は立ち去っていく。
僕と島田さんはと言えば、長谷川先生と共に立ち去るBクラスの追手を眺めながらニコニコと笑う玲奈ちゃんを見て、互いに顔を見合わせるのだった。
☆
「す、すごいよ玲奈ちゃん!あの状況からほとんど戦わずして脱出して、さらにBクラスのやった行いに対して検挙するなんて!」
「そ、そんなことないよ?ただ…
………私、恭二くんのああいうトコ、本当に嫌いなの」
そう言って強い目でBクラスが立ち去った廊下の方を向いて睨み付ける玲奈ちゃん。そういえば、玲奈ちゃんと根本くんはいったいどう言う関係なんだろう。
「玲奈ちゃん、つかぬ事を聞くんだけど…
玲奈ちゃんと根本くんって、いったいどういう関係なの?」
「あ、それはウチも気になってた。名前呼びだし、付き合ってたりするの?」
「えっ!?まさか、付き合ってないよ!
あとで言おうと思ってて、さっき思い出したんだけど…Cクラス代表の小山さんと、恭二くんは確か付き合ってるよ。
どうしてCクラスに恭二くんがいたのか…それは恭二くんの作戦だった、ってことだね」
「…!そうだったのか」
「なるほどね…悪どいことするわね、アイツ」
「うん。そういう人なの。
関係…関係と言うほど親しい仲ではないよ。ただの又従兄弟」
「えっ、親戚なの!?」
「うん。でも血の繋がりなんてほとんど無いよ、又従兄弟だもん」
「まあ、遠い親戚…くらいの印象ね」
島田さん_____じゃないや、美波の言葉に、玲奈ちゃんもゆっくりとうなずく。
「あんなのでも一応親戚だし、恭二くんの失態は私の失態でもあるから…本当、みんなには申し訳ないことばかりで…」
つまり、玲奈ちゃんと結婚したら根本くんと遠い親戚になる、と…
玲奈ちゃんと結婚できるならそんなの些末事だよね!仲良くはなさそうだし!
「そんなの気にしても仕方ないわよ!
親戚なんてウチらが決められる相手じゃないんだし。
それにさっきの、すっきりしたわ!Bクラスも、あれに懲りて教師に目をつけられるようなことはもうしないでしょ」
「だと…いいんだけど…」
長谷川先生に伝わったことに対して事実確認が取れれば…
もちろん、上手くごまかせたとしてもある程度教師陣に睨まれることになるのは確実だし、雄二のことだからなんらかの証拠の写真や証拠そのものは残してあるはずだけど。
「…そういえば玲奈ちゃん、さっきのビデオテープ…
根本くんたちがこう言うことをしでかすだろうと思って設置してあったの?」
「え?ううん、あれは形だけだよ。あそこには証拠なんて何一つない。
ああやってあそこに証拠があるように見せかけて、相手から言質を取りたかっただけ」
さらりとそう言った玲奈ちゃんだけど、それってかなり凄くない…?
「なんか、ほんと凄いね…玲奈ちゃんって」
若干キャラブレブレな気もするけど、小首を傾げる玲奈ちゃんが可愛いから全部許すよね!!!
そのまま教室に戻れば、姫路さんが駆け寄ってきてくれる。
揺れる胸部に思わず目が。
「吉井くん、それに玲奈ちゃんたちも…無事だったんですね!」
「うん、このくらいなんとも_____ いだぁっっ!」
爪先を踏み抜かれる感触。今日は特に扱いが悪い気がする…
「ふんっ」
「し、島田さん。僕が何か悪いことでも、」
「(キッ)」
「あ。い、いや、美波」
射殺すような眼光で睨まれる。流石に「様付けはしなくても良い」とは言われたけど、呼び方は変えなきゃいけないらしい。呼び慣れないから困るなぁ。
「……ずいぶん二人とも仲良くなったみたいですね?」
「え?これで?」
仲良しは脅迫を受けた挙句足を踏みつけられたりはしないはず。
「お。戻ったか、お疲れさん」
「無事だったようじゃな」
「ん。ただいま」
雄二と秀吉もこちらにやってくる。ムッツリーニもこちらを見て小さく頷いていた。あまり心配はしていなかったみたいだ。
「聞いてよみんな、玲奈ちゃんが凄かったんだ!」
「ん?なんだ、何かやってきたのか玲奈」
「うん、身内の不始末を片付けてきたの」
「??」
根本くんと親戚であることや玲奈ちゃんが先ほどBクラスに対しお灸を据えてきたことを話すと、雄二や秀吉達も満足げにうなずいた。
「な、なんだか照れちゃいます…」
「だって本当に凄かったんだよ!ね、美波」
「そうよ!アンタのおかげでウチもアキも大助かり!」
「…美波ちゃん、いつの間に呼び方を…」
姫路さんがまた小さな声で何か言ったみたいだけど聞こえなかった。
最近こういうこと多いなあ。
「さて、お前ら」
「ん?」
その場に残る全員を見回して雄二が告げる。
「こうなった以上、Cクラスも敵だ。同盟戦がない以上は連戦という形になるだろうが、正直Bクラス戦の直後にCクラス戦はきつい」
向こうもそれが狙いなのだから、僕らが勝ったとしたら間違いなく息つく暇を与えずに攻め込んでくるだろう。
「それならどうするの?このままじゃ、勝ってもCクラスの餌食だよ?」
「そうじゃな……」
「心配するな」
頭を悩ます僕らに雄二が野性味たっぷりの生き生きとした顔で告げる。
「向こうがそうくるなら、こっちにだって考えがある」
「考え?」
「ああ。明日の朝に実行する。目には目を、だ」
この日はそれで解散となり、続きは翌日へと持ち越しになった。